第10話:初陣
「提督、何考えとるんじゃ」
1400に大会議室に行くなり嵐のようなブーイングを受ける提督。
「落ち着かない」や「退役した後が困る」等の声が上がる。
大淀や明石も
「共用空間の方が自分達の部屋より貧弱なのは……」
と苦笑交じりの声。
とにかくインテリアを変えてくれという声に提督も、まあ遊びはここまでにするか。と後ほど変えることを約す。
フレンチトラディショナルスタイルを共用部に使用し、他の部分とインテリアスタイルを入れ替えるだけであることは億尾にも出さずに。
「さて、それでは会議を始める。まず、昨夜から今朝にかけて改造した箇所であるが――――」
昨夜までの高天原と現在の高天原の違いについて事細かに説明していく提督。絶え間なく上がる驚愕と悲鳴を伴奏にしながら。
「――であるから。この」
「提督、待つのじゃ。さすがについて行けん。実際に現場を見て説明してもらった方が早かろう。序に新たに加わった者達への挨拶も済ませておきたい」
工廠長の制止と要請に説明を止め周囲を確認する提督。
周囲が困惑している様子に、それもそうかと説明を実地で行う。
1層構造から主機操縦室・鎮守府管理機能を包括した3層構造に変化した戦闘指揮所や予備指揮所にいた新たに増えた部下と同僚を確認し、互いに礼を交し、暫し歓談する。
新たな同僚は当初から設備の使用法・先任妖精の事は理解していた。
また、会話の中で、当初からの妖精達は設備の使い方を目覚めた時の記憶流入――流入する記憶量に焼け付く様な痛みで七転八倒する苦しみを味わったと言う――の後に気が付けば自然と身につけていたと判明する。
外郭や内郭では衛星を打ち上げた後に、工廠関係者――主に工廠長の胃――に負担を掛けながらも、大増員された部下や同僚達と共に喧々諤々の議論を交わす。
最後に陸上訓練施設に勢ぞろいしていた陸戦妖精と交流を深め一日を終える。
居室に戻った妖精達と提督の間で一悶着あったらしいが、大淀が記す鎮守府の記録には記載されていない。だが、高天原の居室は他と趣が違っている事は、後に演習に参加する艦娘が演習先で確認している。
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数日後、停泊していた高天原が厦門方面へ進む。
「いよいよだな。五月雨」
外郭内側のドックに立ち、傍らにいる秘書艦に声をかける提督。
「はい。いよいよ私の出番ですね! もうドジっ子なんて言わせませんから!」
と意気込む五月雨。その声に提督がわしゃわしゃと五月雨の頭を撫でつける。
「鎮守府からはなるべく離れるな。砲弾の備蓄が不十分で深海棲艦と対峙するのに不安が残る。元素収集中の護衛は頼むぞ」
もう。と乱された髪を整えながら
「お任せください!」
と破顔一笑する五月雨。ドックから外郭と内郭の間の水面――通称:外堀――を進み外海へと出撃する五月雨。
そのまま警備行動へと移行する。
五月雨を見送り提督が戦闘指揮所へと戻る。
副長・参謀長をはじめとする鎮守府幹部と工廠長、造船・造兵両部長や各廠長ら工廠幹部が、艦上からの砲撃と異なり、新艤装を纏った艦娘の海上での初実戦ということで画面を見守っている。
『こちら五月雨』
明瞭な声と姿が画面越しに映る。
『目視では11時から1時の方向異常ありません。水中探信儀も反応有りません。引き続き3時の方向へ向かいます』
画面に映し出されている衛星視界装置の映像も特に変わった点はない。泉州の沿岸にBETAが屯し深海棲艦と砲撃戦を行っている程度である。
「泉州方面へは進まぬように」
そう提督が航海長に指示を出すと、即座に肯定の返事が上がる。
1時間後、五月雨より定期連絡が入る。
『2時から4時の方向に敵影無し。水中も同様です。これから……!! 4時半の方向、敵性反応有り。此方に進路をとっています。至急対処願います』
五月雨の発見に戦闘指揮所がざわめく。
「五月雨、付近に他の敵影は?」
『他に敵影無し。先ほどの敵の艦種は駆逐ロ級と判明しました。間もなく鎮守府警戒区域に入ります』
「五月雨、直ちに迎撃せよ」
『はい!』
速度を上げロ級に接近し、小型超電磁砲を放つ五月雨。
『やぁーっ!』
弾はわずかにロ級を逸れる。轟沈こそ免れたものの、その衝撃波に大破に追い込まれる。
『小型超電磁砲、やっぱり重いです。外しちゃいました』
そう報告する五月雨。
「提督、やはり軽くて速い砲に替えた方が宜しいのでは?」
そんな五月雨の様子を見て、造兵部長が提言する。
「五月雨、どうする?」
パルスレーザーでロ級を始末した直後の五月雨に問いかける提督。
『そうですね。提督には申し訳ありませんが、小型超電磁砲は出来ればもっと軽くて速い砲が良いかなって』
「そうか。では五月雨が戻り次第、改修する事にしよう」
(そうなると……威力が劣るが127mmガトリング砲か新型127mm速射砲あたりか。いや、船体を替えて居るから新型155mm砲AGS辺りでも問題ないか)
その後、駆逐ハ級が2隻の艦隊や軽巡ホ級・駆逐ハ級・駆逐ロ級×2のこの海域での主力と思われる艦隊の襲来もあったが、装備に慣れた五月雨にとっては何ら脅威とはならず、全て撃沈している。
「ただいま戻りました」
五月雨が哨戒活動を終え帰還する。
「ご苦労さん。怪我はないな」
執務室に戻りタブレットを操作し、五月雨の改装を画面上で行っていた提督に帰還の報告をする五月雨
「はい」
「では補給を済ませた後、工廠へ向かえ」
「あ、提督。その前に」
そう言って五月雨が楽しげなそれでいて悪戯気な表情を見せる。
「どうした?」
「実は……」
そう言うと半身を引く五月雨。
訝しむ提督に、
「提督さん!」
その言葉と共に突っ込んでくるクリーム色の塊。
提督が回避しようとするも、間に合わず体で受け止める。
「会いたかったっぽい」
その言葉に混乱する提督。
まさか、またなのか? と。
「夕立を見つけましたので連れてきました」
「お前、画面の向こうの夕立か? 嫁艦でもないのになぜここに来れた?」
「ん~。五月雨も居なくなった後で、白衣の人が言ってたっぽい。提督さん、いつまでも2万ポイント使わないから没収だって。代わりにお嫁さんを全員ドロップで送るから伝えておくようにって。夕立は伝令でここに来れたっぽい。夕立にはよく分からなかったけど、提督さんは分かるっぽい?」
抱き着いたまま、赤い瞳を潤ませ上目遣いで提督に報告する夕立。
そう言う事かと納得する提督。
「夕立、念のため確認するが、誰が来るか覚えているか?」
「え~と、夕立と五月雨の他は、白露と時雨と村雨に浦風ちゃんに浜風ちゃん、時津風ちゃんに谷風ちゃん。名取さんと五十鈴さん。榛名さんと金剛さんと扶桑さんと山城さん。後は大鯨さんに龍鳳さんに鳳翔さん、蒼龍さん。千歳さんと千代田さんは甲標的持って来るって言ってたぽい。あ、羽黒ちゃんもいた。明石さんと夕張さんもくるって。雪風ちゃんと島風ちゃんと潮ちゃんは、こっちでレシピ通りに建造したらこっちの姿に合わせて来るって。後のあの鎮守府にいた子たちは魂魄だけでくるから建造していれば何れ出会えるかもって言ってたぽい」
一旦言葉を切り、提督の表情を窺う夕立。
「提督さん、飛龍さんがいないと寂しい?」
「来ないのか?」
表情が曇る提督。
「もちろん来るっぽい。やっぱり提督さんには飛龍さんがいないといけないっぽい」
それと。と提督の耳元に微かな声で夕立が伝える。
「早く夕立に孝悌忠信と翼覆嫗煦か合歓綢繆を使うっぽい。せっかく触れ合えるのに轟沈したくないっぽい」
ぎょっとなり思わず身体を離す提督。
「ん? どーしたの、提督さん」
夕立が首を傾げる。
「いや、何でもない。五月雨、そろそろ補給に向かいなさい。よく夕立を見つけてくれた」
わしゃわしゃと頭を撫でる。
もう、また。と、くすぐったそうな表情をしながら部屋を出る五月雨。
「さて、夕立。さっきの言葉はどういうことだ」
威を込めて夕立に問いかける提督。
「そんなことしても無駄っぽい。夕立は五月雨の後、初めて配属された艦娘。五月雨が聞き忘れていた事を色々と白衣の人に教えてもらったぽい。提督さんの秘密も」
紅の瞳をまっすぐ提督に向ける夕立。
「早く使うっぽい。使わないなら、五月雨たちに全部話すっぽい。色々と解けちゃうかも」
その夕立の言葉に提督が言葉を紡ぐ。
「――」
それを遮るように夕立が素早く提督の懐に飛び込み腕を掴む。
(しまった)
内心焦るも紡ぐ言葉は中断しない。
夕立が提督の身体を引き寄せる。にやりと笑い顔を近づけ――接吻をする。
自らの舌を提督の口腔に差し入れ提督の舌を弄る。
言葉が途切れ、身体が固まる。
「んッn……プッハ……な、何をする!!」
「口づけっぽい。提督さんの初物、夕立が奪っちゃったぽい?」
妖しげな、外見に不相応な艶っぽさを秘めた視線で提督を見つめる夕立
「何故このような真似をした」
「提督さんの翼覆嫗煦も合歓綢繆も能力の特徴を知られたら防ぎ方って簡単よ。その警告っぽい。それと翼覆嫗煦か合歓綢繆の影響を受ける前に夕立の気持ち知って欲しかったから」
特徴的な語尾をつけずに話す夕立。
「夕立、お前……」
「それで、提督さん。翼覆嫗煦か合歓綢繆使わないの? さっき言った事本当にするっぽい」
挑発的に腰に手を遣り胸を反らせる夕立。
「……使う前に」
不意を突き夕立を抱きしめる提督。
「ちょっと。離すっぽい」
夕立の腕を持ち上げ、身体を壁に押し付ける。
「先ほどは不覚を取ったからな。此方からもお礼をしないとな」
「えっ。……ちょっと待つっぽい。……いや、飛龍さん達に悪いっぽい。待って」
夕立の足を割り身体を押し付ける提督。そのまま片方の手を夕立の――。脇に手を差し入れ擽り始める提督。夕立の必死に制止する声も聞かず。何時しか擽られ疲れた夕立の手を提督が離すと、夕立が崩れ落ちる。崩れ落ちた夕立に覆い被さりさらに足先から首元まで擽り続ける。夕立の身体が汗ばみ始め、うっすらとその肌が上気し始める。息も絶え絶えに制止を願う夕立。その手は止まらず、這うようにして逃れようとする夕立。逃れられるかと淡い期待を抱いたところで足首を持たれ引きずり戻される夕立。着衣がめくれ上がり艶姿になっていることにふと提督が気付く。気まずい思いを抱きながら、夕立を覗き込む。その唇を奪うと立ち上がる提督。
「さて、始めるか」
息も絶え絶えな夕立を見下ろしながら、襟元を整え言葉を紡ぎだす提督。
「ひどいっぽい。飛龍さんが来たら言いつけてやるっぽい」
服装を大きく乱し、涙目で蹲る夕立。
「――――――合歓綢繆」
夕立の紅の瞳から一瞬光が消え直ぐに戻る。
「夕立。今あったこと覚えているか?」
その言葉にキッと提督をにらむ夕立。
「絶対忘れないっぽい。能力の事は言わないけど、このことは絶対に飛龍さんに言いつけるっぽい」
「覚えているのか。まあ良い。ついて来い、夕立」
補給を済ませた五月雨が工廠に佇む。
「遅いな、提督と夕立」
そこへ2人が現れる。
「待たせたか、五月雨」
「あ、やっと来た。遅いですよ2人とも」
頬を膨らませる五月雨。
「夕立と話し込んでてな。済まんな」
「そうでしたか。夕立、楽しかった?」
後ろにいる夕立に微笑む五月雨。
目を逸らす夕立に首を傾げたところに提督の声がかかる。
「五月雨、小型超電磁砲を外し新型155mm砲AGSに切り替える。五月雨の要望は叶えている心算だが、不足があったら言って欲しい」
そう言うとタブレットを五月雨に翳す。
「相変わらずですよね、それ」
一瞬で兵装が変わるのがまだ慣れません。という五月雨に
「それは慣れてもらうしかないな。それと、これは私専用だからな。他の誰も操作できない仕組みだ」
興味深そうにしている夕立に言い聞かせる提督
「明日から暫く完熟訓練を行うからその心算でな。本日は積もる話もあるだろうから、夕立を居室に案内した後はそのまま業務終了して構わん。夕立の居室は五月雨の隣だ。では解散」
そう2人に告げる。2人が去ると提督は資源の備蓄状況を確認に向かった。
「備蓄状況はどうだ?」
確認する提督に明石が、
「すごいですね。さすが大陸沿岸です。先ほど本土に定められた量を送りましたが、まだまだ余裕があります。建造も開発も余裕をもって行えます」
興奮気味に報告を挙げる。
「そうか。ようやく無限装填装置と複写増幅装置にも火が入るわけだ」
その声に明石が額に手を遣る。
「それがありました。そうなると……ギリギリですね。どうされますか?」
提督に確認する明石。
「私の艤装を開発する」
その言葉に固まる明石と居合わせた造兵部と造船部の妖精達。
――――悪夢再び。
提督が持ってきていた20000ポイントが消えました。
引き換えに嫁艦全員集合です。
ただ、ドロップ艦の為、深海棲艦に撃沈された記憶もあります。
その流入した恐怖を嫁艦たちは克服できるのか。
……克服できなくてもあっさり解決できますけど。主人公の能力で。