鎮守府も嵐を回避し、爽やかな風が吹き抜ける頃。
「お芋、お芋、芋ほり、芋掘り、楽しいな♪」
幼い容姿の駆逐艦たちが年長の駆逐艦に手を引かれ農園にやってくる。
事前に蔓を切られ準備されていたサツマイモ畑を見て歓声を上げる。
「おい。お前ら、こっちだ」
眼帯の可愛い方と呼ばれる天龍が駆逐艦をまとめて整列させる。
「ねえ時雨」
赤い瞳を持つ夕立が傍らの姉に問いかける。
何? と問う時雨に
「私たちもいていいのかな?」
疑問を投げるも、
「良いんじゃないかな? 僕らも駆逐艦だし。それにほら」
と示す方向を見ると、姉妹達がすでにワイワイと六駆や七駆達に交じって畝を崩している。
「こんなに取れちゃった」
白露が周囲に大人げなく自慢する。
その様子を見やり、時雨が額を抑える。
「何やってるのかな、うちの長姉は……」
「小さい子に大人げないっぽい」
呆れる2人。
負けず嫌いの暁達が畝を猛然と掘り起こす。
「見てなさい。暁だって」
「暁には負けないよ」
そんな子供たちを見て
「まあ良いか。泣いている奴はいなさそうだし」
天龍が白露をたしなめようと近づいていたが、踵を返し、割り当ての場所を掘り起こす。
「取れた~」
籠一杯にサツマイモを詰め、皆満足気な様子。
「よ~し。それじゃあ、芋焼くぞ」
蓋つきの鍋と丸石を持ってくる天龍。
周囲に駆逐艦が集まる。
「まず、この丸石を鍋に敷く。お前ら、他の鍋でやってみな」
その声にワイワイと鍋に丸石を均していく。
「で、敷いたら、芋を並べる」
「は~い」
あれが良い、これが良いと賑やかな駆逐艦。
穏やかな目で見守る天龍達。
「並べ終わったか? 終わったら、この七輪の炭に火をつけ、中火にする。そしたら鍋を七輪にセットするんだ。火を使うから気をつけろよ。火の回りで騒いだりしたら……怖いぞ」
なかなか火がつけられない幼い駆逐艦たちの七輪の炭に白露達が火をつけて回る。
「てんりゅ~。どれくらい待つの?」
「そうだな。芋が大きめだったから1時間半位か」
「え~。そんなにかかるの?」
「待っている間に、こっちの芋と野菜を工廠に運ぶぞ。白露達は火の番していてくれ。おら、お前ら行くぞ」
袋に入った芋や野菜を猫車に乗せ運んでいく一行。
「行っちゃった。あっちの方が楽しかったぽい?」
「そんなわけないだろ? 僕たちはこっちで火の番しようよ」
「は~い」
「どうだろう? そろそろ良いかな?」
いい香りが漂い始め、皆もそわそわしだす。
「ちょっと待て。今串刺してみるから」
そう言うと天龍が串を差して回る。
「これは大丈夫。ここも――」
一通り回ると、ニカッと笑みを浮かべる。
「よし、できたぞ」
その声に歓声を上げながら芋を取り出す子供たち。
「はふ、はふ」
「火傷するなよ~」
天龍が一応声をかける。
「甘ぁ~い!!」
「あまいね」
「すごい蜜!」
尻尾があればぶん回していたであろう勢いで大喜びの駆逐艦たち。
「このサツマイモ、去年までと違う芋?」
「お、気が付いたか。去年までは【紅あずま】と【鳴門金時】だったんだが今年は【紅はるか】と【安納芋】に変えたんだ」
「なんで?」
「長官の趣味」
「アンのクソ長官、職権濫用じゃないの。……確かに美味しいから良いけど」
その言葉に苦笑いを隠せない天龍。
「食べ終わったか~? 食べ終わったら撤収するぞ~」
その声に、手に持っている芋を口に頬張ったり、包んで持ち帰る支度をする駆逐艦たち。
「準備できたよ~」
「使った炭は再利用するから、炭消し壺に入れるのを忘れるなよ」
「これ、なんかまだ焼き芋出来そう……」
炭消し壺に炭を入れながら、誰かが呟く。
「出来るぞ。前にやったことあるから。でも今日はもう時間だ。おとなしく撤収」
夕暮れを見ながら居住区へ戻る一行。
「また、食べられるといいね」
「そうだね」
そんな会話を交わしながら。