艦ムスと深海棲艦と時々BETA   作:fire-cat

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第4話:出航!

 海上を疾走している男の前方に人影が見える。

 目を凝らすと、男にとっては見知った姿。

「五月雨と夕立か!」

 その声が聞こえたか、肩を貸し合いながら距離を詰めてくる2人。

「……ごめんなさい。これじゃあ、戦えない……っぽい……」

「……うわあぁん、痛ぁい…!」

 合流できた安堵から男に抱き着いて泣き始める2人。

 男は、周囲を警戒しながらもあやす様によしよしと頭をポンポンと叩く。

「大丈夫……な訳ないな。ちょっと待ってろ」

 男はそう言うと二人から離れる。少し離れる位置に立つと身に纏った艤装が消え、その場には艦首のドリルと舷側の複数の巨大な刃が一際目を引く巨大艦が出現していた。

「乗りなさい」

 艦から男の声が聞こえる。

 

「…相変わらずの、非常識っぽい」

夕立が愚図りながらも、呆れたような声を出す。

「行こう、夕立」

 五月雨に促されながら 2人が舷梯がある場所に近付く。

 舷梯が下ろされているのを確認するが、

「これって舷梯っていうよりエスカレーター…」

「ほんとに非常識。でも、座るだけで運んでくれる。こんな時は楽ちんっぽい」

 半ば呆れながらも、段に腰掛け、甲板まで運ばれる二人。

 甲板に着くと待ち構えていた艤装妖精にストレッチャーに乗せられ、艦内ドックに運ばれる。

 その様子をモニターから観察し、安堵する男。

「やれやれ、間に合ったか。一番最初に拾ったのが、最初期の二人ってのも出来すぎてるよな」

 ふと昔を思い出し、笑みが浮かぶ。

「このまま行くか。……副長と飛龍達からは大目玉だろうな。次は……この流れから行くと、潮は鎮守府だから多摩と荒潮かな……。埒も無いこと考えてないで急ぐか」

 転生直後を思い出しつつ、戦場へと足を急がせる。

 

 ********************************************************************** 

 

「貴官には新設の鎮守府を任せる! 良いな」

 あの部屋から送り出された男が気が付いた時は、その命令を受け取った直後だった。

 自然と礼に則り命令書を受け取る。

「謹んで拝命致します」

「よし、では直ちに準備にかかれ」

 その言葉に礼を返し、急ぎ港へ向かう。

(……港? 無意識の内に向かっていたが、どこかの離島にでも向かっているのか? 新設と言っていたしな)

 男はさっそく自分の立場を確認してみる。

 ――氏名:神泉守孝

 ――身長:198㎝ 体重85kg

 ――年齢:27歳

 ――海軍特殊兵学校24期(入校時:100名中43番 卒業時:87名中8番)

(……中々優秀な事で。俺の頭じゃ絶対無理な順番。自分の設定変更しておいてよかった)

 ――現階級:特務中佐

(……特務? 艦娘指揮するから一般の軍人とは違うってことかな? 記憶のすり合わせが必要だな。歴史も変わっているとの事だったしな)

 

 約束の時間より多少早く港に着いたが、そこに居るのは女学生と見間違えんばかりの若い女性が2人だけ。

 居るべき筈の秘書艦候補生の影すら見当たらない。

 どういうことだ? と首を傾げ、取り敢えず居合わせた女性に声をかける。

「どなたかお待ちですか?」

 後ろから突然声をかけられた為か、可笑しな声を挙げる女性。

「ひゃ、ひゃい。……失礼しました。『をとめの姿 しばしとどめむ』

 咳ばらいをし、取り繕うように予め決められている符丁を口にする。男が即座に返す。

「『天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ』。……君らは秘書艦候補生か? それにしては艤装が見当たらないが?」

「神泉特務中佐ですね。私は『明石』艤装候補生です。隣が……」

 隣の女性が敬礼を行い、

「『大淀』艤装候補生です」

「2人だけか? 他にはいないのか?」

 符丁は合っている。ただ。と男が考える。

 二人だけというのは怪しい。若しかすると候補生に深海棲艦が化けているのかもしれない。

 それとなく身体を半身にし膝裏を緩める。

「はい。暫く前からお待ちしておりますが、何方もお見えになりません」

 そう言いながら2人も、特務中佐が体位を変え始めたのを訝しみ、同様の結論に達する。

 此方を確認し、体位を変えるのは怪しい。若しかすると深海棲艦が化けていて、私達を始末した後鎮守府を乗っ取る心算かもしれない。

 互いの行動が、増々疑わしく思える。視線も心成しか鋭くなっている。

(『百錬成鋼』を取得してなかったら潰れていたな。威圧感が凄いわ)

 男が現実逃避気味に考えていると、遠くからクラクションを鳴らしながら、土煙を立ててトラックがやって来る。

 すぐ近くで停車すると、1個分隊程の兵を伴った将校――階級章からすると少将――が降りて来る。

 全員を一瞥すると、

「丁度時間だな。全員あの連絡艇に乗れ。状況は道中で説明する」

 そう急かし、自分はさっさと停泊中の連絡艇に搭乗していった。

 3人で顔を見合わせ、急ぎ搭乗する。

(((……どうやら深海棲艦ではなかったらしい)))

 3人の間に気まずい空気が流れている。

「さて、これから向かう先だが」

 そんな空気など気にせず、少将がお構いなく説明を始める。

「神泉中佐、貴官は着任に当たり何か噂でも聞いているか? どのような馬鹿げたものでも構わん」

「新設の鎮守府とのみ聞いております」

「秘書艦については?」

「何も聞いておりません」

 少将は満足そうにうなずくと、視線を2人に向ける。

「君たちは?」

「何も聞いておりません」

 答えた大淀候補生の回答に何度も満足そうにうなずく少将。

「宜しい。機密の保持が成されているというのは実に結構なことだ。……見たまえ」

 その言葉とともに示された腕の方向を見る。

「何ですか、あれ!」

 2人が驚きの声を上げる。

 そこには全長600~700m、水面からの高さは100mはあろうかと思われる巨大な艦が停泊している。幅は見えないが、それにふさわしいものだろう。

(パイオニアリング・スピリットをモデルに設計したコア艦か。残りはどこにあるのだろう)

「中佐、君は驚かないのかね」

 驚く二人と異なり、動じる様子が見られない中佐に少将が訝しげに問う。

 男は自身が設計した形と違うことに気を取られていた。

 少将に問われた男が慌てて、自身が取得した能力『ご都合主義』を発動させながら答える。

「いえ。驚いておりますが、これほどのモノであれば、ここまで秘密であるのも無理ないかと納得の方が大きく」

 内心冷や汗をかきまくる男。

「なるほど」

 苦笑する少将。

 それに対し、まさかこんな言動で納得してもらえるとは。と男は自身が取得した能力の効果について驚愕していた。

「だが……」

 表情がわずかに曇る少将。

「初期艦娘が不在な理由でしょうか?」

 そう尋ねるも、

「それについては着いてから話そう」

 それっきり黙ってしまった。

 

「神泉中佐、ここが貴官が着任する新設の鎮守府だ。正式名称を【海上要塞型移動鎮守府 高天原】と言う」

 鎮守府に乗り込むと一行は会議室に向かう。

 会議室で少将が鎮守府名を紹介する。

(高天原とはまた大胆な……。名前は付けられなかったから気になっていたが)

 内心ではその艦名に複雑な思いを抱くが、

「なんというか、その……実に大胆な名前ですね」

 言葉では無難な反応を返すだけに留める。

「撃沈は絶対に許されないでしょうね」

 男の隣に居た大淀候補生が頭を振る。

「当たり前だ。この鎮守府の役割は、生産工廠にある」

 はっ? と、男が設計内容を思い起こす。

(……設定した中に生産工廠(そんなもの)あったかな……。あっ! 物質変換機か、ひょっとして)

 一点心当たりを思い出す。

「ついてきたまえ」

 そういうと少将はついてきた兵とともに、下の階層へ降りていく。

 何度も階を上り下りし、いくつも角を曲がった後、でかい謎の機械(?)の前に案内された男たち。

「これは我が帝国が極秘に入手した物質収集変換送信機ともいうべき機械だ。海中に溶け込んでいる各種微量元素を収集し、インゴットに変換する。そしてこの入口から投入されたインゴットを定められた場所に瞬時に移送する。某所で発掘されたものでな。何時何処で誰が何の目的で建造したかまるで解らん。そして発見されたのは、この1台だけだ。それだけに撃沈なんぞは絶対に許されない。万が一撃沈されても、これだけはいかなる犠牲を払っても必ず持ち帰るように。良いな」

 自分が設計した筈の鎮守府が設計図とは似ても似つかないものになった挙句、そのような大事なものになったことに焦りを覚える男。

 そういう設定だからとは言え、なぜ此処迄の重要拠点に配属されたのだろうか? 着任するまでのストーリーはどうなっているのか。と疑問に感じ少将に問う。

「なぜ、私がこのような重要拠点に着任したのでしょうか? これほどの施設には佐官級より将官級の司令官が着任するのでは?」

 その問いに対し、

「簡単なことだよ。将官と君より上位の人間には着任を拒否された。此処で貴官に問おう。この規模の艦を作る材料、どこで手に入れたと思う? 考えたまえ」

「そう言えば……」

 頭に浮かぶこの国が置かれている状況。航路が不安定化していることで生じている物資・食料の不足。深海棲艦戦役の当初に被った艦船被害も、艦船不足に未だに影響を与えている。

「これほどの艦を作るまでの鋼材を鎮守府とはいえ1隻の艦に回すのはなかなか……。!! まさかここの装置を使用して?」

 うなずく少将。

 無茶にも程がある。とあきれ返る男。

「その通り。そしてこの周囲の海域には、塩分以外に収集できるだけの元素はない。従ってこの鎮守府は直ちに外洋に出撃。外洋を周回し……」

 生物相は大丈夫なのか、と不安を覚える男たち。表情に現れていたのか、少将から注意が飛ぶ。

「聞いているのかね? ショックなのはわかるが、よく聞いておけ」

 姿勢を正し、続きに耳を澄ませる。

「外洋を周回し、食料資源の確保と併せ元素を収集しつつ資源に変換し定量を本土に送る。同時に余剰資源を用いて戦力を強化し南の英連邦との通商路回復・南洋諸島奪還・新洲嘉航路の安定化を行って欲しい。可能であれば、忌々しいBETAどもを駆逐してスエズ航路の回復も行ってくれ。BETAについては、横浜の香月女史が頑張っているので優先度は最低だが」

「島流しですか……?」

 男が要求の多さに思わず口走ってしまったその言葉に対して強い不快感を表す少将。

「口を慎め! 今回は見逃すが、次回はないぞ」

 本来であれば修正に値する言葉を発してしまった事に対し慌てて謝罪をする。

「この本土から長期間離れ、中央の情勢に疎くなる状況を将官も佐官も皆嫌がってな。3ヶ月以内に一階級昇進。佐官であればそこから3ヶ月以内に准将には昇進させる予定だったのだ。曲がりなりにも鎮守府であるからには長官職が佐官では拙いからな。だが妻帯者もいることを考慮し、この件に限り自由意志と言った途端、全員断りおった。まったくどいつもこいつも。……まぁ貴官が島流しと言った気持ちもわかるがね」

 3人とも後半が聞き取りにくいが、何となく言いたいことがわかる。

「そこで碧血丹心・剛毅直諒と評判の高い貴官に白羽の矢が立ったのだ」

 普通は軍閥化の可能性を考えるだろうと内心呆れる男。そして、その信頼には応えないとな。とも考える。

「初期艦が未だに着任しませんが、その件は?」

「この鎮守府の役割は前代未聞のものだ。今までの教育を受けた艦娘では理解し難いものもあろう。そこで」

 その言葉を聞き、嫌な予感しか感じられない3人。

「物資は融通するので初期艦の開発・建造から教育まで貴官の手で行って欲しい。工廠設備は既に存在しているからな。明石候補生、大淀候補生と共に頼むぞ」

 そう言うと、何か忘れていた事に気が付いたように大淀と明石に言葉をかける。

「おお、そうだ。言い忘れていたが、大淀・明石両候補生に申し渡しておく。中佐が半年後将官に昇進した後の公式な呼称と権限についてだが、准将が責任者として着任する異例且つ小規模なものであっても、ここは横須賀・佐世保・呉・舞鶴・紫微(史実アンカレッジ)に次ぐ6番目の鎮守府である。責任者は戦隊の長や要港部・根拠地の長ではない。従って呼称も【司令官】や【司令】では無く、他の鎮守府や高雄・大湊・大阪・幌筵の各警備府、中央・南遣・北遣の3艦隊の長と同格の【司令長官】になる。当然、権限と立場も鎮守府司令長官(大将・中将相当)と同等なものとなる。此処に着任するにあたって中佐には拒否権は与えられていなかったからな、断った馬鹿者どもとの差はここでつけておく。昇進前に配属される他の艦娘にも予め徹底しておくように。ではな」

 そう敬礼を行い答礼を待たず去る少将一行。

「13番目の【司令長官】か……」

「おめでとうございます? 中佐」

「なぜ疑問形なのだ? まあ良い。司令長官だと堅苦しいから言いやすい呼び方で構わんぞ。さすがに勤務中は階級抜きの名字のさん付けというのは認められないがな。序だ、大淀艤装候補生、明石候補生の階級である候補生付は鎮守府内の口頭に限り省略する。互いも候補生付けは省略して呼ぶように」

 突然の宣告に戸惑いを隠せない2人。

「候補生を勝手に省略しても宜しいのですか? 何か不都合が生じるのではありませんか」

 疑問を呈する大淀に対し

「公の場、部外者がいる場、文書では当然候補生は省略しない。しないが、候補生とつけると半人前扱いされているようでな。2人とも本来であればもうベテランの域だろう。それにだ、口頭で呼ぶとき一々候補生をつけるのが面倒だ。ここは長としての権限を使用させてもらう」

 そう言い切る男――『ご都合主義』を発動させながら。

「仕方ないですね。候補生省略の件承知しました。では中佐の呼称の件ですが、昇進後は【長官】と呼ばせて頂きます。それまでは【提督】とお呼びします」

 それに対し、大淀、堅苦しいですね。と早速【候補生】を省略する明石。

「では、私も大淀と同様にします。勤務時間外では「守孝さん」で如何ですか?」

 その言葉に、交際してもいないうら若き未婚女性からの名前でのさん付け呼びは照れるからせめて苗字でのさん付けにしてくれと、気負うことなく返事を返す男。

「大淀はどうします?」

 大淀に話を振り、名前のさん付け呼び言っちゃいます? と茶化す明石。

 その言葉に大淀が、閊(つか)えながら「守孝さん」と呼び、頭から湯気が出そうなほど真っ赤に染まる。そして、

「い、今のなし。苗字のさん付けにさせてください、神泉さん、神泉さん」

 ワタワタと手を振りながら【提督】に対する大淀。

「初心ですねぇ」

 その様子を見て明石が一言呟く。

 

「今後どうされますか?」

 会議室に戻った提督に対し、

「決まっているだろう?」

「まぁそうですよね」

 会議室を出て戦闘指揮所に入る。

 室内には多くの妖精と呼ばれる存在が揃っていた。

 提督は軽く息を整えると、最初の命令を下す。

「【海上要塞型移動鎮守府 高天原】 出航!」




艦娘候補生と提督候補生達は教育課程で万葉集と勅撰和歌集の三代集を必須科目としてすべて覚えさせられています。これを用い、簡易的な符丁として利用しています。上句と下句の何れかを発せられたら対応する句を5秒以内に答える必要があります。
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