ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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光へ進む者 (ドムドーラ②)

 

ブライアンはたった一人でドムドーラの町の邪悪な魔物、悪魔の騎士との戦いに

挑む覚悟を決めた。剣士ビワの言葉でこの一騎打ちが始まることになったが、

当然ブリザードは受け入れられるわけもなく、ビワに対して声を荒げた。

 

「おい!てめえ正気か!?ドラゴンどもが逃げ出すような魔物なんだぞ!?

 俺たち四人がかりでようやく勝てそうな相手にブライアンさん一人だと!

 何が修行だ、何がロトの力だ!死んだら虫のクソ以下の価値しかねえだろうが!」

 

「確かにやつは強い。しかし竜王よりは弱いだろう。やつを一人で倒せなければ

 所詮これまでの努力は虫のクソ以下だったということだ。それにお前が

 助けに行ったところで何になる?逆にお前をかばうためにブライアンの足が止まる」

 

ビワは全くやり方を変える様子はない。そしてアマゾンもそれに続いた。

 

「・・・癪だけれど言うとおりね・・・私たちじゃ邪魔になるだけよ。

 信じましょう。あんなのに負けてたら竜王城へ行くのは無理よ」

 

「まあ・・・そうだよな。そうなんだが・・・くそ!ブライアンさん!」

 

 

ずっと睨み合っていたブライアンと悪魔の騎士。先に動いたのは血に飢えた悪魔だ。

 

「グルルル・・・グォラア―――――――ッ!!!」

 

「・・・やっぱりな。欲望のままに生きるお前は堪えきれないと思っていた。

 ぼくはもともと攻撃を受け流して隙だらけの胴体を斬りつけるつもりだった!」

 

悪魔の騎士が大きな斧で振りかぶってくる。鋼鉄の剣で振り払い、怪力の魔物の

武器をその手から落とすことができれば最高だ。そこまでできなかったと

しても、隙をつくれさえすれば十分だった。ところが狙いは外れ、

 

「ゴオオオオオオオオオオ」

 

「・・・なんて力だ・・・!お、押し負ける・・・・・・!」

 

ブライアンは力負けし、斧で斬られこそしなかったが地面に倒れ込んだ。

 

「グァッヒャ――――ッ!!」

 

「・・・・・・!!」

 

その後も追撃を続ける悪魔の騎士の攻撃を避けるのにいっぱいいっぱいだ。

斧での一振りを躱すのに気をとられているせいで、凶暴な悪魔の更なる

攻撃を予想できていなかった。この町は瓦礫が散乱している。岩や煉瓦を

次から次へとブライアンめがけて投げつけてきた。形も大きさもばらばらで、

そのうちの尖ったものが脇腹をえぐり、大きな岩石が頭部を襲った。

 

「・・・ぐあっ・・・・・!!」

 

「ギャアハハハハハハハアアアアァァァァァ」

 

勝ち誇っているのか、それとももうすぐ生きのいい肉にありつけるからか・・・。

その表情は顔面を覆う兜のせいでわからないが、気分の悪くなるような

笑い声が廃墟の町にこだまする。傷つくブライアンの姿も痛々しく、

 

「・・・もう見てられねえ!俺は助けに行くぞ!たとえ身代わりだろうが・・・」

 

ブリザードが戦いに加わろうとした。それでもビワは彼を抑えつけた。

 

 

「一人で戦わせろと言っただろう!余計な手出しはするな!」

 

「いい加減にしやがれ!最初から怪しいと思ったんだ!やっぱりてめえは

 ブライアンさんを消すために竜王の送り込んだ新たな魔物かラダトームの

 王族の刺客だったんじゃねえか!?危険な目にばっかり遭わせやがって!

 くそ!ブライアンさんに何かあったら俺はてめえを殺す!」

 

「・・・・・・ロトの子孫として・・・力に目覚めなければならないのだ。

 そのために乗り越えなければならない試練・・・わかってくれ」

 

 

アマゾンはビワが血が滲み出るほど拳を握りしめているのを目にした。

彼も本心ではすぐにブライアンを助けに行きたいのを何とか我慢している。

竜王を倒すために、最終的にそれがブライアンの命を救うことになるために・・・。

 

(・・・やっぱりこの人・・・ブライアンのことを大事に思ってる。

 マイラでお酒を飲んでいたときにもそんな感じはしたけれど・・・)

 

肩を震わせながら己を制そうとするビワの腕に自然と注目してしまう。

彼は何者なのか。なぜそれまで面識のないブライアンに対しこれほどの

思いを抱いているのか。謎だらけのビワという男に関する疑問は

増えていく一方だったが、その彼を見続けているうちにアマゾンは気づいた。

 

 

「・・・あら?あの人の腕・・・アザかしらあれは?でもりっぱな紋章にも

 見える。自分で書いたみたいな、でも人が手を加えたものには思えない。

 それにあれはどこかで見たような・・・・・・?」

 

 

彼女が思い出しそうになった瞬間、大きな轟音にかき消された。悪魔の騎士の

見境ない破壊的な攻撃が町の残骸を更に崩壊させているのだ。傷つきながらも

その攻撃を回避し続けているブライアン。ようやく勝利への道が見えてきた。

 

(だいぶ動きがわかってきた。これなら次にでも反撃が・・・)

 

しかし強敵である悪魔の騎士はブライアンの予想をはるかに超えていた。

ブライアンの目が自らの攻撃に慣れてきたことを本能的に察したのか、

動きを止めると、呪文の詠唱を始めたのだ。それはブライアンが常に

警戒していた、しかしこの魔物に限ってまさかないだろうと思っていた、

 

「・・・ラリホー・・・ラァリホー・・・」

 

「・・・・・・しまった!ぐ・・・だ、だめだ・・・・・・」

 

意識が薄れていく。ここで眠ればもう二度と目を覚ませないだろう。

倒れゆく彼を見てついにビワですら戦いに介入しようかとしていたそのときだった。

ブライアンの身体、正確にはその右腕のロトの子孫であることを証しする印から

光が放たれ始めた。ブライアンは眠る寸前で抵抗を続けていた。

 

(・・・こいつがきっとドムドーラの人たちを大勢・・・それに加え・・・!)

 

目の前の悪魔は好戦的ではない魔物たちの平穏な生活すら破壊していた。

人と魔物、全ての敵を前に、ブライアンが思い出したのは彼が少年のとき、

いまだにその正体のわからない女の子の語った言葉だった。

 

 

『いまは人と魔物が争って命を奪いあう悲しい世界。だけどいつか仲よくなって

 互いに手をつなげるときがきたら・・・』

 

 

彼女は人間だけでなく魔物も平和に暮らし、互いに助け合って生きていける

世界を望んでいた。こんな悪魔がいてはそのための全てが閉ざされる。

自分だけではない、ラダトームの人間だけでもない。アレフガルドじゅうの

全ての生きる魂のために悪魔の騎士を討つ!彼の心が熱く燃え盛ったとき、

光は輝きを増し、町中がその光に満たされていった。

 

「・・・あの光は・・・!?ブライアンにいったい何が起きたの!?」

 

「俺は見たことがあるぜ!竜王が城を襲ったとき、もうだめだと思った

 まさにそこで、だ!ブライアンさんはいまみたいに・・・そうか!こいつが!」

 

「ああ。ついにあいつ、ロトの力を自分のものにしたようだな。まだ使える時間は

 短いだろうが一分もあれば問題ないだろう!」

 

それこそがロトの力だった。ブライアンに流れるロトの血が目覚めたのだ。

まずは文字通り目覚めるために眠りの呪文への対抗として・・・。

 

「ぐ・・・うおおおおおおっ!!」

 

「ブライアン!?あなた・・・・・・!」

 

 

なんと鋼鉄の剣を己の足に突き刺した。そして引き抜く。その激しい痛みに

眠りへの誘惑からは解放された。強引、しかしこれ以上ない対抗策だった。

 

「・・・ガ・・・ガァァ?」

 

「おおおおおっ!!血と肉に飢えた卑しい悪魔よ!永遠に滅べ―――っ!!!」

 

ラリホーが破られたことで戸惑っていた悪魔の騎士に立て直しの間も与えず、

ブライアンは光に満たされたままその胴体に渾身の一撃を叩きこんだ。

竜王にすら重傷を与えたのだ。この悪魔が耐えきれるわけもなく・・・。

 

 

「・・・ゴ・・・ゴオオオオバアアアアアアアアアアアァァァ・・・・・・」

 

 

身体の中心から張り裂け、まだ原形を留めていた家屋の壁に激しく激突させられると、

鎧ごと粉々になった。壁のほうも衝撃に耐えられず崩れ落ち、もはや悪魔の騎士の

原形はわからなくなってしまった。すでに役立たずの瓦礫の一部となったからだ。

 

一方のブライアンはだんだんと全身を包む光が消えていったが、前回とは違い

倒れてしまうことはなくしっかりと立ち、悪魔の最期を見届けていた。

彼のその姿こそが、この戦いの完全勝利を物語っていた。

 

「よっしゃあ!勝った!ブライアンさん、あんたほんとうに最高だぜ――っ!!」

 

勝者を称えるようにブリザード、そしてアマゾンも彼のもとへ走り出す。しかし、

 

 

「・・・待て!お前たち油断するな!周りを見ろ、あの悪魔が死んだ今・・・!」

 

ビワの言葉にブライアンたちは勝利の興奮もすぐに醒めた。暴虐の悪魔の騎士から

逃げ去っていた魔物たちがいつの間にか戻ってきていた。その数は優に百を超える。

 

「ちっ・・・こいつはまずいな。ブライアン!すぐに剣を構えろ・・・・・・」

 

ここでビワは魔物たちの様子がおかしいことに気がつく。戦おうとはしていない。

どうやらブライアンたちを敵としてではなく、憎き怪物を葬り去った英雄として見ている。

 

 

「おお・・・これが・・・これこそがロトの力の本質か!戦わずとも道を切り開く、

 光へと進む道を見いだしてしまう・・・!ここまでとはオレですら読めなかった!」

 

ブライアンの思いが通じたのか、それともブライアンが魔物たちの思いを正確に

読み取っていたのか、彼らは襲ってこなかった。しばらくすると町の外で

見かけたメタルスライムが戻ってきた。この魔物も悪魔の騎士の滅びを

祝っているようで、その小さな全身を使ってそれを表現しているかのようだ。

何回もその場で高く高く飛び跳ね、躍動している。

 

 

「あの子もとっても嬉しそう。ちょっと近づいてみようかしら・・・あっ!」

 

アマゾンがメタルスライムに近づくと、やはり臆病なのか素早く逃げてしまった。

だが少しだけ移動したにすぎず、改めて彼女が迫ってきても今度はそのまま

彼女に触られることを拒みはしなかった。むしろ喜んでいる。

 

「わあ・・・固いわ。見た目はスライムなのにこんなに違うなんて」

 

「やっぱり変なスライムだぜ。飛び跳ねていたと思ったら逃げて、でも

 もう一度近づいたら何事もなかったかのようにしてやがる」

 

メタルスライムはその後も先ほどまでジャンプしていた地点を見つめていた。

その姿に、ブライアンとビワは全く同じ瞬間に閃いた。

 

 

「・・・もしかするとあのスライムはただ喜んでいたわけではなく」

 

「我々に何かを教えてくれていたのだ!ブライアン、確かめてみるぞ」

 

 

そこは舗装された道などではない、ただの草むらだった。毒の沼地が

広がっているので注意しながらその場所を掘り返してみた。すると

宝箱よりも数倍大きな箱が出てきて、そのなかからは期待通りのものが出てきた。

 

 

「・・・・・・鎧だ!これが・・・ロトの鎧なのか!」

 

「全く汚れておらず損傷もない・・・身につけてみろ、ブライアン」

 

ブライアンは三人が、加えて魔物たちも見守る前でロトの鎧を装備した。

頭部も保護されている全身を覆う鉄壁の鎧だ。問題はこの鎧のせいで機動力が

落ちてしまうのではというところにあったが、それは要らない心配だった。

 

 

「おお・・・凄いや、この鎧は!こんなに厚手なのに全く重さを感じない!

 逆にどんどん傷が癒され気力に満たされていくようだ・・・!」

 

「しかも大きさピッタリ!まさにブライアンのためにあるかのような鎧だわ!」

 

 

町の魔物たちから大歓声が沸き上がる。真の勇者は種族を超えて愛されるようだ。

 

「・・・よし、ならばこのままこの先の町『メルキド』に向かおう。その町で

 剣と盾を新調したら・・・いよいよ竜王の城に乗り込もう」

 

ビワが決戦のときが近いことを告げると、ブライアンの表情はいっそう引き締まった。

剣や盾の在処がわからない以上、ロトの遺産はこの鎧だけだ。身体じゅうに

力が溢れるのを感じながら、ブライアンは仲間たちとドムドーラを後にした。

 

 

 

 

 

「・・・・・・そうか、あの男がロトの鎧を手に入れたか」

 

「はっ・・・。いかが致しましょうか・・・竜王様」

 

 

竜王の城。ブライアンがロトの鎧を手に入れたことはすぐに竜王の耳に届いた。

竜王の左右には父そっくりの風貌をした彼の息子二人がいたが、その報告をした

魔物に対して足並みを揃えて迫った。

 

「馬鹿者が!なぜやつらが鎧を持っていくのをみすみす許したのだ!

 己の命が惜しくて逃げ帰ってきたというのか!」

 

「い・・・いえ!そのようなことはございません!そもそも私が目撃した

 わけではないのですから!私はただの報告係ではありませんか!」

 

「言い訳は無用だ!ならばその目撃した者どもをここにすぐに連れて来い!

 それができねばお前を処刑する!逃げたらお前の一族を全員処刑するっ!!」

 

その魔物は絶望が待ち受けていることに震えていたが、救いは意外なところからきた。

 

 

「・・・もういい、息子たちよ、そこまでにせよ」

 

「ち・・・父上!しかし・・・・・・」

 

「いいから黙っていろ。さあ、頭を上げるのだ。お前に落ち度は何もない。

 息子たちの言うようなことは何も起こらない。平安のうちに帰るがいい」

 

竜王が二人の息子を制し、魔物を安心させてからこの場を去らせた。

そして息子たちへ厳しい視線を向ける。行き過ぎた行為を咎めるかのように。

 

 

「何をそんなに躍起になっていたのだ?やつがロトの鎧を手に入れたからといって

 それが果たして何だというのだ?取り返しのつかないことのように喚いていたが」

 

「・・・父上!やつは勇者ロトの遺物を手に入れこれから更に力を増し加えるのは必至!」

 

「しかもあなたはまだお身体が完全に回復してはおられない!自ら潰しに向かうことも

 難しい状況で・・・なぜそこまで落ち着いていられるのですか!?」

 

竜王と息子たちの間で危機感にかなりの温度差があった。端から聞いている者に

とっても正しいのは息子たちの考えであり、竜王には慢心があるのではないかと

思わされたが、竜王はにやりと笑い、彼らの不安を一蹴した。

 

 

「案ずるな。すでに手は打っている。わたしの下僕のなかで最も力ある二人を

 やつらの潜む町へと遣わした。事はすでに終わっているも同然だ」

 

「え!?ええっ・・・!?あの二人を・・・ですか」

 

「そ、それならば確かに全く問題はございません!」

 

「フ・・・唯一の問題があるとすればやつらがドムドーラ以上にその町を

 徹底的に破壊し尽してしまうことだ。人の生きていた証も残るまい」

 

 

竜王が絶対の信頼を置き、魔族の誰からも怖れられる実力を持つ二体の魔物。

彼らとブライアンたちの決戦の日はすぐそこまで迫っていた。

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