ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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若大将対竜王3 (竜王の城③)

真の姿を現した竜王相手に、はじめはなすすべなく防御と回復に追われていた

勇者ブライアン。しかしどこからともなく聞こえてくる美しい女性の声が

ブライアンに突破口を与えた。ここまで圧倒されていた相手を冷静に注視する

助けとなった。そして、勝機は確かにあるという希望を得た。

 

(竜王・・・もう魔法は使わないのか。理性を失っているわけでは

 ないみたいだけど、ベギラマはいらないとしてベホイミまでも・・・!)

 

慢心なのか、それとも真の姿を見せた以上それを使う必要はないということなのか。

回復してこないのであればそこを突くことができるかもしれない。竜王の炎が

威力にムラがあることは確認済みだ。勢いの弱い炎を吐いてきたときこそ

勇気を出して竜王の懐に入り込み諸刃の一撃を叩きこむ絶好の機会だ。

 

 

『さあ、ゆきなさいブライアン!私の愛するロトの守ったこのアレフガルドを

 あなたの手で再び勝ち取りなさい!決して最後まであきらめずに戦い続け、

 光を取り戻すのです!ブライアン!ブライアン!ブライア・・・・・・』

 

「・・・・・・イアンさま!ブライアンさま―――っ!!」

 

 

ブライアンは謎の声の様子が変わったことに気がついた。決死の戦いの最中であるのに

その変化にはすぐにわかったのだ。これまでずっと遥か空の上から発せられていたように

感じられたその声が、いまは自分のすぐそばから聞こえてきたからだ。

 

「この声は・・・まさか!確かに似ていると思った!けれど・・・・・・!」

 

ブライアンがそちらに目をやると、ローラ姫が竜王の玉座の後ろから彼に対して

声援を送り続けていた。もしかしたら初めから彼女が・・・。あまりにも

声の質が同じであるため一瞬そう思ったが、すぐに違うと気がついた。

あれはローラではない。その答えは半分出ていたが、今は目の前のローラだ。

 

「姫!どうしてこんな場所に!?まさかまた攫われて・・・!」

 

「ええ。でもまだそんなに時間は経っておりません。そこの男・・・竜王は

 私の目の前であなたを打ち倒し、私に深い絶望に与えるつもりなのです!

 そして私自身も、あなたが竜王に敗れたそのときは命を絶つ覚悟です。

 ブライアンさま!私はあなたを心から愛しております!私は生涯あなたと共に

 戦い、苦しみを乗り越え、喜びを分かち合い・・・・・・」

 

 

「ウォ―――――――リャア―――――――ッ!!!シャア――――――ッ!!」

 

「・・・・・・・・・!ローラ姫!!」

 

ローラがブライアンへの愛を叫ぶ。すると、耳障りだと言わんばかりに竜王が

ギロリと彼女を睨みつけると、大きな足で踏みつけようとした。そのとき、

ブライアンの全身がこれまでで最も輝きに満たされ、ローラを跡形もなく

潰してしまおうという竜王の強靭な足から彼女を寸前で救ってみせた。

危険を顧みず、ここしかないという飛び込みが間に合った。

 

 

「・・・ブライアンさま・・・!!」

 

「ローラ姫・・・なんて危険な真似を。でもあなたのおかげで・・・

 どうやら真にロトの力に目覚めることができたようです」

 

これまでブライアンがこの力を磨くきっかけになった数々の感情や思いに、

最後に愛が加わった。自分に向けられる真っすぐな愛、それが勇者にとって

何よりの武器となる。ついに『勇者ブライアン』が完成した。

王女の愛を受け取り、再び竜王との一騎打ちに挑む。

 

 

「・・・本気のわたしとここまで戦えた男は初めてだ。しかし結果は同じだ!

 やがてわたしにひれ伏すことになる!早く楽になれ、苦しい生を諦めろ!」

 

「楽に・・・?それならお前を倒した後じっくりとそうさせてもらうさ!

 どんなに痛くても辛くても・・・喜びは生きていてこそ、だ!」

 

いかにブライアンが覚醒したとはいえ、攻撃力も体力も竜王が勝っていることは

変わらない。素早さだって互角だ。ブライアンには一撃必殺の技もない。

一進一退、傍から見ているほうが疲れて折れてしまいそうになるほどだ。

 

 

「・・・ブライアンさん!くそっ、こいつら何匹いやがるんだ!」

 

「これではしばらく助けに行けない・・・!いや、その前に我々が・・・」

 

 

ブライアンはひたすら竜王の猛攻を耐え、機会を逃さず剣で斬りつける。

回復も防御も攻撃も、少しでも気を抜けば全てが一瞬のうちに崩壊してしまう。

それでも根気強く、集中力を決して切らさずに粘りの戦いで竜王に食らいつく。

 

「グググ・・・!しつこいやつめ!並の戦士ならもう何度も殺しているはずだ!」

 

 

徐々に竜王が気圧されていく。ブライアンに接近することを恐れ、炎による

攻撃を多用するようになっていったが、それは悪手だった。ブライアンにとって

竜王の安定しない炎は最強のものが来た場合確かにどうしようもないのだが、

弱い炎が飛んできたときこそ反撃に出る機会を得るからだ。そのチャンスが

ここにきてこれまでよりも増え始めた。ブライアンの根性と闘志がそうさせたのだ。

 

勇者ロトと比較してしまえばブライアンは攻撃力、呪文、技術において

凌ぐものはないのかもしれない。しかしその粘り強さ、絶対あきらめないという

根性はもしかしたら偉大なる伝説の勇者よりも―。そう思わせる戦いぶりだった。

呪文は何も通じない。剣での攻撃も少しずつしかダメージを与えられない。

そんな状況で最後まで戦いきれる男は余程の不屈の思いがある男だ。

 

「・・・グ・・・こいつめ・・・!ま、まずい!」

 

 

精神的にだけでなく、竜王が戦いそのものの優位もだんだんと失い、逆に

ブライアンが一気に圧倒している。その竜王劣勢の空気は配下の魔物たちにも

影響を与え、自分たちの主の危機に思わず足が止まっていた。

 

「・・・そんなところに並んで立ってくれているんなら遠慮なくいくわ!

 焼き尽くせ―――っ!ベギラマ――――ッ!!」

 

待っていたとばかりにアマゾンが魔物の群れに対してベギラマを放った。

このチャンスのために魔力を溜めに溜めた、最高のベギラマに魔物たちは

一掃された。視界が開け、ブリザードたちからもブライアンの様子が

見えるようになった。彼らの希望が竜王を追い詰めている姿を!

 

「おおっ!ブライアンさん、そこだっ!一気にやっちまえ!」

 

「いけ――――っ!」

 

彼らの叫びがブライアンの耳にも届いた。それに応えるようにブライアンは

ロトの剣に力をこめ、大きく息を吸い込むと高く跳躍し、

 

 

「ここだ――――――っ!くらえ竜王―――――――っ!!」

 

 

竜王の心臓にあたる部分を一閃した。これまでにない、ブライアンにとって

生涯最高の感覚だったといえるだろう。これ以上ない会心の一撃が炸裂した。

 

「ギャアアアアアアアアァァァアアアア―――――――――!!????」

 

自らをマンノウォー、戦いに向かう男と名乗り、それまでアレフガルドの魔物を

率いていたキースドラゴンのサーバートンから王の座を奪い取り、ラダトームを

はじめ人の住む地にも多くの戦闘を仕掛けてきた最強の竜。戦いに明け暮れた

その竜王でさえ、数百年に及ぶ生涯で未知の痛み。紫の血が大量に噴き出す。

 

「ウガァァオオオ――――――ッ!!??」

 

「ああ!竜王のやつが・・・萎んでやがる!?いや、人に戻っているんだ!」

 

竜の姿が真の正体であるはずの竜王だが、やはりまだ彼が真の魔王となるのは

これから数十年後だということなのだ。ブライアンに呼びかけた声の通り、

この時代が竜王を倒す最後の機会であり、ブライアンは見事に期待に応えた。

竜王は人の姿に変化しているが、これは自らの意思ではなく、完全に力を失い

勝負が決まったことを明らかにしているにすぎない。だがブライアンは

完全に決着するまでは気を緩めないと決めていた。死に体の竜王に再度襲いかかった。

 

「これで・・・これで完全に終わりだ!竜王――――っ!!」

 

「・・・・・・きさま・・・!!きさまごときに・・・・・・」

 

 

「ハァァ―――――――――ッ!!」

 

 

先ほどにも負けず劣らずの完璧な一撃。竜王の胴体を更に斬り裂いたが、

なんと竜王の身体が粉々に粉砕された。残ったのは頭部だけだ。

その現象をブリザードが解説する。

 

「・・・そうか!ブライアンさんの究極の攻撃は破邪の一撃!キースドラゴンや

 ダースドラゴンのときは邪悪な心のみをまさに殺していたが・・・見ろ!

 あのクソ野郎はそのすべてが悪!存在自体が邪悪なんだ!ブライアンさんの

 剣をくらったらもうあいつは何も残らねえ!永遠に深い闇に沈むだけだ!」

 

その言葉通り竜王の残された頭部もだんだんと消滅していく。

 

「こ・・・このわたしが・・・・・・世界の王となる竜王がァァァアアア・・・」

 

やがて竜王は大きな断末魔と共にこの世から消えていった。その野望は

果たされることなく勇者ブライアンによって覇道は潰えた。しばらく静寂が

この場を包んでいたが、そのうち皆、実感がわいてきた。

ブライアンが勝利したのだ。その真の勇者は竜王への最後のとどめをさしたままの

格好でいたが、緊張の糸が解けたか持っていた剣をからん、と床に落とした。

それが合図となり、いっせいに勝者のもとへ駆けだした。

 

 

「ブライアンさま―――――っ!!」

 

「やった―――っ!あいつ、やりやがった――――!」

 

真っ先にローラ姫が彼に抱きつき、そして他の者たちも勇者を囲み、称える。

そんななかブリザードは一人天を見上げていた。この勝利を報告するためだ。

 

 

「先代ラルス王・・・それにハヤヒデの旦那・・・!あんたたちが命を賭けて守り、

 希望を託したブライアンさんがほんとうに竜王を倒したんだ!あんたたちが

 愛したアレフガルドを支配しようとした野郎はついに死んだんだ!」

 

ブリザードは旅人を襲う追い剥ぎにすぎなかったが、ブライアンと出会い

行動を共にすることで、いまや竜王の城に乗り込み強力な魔物相手にも

互角以上に戦えるようになっていた。そんな彼であっても男泣きを

抑えきれなかった。ブライアンの勝利を声高らかに叫んでいた。

 

 

『・・・ブライアン・・・よく頑張りましたね。この世を再び闇の世界に

 しようと企んでいた者は永遠の滅びへと去っていきました。

 アレフガルドをはじめ、世界は再び光を、平和を取り戻しました』

 

ブライアンの勝利に歓喜し祝福するのはこの謎の声の主も同じだった。

しかも今回はブライアンだけでなく全員に聞こえるように話している。

 

「・・・あなたはいったい誰なのですか?」

 

 

『ブライアン、あなたならもうわかっているのではありませんか?

 私は精霊ルビス。この地に生きる全ての人間たちを見守る者です』

 

 

精霊ルビス。アレフガルドの住民であれば誰もが知る崇拝の対象だ。

そのルビスが声だけとはいえこうして登場したことでこの場は驚きに満たされた。

 

「精霊ルビス様!ああ、読んだことがありますわ。勇者ロトを深く愛し、

 ロトの生涯中ずっと彼と共にあったという・・・!ですからいま

 子孫であるブライアンさまのもとにもやってこられたと・・・」

 

『その通りです。ブライアン、あなたはロトの生まれ変わり、そして彼の時代から

 数百年以上経ち、その間の彼の子らたちのなかで最もその力に満たされたもので

 ありますから。けれども私はローラ、あなたのことも特別な思いで見ていました」

 

ローラは自らを名指しで呼ばれたことにぽかん、としていた。全く予想して

いなかったからだ。ブライアンが特別なのはわかっていたが、自分までとは。

 

「・・・私・・・ですか?私はブライアンさまと違い何も持ってはいませんが・・・」

 

『いいえ、ブライアンがロトの生まれ変わりならあなたは私の生き写し!

 私が仮に肉体を身につけてこの場に現れようとするならば、まさにあなたの

 ような姿となることでしょう。あなたもまた選ばれし者なのです』

 

それが何を意味しているのか・・・ルビスは続けた。

 

 

『つまり、ブライアンとローラ、あなたたち二人が子を残し、その子孫こそが

 これ以上ない最高の・・・新たな世の『始祖』となるのです。

 あなたたちが結ばれることは定められている運命であったのです!』

 

 

ルビスの言葉に、タイシンとチケットのコンビ、それにブリザードが大きく

うなり声をあげた。諸説あるものの、勇者ロトとルビスが結婚しその子孫が

いまのブライアンの家系だという伝説も残っている。その生まれ変わりと

生き写し、確かに文句なしのカップルだった。

 

「よーし、であればさっそくラダトームへ戻ろう!魔物の残党がまだいるかも

 しれないし、こんな場所に長居する理由はもうない!」

 

「ああ。我らはビワ同様いまのラダトームを好ましく思っていないが

 こんなめでたい話となれば別だ!きっとビワ・・・いや、ハヤヒデも

 両手を叩いて喜んでいるだろう。新しい時代の幕開けを!」

 

ブライアンとローラは彼らに祝いの言葉をかけられ、互いに顔を見合わせ、

そして赤くなる。前々から意識していたとはいえ、精霊ルビスの定めた

縁とあってはこれ以上ない後押しであった。誰の目からも文句なしだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

ブライアンとローラを、遠くからアマゾンは無表情で、何も語らずに

ただじっと見ているだけだった。その内奥の感情も察し難かった。

 

 

竜王との死闘を終えた一行はルーラの呪文で一瞬のうちにラダトームへと

帰還し、町はローラ姫が最初に救出されたときよりもずっと大きな歓喜に

満たされていた。そして一週間後に平和を祝う祭りを開くことになった。

 

また、そのときの宴はブライアンたちを送る別れの機会となることも

決定した。当初からの予定通り、ブライアンは自らが完成させた船で

ローラを連れて海の向こうへと向かうことが決まっていたからだ。

仮に王となるならばラダトームではなく新たなる地で、という

ブライアンの思いにローラも賛同し実現する形となったのだ。

新たな伝説がまだ見ぬ土地で始まろうとしていた。


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