ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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continue (君といつまでも②)

 

竜王を討った勇者ブライアンはそれから八年以上経った今日、竜王の娘によって

闇討ちされ、うつ伏せに倒れていた。出血は増していくばかりだ。その様子を

暗殺者である竜王の娘はただ震えながら見ていたが、息絶えたかと思われた

ブライアンが顔を上げ、娘の顔をじっと眺め始めた。そして彼女の手をとった。

既に足も震えている竜王の娘は抗うこともできず、これはいけないと

後ろに控えていた大魔道が彼女を守ろうとしたが、ブライアンが絞り出すように言った。

 

 

「・・・・・・すまな・・・かった。ぼくは・・・確かに罪を犯した」

 

その言葉に大魔道の足が止まり、竜王の娘も驚いた。自分を殺した相手になぜ

謝るというのか。ブライアンは続けて言う。

 

「・・・ぼくのせいで・・・きみは父を、そして家族を失った・・・・・・。

 多くの悪いことをしていない魔物たちもだ。ぼくはすぐにラダトームを

 離れずに・・・・・・も、もう少し・・・事態が落ち着くまであの土地に

 いるべきだった・・・。そうすれば・・・・・・少なくともきみの

 二人の兄さんや・・・・・・魔物たちは守れたんだ・・・・・・」

 

「・・・い、今さら何を悔やんでももう・・・」

 

「それにぼくは・・・・・・幼いときの約束をも破ってしまった。

 人と魔物が完全なる平和を得たら・・・きみを迎えに行くと固く

 約束していたのに・・・・・・いまきみの顔を見てはっきり思い出した」

 

ブライアンの血まみれの右手で頬を触られた竜王の娘。彼女もブライアンの

顔をじっくりと間近で見たことはなかったが、彼に言われて電撃が走った。

これまでよりも更に震えが止まらなくなり、その場に膝をついてしまった。

 

 

「・・・・・・う・・・うそ。あなたがあのときの・・・あの夜の・・・!!」

 

 

「・・・きみだったんだね。やっと見つけた。あの日と全く変わらない。

 忘れはしない・・・いっしょに歌った海の歌も、将来の夢も希望も。

 でも・・・ぼくが全て台無しにしてしまった。どれだけ謝っても許されないのは

 わかっている。それでも・・・何回でも謝らせてほしい・・・ぼくに最初に・・・

 最初に恋というものを教えてくれたきみに。ほんとうに・・・ごめん・・・・・・」

 

 

二十年近くも前のあの夜の海、ブラックサンドビーチでたった一晩、幼い二人が

過ごした思い出の時間。これまでいくら探しても見つからなかった相手が今、

目の前にいる。片やその者を殺害し、片やその原因を作った。せめてあと少し早く

出会うことが叶ったならば・・・。竜王の娘は大粒の涙を流し、激しく泣き出した。

 

 

「あ・・・あああっ・・・!!あああああ――――――――――――っ!!!」

 

「・・・悲しまないで・・・悪いのは・・・ぜんぶぼくなんだ・・・・・・」

 

しかし彼女にとって悲劇的な出来事はこれで終わらない。呪文が使えない状況を

作り出し、もはやブライアンを癒すことはできない。つまり彼は死ぬしかない。

そして、報復は終わることなく続くという大魔道の言葉は早くもその通りとなった。

 

 

 

『・・・愚かなる竜王の娘~~っ・・・あなたは許されない大罪を犯しました!

 偉大なるロトの血をひく勇者を殺すというあなたの罪はその父よりも重く、

 この私ルビスが直々に裁きを下さねばなりません!ただの傍観者であった

 大魔道、あなたも同様です!生きている値打ちなどないあなた方には

 弁明も猶予も与える必要はありません。今すぐ私が――――』

 

「・・・せ、精霊ルビス・・・!!」

 

 

かつてブライアンに語りかけたときの穏やかで優しいものと同じ主とは

思えないほどの禍々しい、憎しみのこもった声だった。この言い方だ、

おそらくは最も重い刑、死刑を執行するつもりなのだろう。

それを悟ったブライアンはルビスに対し待ったをかけた。

 

 

「ル・・・ルビスさま・・・待ってください。彼女たちを殺さないでください。

 ぼくが悪いのです。ですから二人の命を奪うことは・・・・・・」

 

「・・・ブ、ブライアン・・・!あなたは・・・・・・!」

 

死に面しても己のことより他人のことを気遣うブライアンの高貴な人間ぶりに、

竜王の娘は涙を止める機会を失っていた。そんな男を自分が討ってしまったのだ。

何もかも、もう取り返しがつかない。ブライアンは温情を求めているが、

ルビスが聞くはずもないし、このまま死んでも構わないと思っていた。

大魔道を巻き込んでしまったことが大きな悔いではあったが、もはや自分は

生きていても仕方がないとうなだれていた。そんな彼女を嘲笑うかのように、

 

『・・・命を奪う?まさか。そんなことは致しませんよ』

 

「・・・・・・な・・・・・・」

 

『むしろそれよりももっと自らの罪を償わせる方法で罰さなければならないでしょう!

 記憶も、人格も、顔も身体も没収して差し上げましょう!』

 

 

何もないはずの空間からとても冷たい風らしきものがふいてくると、竜王の娘、

そして大魔道の全身が透けていく。しかも彼女たちにとって、ただ消えて

いくのではなく、体が四方から強引に引き裂かれそうな感覚だ。

本来であれば即座に死んでしまうほどの激しい痛みに襲われる。

彼女たちが叫び声すら出せないなか、ルビスは淡々と刑を宣告する。

 

 

『・・・竜王の娘よ、あなたはその美しい容姿も歌声も全て失います。

 あなたは殺戮のみを用途とした機械となり、自らの意思で生きることも

 死ぬことも許されない人形となるのがふさわしい』

 

「・・・・・・・・・」

 

『大魔道、あなたもそのアレフガルド一ともいわれる賢さ、それによって

 習得した呪文をひとつ残らず二度と使えなくなります。地を四本の足で

 歩く醜い獣・・・鈍亀あたりがいいところでしょうね。あなたたちは

 やがてその時代に私が選んだ勇者によって討伐されることになります』

 

精霊ルビス、彼女が愛し自ら是認した勇者を殺害した罪はあまりに重く、

望まない転生の先に待っているのは無残に打ち倒されるその日まで

人の心とは無縁の機械、獣としての生涯だ。

 

ルビスとしては大罪人たちに深い絶望を与えたつもりでいた。これからの

地獄にどのような表情を見せるか楽しみであったが、意外なことに

竜王の娘のその目から力は失われておらず、気力に満ちていた。

 

 

『・・・おや、その顔は・・・。どうやら新たな命となったら真っ先に

 私に復讐でもしたそうな・・・。ですがそのようなことは決して・・・』

 

「・・・・・・いいや、違うよ。むしろその逆・・・かな」

 

「・・・・・・お嬢様・・・・・・」

 

その顔を自らへの敵意と考えたルビスだったが、そうではないようだ。

 

 

「今度こそ、終わらせてみせる。今回はわたしのせいで失敗した。ルビス、あなたが

 怒るのも当然だと思う。でも・・・あなたは裁きのつもりだとしてもわたしは

 またチャンスがもらえたと考える。報復の連鎖を終わらせて、人間と魔物が

 憎しみを捨てて手を取り合う世界を今度こそ・・・!」

 

 

彼女が燃えていたのはいまだ夢を諦めていないからだ。自分の手でその夢を

台無しにしてしまい、いまこの命すらルビスに預かられる形になっているのに

熱い心が再び蘇ったのは、その右手をブライアンが握ってくれていたからだった。

そして左手を大魔道が。同じ夢を抱き、それを彼女に託す者と、果てない夢を

応援し、親友として支える者。この二人がいたからだ。

 

『・・・無理ですね。あなたはこの次も、何もできずに朽ちるのみです。

 さて、そろそろ時間でしょうか。消えなさい』

 

「・・・・・・」

 

ルビスの無情な宣告により、二人は完全に消えてなくなろうとしている。

竜王の娘はルビスに一言残して去っていこうとしたが、その言葉は無意識のうちに

『彼』と一語一句重なっていた。それは幼い日、あの夜も二人で歌った言葉。

ブライアンもまたルビスに対して自分の信じていることを臆せずに伝えた。

 

 

「「・・・いや、無理じゃない。夢は・・・想えば叶うんだ」」

 

 

 

 

ブライアン、あなたとかわした約束は生まれかわっても必ず忘れない。

その世界にもあなたのような人間は絶対にいるはずだから、今度はもっと

早く出会って仲良くなってみせる。あなたを許せなかったわたしとは違って

あなたはわたしを許してくれた。その優しさを分けてもらってわたしは

再び目覚めたその日からあなたを見つけに探しにいくよ。

 

 

名前すら最後までわからなかったきみ、ぼくの初恋の人。ぼくが何者かに

生まれ変われるかどうかは知らないけれど、もしもきみとまた会えるのなら

互いにどんな姿になろうとぼくもきみを探しに走るよ。想い続けるよ。

次は喜びも悲しみも分かち合える仲になれたらいいね。

 

 

 

大魔道、きっとあなたとわたしは種族も生まれる場所も時代も引き離されて

しまうけれど、あなたとも約束したよね。わたしたちは親子であり親友であり

恋人であり誰にも引き離せない・・・。そんな関係をもっと続けよう。

あなたまで巻き込んでほんとうにごめん。でももう時間がないみたい。

また出会ったときに償いはたくさんするからいまはここまでで・・・。

 

 

お嬢様、あなたが謝ることなど何一つありません。あなたを守れなかった

私が許しを請うべきなのですから。そんな私とまた歩んでいただけるのなら、

そのときこそこの身が砕け最後の血の一滴が流れるまであなたをお守りします。

あなたの夢が叶うお手伝いにほんの僅かでも役に立てるのならそれが一番の・・・。

 

 

 

 

 

彼女たちが消える寸前、三人の精神の世界だろうか。確かに言葉が交わされた。

ブライアンと大魔道も視線で会話ができた。この娘を頼む、お任せくださいと。

 

 

 

そして二人が『いなくなった』。そこでブライアンは冷静になり我に返った。

床の絨毯に注ぎ出されている血の量はとうの昔に致死量を超えている。

呪文が使えなくなった原因である黒い霧はなくなったが、今からベホイミを

唱えたところで傷が塞がるだけだ。生命力はすでに手遅れなほど失われていて、

効果といえばせいぜい葬られるときの見栄えが多少良くなる程度だ。

 

だから疑問に思っていた。確かに自分はもう死ぬ。しかし意識が薄まっていく

速度がかなり遅く、痛みも全く感じなくなった。これはもしや・・・。

 

 

『ブライアン、私の力を持ってしてもあなたの結末を変えることはできません。

 ですが・・・少しだけ命を長らえるくらいならば可能です。あなたは

 その生涯の間、ずっと正しく清い道を歩んできました。時には

 失敗することもありましたがそれも人間、あなたは確かに立派でした』

 

「・・・・・・ルビスさま・・・」

 

『ですがそんなあなたを一番最後に見送るべきなのは私ではありません。

 その者との別れの時間のためにこの猶予が設けられたのです』

 

 

誰がそれにふさわしいか、ルビスが言わなくても答えは決まっている。

ブライアンの王の間と寝室はだいぶ離れていたが、きっと予感が

あったのだろう。彼の妻、ローラが身重の姿で駆けつけてきた。

 

 

「・・・あ、あなた・・・・・・ブライアン!」

 

「ローラ・・・・・・・・・」

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