提督が鎮守府を退任します   作:藤林 雅

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はじめまして。

藤林 雅という名のしがない二次創作SSファンです。

このたびは艦隊これくしょんにて投稿させて頂きます。

執筆するのも本当に数年ぶりなので色々とお見苦しい点がございますが、よろしくお願いいたします。


第一話 提督 海軍を辞めるってよ

 深海棲艦と呼ばれる者達と人類との戦争から数年が経った。

 

 戦争の初期、通常兵器並びに核弾頭すら効果の無い深海棲艦の脅威に人類は絶望へと追い込まれる。

 

 そんな中、艦娘と呼ばれる人類の救世主が出現した事で日本をはじめとした国々が数年をかけて戦線をある程度立て直すことに成功した。

 

 だが、深海棲艦との決着はつかず、未だ厭戦状態が続いていた。

 

 この物語は、最前線で艦娘達と共に人類解放の為、邁進する提督の物語ではなく、己の野心の為、キャスティングボートを握ろうと政争に暗躍する提督でもなく――あるひとりの青年と彼に関わった艦娘をはじめとした人々との交流の物語である。

 

 ある昼下がりの鎮守府の執務室。

 

 今日も今日とて書類仕事に精を出す一人の男がいた。

 

 男の名は 本間 一三(ホンマ イチゾウ)

 

 今年で二十六になる若者だが、どこか朴訥で垢抜けない雰囲気を持つ青年である。

 

 階級は中佐で舞鶴鎮守府の責任者であり、大規模作戦の戦時には、第四水雷戦隊の司令官として職務に従事している。

 

 彼の傍らには本日の秘書艦である軽巡由良が共に職務に励んでいた。

 

「――由良さん、由良さん」

 

 書類に捺印をして一息ついた一三が、顔を上げて由良に話しかける。

 

「はい。何でしょうか提督さん」

 

 キーボードから手を離して、パソコンのディスプレイから視線を一三に向ける由良。

 

「私的な理由ですが、今回の任期満了をもって私は海軍を退任することとなりました」

 

「はい――えっ? えっ?」

 

 由良の整った顔が驚愕の表情に変わる。

 

「後任にあたる方は大本営で調整中との事ですが、私から優秀な女性士官を希望しておきましたのでその点については安心してください」

 

 一三は笑顔で由良にそう告げた。

 

「そうではなくて!」

 

 対して由良は立ち上がり、机をバンっ! と叩く。そしてすかさず一三の横に回りこむ。

 

 一三が胸中で、(さすが四水戦旗艦。機動が早い)とか思っている横で、彼女は腰に手を当て、ムッとした表情で一三を見下ろした状態で『私怒っていますよ』とアピールしていた。

 

「何故、唐突に由良の――もとい私たちの提督をお辞めになるんですか!」

 

 納得出来ませんとばかりに由良は大人しい彼女としては、珍しく大声をあげる。

 

「唐突ではありません。私が海軍に入隊していたのは、妖精さんと意思疎通ができるという現在の提督になる為の必要最低限な資格をクリアしていただけに過ぎません。その上での大本営と私の一時的な利害の一致での契約でした。今回の異動時期にあたり私は辞することを伝え、少しばかりの制約はありますがそれが通っただけの事です」

 

 それ以外にも、一三の曾祖父の兄弟が、先の大戦にて海軍の高官であった事もあり、艦娘とは意外な縁があった。もっとも大叔父とは、生まれる前に亡くなったので面識は無い。

 

 だが、一三が新米として大本営預かりだった際に、その縁があったある艦娘に一目でその大叔父に似ていると指摘され、以後、色々と世話を焼いて貰った事もあり、艦娘に嫌悪感を抱かずに今日まで提督として仕事が出来たのは彼女のおかげだという感謝があった。

 

「――提督さんは由良達の事がどうでも良くなったの?」

 

 一三が少し物思いにふけっている間に説明を受けた由良は、表情を曇らせうつむいていた。

 

「提督さんがこの鎮守府から離れると聞かされたら、残された子達は傷つくよ。絶対」

 

 由良の言葉に一三は失念していたとばかりに眉間にしわを寄せるのであった。

 

 この舞鶴は、第四水雷戦隊として以下の艦娘が配属されている。

 

旗艦 由良

 

第一小隊 駆逐隊 ……  隊長 白露、時雨、海風、山風、江風

 

第ニ小隊 駆逐隊 ……  隊長 村雨、夕立、春雨、五月雨、涼風

 

第三小隊 駆逐隊 ……  隊長 野分、嵐、萩風、舞風

 

潜水艦      ……  呂500(訓練生)

 

 以上、十六名で構成されており、外海侵攻、本土防衛作戦時における大本営発の大規模作戦以外の時を除き、主な任務としては日本海シーレーンである佐世保から幌筵(パラムシル)島泊地にかけての防衛と輸送任務にあたることにある。

 

 また以前のような艦船ではなく艦『娘』である由良達は、軍属ではあるが協力者という立場にあり、人と艦娘としての線引きという名の差別、区別は以前あるものの深海棲艦という脅威に立ち向かう事が出来るのは彼女たちしかいない。

 

 大本営としては、艦娘の意向も十分に採り入れた人事が行われるの通例となっていた。

 

 しかし、艦娘と共に戦場に立つ提督にも色々ある。

 

 艦娘が総じて美少女という事もあり邪な心で接する者も入れば、救国の英雄となる姿で想像して彼女たちを利用する者野心の為に提督という立場を利用する者などもいる。

 

 いわば、ブラック鎮守府と呼ばれる一部の者たちの専横に大本営は常に頭を抱えていた。

 

 一三のように野心が無く、艦娘との間にトラブルを起こさない提督というのは大本営にとっては、戦果の次ぐらいに大事なものであり、そういった人物の意向には艦娘同様細心の注意を払っている。

 

 その上で、舞鶴鎮守府の責任者である一三が、彼自身の兼ねてからの要望により辞職となったのは、色々と理由があるのだが、それはさて置き『辞める』と伝えた事にショックを受けた様子の由良に一三は頭を悩ませていた。

 

 別にドライな感情で艦娘に接してきた訳でもなく、所属の艦娘は一三にとって姉であり妹であり、いわば家族のような存在であると考えている。

 

 だが、彼は海軍士官としての野心は無い。あるのは、彼自身の『夢』というか人生設計の為に今回の辞職となった。

 

 大本営としては残念な事ではあるが、未来ある若者を束縛してはいかず戦時体制とは言え、職業選択の自由という民主主義の根幹を覆すわけにもいかず、代わりに条件をいくつか提示して一三の辞職を認めたのである。

 

 

「由良さん。確かに私は、海軍を退役し提督を辞する事にはなるけど、退役大佐として舞鶴に住まう事になっている」

 

 そんな一三の言葉に由良は不安ながらも顔を上げた。

 

「引継ぎの事もあるが、退役を条件に大規模作戦時の鎮守府留守居役に指名されているし、今度来る予定の提督の相談役という任務もあるのでこれからもここに何度でも顔を出す事になるから。まあ、新しい提督と仲良く出来るとかそういう心配はあるだろうけど、私が仲立ちするから」

 

「由良が言っているのはそういう事じゃないんですけど」

 

 少し的の外れた発言をする一三に由良は頬を膨らませて不満を述べる。

 

 そんな態度の彼女に一三は不謹慎ながらも可愛いと思うのであった。

 

「まあいずれにせよ、みんなには明日の会議で集まった時に退役の説明はするさ」

 

「――きっと、白露ちゃんたち大反対するよ。けど、由良もこんな大事なことを黙っていた提督さんを助けないし、むしろみんなと大反対するからね!」

 

「そいつは困ったなぁ。けど、何も誰にも相談せずに決めた訳ではないのだけれども――」

 

「――ダレ? 誰に相談したの提督さん」

 

 苦し紛れの発言に由良は一三の顔に密着するように近づける。

 

「ちょっと! 由良さん近い近い!」

 

「由良、提督さんが誰に相談したのかとても気になるなぁ――ね?」

 

 由良は自身のやっている事に自覚は無いだろうが、一三の肩に手を置いてギリギリと締め上げる。

 

「イタタッ! 由良さん! ギブ、ギブ!」

 

 その言葉に由良はハッとなり、手を離して一三から身を離す。

 

「ごめんなさい。提督さん、その、由良、何だか自分を抑えられなくて……」

 

「いや、まあ。それについては別に大丈夫だけど」

 

 シュンとなっている由良に一三は気にしなくていいと伝えるが、責任感の強い由良は、納得していない様子でうなだれている。

 

 それを見た一三は溜息を吐いてから口を開いた。

 

「――大本営所属の長波サマに相談したんだ」

 

「――は?」

 

 一三の言葉に由良は、瞳のハイライトを消す。

 

 大本営の上司ではなく自分と同じ立場である『艦娘』しかもよりによってあの『長波』という一三の言葉に由良は理性を飛ばしてしまう。そして再び一三の顔を覗きこむ。

 

 

 そんな由良に対して、ハイライトさんちゃんと仕事をしてください。と、一三は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一三と由良のやりとりから一時間後、舞鶴鎮守府近海の海上。

 

「えー! 提督お辞めになるって本当ですか!?」

 

 近海で潜水艦の哨戒にあたっていた五月雨が驚きの声をあげる。

 

「しー! 姉貴。声が大きいってば! さっき村雨姉さんと由良さんの定時連絡でそう言ったやりとりをしているのが聞こえたんだってば」

 

 口元にひとさし指をあてて五月雨に注意を促すのは白露型の末妹の涼風である。

 

 そんな妹達のやりとりに姉である春雨は仕方が無いなぁと言わんばかりに溜息を吐く。もちろん自分の提督であり兄のように慕っている一三の件については、思うことがあるのだが、今は哨戒任務中であり、特に五月雨は潜水艦の目となるソナー役であった。何よりも――

 

 その話を聞いて春雨の姉にあたる忠犬ハチ公もとい夕立は戦場では頼りになるのだが、早く鎮守府に戻りたいのかソワソワぽいぽいして落ち着きがない。

 

 そして――

 

「あっ、深海棲艦みーつけた」

 

 と言って、おもむろに鎖のついた碇をジャラジャラと音を立てながら海中に投入。やがて引き上げた碇には深海棲艦である潜水カ級が見事に釣れていた。

 

「そーれ」

 

 可愛らしい声とは裏腹に空に釣って捕らえたカ級をぶんなげて――

 

「村雨のちょっとイイトコ見せたげる」

 

 その言葉と共に爆雷を空を飛んでいるカ級に放り投げて、主砲の12.7mm連装砲で追撃。

 

 哀れなカ級は、空中にて爆散となった。

 

「……村雨姉さんをあんな風にした司令官には十分反省して貰わないと」

 

 姉妹の中で特に慕っている村雨の暴走に春雨はリスのように頬を膨らませる。

 

「春雨の麻婆春雨をたくさん食べて貰って、お礼に司令官の膝枕を要求しますっ!」

 

 ――春雨も十分壊れていた。

 

 そんな彼女に五月雨は「いいなぁ」と羨ましそうな言葉を漏らし、涼風は何だかなぁと姉達の騒動に巻き込まれる一三を哀れんだ。だが、彼女も彼が海軍を辞めるという大事な話を相談もせずに隠していたという事実に思うところがあるので彼を助けたりはしない。

 

「そうですかぁー、この村雨に大事なことも相談せずに放置ですかぁ……村雨、そんな趣味ないから――」

 

 笑顔でニコニコついでに髪を束ねているツインテールも上下にピコピコさせて村雨がそう呟く。

 

(あっ提督、こりゃあほんとにマズイぞ。村雨姉さんマジで怒っている)

 

 普段、天使のように優しい村雨のいつもと違う態度に五月雨は恐怖する。

 

 こうして舞鶴鎮守府に人事異動の季節に訪れた嵐はその勢力を増していくのであった――

 

 

続くっぽい?

 




~補完のようなもの~

『ろーちゃんのなぜなにちんじゅふだいひゃっか①』

ろーちゃん「いちぞーてーとくのごしんせきは、ゆーめーならいぞーさんですって ハイ」


――以上

短っ!
 

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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