ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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皆さんは自分と他人、危なくなったらどっちを助けますか?


第8話 決別

俺達3人は幾つものある街路の1本へと入った。ここからでも広場から多くの叫び声が聞こえる。アレが収まるのはいつ頃になるのか……少なくとも今日中というのは無理だろうな。

 

「キリト、これからどうする?」

「……すぐにこの街を出て、次の村に向かうよ。シンもクラインも一緒に来て」

 

…………何?

 

「これからこの世界で生き残っていく為には、ひたすら自分を強化しなきゃならない。MMORPGっていうのはプレイヤー間のリソースの奪い合いなんだよ。システムが供給する限られたお金とアイテムと経験値を、より多く獲得した人だけが強くなれる。……この始まりの街周辺のフィールドは、同じ事を考えている人達に狩り尽くされてすぐに枯渇する。モンスターのリポップをひたすら探し回るはめになるんだ。今の内に次の村を拠点にした方がいい。私は道も危険なポイントも全部知ってるから、レベル1の今でも安全に辿り着けるよ」

 

キリトにしては随分と長い話をしたな……と思っていると、俺と同じように聞いていたクラインが顔を歪めた。

 

「でもよ……おりゃ、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでこのソフトを買ったんだ。そいつら、さっきの広場にいるはずなんだよ。……置いてはいけねぇ」

 

確かにクラインはログアウトしようとした時、そう言っていた。クラインの言っているのは当然だ、仲間を黙って置いていくなど最低な行為でしかない。

 

「おめぇらにこれ以上世話んなるわけにゃいかねぇよな。俺だって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。今まで教わったテクで何とかしてみせら。だから、おめぇらは気にしねぇで、次の村に行ってくれ」

「…………そっか。なら、ここで別れよう。何かあったらメッセージを飛ばして。……じゃあ、またね。クライン」

 

クラインに別れを告げ、キリトは街の外へと行こうと歩き出す、が────

 

「おい、どうしたんだよ。行かねぇのか?」

「…………シン?」

 

俺の足は動いておらず、クラインとキリトからはどうしたのかと視線が訴えていた。特にキリトからはそれが強い。それだけ俺がついて来ない事が不思議なのか、それか────自分にとっての最悪な未来(・・・・・)を予想したからか。

 

「……キリト。悪いが────俺はこの街に残る」

「……えっ?」

 

最悪の未来──────それは俺が一緒に行かないという事のはずだ。これは俺が考えたものであり、必ずしもキリトにとって最悪なのかは分からないが、少なくとも思ってもいなかったんだろう。信じられないような物を見るような表情をしていた。

 

「な、何で……?」

「そうだぜ!おめぇ、キリトを……女の子1人で行かせる気かよっ!?」

 

キリトからは何で?どうして?といった疑問の言葉しか上がらず、クラインからはキリトに対する俺の言葉を否定するものであった。

 

「キリト。お前はベータテスターだからこのゲームの事は分かるだろう。だが、初心者の奴らはどうする気だ?見放すつもりか?」

「しょ、しょうがないじゃん!だって早く行かないと他のベータテスターに────」

「だからどうした?」

「なっ……!」

 

俺はキリトがクラインに話していた事────全てを否定する。確かに他のベータテスターもキリトのようにすぐ行動するだろう。攻略を有利に進める為にか、自分の命を守る為にか。

だが、このゲームの事を全くと言っていい程知らない初心者はどうする?クラインはキリトがレクチャーした事でソードスキルを使えたが、使い方が分からない奴だって少なくはないはずだ。

 

「初心者よりも情報が多いベータテスターは初心者に色々と教えるのが普通なんじゃないのか?そうすれば、初心者の死者は少なくなるはずだ」

「……確かにそうだけど、他のベータテスターに遅れるわけにはいかないよ。モンスターが枯渇するのは時間の問題なんだ」

「確かにゲームならそうだろうが、これはもうゲームじゃない」

「確かに死んだら本当に死ぬなんて、もうゲームじゃないけど……武器があってモンスターもいて、HPもあるんだよ?やっているのはゲームと同じなんだ」

「……違うな、こいつはゲームじゃない」

「……なら、何が違うっていうの?」

 

「────誰か1人が何気なく行動した事で多くの人の生死を左右するなど、ゲームじゃない」

 

確かにキリトの言う通り、ここはゲームの中だ。レベルもHPも武器もモンスターも……現実にはない物が存在している。世界(・・)はゲームだ。だが、俺達は現実(・・)だ。レベル上げ?クエスト?ベータテスター?

そんなも事はどうだっていい。自分の事を何かするよりも、まずやらなくてはならない事があるだろ。

 

「これは現実だ。いい加減目を覚ませ、キリト」

「……違う。これはゲームだよ」

「だが、死ぬか死なないかの俺達は現実の存在だ」

「……現実なんかじゃない。私達はゲームをやっているだけなんだよ」

「現実から目を背けるな」

「私は背けてなんかっ……!」

「おいおいっ!そこでストップだおめぇら!」

 

クラインが間に入り、俺達を抑えようとする。だが、熱くなっているのはキリトだけであって俺はそうでない。ただ事実を口にしているだけで、キリトがそれを認めないだけだ。

 

「おまぇらなぁ、仲良いって思ってたのに何で喧嘩すんだよ。ったく……ほら、いいからシンはキリトについていけよ」

「…………そうだな。俺は始まりの街に残らせてもらう」

「何でそうなるんだよっ!?」

「残ると言っても3日間だけだ」

「そんなにいたら、この辺りのモンスターは……」

「行きたいならキリト、お前1人で行け」

 

別にキリトが俺を待っている理由はない。先の村に行きたければ行けばいいだけの話だ。

 

「い、嫌だよ。シンも一緒に────」

「言っただろ。俺はここに3日間残ると」

「そんな事言わないで……一緒に行こうよ。ねぇ……?」

「────断る」

 

俺はそう短く告げ、キリトに背を向けた。キリトが今、どんな顔をしているのか分からない。悲しんでいるのか、怒っているのか、落ち込んでいるのか────

 

「シンッ!おめぇなぁ!」

 

クラインは襟を掴み、俺を壁に叩きつける。だが俺はそれに抵抗のような事はせずにただジッとクラインを睨んだ。怖気づいたクラインは指の力を弱め、俺は手を払って距離をとる。

 

「……ぐすっ。わ、分かった……私、すんっ…….1人で行くから……」

「おい、キリト!?」

「……なら行け」

「……っ!!」

 

だめ押しするかのように、突き放すかのように俺はキリトに言う。すると耐えきれなくなったのか、キリトは後ろを振り向いて走っていった。その時────空中を数滴の涙が舞っていた。

 

「……シン。おめぇ、最低過ぎんだろ」

「これでいいんだよ」

「あんっ?」

「あいつは……キリトは俺に依存し過ぎてる」

 

前々から思っていた事だ。あいつは俺と一緒にいる事が多いが、それ以外にも色々ある。何かある度に俺を呼び、このゲームにも1人でもいいはずなのに誘い、そして今も俺と離れる事を拒んだ──────これらがそう思う理由だ。

 

「おそらくあいつは俺が死んだら心を折られるだろうな。いや、その前に今はこの世界だけが現実だと突きつけられて折られるか」

「な、なら何でキリトを1人で行かせたんだよっ!?」

「俺が死んだとしても、あいつには生き残ってもらう為だ」

 

もしも俺が死んだ場合────心を折られたあいつは最悪、俺の後を追おうとする可能性がある。そうならないようにするには、あいつには俺との関わりを少なくして俺への依存性を無くすしかない。

 

「……つかよぉ、さっきから聞いてるとおめぇは自分が死ぬと思ってんのか?」

「ああ。俺は……デスゲームにとって、一番いらない甘さ(・・)がある」

 

甘さ────それは夜天流道場の教え。産まれた頃から教わってきた俺にとって、それは必ず守らなくてはならないものであり、達成すべきもの。

キリトを悲しませてしまった事で教えの1つ、『その3 女性を悲しませるな』を破ったという事になるが……あれはキリトを前へと進ませる為に必要な事だった。これが教えを破ったかについては無事に現実へと戻った時に親父に尋ねよう。それで親父が肯定すれば、俺は然るべき罰を受けるつもりだ。

 

「クライン。お前は今、広場にレベル50のモンスターが現れたらどうする?」

「そりゃあ、もちろん逃げるに決まってんだろ。今の俺のレベルじゃ戦う事すら出来ねぇからな」

「そうだ。それが普通だ。だが、俺は多くのプレイヤーを逃がす為にそのモンスターに立ち向かう」

 

『その5 人を見捨てぬこと』────特に襲われる相手が弱い存在となれば、必ず助けなければならない。例え自分が敵より弱いとしても、立ち向かわなければ夜天流道場の恥と考えていい。

そんな考えを持っているからこそ────俺は自分がこの世界でいずれ死ぬだろうと思ったのだ。




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