「それで?シリカはこういったゲームにどのくらい知ってる?」
「えっと……その、あまり……」
「そうか」
あの後────しばらく自分がキリトにしてしまった事に責任を感じながらも部屋の中で過ごし、昼過ぎに宿の食堂へと顔を出すと偶然にもシリカと合流した。一緒に行動するのは午後と言ってあったが、どうせなので昼食を共に食べる事にしたのだ。
本物の肉体でない以上、空腹感も満足感も普通ならないはずだが実際に腹は空くし、食べれば腹は満たされるのだ。
「シリカはこれからどうしたいんだ?この街で外から助けを待つか、このゲームをクリアする為に前へと進むか」
「……あたしは」
「まぁ、すぐに答えを出さなくてもいい。まだここに閉じ込められてから1日しか経過していないんだからな」
俺はそう言いながら、テーブルの前に置かれているパンやスープなどを次々に食べていく。本当は米を食べたいが、ファンタジー系のゲームだからか未だに見た事がない。
「シンさんは……このゲームをクリアするつもりなんですよね?」
「ん?ああ、そのつもりだが」
「なら、あたしもシンさんについていくというのは────」
「それはどういう意味でだ?」
俺の質問にシリカは「えっ?」ときょとんとしたような表情をした。口にした理由が、俺からこれからの事を問われたからとなると俺に責任がある為、安易な気持ちでシリカをパーティに入れるわけにはいかない。
「このゲームを共にクリアしたいからか?それともこのゲーム内で出来た知り合いだからか?あるいはベータテスターだから強い敵から守ってくれると思ったからか?」
「え、えっと……」
「…………悪い、問い詰め過ぎたな。だが気になってな」
責任があるとはいえ、自分よりも年齢の低い相手に対しては少しキツすぎただろうか?
「……不安なんです」
「不安?」
「シンさんがこの街を出ていってからはどうしようかと……みんなを明るくするにはどうしたらいいのかなって……」
「……ふむ」
確かにそれは最もだな。デスゲームとなった以上、シリカのような小さな子は弱い存在だ。実際、聞いた話では既に何人かの子どもは精神的に異常を起こしてしまっているらしい。
「何か寄り添える存在が必要か」
しかし、それをどこから見つけてくるか。現在、プレイヤー達の中には危険な行為をする奴らもいる。大勢で手を組んでいるプレイヤー達もいるが、彼女はまだ子どもだ。甘く見られてしまえば、酷い扱いを受けないとも限らない。
「……俺は2日後にはこの街を出て、ホルンカの村に向かうつもりだ。そこで知り合いと合流するつもりでいる」
「は、はい」
「その知り合いには後で聞いておくが、いいと答えてくれたら一緒に来てもいい」
「っ……あ、ありがとうございます!」
……だがシリカがどこまでついてこれるか分からない以上、ずっと一緒っていうのは無理だろうな。階層が上がれば上がる程、モンスターも強くなるのは当然だ。死ぬ危険が増えてきた時には何かしら対処をするとしよう。
「それでこれからどうする?何か聞きたい事があれば、ある程度は説明は出来るが」
「えっと、じゃあ……一通り教えてくれると助かります」
「分かった。じゃあ、これを食べ終わったら街を回りながら話すか。戦闘もする予定だから武器屋にも寄るからな」
「はいっ!」
シリカと並んで街を歩き、とりあいず彼女が気になった店がどんな所なのかを説明していく。ベータテストの時、始まりの街にいる事が多かった為にほとんどの店は分かるようになったのだ。
「シンさん、あの店は何ですか?」
「あの店は……アクセサリー屋だな。見た目を重視しているだけで、ステータスに変化はないが」
「へぇー……ちょっと一緒に見に行きませんか?」
「ん?まぁ、いいが」
アクセサリー屋に入り、売られている物を見る。ブレスレットやネックレス、イヤリングや指輪など見た目には凝っているが、やはりステータスに変化がないものばかりだ。
「……ふむ」
お詫びという事ではないが、キリトに何か買っていくか。ゲームばかりやっているがあいつも立派な女性の1人だ。こういった物にも興味はあるだろう。さて、どんな物を買っていけばいいんだろうか。
「シンさん!」
「どうした?」
「これ見てください!凄い綺麗じゃありませんか?」
シリカが指差すのは美しく輝く赤い宝石が組み込まれたブレスレットであった。確かに綺麗だな。値段は……俺のコルでも手を出せない程ではないが、決して高くないわけではない。
「ああ、綺麗なブレスレットだ。これを買うつもりか?」
「そうしたいですけど、これを買える程のコルは持っていないので……」
確かにシリカが持っているコルはこのアクセサリーの値段の半分にも届かないだろうな。そう思いつつ、横を見ると青色に輝く宝石がぶら下がっているネックレスを見つけた。こちらもブレスレットに負けず劣らずの美しさを持っている。
俺の持っているコルでこのネックレスを買ったとして、残るコルは──────
「よし、十分足りるな」
「……?何がですか、シンさん」
「俺も買いたいアクセサリーを見つけてな、そのついでにな」
俺はキリトに渡す事を決めたネックレスを取ると、シリカが気に入っていたブレスレットも手に取った。
「……えっ?い、いや、そんな悪いですよ!」
「何がだ?」
「シ、シンさんにそのブレスレットを買ってもらう事ですよ!」
「…………いや、違うな」
「へっ?」
「シリカが欲しいから買うんじゃない。俺がシリカに渡したいから買うだけだ」
つまり、俺がこのブレスレットを買う事にシリカが遠慮する必要はないという事だ。
「そ、そんなのただの言い訳じゃ────」
「言い訳じゃない。渡したい相手がいるんだから、ちゃんとした理由だろ?」
「そ、それは……えっと……」
「というわけでこの2つをくれ」
シリカが悩んでいる隙に俺は店主であるNPCの前にアクセサリーを置いた。後ろでシリカが「あっ!」と今更気付いたのか声を上げていたが、既に遅い。
「お客様、この2つはペアルック仕様です」
「ペアル……?」
「それぞれのアクセサリーにもう1つずつ同じアクセサリーが付きます」
「値段は変わるのか?」
「いえ、変わりません」
「ならいい」
ペアなんとかの仕様である2つのアクセサリーを購入し、2つのネックレスはストレージに入れ、2つのブレスレットはシリカに渡す為にトレードしようとすると。
「シンさん。その……ありがとうございます」
「言っただろ?俺が渡したいから買っただけだ」
「それでもです。ところでそのブレスレット……ペアルック仕様だったんですよね」
「そうみたいだな……シリカ、そのペアルックとやらは何なんだ?」
「えっ?え、えっと……」
問いかけてみたが、何故かシリカは説明しづらそうにしていた。何だ?口にするのは難しいものなのか?そのペアルックとやらは。
「ぺ、ペアルックっていうのは…………その、同じ物を2人が持っている事です!」
「同じ物を……なるほど」
どうしてそうするのかはよく分からないが……まぁ、このブレスレットはシリカの物だからな。シリカが誰と一緒に持つかは俺には関係のない事だ。
「あの、シンさんが1つは持っていてくれませんか?」
「……俺でいいのか?」
「はい!」
「分かった。それなら1つだけ渡すぞ」
ブレスレットをトレードされたシリカはすぐにそのブレスレットを装備した。右手首に実体化したそれを見て、喜んでくれている。俺もブレスレットを実体化させ、同じように右手首に装備してみた。
……ふむ。ならこのネックレスもペアルック仕様ならキリトに渡した時、俺も一緒に付けた方がいいんだろうか?
その後、よく使うと思われる店をいくつか紹介しながら回復アイテムなどの説明をしていった。戦闘の練習にはは再びフレンジーボアを使ったが、シリカが武器として選んだのは短剣であった。使い勝手が良いという他にも、シリカのような小さな子どもが使うにはぴったりだろう。
「つ、疲れました……」
「そういった感覚はないんだが……まぁ、気分の問題か」
初めての戦闘で苦戦はしていたものの、戦えないというレベルではない。これなら経験とレベルを積んでいけば、ある程度の強さまでには達するだろう。
「もうすぐ夕方になるが、どうする?」
「部屋に戻って少し休みます……」
「分かった。俺は2階の左一番奥にある部屋を使っているからな、何かあったら来るといい」
「分かりました。それじゃあ、失礼しますね。今日はありがとうございました!」
そう言ってシリカは俺とは反対側の通路へと歩いていった。さて、俺も部屋に戻ったらアイテムの整理をしながらキリトにシリカの事を聞いてみるかな。
「…………」
俺は自分の部屋に入る前に一旦止まり、隣の部屋を見た。鍵は閉まっているが、プレイヤーが利用しているのは確かだ。先程1階で偶然にも聞こえてきた話では、今日は一度も開いていないみたいだが……本当だった場合、おそらくこのデスゲームが早く終わってしまう事を願っているんだろう。それか、もっと別の理由か。
「何にしても関わるべきではないか」
そっとしておく方がいいだろう。無闇に刺激をしたりして、それが原因で自殺などに進んでしまう可能性もなくはないからな。俺はそう思いながら自分の部屋へと入っていった。
結果だけを言えば──────キリトからはシリカが共に来る事を断られた。
考えてみれば当然の反応である。キリトは俺と2人だけで会う事を望んでいる。そこに部外者とも言うべきシリカに入ってきてほしくないのだろう。キリトには辛い思いをさせてしまった為、抗議するわけにもいかずに俺はその答えを覆そうとはしなかった。
「すまん……知り合いから断られてしまったんだ」
「っ……そ、そうですか……当然ですよね、知らない人を一緒に連れていくなんて言われて、いいと答える人なんていませんよね……」
次の日の朝、食堂に行く途中にシリカと会った俺はその事を伝えた。シリカは口ではそう言いつつも、頭のどこかではキリトが了承してくれると思っていたんだろう。表情が酷く落ち込んでいるように見えた。
「……変な希望を持たせて悪かった。これは俺の責任だ」
「い、いいですよ!それに、あたしが一緒に行ってもシンさんやその知り合いの人に迷惑をかけるだけだと思いますし……」
「……それは」
そんな事はないと言えるのか?言葉だけなら何とでも言えるような事が、現実になるという事は滅多にない。当たり前だ、どれだけ否定してもそれらが現実である事を変える事は出来ないのだから。
「あたし、シンさんがいなかったらずっとあそこで泣いている事しか出来なかったと思うんです。でもシンさんのおかげで……この世界で生きていける元気を貰えました。だから大丈夫です」
「……なら、せめてフレンド登録だけでもしておこう。聞きたい事や困った事があったらいつでもメッセージを送ってくれればいい」
「はいっ!分かりました!」
俺はシリカとフレンド登録を行い、キリトとクラインの下にシリカの名前が現れた事を確認した。これで少なくともシリカに何かあった時に何も知らずに済む事が出来る。
「……シンさん」
「何だ?」
「昨日買ったこのブレスレット、何てアイテム名なのか知ってます?」
「……悪い、よく見ていなかった」
何かしらステータスに影響を及ぼすアイテムなら確認しておくんだが……尋ねられると分かっていたら、見ておいたんだがな。
「再会の腕輪です。身に付けたプレイヤー同士の再会を約束してくれるアイテムなんですよっ」
「そんな効果はなかったと思ったが……」
「いいじゃないですか、あると思っても!」
「……そうだな、悪かった」
そういえばあのネックレスも何というアイテム名なんだろうか?もしもシリカ同様にキリトから聞かれた時は答えられるよう確認しておくか。
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