ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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ようやく原作のメインヒロインの登場です。


第1章 初攻略への思惑
第13話 フェンサー


このデスゲームが始まってから既に1ヶ月が経った。実際はそんなに経ったような気はしないが、時間の進み方はとても早い。そしてこの1ヶ月の間に死んだプレイヤーの人数は──────およそ1800人だった。

その死亡理由はモンスターとの戦闘中に自信過剰で引き際を誤り、死んだプレイヤー。この世界に絶望し、自殺をしたプレイヤー。気が狂ったプレイヤーによって圏外───フィールドの事であり、プレイヤー同士で攻撃はおろか殺す事も可能───で(キル)されたプレイヤーなど様々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は1週間の内の4日間は迷宮区へ赴いてレベルアップと曲刀の熟練度を上げ、2日間はフィールドに、そして残りの1日は拠点にしている場所でゆっくりと過ごす────そんな生活を繰り返している。おかげで曲刀の熟練度は随分と上がってきた。刀のソードスキルを取得できるだけの熟練度にはまだ達していないが。

ちなみにキリトとはホルンカの村で合流はしたものの、一緒にいない日もある。と言ってもその日のフィールドに出る目的が違う時などがほとんどで、拠点にいる時はほとんど一緒だが。

この日も俺はキリトとは別行動中で、未マッピングエリアに足を伸ばそうと迷宮区へと来ている。

 

「────はっ!」

 

俺が今、相手にしているのはレベル6の亜人型モンスターと言われているルインコボルド・トルーパー、通称コボルド。奴の持つ斧が振られるが、既にその動きは見切っている。余裕で避け、右手に持つブロンズシミターで攻撃する。

このコボルドというのは第1層の迷宮区では強敵であるらしいが、1体だけならばそうでもない。3回連続で繰り出される攻撃をかわし、体勢を崩した所に反撃を続けていけばいずれ倒せる。

 

「これで……終わりだっ」

 

俺はコボルドから距離を一旦とると、曲刀の上位ソードスキルであるフィル・クレセントを発動してコボルドを葬る。相手との距離を一瞬にして詰めて攻撃をするこのソードスキル、そして以前から使っているリーパー……この2つが俺の曲刀で主に使うソードスキルである。

 

「……ん?」

 

手に入れた経験値やアイテムを確認していると、奥から戦闘をしていると思われる音が聞こえてきた。俺が今いる場所は迷宮区の中でも最前線に最も近い。そのような場所で戦っているとなると、もしかしてキリトのようなベータテスターだろうか?

足を進めてみると戦っていたのはプレイヤー1人とコボルド1体。プレイヤーは頭から腰近くまでを覆うフード付きのケープを羽織り、顔を隠している。武器は……細剣か。

 

「……ふむ」

 

細剣使い(フェンサー)はコボルドからの攻撃を3回連続で回避に成功し、体勢を崩したコボルドにソードスキルを叩き込んだ。あれは……リニアーか。確か細剣のソードスキルの中では一番最初に習得する基本技……だが、明らかに本来のそれよりも速度が凄まじい。

……そうか。プレイヤー自身の運動命令によって速度を上げているのか。それならば納得できる────が、その完成度は異常な程に高い。

そんな事を考えていると、いつの間にか細剣使いとコボルドの戦闘は終わっていた。だが、細剣使いの様子がどこかおかしい。よろめいたかと思うと、通路の壁に背中をぶつけて座り込んでしまった。呼吸は荒く、どう見ても普通とは思えない。

 

「……何だ?」

 

HPバーはほぼ満タンである。何かしらの状態異常になっているわけでもない。つまり原因はそれ以外考えられないが……こればかりは直接聞いてみないと分からない。

教えの1つにも、『その5 人を見捨てるな』とあるからな。

 

「っ……!」

 

ぐったりとしている細剣使いに近付くと俺の足音に気付いたらしく、細剣使いはぴくりと肩を震わせた。だが俺がモンスターでないというのは、あちらの視界に表示されているカラーカーソルが緑色である事が証明しているはず。

細剣使いからは、そのまま通り過ぎてどこかに行け────と訴えているように見えたが、それに従う理由は俺にはない。

 

「随分とお疲れのようだな」

「…………」

「コボルド1体だけと戦っただけで、そんなになるはずがない。こんな最前線に近い場所で戦っていられるならなおさらだ」

 

俺の声掛けに対して細剣使いは返事をしなければ、何らかの動きをする様子もない。話は聞いているが無視をしているのか、それとも話を聞いて俺の出方を待っているのか……そのどちらかだろう。

 

「……お前、迷宮区に何日(・・)いる?」

 

その事を尋ねると、細剣使いの肩が再び震えたように見えた。どうしてこの事を尋ねたのかと聞かれると、別に根拠がないわけではない。まず、明らかに精神的に参っているのが先程の様子から分かる。次に細剣使いが羽織っているケープの各所がほつれている。耐久力の損耗を示しているが、あそこまでほつれたケープを装備して迷宮区に来るとは思えないし、あの強さから1日でここまでなるとは到底考えられない。

つまり────あの細剣使いは自主的なのか迷ったのかは分からないが、迷宮区から1日以上は出ていないと考えたのだ。

 

「…………それを、聞いて、どうするつもり?」

「!」

 

細剣使いからようやく聞けた声であったが、その高さに驚いた。男性プレイヤーだと思っていたが、この細剣使い──────女性プレイヤーだったのか。

デスゲームとなった今、モンスター以外にもトラップが仕掛けられた迷宮区に潜ろうとするプレイヤーは少ない。その上、この世界にいる女性プレイヤーは圧倒的に少なく、ほぼ全員が今でも始まりの街に留まっていると俺は他のプレイヤー達から聞いた。始まりの街から出ている者もいるが、キリト以外の出会った女性プレイヤーは全員大きなパーティのメンバーだった。

その為、この細剣使いが女性プレイヤーだとは微塵にも思っていなかったのだ。

 

「気になったから尋ねたんだが、何か隠したい事でもあるのか?」

「…………別に。3日……か、4日よ」

「やはりか」

 

おそらく2日、多くても3日だと考えていたが、さらにもう1日多くここにいたというのは驚きだ。それだけの日数をこの迷宮内で過ごしたとなれば色々な問題が発生する。薬の補給や装備の修理、睡眠などが最もな例だ。それを細剣使いに尋ねると────

 

「ダメージを受けなければ薬はいらないし、剣は同じのを5本買ってきた。……休憩は、近くの安全地帯で取ってるから」

 

安全地帯……ああ、迷宮区内にあるモンスターが出現しない部屋の事か。安全だがベッドなどなければ、近くの通路からは頻繁にモンスターの足音や唸り声が聞こえてくる。どんなプレイヤーでも熟睡など出来るはずがない。実際に前、そこで寝てみたからな。

 

「……もう、いい?そろそろこの辺の怪物が復活してるから、行くわ」

 

よろけながらも立ち上がり、細剣を重たそうに持ちながら俺に背を向ける。体は酷く疲労し、羽織っているケープがあそこまでボロボロになっている。そんな姿を見て、彼女を止めないわけがない。

 

「……お前、ずっとその戦い方を続けていたらいずれ死ぬぞ」

「……どうせ、みんな死ぬのよ」

 

その言葉が肌寒い迷宮区内の空気をさらに冷やしたように感じられた。フードの奥に見える薄赤く光る瞳が俺を貫くように向けられる。

 

「たった1ヶ月で、1800人も死んだわ。でもまだ、最初のフロアすら突破されてない。このゲームはクリア不可能なのよ。どこでどんな風に死のうと、早いか……遅いかだけの、違い………………」

「おいっ」

 

言葉が途切れ始めた時には足が既に動いていた。地面へと崩れ落ちていく細剣使いを倒れる直前で受け止める。

…………どうやら、気を失っているだけみたいだな。おそらく精神的に限界が来たのだろう。あそこまでふらついていれば、いつ倒れてもおかしくなかった。

 

「……むっ」

 

受け止めた衝撃のせいか、彼女の顔からフードが外れた。わざわざ隠している顔を見るのはまずいと思い、フードを元に戻そうと手を伸ばし──────そこで動きを止めた。

栗色の長いストレートヘアは小さな顔の両側に垂れ、桜色の唇が華やかな彩りを添える。少女のように可愛らしいと思えるキリトとは違い、細剣使いは美しかった。思わず俺でさえ見とれてしまう程に。

 

「…………いや、今はこんな事をしてる場合じゃない」

 

ほんの数分……いや、実際には数秒だろうが俺にはそれ以上に長く彼女の顔を見つめていたように感じられた。

フードを元に戻し、再び彼女の顔を隠す。そして地面へと直撃するはずだった体をゆっくりと横にした。さて、ここまではいいんだが……。

 

「どうやってこいつを外に運び出すか」

 

現実世界でならば女性1人を運ぶなど特に問題はないが、ここではそうはいかない。アイテムには重量が設定してあり、薬や予備の武器、さらには戦闘で手に入れたコルやアイテムを持つプレイヤーが他のプレイヤーを抱えて運ぶなど到底不可能だ。それにSTR(筋力)がほとんどない現状では、何も持っていなくても無理である。

 

「ん?…………なるほど、そうすればいいのか」

 

何か方法はないかとストレージを見ていると、ある物を見つけた。このアイテムを使い、ああしてこうすれば……彼女を無事に外へと出せるはずだ。

 

「少し乱暴だが……許してくれよ」

 

俺は気絶している細剣使いに聞こえるはずのない謝罪を呟き、さっそく作業にとりかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余計な……事を」

「起きたと思ったら、随分な物言いだな」

 

俺と細剣使いは今、共に迷宮区を出てフィールドにいる。場所は迷宮区から100m程離れた、金色の苔をまとう古木と小さな花をつけたイバラの茂みに囲まれた森の中の空き地である。細剣使いには言えない方法でここに辿り着いてからも、彼女は数時間も眠っていた。だからと言って、疲労感が完全に消えているとは思えないが。

 

「…………どうして置いていってくれなかったの」

「自殺願望があるなら、誰もいない時に高所から落下すればいい。だがモンスターとの戦闘中に死ぬ気があるなら、せめてこのゲームの攻略を手助けしてからにしろ」

 

自殺すればいいというのは本心ではないが、戦える力があるならそれを攻略に役立たせてほしいのは本当の事だ。何かしら理由があるとはいえ、自分の限界を考えずに戦い続け、その中で死ぬ気でいるなら攻略中に死んだ方がまだマシだ。

 

「…………言ったはずよ。このゲームはクリア不可────」

「本当にそう思うか?」

「……どういう事よ」

 

ふむ……この反応を見る限り、どうやら知らないようだな。と言う俺も昨日、キリトから聞かれるまで何も知らなかったが。

 

「今日の夕方、迷宮区よりのトールバーナという町で1回目の第1層フロアボス攻略会議が開かれる。それに参加してからでもクリア不可能なのか判断するのは遅くないだろ?」




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