ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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皆さんに言っておかないといけない事があります。
実は作者は今週から学校の実習へと行かないといけなく、約2週間はこの小説は投稿されないと思います。
なのでしばらくは今まで投稿してきた話を楽しみながら待っていてください!


第14話 黒パン

トールバーナ──────迷宮区から程近く、第1層では最大の町である。巨大な風車塔が立ち並び、こののどかな町に最初のプレイヤーが到達したのはSAO開始から3週間後、死者が1600人になった時だ。

俺と細剣使いは森を抜け、そのトールバーナの北門をくぐり抜ける。すると、視界に『INNER AREA』という紫色の文字が浮かんだ。この文字が現れたという事は、安全な街区圏内へと入ったという事を意味している。

 

「ここがトールバーナだ。……来た事はあるか?」

「……ないわ」

「ならどうする?会議は町の中央広場で午後4時から始まるが、それまで一緒に行動するか?」

「…………遠慮しとくわ」

 

そう言い、細剣使いは俺の前を通り過ぎていった。掛ける言葉を間違えたか?と思っていると────

 

「妙な女だよナ」

「っ!?」

 

突然、背後から聞こえてきた呟き声に俺は咄嗟に距離をとった。圏内であるのだからここまで警戒する必要はないのだが、体が勝手に反応してしまったのだ。

考えるに、かなり隠蔽スキルの熟練度を上げているんだろう。俺もベータテストでは使う事がなかった隠蔽スキルや捜索スキルなど色々なスキルをキリトに教わりながら熟練度を上げているが、こいつはそれらを軽く上回っているに違いない。

 

「すぐにでも死にそうなのに、死なナイ。どう見てもネトゲ素人なのに、技は恐ろしく切れル。何者なのかネ」

「……誰だ」

 

俺は目の前に立つ相手にそう尋ねる。その相手とは、俺よりも頭1つか2つ位低く、どこか素早さそうな感じがするプレイヤーであった。顔の頬には動物のヒゲを模した3本線が描かれているが、おそらくそういったアイテムがあるんだろう。

 

「悪いナ。つい気になって声を掛けてしまったヨ────シー坊」

「シー坊?……それは俺の事か」

「そうだヨ。シー坊については色んなプレイヤーから聞いてるからナ、すぐに分かったヨ。……特にキーちゃんからはよく聞いてル」

 

……キーちゃん?誰だそれは、と口に出そうとしたがその名前に心当たりがある名前を思い出し、別の言葉を口にした。

 

「……もしかしてキリトの事か?」

「そうダ。オレっちはアルゴ。鼠のアルゴに聞き覚えはないカ?」

「鼠?…………ああ」

 

数日前にその名前を聞いた事がある。プレイヤー同士で「鼠と5分雑談すると、知らない内に100コル分のネタを抜かれるぞ」などと忠告し合っていた。他にも「その鼠はアインクラッド初の情報屋だよ」とどこかで聞いた覚えがある。

 

「鼠と情報屋という言葉に聞き覚えがある」

「名前は知らなかったカ」

「……お前と話しているとネタを抜かれると聞いている」

「真偽の怪しい情報は売らないヨ。それに価値があるネタにはそれなりの情報料を払ってるし、極力裏を取ってル」

「……ふむ」

 

つまりネタを抜かれるという話は嘘だったという事か?……いや、どちらが嘘をついているのかなど分からないし、信用が出来るまではあまり話題になるような話はしないようにしよう。

 

「それで?俺に何の用だ」

「あの女について知りたかったら教えてあげるヨ。ただし800コル。キーちゃんはオレっちのお得意様だけど、シー坊まで安くする気はないヨ」

「断る。他人、それも女性の情報を金で知ろうとする気はないからな」

「にひひ、いい心がけだナ」

 

他人の命が関わっている時や相手が悪人で捕らえるのに必要な場合は例外だが、これは仕方ないだろう。

 

「話はそれだけか?なら俺はもう行かせて────」

「ちょっと待ちナ。本命はこれじゃないヨ」

「……なら何だ」

「ここじゃちょっとナ……オレっちについてきナ」

 

そう言ってアルゴは近くにある人気のなさそうな路地へと向かっていった。面倒な話ならば聞く気はないが、キリトはお得意様だと言っていた。本当かどうなのかは分からない。だが本当だった場合には、ここでアルゴを裏切ればあいつへの信用を失わせてしまうかもしれない。

ここは言われた通りついて行こうと考え、俺はアルゴの後を追った。

 

「……うん、ここなら大丈夫そうだナ」

「それで本命というのは?」

「キーちゃんの剣を何度も買い取りたいって要求しているプレイヤーがいるって話は聞いてるカ?」

「……何?」

 

キリトの剣……という事は、あのアニールブレード+6の事か。あの剣は元々ホルンカの村で受けられる森の秘薬で手に入れた第1層最強の片手剣をキリトが根気強く強化したのだ。それを売ってほしいだと?

 

「反応を見る限り、知らなかったみたいだナ。まぁ、キーちゃんもシー坊には出会っても伝えないでって言っていたしナ。心配させたくないっテ」

「……そうか」

 

理由は分かる。心配させたくないという他にも、それに関係した事件が起こった時には俺を巻き込みたくないのだろう。

 

「しかし……馬鹿馬鹿しい、そのプレイヤーは売ってくれると思っているのか?」

「金額は29800コルまで引き上げると言ってるそうダ。必要ならさらに上げるとも言っていたヨ」

「……努力と時間を金で買い取るなど、ロクでもない奴がする事だ」

 

そんな事をしている暇があるなら、自分で手に入れてこいとそのプレイヤーに言いたい。

 

「この交渉、シー坊はどう思う?」

「……それよりこの話を俺にしていいのか?キリトだけならばともかく、交渉相手がいる以上まずいんじゃないか?」

「これはオレっちからの依頼ダ。そのプレイヤーが何を考えているのか調べてほしイ。この交渉は明らかにおかしいからナ。剣を手に入れても損が多過ぎル」

「その依頼を俺がやると思うか?」

 

俺がそう尋ねると、アルゴがニヤリと笑ったのが見えた。

 

「やるサ。シー坊はそういう人だとキーちゃんが言っていたからナ。それに信用できる情報が多イ」

「……分かった。ただし本格的に受けるのはキリトからこの話が本当かどうか聞いてからだ」

「……随分と信用されてないみたいだナ」

「俺はアルゴについて何も知らないからな。今はお前から一方的に信用されているだけだ」

 

これは本当の事だから仕方ない。まぁ、と言ってもアルゴが嘘をついているとは思えないが。本当に嘘ならキリトに聞くという時点で慌てるはずだからな。

 

「なら、オネーサンについて色々と教えてやろうカ?1つの質問につき、100コルだヨ?」

「言っただろ、他人の情報を金で知る気はないと」

「面白味がないナ……まぁ、いいカ。それじゃあ、頼むヨ」

 

そう言うと、アルゴは一瞬にして路地から出て人波に紛れ込んでしまった。隠蔽スキルの熟練度が高いという他にも俊敏性にポイントを多く振っているんだろうなと思いつつ、俺はその姿を見送る。

 

「キリトとは会議の時に落ち合う予定だからな……その時に尋ねるか」

 

その前にどこかで食事をとろう。先程から腹が減って仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近ハマっている食事の為に、俺はNPCベーカリーで黒パンを2つ購入した。値段は1コルと最も安く、ぼそぼそと粗いパンであるが、ある工夫をする事で美味くなる。

ついでにパンという事でミルクも購入し、どこで食べようかと悩んでいると。

 

「……ん?」

 

トールバーナの中心、噴水広場を歩いていると片隅にある木製ベンチにあの細剣使いが座っている事に気付いた。何をしているのかと思ったが、どうやら食事をしているらしい。俺と同じように黒パンを食べているが、そのままだ。あのままでは大して美味しくもないだろう。

 

「また会ったな」

「……っ!」

 

近寄って声を掛けると、パンをちぎろうとしていた手が止まった。そしてこちらを見上げたかと思うと、頬を赤くして固まってしまった。大方、少し前まで死のうとしていたのに呑気に飯など食べている所を見られたからだろう。

 

「そのパン、そのままだとイマイチだろ?ちょっとした工夫を教えてやる」

「工夫……?」

「ああ。隣、座るぞ」

 

俺は細剣使いから人1人分の隙間を開けてベンチに座った。そしてストレージから黒パン───細剣使いが目にした時に唖然としていた───と小さな壺を取り出し、壺は俺と彼女との間に置く。

 

「……それは?」

「そのパンに使ってみるといい」

 

細剣使いは一瞬悩んだように見えたが、恐る恐る右手の指先で壺の蓋に触れた。浮き上がったメニューから使用を選び、紫色に光る指先で黒パンに触れる。すると黒パンの上には大量のクリームが出現した。

 

「……クリーム?こんなもの、どこで……?」

「前に知り合いと受けた逆襲の雌牛というクエストの報酬だ。時間はかかるが、やるだけの価値はある」

 

そう言うと、俺も壺に触れて黒パンに使う。キリトから教えられた使用回数から考えて、使えるのはあと1回のはず。黒パンを2つ買ったのはそれが理由だ。

 

「これだけでかなり美味くなる。食べてみな」

「……いただきます」

 

細剣使いが口にしたのを見届け、俺もクリームが盛られた黒パンにかぶりつく。うむ、やはり美味い。黒パンをここまで美味しくしてくれるこのクリームはなかなかの代物である。チラリと細剣使いを見れば、夢中で頬張っていた。

 

「美味かっただろ?」

「……っ!!」

 

黒パンを食べ終わった所を狙い、細剣使いに尋ねる。すると俺がまだ食べているのに、自分はもう食べ終わってしまっている事に気付いたらしい。また頬を赤くしている。

 

「もう1食分あるが、いるか?」

「…………いらない。ご馳走様」

「そうか」

 

俺は1つ目の黒パンを食べ終え、さらにもう1つの黒パンを食べようとストレージから取り出す。先程のように黒パンに壺を使ってクリームを盛ると、壺は消滅した。

黒パンを食べようとかぶりつこうとして────

 

「……何故見ている?」

「別に……」

「いらないんじゃなかったのか?」

「…………」

 

俺の質問に対して沈黙する細剣使い。視線も黒パンから外れたものの、たまにこちらを見てくる。正確には俺ではなく、黒パンを。その視線を無視して食べるという事も出来るが、それをした後の彼女の表情は容易に分かる。

 

──────『その3 女性を悲しませるな』。悲しむ、というわけではないが残念そうにするだろう。教えに反してはいないが、そうなると分かっていてそんな顔を見ようとは思わない。

 

「やるよ」

「いらないと言ったけど」

「気が変わったんだ。流石にこればかりじゃ飽きるからな」

「…………なら貰っておく」

 

そう言うと、細剣使いはクリームが盛られた黒パンを受け取り、ストレージに入れた。大分気に入っていたのか、受け取ってからの手際に迷いがなく、速かった。

 

「そんなに気に入ったんならクエストの事を詳しく教えてやろうか?」

「……いい。私は美味しい物を食べようと思ってるわけじゃないから」

 

先程の食べる勢いと、黒パンを受け取った時の事を思い出すと説得力に欠けるが……まぁ、そういう事にしておこう。

 

「なら、どうして食べていたんだ?」

「私が……私でいるため。最初の街の宿屋に閉じこもって、ゆっくり腐っていくくらいなら、最後の瞬間まで自分のままでいたい。例え怪物に負けて死んでも、このゲームに……この世界に負けたくない。どうしても」

 

……最初の街の宿屋に閉じこもっていた?まさか、この細剣使い……あの部屋に閉じこもっていたプレイヤーか……?

 

「……この世界で、自分のままでいるのは難しい事だ。生き残る為に嘘をつくかもしれないし、仲間を作る為に自分を偽る奴だっているだろうな」

「……だとしても、私は」

「自分のままでいたいんだろ?この世界に負けたくないんだろ?ならそうすればいい。そうなる為には、前へと向かっていくしかないが」

 

俺だってそうだ。こんなデスゲームになろうと、道場の教えを守ろうとしている。教えの通りに動いていれば、自分が犠牲になるかもしれないのにそうしている。それは何故か。俺がそう生きると決めたからだ。

 

「……行きましょう。貴方が誘った会議なんだから」

「そうだな」

 

午後4時を知らせる時鐘が聞こえてきた。噴水広場には既に多くのプレイヤーが集まってきている。ここから見ても、少なくとも数十人はいるだろう。

 

そして──────始まる。このゲームがデスゲームになってから初めて行われる攻略会議が。




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