ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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前の話である17話の最後の部分を間違いがあったという事で、2回文章を直させてもらいました。
まだ読んでいないという方は是非お読みください!


第18話 道中

次の日──────12月4日の日曜日、午前10時。

集合場所である噴水広場には誰1人欠ける事なく、44人のプレイヤーが集まった。第1層のボスを倒すのにキリトはこの人数、レベル、装備ならば死者0人で倒す事は決して不可能ではないと言っていた。だが、それは逆も然り。

さらにはベータテストの時とイルファングの強さが変更されていた場合、最悪全滅という可能性もある。もしもそうなった場合、必ずここにいないプレイヤー達は絶望するだろう。

「最前線で戦うプレイヤー達でも倒せないボスを後ろにいる自分達が倒せるはずない」、と。「自分も参加していれば良かった」と考えるプレイヤー達もその自責によって、自らを追い詰める事になる。そうなってしまえば、このゲームはクリア不可能だ。それはつまり、このゲームから一生出れない事を意味する。

 

「…………そうはさせない、必ず」

 

俺は小さくそう呟き、心に決める。このボス攻略の結果が今後のプレイヤー達の運命を決めるのは間違いない。ならばそれは、イルファングを倒して全てのプレイヤー達に希望を与える。それしかない。

 

だが、その前にどうにかせねばならない事がある。

 

「いつまで睨んでいるつもりなんだ?」

「…………」

 

俺は背後にいるであろうアスナに声を掛ける。わざわざ振り向かなくても分かる。彼女から向けられている視線には明らかな強い怒りが込められている。

昨日の夜、散々責められてから謝ったものの、結局アスナから許しは出なかった。まさか彼女の口からあのような言葉が出るとは思わなかったが……そういえば、ある程度頭が冷えてから「もう、お嫁に行けない……」と呟いていたな。何故だ?裸を見られたからといって、本当にそうなるはずが──────

 

「……腐った牛乳ひと樽、本当に飲ますからね」

「えっ、どうして思い出したって分かるの?」

「何となくよ」

 

キリトの言う通りだ。何故言ってもいないのに考えている事が分かる?読心術というレベルではないぞ。確かに思い出したら飲ますと言われたが、これでは逃げ場がないのと同じだ。ちなみにゲーム内で腐った牛乳を飲むとどうなるのかキリトに尋ねてみたが、

 

「ダメージはないけど、味に関しては一口でも飲めば死ぬ程悶えるレベルだよ。でもまぁ、シンにとってはいい罰になんじゃないかな」

 

と返ってきた。キリトも同性だからか、アスナの方に付いてしまっている。何故かアスナと関わるとキリトは機嫌を悪くする為、2人の仲には心配をするものがあった。その為、仲が良くなった事は嬉しい……が、こういった方法で仲良くなった事には微妙である。

 

「飲むにしてもこの攻略が終わってからだ。調子が悪いまま敵に挑むなどという事はしたくない」

「当然でしょ……」

「うん。気分を悪くしたから死んだって事になったら、私許さないから」

 

俺の言葉にアスナは呆れたように呟いていた。それからキリトは例え俺が気分を悪くしていなくとも、死ねば許さないだろう。ならば尚更頑張らなくてはならないな。

 

「おい」

「……何の用だ、キバオウ」

 

後ろから掛けられた声に俺は振り向き、声の主である男を視界に入れる。ベータテスターを恨んでいる事もそうだが、会議の時のキバオウの態度からしてもキリトはキバオウの事を良くは思っていないだろう。それどころか苦手意識を持っているはず。それを考慮して俺はキリトよりも前へと出て、キバオウの声に答えた。

 

「シンはん。わいとしては納得せぇへんけど、アンタらはわいのパーティのサポ役や。せやから前に出る必要なんてあらへん。……特に、や」

 

キバオウは顔をキリトへと向けた。その顔は何故か憎々しげに頬を歪めている。何を言うつもりだ、と考えているとキバオウは言い放った。

 

「そこのジブン。大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや。せぇへんと……」

「……っ」

「キバオウ、俺のパーティメンバーを脅すのは止めろ。何か言いたい事があるなら俺に言え」

「わいは脅してるわけじゃあらへん。ソイツが攻略中にバカな真似をする気がしたからや」

 

その根拠は何だと聞いてみたいが、やめておこう。俺やアスナには言わず、キリトだけに言ったという事は1つだけ考えられる理由がある。それはキリトがベータテスターだと知られている事だ。その場合───その事を知った方法などはともかく───、今ここで言えば多くのプレイヤーまでもが知る事になる。そうなってしまえば、キリトがどんな態度をとられるかなど予想するのは難しい事ではない。

 

「……そうか。分かった、俺も気を付けておこう」

「シン……」

「よろしく頼むで」

 

そう言ってキバオウは自分のパーティへと戻っていく。話を終わらせる為にああ言ったが、キリトを信じていないわけではない。後で誤解を解いておこう。

 

何故後回しにしたのかと聞かれれば、キバオウに聞かれるとまずいからだが他にも理由がある。

あの男はキリトに対して40000コルという大金を提示してまでアニールブレード+6を欲しがった。その目的が何であろうと、奴が買おうとしたのは事実だ。そして大金を用意していたのも事実のはず。

しかし初心者であるキバオウがそんな大金を溜め込んでいたとしても、用意できるとは思えない。それに交渉が始まったのは1週間前だが、キリトは一昨日キバオウと初めて会ったと言っていた。それが本当であるならキバオウは誰かからキリトの事を聞いた違いない。そしてアニールブレードを手に入れる為に金を借りたと考えられる。

 

それを裏付けるように──────キバオウの装備は昨日と変わっていないのだ。

死ぬ確率は今までの何よりも高い。だからこそアスナの細剣は俺がドロップしていたウインドフルーレ+4に変えてもらい、俺も今日の為にと準備していたグレートシミター+5へと武器を変えた。

キバオウは40000コルを使わなかったのではない。他人の金である故に使えなかったと考えた方が筋が通る。金の貸し借りがあるという事は、貸した相手は相当な信頼関係がある人物。そうじゃなければ集めたとも考えられるが──────どちらにせよ、相手が誰なのかを突き止めるのは現段階では不可能だ。

だが、これはキバオウがアニールブレードを手に入れる手段が分かっただけだ。何故執拗に求めたかの答えではない。それが分からなくては──────

 

「ねぇ」

「………………ん、何だ?っと、この歓声は」

 

アスナに声を掛けられ、意識を周囲に向けると歓声や拍手などが広場全体に響き渡っていた。どうやら考え込んでいる内に何かがあったらしく、キリトを含めた多くのプレイヤーの視線は噴水の縁に立つディアベルに向けられている。

 

「……やっぱり聞いていなかったのね。どれだけ考え事に集中していたのよ」

「悪い。だが何が起こっているのかは分かった」

 

ディアベルが何かしらプレイヤー達の士気を上げる為に声を掛けたのだろう。だが……何故、その中に笑い声や口笛が混ざっている?俺達がこれからするのは今後の運命を決める為の戦いだ。責任は重大、それから来る緊張を解く為ならば分かる。しかし油断は禁物だ、勝てる戦いでも負ける事さえあるのだから。

 

「みんな……もう、俺から言うことはたった1つ!絶対に、勝とうぜ!!」

 

わあああっ、と歓声はさらに大きくなった。これでプレイヤー達の士気は最高潮まで上がっただろう。誰もがこのボス戦に勝てると確信しているはずだ。

だが。だからこそ、気を付けなければならない。この戦いの中、プレイヤー達の脳裏に敗北という文字が浮かび上がった時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まるで遠足のようだな」

 

トールバーナから迷宮区に大勢で移動している中、俺達は特に理由もないが最後尾を歩いている。しかしその事で目の前のプレイヤー達からは止まる事のない会話や大きな笑い声がハッキリと聞こえてくる。道の左右にある森からモンスターが現れ、戦闘がある事を除けば本当に遠足のようだ。

まるで今から自分達は楽しみにしている場所に行こうとしているかのように見える。実際にはボス戦が自分達の勝利である事を確信しているからだが──────それ程までに信じられる勝利なのか?

 

「……貴方もそう思ったのね」

「ああ。……ん?も、という事は────」

「確かに遠足みたいだよね。私もそう思ったよ」

 

アスナの言葉に彼女もそう思ったのかと聞こうとすると、横から突然キリトが割り込んできた。

 

「他のエ……MMOゲームでも、移動の時はこんな感じなの?」

「ううん。フルダイブ型じゃないゲームは、移動するのにキーボードなりマウスなりコントローラを操作しなきゃならないからね。チャット窓に発言を打ち込んでる余裕はなかなかないよ」

「フルダイブ型のゲーム……ナーヴギアの他のMMOゲームは?」

「ナーヴギアはこのゲームが初だ。……そうだったな、キリト?」

 

キリトに頼まれてやっていたとはいえ、未だゲームにはあまり詳しくない故に念の為にとキリトに尋ねる。するとキリトから「うん、そうだよ」と肯定した答えが返ってきた事で、アスナに対して嘘を言っていないと確認できた。

 

「まぁ、ボイスチャット搭載のゲームはその限りじゃないだろうけどね。私はそういうのやってないから分からないけど」

 

確かにキリトがそういったゲームをしていると聞いた事はなかったな。初めて聞いたゲームだが、その名の通り打ち込むのではなく、口にした言葉が文字となって画面に表示されるんだろう。

 

「…………本物は、どんな感じなのかしら」

「本物?」

「どういう意味だ?」

「だから……こういうファンタジー世界が本当にあったとして……そこを冒険する剣士とか魔法使いとかの一団が、恐ろしい怪物の親玉を倒しに行くとして。道中彼らは、どんな話をするのか……それとも押し黙って歩くのか。そういう話」

 

なるほどな。しかしゲームとこれが現実となっている場合とでは道中に違いがあったとしても、その違いを確かめる事など出来ない。アスナの質問である会話があるかどうかを知る事は出来ない──────今は、だが。

 

「答えはこの先にあるはずだ」

「えっ?」

「今はともかく、攻略を続けていけばいずれこれが日常になる。この世界はゲームだが、俺達は現実だ。いつしか本物になるだろう。その時に会話があるのかどうか確かめればいい」

 

そう言いながら歩いていくと、いつの間にか1人でいる事に気付いた。キリトとアスナはどこに?そう思い、後ろを振り向くと2人は立ち止まっていた。しかしアスナの様子がおかしく、笑い声が聞こえてくる。よく見れば、キリトも笑いを堪えているようだった。

 

「……笑える要素があったか、今?」

「ふふ……だって、変な事を言うんだもの。この世界は究極の非常日なのに、それを日常だなんて」

「うん、でも……今日でもう丸4週間なんだよね。今日、1層のボスを倒せたとしてもまだ99層も残ってる。このゲームを攻略するのに2、3年はかかると私は思うんだ。それだけ続けば非常日もいつの間にか日常になってるんじゃないかな」

 

2、3年……か。先は随分と長いな。デスゲームとなった事を宣言されたあの日、攻略するのにかかる日数を実際に割り出したプレイヤーがいたんならば、その者だけではなく多くのプレイヤーが絶望するしかなかっただろうな。

 

「…………強いのね、貴方達は。私には、とても無理だわ。この世界で生き続けるのは……今日の戦闘で死ぬ事よりもずっと怖く思える事だから」

「なら、何か目標を持った方がいいかもしれないな。例えば……そうだな、上の層には昨日よりも凄い風呂があるんじゃないか、とか」

「あっ……うん、確かにそうだね。その可能性は高いよ」

 

第2層よりも先に上がっているキリトならば、おそらくそれが本当かどうか知っているだろう。しかしここでその答えを言ってしまえば、ベータテスターではないかとアスナに疑われてしまうかもしれない。だからこそ、一瞬だが言うべきか迷ったんだろう。

さて、気持ちが落ち込み気味だったアスナはどうなったかと思い、視線を向けると──────顔を赤面させて固まっていた。

 

「…………本ッ当に思い出すなんてね。腐った牛乳ひと樽、絶対に飲ませるから」

「そしたら昨日の事を許してくれるんだろう?」

「……ねぇ。シン、あまり反省してないみたいだけど」

「やっぱり樽の数を増やそうかしら」

 

いくらなんでも流石にそれは止してくれ。




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