今後もよろしくお願いします!
「──────あっ」
それは誰が口にした呟きだったか。イルファングが鞘から引き抜いた刀によるソードスキル────旋車によって、C隊全員がスタンになった事を誰もが見ていたが、それを受け入れるのには相当な時間が掛かった。これは事前の情報と異なっている事もあるが、何よりも先程までプレイヤー側が優勢になって戦っていたからというのが大きい。
その間にイルファングは長い硬直時間から解放され、今度は刀を床に触れるか触れないかの位置から斬り上げ、正面にいたプレイヤーを宙に浮かせた。
そのプレイヤーとは──────不幸にも、多くの人から絶対なる信頼を受けていたディアベルである。
「くっ……!」
ディアベルが受けたソードスキル、浮舟はスキルコンボの開始技であるがその事を知っているのはこの場に1人しかいない。
刀の刀身が赤いライトエフェクトが包まれ、ディアベルに襲いかかる。この時、ディアベルが取るべき行動は防御に全神経を集中する事であった。しかしそれを知らずにソードスキルを発動しようとして──────不発に終わった。
「グルオオッ!!」
イルファングの刀が目にも止まらぬ速さで上、下からディアベルを攻撃する。そのどれもがクリティカルヒットであり、彼に絶大なダメージを負わせていた。
そして一拍溜め、最後の攻撃である突きが繰り出されようとする────────
「させるか」
トドメになるだろう最後の突きがディアベルに突き刺さる手前で、俺はフィル・クレセントで距離を一気に詰めて刀身を横から弾いた。刀は僅かながらブレて、ディアベルの真横を勢いよく通り過ぎ、HPバーの減少は僅かな数字を残して止まる事になった。
「き……きみ、は」
床に落ちたディアベルからの声は小さく、弱々しかった。助かったとはいえ、あと少しで死ぬ直前だったのだから仕方ない。
「ディアベル、C隊を連れて後退しろ。俺が時間を稼ぐ」
「っ……な、何を言ってるんだ!ボスと1人で戦おうなんて無茶だ!」
「無駄口を言ってる暇があるなら早く行け。奴の硬直が解ける前に逃げなきゃ今度こそ死ぬぞ」
俺は正面にいるイルファングに対して構えを取る。確かにディアベルの言う通り、無茶ではあるが無理ではない。イルファングの体型が大きさはともかく人と似ている事、そして武器に刀を使っている事から俺には勝機があるからだ。
「……ディアベル、今はそいつの指示に従うぞ」
「俺達全員、死にそうなのは分かってるだろ。今は下がって回復するべきだ」
「っ……でも!」
「彼が危険を承知で作ってくれたこの瞬間を、わざわざ見逃すのか!?」
背後でディアベルと他のパーティメンバー達が議論しているのが聞こえてくる。だが、そんな事をしているなら早く行ったらどうなんだ?
「分かった……この恩は必ず──────」
「グルオオオッ!!」
「まずいっ、ボスが!」
ディアベル達全員が逃げる事を決心した直後にイルファングの硬直が解けてしまった。まったく、タイミングの悪い奴だな……っ!
「はあっ!」
イルファングの振り降ろしてくる刀を俺は両手で握り締めた曲刀で迎え撃った。ぶつかり合う2つの武器の間からは火花が散り、互角の力────いや、俺の方が僅かに押されているな。筋力よりも敏捷性にスキルポイントを多めに振り分けていたのがここで仇になるとは。
「ちぃっ……何してる!とっとと逃げろ!!」
「あ、ああ!」
俺とイルファングの激突に目を奪われていた奴らを叱る。そして後ろへと全力で走っていくのを見届けた後に、俺は刀を腹で滑らせて床へと激突させた。
すぐにイルファングから距離をとり──────
「グオオオッ!!」
「っ……!」
勢いよく凪ぎ払われる刀を咄嗟に伏せて避け、俺はすぐに攻撃に転じた。使用後に硬直があるソードスキルは使わずに、イルファングを斬りつけていく。
そして奴が刀を振り上げたと思った瞬間、俺は反射的にすぐ後ろへと跳び、もう一度床を蹴った後には刀の先がすぐ目の前を通り過ぎて床に叩きつけられた。
これが奴の攻撃できる間合い……それにしても。
「……分かっていないな、刀の事を」
刀はただ我武者羅に振ればいいというわけではない。大事なのは相手との間合い、呼吸、踏み込み、刃筋、そして刀の重さを最大限に利用する事だが……イルファングにはそれが何1つ備わっていない。そうでなければ、俺に攻撃を一度でも当てられるはずなのだ。
「そもそも刀を常に片手で持つなんて、それじゃただの剣と変わらないだろ」
そう呟いていると、イルファングがディアベルを宙に浮かせたソードスキルを放ってきた。しかし一度見て、しかも刀を使いこなせてすらいない奴の技をわざわざ受けてやるつもりはない。俺は片足を後ろにずらして半身になる事でかわし、その隙に俺が攻撃を──────
「シン!!」
「……来たか」
後ろをチラッと見ると、キリトとアスナが走ってきていた。イルファングは今ソードスキルを発動し、僅かな間は硬直するはず。
──────この隙を逃しはしない。
「ふっ!!」
俺は新たに獲得していたソードスキル、デス・クリープを放つ。曲刀が黒く包まれ、そのまま上段から強力な一撃をイルファングに喰らわせた。それと同時に発生した黒い衝撃波で奴を怯せる事に成功する。
「────スイッチ!」
「「!!」」
俺は床を強く蹴り、背後にいる2人の間を通り過ぎる。そして俺が予想していた通り、突然の事でありながらもキリトはレイジスパイク、アスナはリニアーとそれぞれのソードスキルを発動してイルファングを遠くに吹き飛ばしてくれた。
「ナイスだ、2人共」
「そうじゃないでしょ!ボスと、しかも1人で戦い始めるなんて、何考えてるの!!どれだけ心配したか分かってる!?」
「……悪かったよ、すまなかった」
本当に心配していたらしく、涙目で怒ってくるキリトの頭をポン、ポンと優しく撫でる。唸っているキリトをそれで落ち着かせている間、俺は隣にいるアスナに目を向けた。
「アスナも来てくれてありがとな」
「同じパーティメンバーなんだから当然でしょ」
「それでもだ、助けてくれた事に違いはないだろ?」
「……分かったわよ」
お礼を言われた事に照れているのか、アスナは俺から顔をそらしてしまった。その時、視界の片隅にいるイルファングが動き出したのが見え、俺達は瞬時に構えをとった。
「他の部隊の奴らはどうした?」
「ほとんどのみんなはディアベルが死にかけた事に怖じ気づいちゃって……」
「あれじゃしばらくは戦えないと思うわよ」
「……そうか」
つまりしばらくは俺達だけで戦えという事か。もしもそんな状態のプレイヤー達に奴が突っ込んだら一瞬にして死者が出るだろう。それだけはさせるわけにはいかない。
「グルオオオオオオッ!!」
イルファングは激しく吠え、俺達の方へと走ってくる。それと同時に俺達も走り出し、キリトが俺とアスナの方に向かって叫んできた。
「シン!アスナ!手順はセンチネルの時と同じだよ!」
「分かった!」
「ええ!」
キリトに返事をすると、先を走るアスナが被っていたケープを邪魔と感じたのか一気に体から引き剥がしていた。初めて会った時、アスナが気を失った際に隠れていたその顔を見た事はあるが──────
「やはり綺麗だな」
「なっ……こっ、こんな時に何言ってるの!?」
「そうだったな、すまん」
まさか聞こえていたとはな……いい耳をしている。そういえばキリトからキツい視線を感じたと思ったが、気のせいだろう。あいつは今、イルファングの居合いをソードスキルで相殺させていたんだからな。
「シン!アスナ!」
「任せろ!」
「セアアッ!!」
キリトとの激突で後退したイルファングを俺は正面からデス・クリープで斬り裂き、同時に衝撃波で怯ませる。そして俺の背後から現れたアスナの放ったリニアーが深々と打ち抜いた。
「……たったこの程度か」
2つのソードスキルを叩き込んだにも関わらず、イルファングのHPバーは僅かしか減少していない。しかしそれは当たり前だ、ボスであろう存在がそう簡単に倒されては困る──────が。
「他の奴らがまともに戦えるようになるまでどれ程かかるかが問題だな」
「うん……私達3人だけじゃあまりにも火力不足だよ」
「でもやるしかない……そうでしょ?」
「ああ、その通りだ」
奴を倒す、後ろの奴らが復活するまで持ちこたえる……どちらにせよ、奴と戦う事から逃れる事は出来ないという事だ。ならば──────やるしかない。
「ふっ!」
「はあっ!」
キリトが作り出した隙をつき、イルファングにフィル・クレセントとリニアーを打ち込む。ダメージを与え終わると、俺達はすぐにキリトと入れ替わって硬直が終わるのを待った。
「……これでもう16回目か」
「そんな事を数えてたの?」
「まぁな。だが……それだけやっても減ったのはほんの少しか」
このゲームは1体の敵に対してプレイヤーは複数人で戦える以上、ボスのHPバーはそれを考慮した上で設定されているはずだ。イルファングのHPバーが何十人のプレイヤーを相手に設定されたのかは分からないが、ディアベルが瀕死になる前は20人以上で戦い、かなり順調に奴のHPバーを削っていた。
しかし今、戦っているのはたったの3人……この人数でHPバーを最後まで削ろうとすれば、どれ程の時間がかかるんだろうか。
「しまっ……うわああっ!?」
「あっ……!」
「っ、どうし────キリト!」
攻撃を読み間違えたのか、下段から繰り出された奴のソードスキルがキリトを直撃していた。吹き飛ばされ、床に膝をつくキリトと交替するようにアスナがイルファングに突っ込んでいく。
「あれはっ……アスナ、下がれ!!」
「えっ……!?」
ソードスキルを発動したにも関わらず硬直が短いのには疑問を感じたが、それよりも奴の続け様に繰り出そうとしているあのソードスキルは、動きから見てディアベルを殺そうとしたやつに違いない……!
「間に合えっ……!」
俺の声にアスナは足を止めたが、あそこはイルファングの間合いに入っている。俺は走り出してあのソードスキルが発動する直前で奴とアスナとの間に割り入み────アスナを後ろへと突き飛ばした。
「っ、シッ────」
「……ふぅっ」
──────奴の
「グルオオオッ!!」
「…………」
右足が僅かに前へと前進。筋肉に隆起から右手に力が込められて左手の力は僅かに弱い。
視線は俺の肩から脇腹にかけてであり、刃筋は右斬り降ろしから。呼吸は荒く、興奮状態である事から振るタイミングは今から考えて約1.2秒後。
そして下段からの攻撃はそのすぐ後、左斬り上げからと考えると刃の向きを変えるまでおよそ0.8秒かかり、捻りを加えるとなると速度は上段よりも遅い──────
「読みやすいな、人と似ていると」
頭の中で思い描いた通りに上下からの攻撃を紙一重でかわし、最後の突きも繰り出される前に既に正面から移動した事で当たらずに終わった。
「……えっ?」
「ぜ、全部かわした……」
アスナとキリトが驚いているが、それ程凄い事ではない。必要なのは相手の動きを細部まで見る観察眼と自分がどう動くべきかを瞬時に判断する事だけだ。
そもそも俺の言う流れとは、その言葉通りだ。流れは何にでもある。例えば人が何かをする時にはそれに繋がる動作をしなければならない。この一連の動作が流れである。その流れを知る事が出来れば、相手の攻撃を最小限の動きでかわす事など造作もない。蹴りだけでもどちらが攻撃か、踏ん張るのかを判断するだけなら筋肉の隆起と爪先の向き、膝の状態だけを確認すればいい。
「グルッ……オオオオッ!!」
「貴様がただ硬直するだけになったな」
デス・クリープを放って、身動きがとれないイルファングを遠くに吹き飛ばす。「攻撃したと思ったら、逆にされていた」と言う奴など現実世界での試合中にはよくあった事だ。何故なら俺が得意とする戦い方は相手を速さと力で一瞬にして叩きのめす方法ともう1つ──────相手の隙を突き、怪我を負わず確実にカウンターを決める方法だったからだ。
「おい、大丈夫か!?」
「お前は……エギルだったか。ああ、大丈夫だ」
後ろを振り向くと、そこには今この場に辿り着いたエギル率いるB隊、それとそれぞれの隊から選ばれた数名のプレイヤーがいた。残りのプレイヤーはと言うと、遥か後ろでE隊とG隊が中心となってセンチネルと戦っていた。どうやら、倒してもすぐに新たなセンチネルが出現しているらしい。
「ディアベル達はどうした?」
「まだ回復中だ。あれだけのダメージを受けたんだ、時間がかかってもしょうがない」
確かにそうだろう。しかし他のゲームはどうなのか知らないが、回復ポーションが入った瓶を飲んでも少しずつしか回復できない他、しばらくは次の瓶を飲んでも効果がないなどとにかく面倒なのだ。しかも非常にまずい。
まぁ、味はともかくディアベル達のような奴らが出たらスイッチで入れ替わって回復させる───これをPOTローテーションと言うらしい───しかないが、今更それは出来ない。
「ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃が来る!技の軌道は私が────」
「それは俺に任せろ。キリトは回復に専念するんだ」
「……でもっ!」
「奴の技は正面の奴が受け止めろ。キリトみたいにソードスキルで無理に相殺せず、盾や武器で守っても大きなダメージはない。いいな?」
「おう!」
「グルルオオオオオッ!!」
エギル達の野太く響く声に、イルファングの雄叫びが重なる。これがゲームではなく、奴が本物の生物とするならば────せっかく相手の人数を減らしたかと思えば、突然増えれば苛立ったのは間違いないだろう。
「さっきは……
「アスナ」
奴の攻撃してくる流れを読み、エギル達に伝えるという役割を果たす直前で、後ろから隣に歩いてきたアスナから礼を言われた。それに対し、俺は笑みを向ける。
「初めてお前から礼を言われたな」
「えっ?…………あ」
迷宮区で気を失ったアスナを外に出した時も黒パンにクリームを塗ると美味しいと教えた時も礼を言われるという事は一度もなかった。これからも礼を言われる事はないと思っていたが……まさかここで言われるとは思っていなかったな。
「この戦い、必ず勝つぞ」
「……ええ!」
アスナはエギル達の間を移動しながら、隙を見てイルファングにリニアーを叩き込んでいく。一方で俺はソードスキルの流れを読み、エギル達に「左水平斬り!」や「左斬り上げ!」、「右水平斬り!」と技の軌道を大声で伝える。奴らも俺の指示通りに攻撃を防ぎ、攻撃を続けるアスナに注意が向かう前に
…………だが。
「右斬り上げ!……なかなか減らないな」
俺が攻撃から抜けてしまった事で奴のHPバーの減りは先程よりも少ない。おそらく奴が倒れる前にエギル達が力尽きるだろうな。
「お、おいっ!?」
「シンッ……!?」
「ちょっ、あなたっ……!」
俺がとった突然の行動にエギルやキリト、アスナが驚く。当然だ、こんな事は誰も予想していなかっただろう。
──────
「はあっ!」
正面と背後にはアスナと同様、奴を囲む事になってしまう為に行かず、僅かな隙を見出だしてデス・クリープを叩き込む。そして攻撃を終え、エギル達の間を通って後ろに移動した瞬間。
「左斬り上げだ!」
「っ!?」
正面にいた奴が俺の言葉通りに迫ってくる刀を盾で防ぐ。その顔には驚きがある。おそらくは何故、奴の動きをロクに見てもいなかったにも関わらず、発動したソードスキルが分かったのかと思っているんだろう。
目の動き。呼吸。首、腕、手首、腰、膝、足首、指それぞれの動き。筋肉の変化に間合いや姿勢、足音や空気の僅かな流れ──────奴の技の流れは全て読める。ならばどれが来るか判断する為には、そのいずれかが分かれば問題ない。ただ少ない材料だけで流れが分かるのは、奴がゲーム上の存在だからだ。攻撃の時やソードスキルを使う時、必ず同じ動きをする。
しかしやり方や理屈が分かったとしても、俺と同じ事が出来るプレイヤーはこのゲーム内にはいないだろう。相手の流れが自然と読めるようになるまで、親父は3年かかったと言うし、俺は5年かかったからな。
「次は右水平斬りだ!」
「お、おい……マジかよ……」
「あいつ、一体どうやってるんだ……!?」
だからエギル達の間を通る時も再び攻撃した時も奴の流れを読み、普通なら両方を一度に行うなど不可能な事が俺には出来る。
そしてそれを続けていれば、アスナ1人が攻撃をしている時よりも早く奴のHPバーは3割を下回りると共に赤く染まった。
あと少しで奴を──────
「っ、そこから離れろ!」
気が緩んでしまったのか、B隊の1人がよろめいた。そこまではいいが、立ち止まったのは奴の真後ろ。キリトが注意してくれたにも関わらず、奴を取り囲んでしまっている。
「グルルオオオオッ!!」
「ちぃっ……!」
イルファングは垂直に跳び、体を捻っていく。技名など分からないが、あれは間違いなくディアベル達の動きを封じたソードスキルだ。曲刀のソードスキルに、空中で応戦する技はない。着地したと同時に奴の刀を迎え撃つか……!
「う……おおああっ!!」
「キ、キリト!?」
「何!?」
後ろから飛び出したキリトは勢いよく跳び、右肩に担ぐアニールブレードが黄緑色の光に包まれていく。そして跳躍が止まったイルファングに振り降ろし──────ソードスキルが発動する直前で奴を床に叩きつけた。
「グルウッ!グルッ……」
「……?立ち上がれないのか……」
イルファングは立ち上がろうと手足を懸命に動かしているが、どうやらそれは出来ないらしい。おそらくゲーム特有の何かなんだろうが……。
「全員────全力攻撃!!囲んでいいよ!!」
「お……オオオオオオ!!」
エギル達が一斉に奴にソードスキルを叩き込み、HPバーが凄まじい速さで削られていく。おそらく、これはキリトにとって賭けなんだろう。イルファングが立ち上がる前にHPバーを全て削る──────だが。
「っ……間に合わない!!」
エギル達全員が硬直に入るが、奴のHPバーは僅かだか残っていた。おそらく、あと強力なソードスキルを1発でも入れる事が出来れば倒せるはず……!
「俺に任せろ!奴の弱点を突く!!」
その時、勢いよく走るディアベルが一気にエギル達の間を通り過ぎた。HPバーは完全に回復しており、何らかのソードスキルを発動するつもりらしい。剣が青色に輝き始めており──────
「っ……待て、ディアベル!!止まれ!!」
イルファングの視線がディアベルに向いている────しかし問題はそれだけではない。奴もディアベルに向かってソードスキルを発動するようだが、あの流れは今までの技とは違う。新たに繰り出すソードスキルに間違いない。しかも俺の勘が正しければ、その技は今までのものよりも格段に──────
「グルオオオオッ!!」
「なっ────」
ほんの一瞬だった。イルファングが持つ刀が消えると同時にディアベルから5回も凄まじい光が発生し、また部屋全体に音が鳴り響いた。一体何が、と思ったがそれはすぐに分かる事であった。
「ディア、ベル……」
「……嘘」
キリトとアスナの呟きが重なる。ディアベルの体はいつの間にか空中に浮いており、悲鳴を出す暇もないまま全身が青いガラス片となって消えていった。その姿は俺達だけではなく、遥か後ろにいる奴らにも見えて────
「っ……貴様ぁぁぁああああああっ!!!」
硬直のせいか、それとも呆然としているのか動かないエギル達の間を俺は通り過ぎ、イルファングを睨む。そして右手に持つ曲刀を構え、奴に突っ込んでいく。
右斬り降ろし、左斬り降ろし、右水平斬りと素早く切り刻み、最後に強力な突きを放つ。イルファングの左脇腹を貫くが、それだけでは終わらせずに俺はその巨体を力ずくに押し込む。
「くたばれっ……このクソ犬がぁぁぁああああっ!!!」
俺のステータスに関係なく無理矢理手足を動かしているせいか、HPバーが減少していっている。それでも俺は凄まじい砂煙を背後で起こしながら進んでいき、背中を壁へと叩きつけた瞬間────奴は吠え、刀が床に転がったと同時に盛大に四散していった。
「……はぁっ……はぁっ……」
────レイジング・ チョッパー。俺が現在持つ曲刀スキルの中では、一番威力の高いソードスキルである。しかし強力である分、隙も大きい為に発動する時は限られる。このボス戦で使う時はないと思っていたが……怒りのままに使ってしまっていたとはな。
「っ……これは」
──────You got the Last Attack!!
ディアベルが求めていた紫色のメッセージが、俺の目の前で瞬いていた。
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