就職先の研修期間が長くてあまり時間がとれなかった事が主な原因です。
また、非常に申し訳ありませんが作者は今月から社会に出てしまいます。時間がある時には執筆していますのでこれからもよろしくお願いします。
俺が月夜の黒猫団に入ってから1ヶ月が経った頃、ケイタ達のレベルはかなり上がっていた。最初の時よりも狩り場を何層か上にしているが、上昇する早さはほとんど落ちていない。サチの事に関してはケイタ達に事情を話し、今までと同様に後衛を担当する事になった。と言ってもこのまま前衛をテツオだけに任せるわけではなく、残りの3人から選ぶようだが。
前衛を務めるメンバーが決まり、安定するまでは俺もギルドを抜けるつもりはない。最近は何も問題なく、ケイタ達と過ごせているが……変わった事が1つある。
────コン、コン。
「いいぞ、入っても」
深夜、メンバー全員が眠った頃を見計らってドアを叩く音が聞こえてくる。俺が部屋の中へと入ってくる事を了承すると、すぐにドアがゆっくりとこちらに開いてきた。
「ごめんね、またこんな時間まで起きてもらっちゃってて」
入ってきたのは自分の枕を抱え、申し訳なさそうに謝ってくるサチ。まだ夜は長く、何度目かの訪問とはいえ本来ならば眠っているはずのこの時間帯に尋ねる事には後ろめたさが彼女にはまだあるらしい。
「それは別にいいんだが、そろそろケイタ達から怪しまれるぞ?」
「大丈夫だよ、みんな眠ってるから」
「それはそうだが万が一という事もあるだろ」
ケイタ達からいらぬ疑惑を抱かれないようにとサチに注意するが、そんなのお構い無しばかりと枕をベットの左側に置いた。彼女がここに何をしに来たのか、既に分かると思うが────俺と一緒のベットで眠るつもりでいるのだ。
「でもシンと一緒に寝ているなんて言ったら絶対に馬鹿にされるだろうし、私だけ部屋に入れないようにされるよ」
「だろうな。俺は別に迷惑だとは思ってないが、ケイタ達は当然そう思うだろ」
「だから言いたくないの。シンと一緒なら安心して眠れるようになったのに……」
サチのレベルを上げようと2人だけで出掛けたあの日の事はよく覚えている。サチが心の奥で抱き続けてきた戦闘への恐怖、その辛さを俺やケイタ達が理解してくれなかった事を彼女は泣きながらぶつけてきた。
それからというもの、本心を自分から唯一伝えた相手だからかサチから俺に関わるという事が多くなった。こうして深夜に部屋へ来るようになったのはまだ最近だが、俺が近くにいる事で安心して眠れるからと聞いている。
「……仕方ない、ケイタ達には俺からも黙っておくか。ただバレた時には包み隠さず話さないとな」
「話したらケイタ達、怒るかな……?」
「どうだろうな。その時は俺も付き合うし、そんなに心配するなって」
「うん……ありがとう、シン」
いつものようにベットの左側で枕に頭を埋め、布団に身を包んだサチを確認すると部屋の電気を消す。そして布団の中へと入ると、窓から入る月の明かりで彼女の顔が俺に向けられている事に気付いた。
「……シンはさ、絵本に出てくる王子様みたいだよね」
「何?」
「とても強くて、みんなをいつも守ってくれて……凄く優しくて。そんな人なんて、現実にはいないって思ってた」
そう語るサチの顔はどこか悲しげであった。SAOより前のサチについては知らない為、どうしてそのような顔をするのかは分からない。もしかしたら『そんな人がいてくれたら』と思った事があるのかもしれないが、憶測でしかないな。
「だからこのゲームに囚われて知ったの。そういう人は本当にいるんだって」
「俺は王子なんかじゃないぞ」
「ふふっ……そんなの分かってるよ。でもね、私にとってシンは本当の王子様みたいで────っ!?」
何故かサチはそこから黙り込んでしまった。どうしたと視線を向けてみれば、顔を真っ赤にしている。何か声を掛けようとしたが、その前に反対側を向かれてしまい、布団の中へと潜り込んでしまった。
「お、おい、サチ……大丈夫か?」
「い、今のは忘れて!お願いだから忘れて!!」
「忘れてって……俺は本物の王子様みたいで、か?」
「っっ……!」
顔はこちらに向けていないが、布団の中で『それ!それ!』と言いたげに頭が振られているのが分かった。サチがこのような行動に出た理由は分からないが……ここまで嫌がっているなら、忘れるよう善処しよう。
「分かった、忘れるから布団から出てきてくれないか?」
「む、無理……」
「……何でだ?」
「だ、だってぇ……」
微かに聞こえてくる声を拾い、どうするかと考えたが俺が声を掛け続けても逆効果な気がする。このままサチが落ち着くまで待った方がいいかもしれないが……。
「サチ」
「は、はぃぃっ!?」
「………」
この様子だとしばらくは無理だろうな、絶対に。
次の日、俺とサチは買い物に出掛けた。別にどちらかから誘ったというわけではなく、それぞれから頼まれたアイテムや装備品などを買う為である。全員でジャンケンをした結果、負けた俺達が任されたのだ。
「あとはダッカーから頼まれた物だけか」
「う、うん……そ、そうだね」
昨夜あった事がそんなにも恥ずかしかったのか、サチは俺の隣ではなく僅か後ろを歩いている。それだけではなく、起きた瞬間に俺をベットから蹴り落としてしまったというのもあるのかもしれない。曰く、自分が寝返りを打ったせいか俺との距離が僅か数ミリだったからとか。
「なぁ、サチ」
「なっ、何かな!?」
「朝のことまだ気にしているのか?俺は別に怒ってないぞ。起きたら誰かの顔がすぐ目の前にあった、なんて誰でも驚くだろ」
「それは……そうなのかもしれないけど……」
俺の言っている事は理解できているが、納得できていないって感じだな。何がそうさせてしまっているのかは分からないが……というかなぜ俯いて顔を赤くしている?
「……あっ」
サチが不意に止まり、どうしたと声を掛けようとしてその理由に気付く。雑貨屋らしき店にぶら下がっている耳飾りに釘付けになっているらしい。確かに吸い込まれそうな程に透き通った色をした宝石が使われていて綺麗だが、売り物なのかこれ?そう考えていると店主らしきNPCが動き出した。
「お嬢さん、その耳飾りが気になりますか?」
「は、はい」
「それは絆の耳飾りというアクセサリーです。互いに大切な人同士が付ける事でその絆がより一層強くなると言われています。だからほら、宝石が半分に割れているでしょう?もう片方と合わせる事で1つの形になるんです」
確かによく見てみると、宝石は片割れのように見える。なるほどな、普通は引き裂かれたように見えるが、見方によってはそうとも言えるか。
「ご購入なさいますか」
「えっと……」
「いや、何でそこで俺を見るんだ?」
NPCに尋ねられると、サチはまるで子どもが親の顔色を伺うように覗き込んできた。俺はサチの保護者ではないんだけどな。
「その……どう、かな」
「いいんじゃないか?サチに似合いそうだし」
「……シ、シン……も付け、て……くれな、い?」
「俺?」
サチはまるでボンッという擬音が聞こえそうな程、一瞬にして顔を真っ赤にした。しかし俺に付けてほしいとくるとは思っていなかったな。てっきり付き合いが長いケイタ達の誰かと思ったんだが……サチにとって俺は大切な仲間という事だろうか?俺もそう思っているから付けるのには抵抗はないが。
「う、うん」
「サチがいいなら俺は構わないが」
「!!……こ、これ2つ下さい!」
いつもおっとりしているサチとは思えない程の声と速さで絆の耳飾りを購入する。何がサチをそこまで興奮させるのか分からないが、そんなに欲しかったのか?
「シ、シンは右に付けてくれる?私は左に付けるから」
「ああ、並ぶと宝石が合わさるもんな」
付けると言っても受け取った耳飾りをアイテム欄から選択して向きを決めればいいだけだが。耳飾りと聞くと耳に穴を作る事を想像するが、そんな感じではないみたいだな。なんか耳にくっついてるだけみたいだ。
「シン、ありがと。その、私の我が儘に付き合ってもらっちゃって……」
雑貨屋から離れた辺りでサチが少し申し訳なさそうにお礼を告げてきた。もしかしたらさっきまでは勢いだけで話していたのかもしれない。それならサチが興奮気味だった事にも納得がいく。
「まぁ、俺にとってもサチは大切な仲間だしな。こういった目に見える証があるのは嬉しいもんだ」
「そ、そう?なら良かった……」
そう言って笑みを浮かべるサチがいるのは俺の後ろではなく────隣であった。
帰宅後────
サチ「ただいまー」
シン「頼まれたもん買ってきたぞ」
ケイタ「お疲れ。2人共、ありがとう」
ダッカー「ん?シンもサチもその耳飾り、どうしたんだ?」
サチ「え、えっと……偶然見つけて、シンにも付けてもらったんだ」
ササマル「あれ、それってもしかして絆の耳飾り?」
シン「ああ」
テツオ「前にササマルと聞いた事があるけど……それって『互いに大切な人同士』が付けるって知ってる?」
サチ「うん。NPCの店主から聞いたよ?」
テツオ「……アイテム名で仲間同士って勘違いする人が多いみたいだけど、恋人とか夫婦が付けるんだってさ」
シン「そうなのか?サチ、どうす────」
サチ「…………」プシュ〜
シン「……サチ?」
シン・サチ以外(頭がオーバーヒートしたか……)
会話だけを書くのも面白いですね。