「なぁ、親父」
「ん?」
「親父って昔、チョコどのくらい貰ってた?」
2月14日の朝、俺は朝食を親父と共に食べつつ、そう問いかけた。なぜ突然そのような質問をしたのかと聞かれれば、現在テレビで放送されているニュースの内容がバレンタインの特集をやっているからだ。現地に赴いたスタッフが女子生徒に『今日あげる人はいるんですか?』とか『彼氏に渡すつもりです!』等と言っている女子生徒がいる────が、その時に気になった事は男が渡されるチョコの数である。
「んー……まぁ、義理を含めれば毎回7個位は貰ってたな」
「その数って多いのか?」
「多い方だろ。中には0個って奴もいるからな。つってもホワイトデーに返さなきゃいけないし、あんまり沢山貰ってもな」
「……そうか」
7個は多いのか……確かSAOに囚われる前────つまり中学校に通っていた時は、和美や直葉を含めて15個位は貰っていたな。あの時は義理だったとはいえ、嬉しかったな。ホワイトデーに手作りチョコや菓子を返すのはなかなかに大変だったが……。
「ところで真一、今年は何個貰ってくるんだ?」
「いや、必ずしも貰えるとは限らないだろ」
「だってあのゲームの中で色んな女の子と仲良くなったんだろ?絶対に貰えるって」
SAOで仲良くなった女の子……キリトはともかく、明日奈に珪子、里香にそれから
「そこまで言うならまぁ、期待はしておく」
「期待なんてレベルじゃないと思うが……とりあいずこれ持っとけ」
そう言って親父が渡してきたのはさっきからずっと横に置いてあった紙袋。何に使うんだろうなと思っていたが、俺に渡す為だったのか。
「これを何に使えと?」
「いつも鞄に入らない程貰ってくるだろ?入らなかったチョコはそこに入れとけ」
「いや、流石にそれは────」
「前回みたいに迎えを頼まれるのは御免なんだよ」
そういえばそんな事もあったような……鞄にも入らなくなって、両手に抱えても落ちそうだったから親父を呼んだんだっけか。
「分かったよ、一応持っていくから」
「ああ、そうしろ。言っとくが、あの時は車の中にチョコの匂いが染み付いて大変だったんだからな?俺がどれだけ苦労したと思ってる?どうして10個も20個もチョコを貰ってきたんだよ、お前は……」
「分かったって、悪かったよ」
親父からのしつこい文句から逃げようと俺は紙袋を鞄の中に入れ、とっとと家から出た。しかしな、親父……せっかく作ってきてくれたチョコを受け取らないわけにはいかないし、捨てるわけにもいかないだろ。その結果、俺は毎日チョコを食べる事になったり、体調不良になったりするんだが……。
「あっ、真一!おはよう!!」
「ああ、おはよう」
脇道から現れた俺に気付いた和美は近寄ってくると、屈託のない笑顔を向けてきてくれた。そしてそのまま俺の隣に並び、一緒に学校へと歩き出す。
SAOからの生還者の内、学生であった人達が通っている学校────政府直属帰還者専用学校。2年間通うだけで本来ならば取得するのに3年かかる高卒の資格を貰える。そういった特別な措置が設けられている他、教師達もやる気に満ちた人達ばかりで、生徒に対して真っ正面から向き合ってくれている学校だ。
「ねぇ、真一。今日は何の日か知ってる?」
「バレンタインだろ」
「そう!だからね────はい、これっ!」
和美は鞄の中から取り出した物を俺に渡してきた。それはピンク色のリボンに彩られ、赤色の包装紙に包まれたハートの形をした箱である。
「バレンタインのチョコレート!直葉と一緒に作ったんだ!!この前より色々と凝ってみたから期待していてね!」
「そうか、分かった。ありがとな、和美。……でもいいのか?」
「何が?」
「こういう形は義理に使うんじゃなく、本命の奴に使った方がいいんじゃないか?」
俺がそう言うと、和美は唖然とした後に深い溜め息をついた。おい、せっかくアドバイスしてあげたのに、何故そんな反応をとる?
「そうだよね……真一はこういった事には疎いって事を忘れてたよ……」
「こういった事?」
「ううん、何でもないよ……真一に使うのは初めからそれって決めてたからいいんだよ!」
「そうなのか?……分かった、それならこれは昼食の時にでも頂くかな」
暖房がかかっている部屋ならまずいが、荷物を置いておく部屋は寒い。あの気温でチョコが溶けるとは思えないし、昼食までその部屋に置いといても大丈夫なはずだ。
「うん、食べ終わったら感想ちょうだいね!それと直葉も真一に作ったんだけど、学校が違うからどうしようかって悩んでたんだけど……」
「なら学校が終わったら行こうか?冬だから直葉も部活が終わるのは早いだろ」
「ホント!?それなら直葉も喜ぶよ!私から連絡しとくね!」
別に和美に預けても良かったんじゃないかと思うが、直葉も自分で作った物は自分の手で渡したいんだろう。先輩ならばその気持ちを考え、しっかりと応えてやらなければ。
学校の正門を潜り抜け、昇降口で上履きに履き替えようと自分の靴箱を開けると──────
ドサァッ!
「…………」
「うわっ、今年もまた入ってるんだ」
四角や丸など色んな形をした箱が6個程落ちてきた。どれも可愛らしい装飾が施されており、箱と一緒に手紙が貼り付けられているのもある。
「……俺の上履き、潰されているんだが」
「まぁ、これだけ入っていればねー」
俺は溜め息を吐きつつ、箱を拾い集める。靴箱に入れて渡すなど一体いつの時代のやり方だ。今時こんな風に渡す奴はいないと思う。……いや、ここに入れた人達がいたか。
「この分だと机の上にも結構積んであるんじゃないかな?」
「ありえるな、これは……」
とりあいずまだ紙袋は使わず、大半は鞄の中に詰め込んで入らなかった分は両手に持った。教室に着いたら整理しようと思い、和美と共に階段に向かおうとすると背後から声が掛けられた。
「シンさ……真一さん、和美さん!おはようございます!!」
後ろを振り向くとこちらに向かってきていたのはSAOではシリカと名乗っていた小柄な少女、綾野珪子であった。自分の姿を捉えてもらおうと思っているのか、右手を振りながら走ってきている。
「おう、おはよう」
「おはよっ、珪子ちゃん」
俺達がいる場所に辿り着いた珪子にこちらからも挨拶する。和美は2歳しか年が離れていないが、妹である直葉とは違って後輩であるからかちゃん付けをしている。
「えっと……真一さん、その手に持ってるのは?」
「靴箱に入っていたんだ。鞄の中にもいくつかある」
「毎年こんな感じだから、私としては珍しい事じゃないんだけどね」
「そ、そうなんですか……」
やっぱり真一さんってモテてるんだなぁ……という呟きが聞こえてくるが、どれもこれも義理なんだからそれは違うと思う。珪子の勘違いを直したい所だが、そのよりも先に本人から声が掛けられた。
「あ、あの、真一さん」
「ん?」
「え、えっと……こ、これを受け取ってくだしゃい!」
あ、噛んだと俺が思ったと同時に顔を真っ赤にした珪子から今までの物よりも小さめな箱が差し出された。ラッピングしている水色のリボンはピナを意識したんだろうか?
「う、ぁ……」
「ありがとな、珪子。嬉しいよ」
「は、ふぁい……あ、ああ、後で味の感想を、聞かせてくだしゃいね!」
頭を撫でながらまた噛んだなと思うと、珪子は俺と和美の間を通り抜けて階段を登っていってしまった。あんなに急ぐと転ぶんじゃないかと心配したが、そんな事はなく一安心した。
「珪子ちゃん、ずっと噛んでたね……」
「だな。まぁ、和美も初めはあんな感じだったけどな」
「うっ……それはそうだけど」
和美から初めてチョコを貰った時の事を思い出しつつ、俺達も階段を登っていった。
「……よし、これで全部か」
受け取ったチョコや置いてあったチョコを紙袋の中に入れ、俺はその数を確認した。結局、机の上にはいくつかのチョコが置かれており、また何人かからは手渡しされた事により既に二桁目に突入している。
しかし机の上に置かれていたのはチョコだけではなく、一番下に1枚の紙を見つけた。誰からだろうと思ったが、文字を見てすぐに分かった。その内容は『昼休みになったら屋上に来てほしい』とのことである。
「ちょっ、真一……そのチョコの山はどうしたのよ?」
「か、紙袋に一杯って絶対に一桁は越えてるよね……」
「どうしたもこうも貰ったとしか言いようがないんだが」
SAOで鍛冶屋を営み、アスナの紹介や和美がやらかした件などもあって知り合ったリズこと篠崎里香。
そして圧倒的な強さと見た目の美しさから有名人となったアスナこと結城明日奈。
SAO攻略に間接的・直接的に関与した彼女達と俺はクラス が同じである。そして学校で一番多く話しているのもおそらくこの2人だろう。席の位置からして明日奈の方が幾分か多いと思うが。
「貰ったって言ってもこの数は多過ぎでしょ……」
「うん。里香の言う通りだと思うよ、真一君」
「そう言われてもな……別に俺は意図的に集めているわけじゃないし」
もしそうなら俺はどれだけチョコに飢えてるんだと自分に言いたい。チョコは人並に好きなだけで、本当なら貰う数も少しでいいんだけどな。
「当たり前でしょ、真一がそんな事するなんてありえないし」
「でも本当にそんな事してたら怒るからね?」
「お、おう……」
冗談で言ったつもりだったが、もしも俺がそのような行動に出れば間違いなく明日奈と里香の怒りを爆発させる事になる。それが確信できる程の殺気が2人からは感じられる。
「……さて。それじゃそろそろ本題に入ろっか、明日奈」
「え、ええっ!?も、もう?」
「本題?」
何だ、ただこの紙袋が目に入ったから話しかけてきたわけじゃないのか。出来れば早めに終わってほしいな、チョコが溶けてしまう。
「もうって、まだ覚悟できてなかったの?」
「だ、だってぇ……そう言う里香は出来てるの!?」
「わ、私は当然……だ、大丈夫よ」
覚悟だと?何か重大な事を話すつもりでいるのか?……いや、今日はバレンタインだ。もしかしてだが────
「そ、それじゃいっせーのでいくわよ?」
「う、うん……分かったよ、里香……!」
「「すぅ……いっせーの!!」」
ジャンッという効果音が付きそうな感じに2人が小さな箱と袋を差し出してきた。明日奈の方は和美と同じようなハートの形をしており、里香が差し出してきた袋の中にはクッキーが入っている。
「し、真一君。その、これ……ハッピーバレンタイン!」
「わ、私も……その、失敗して少し焦げちゃってるけど」
袋は模様が描かれているが、透明な為に中身がよく見える。確かにクッキーの端や中心などが少し焦げてしまっており、見映えが良いとは必ずしも言えない。
「で、でも真一君!里香も頑張ったんだよ?何度も作り直したんだけどうまくいかなくて……だ、だからその中から私と一緒にうまく出来ていたのを選んで────」
「里香」
「っ……!」
俺は受け取った箱と袋を机の上に置き、立ち上がった。里香よりも俺の方が身長が高い為に見下ろす形になってしまい、それ故に里香は怒られると思ったのか顔を伏せてしまった。
「ありがとな」
「……えっ」
「一生懸命作ってくれたんだろ?明日奈から聞かなくてもその手を見れば分かるさ」
里香の両手には絆創膏がいくつか貼られているが、傷や火傷が所々に見える。どれも酷いものではないが、その数がどれだけ努力したのかを物語っている。
「だ、だってどうしても手作りを────」
「でもその努力は本命の奴に回した方がいいと思うけどな」
「…………」
ん?おかしいな、何で里香に唖然とした表情をされているんだ俺は。さらには明日奈から呆れたような目で見られているが、理由がまったく分からない。もしかして気付かない内に何かまずい言葉を言っていたのか……?
「お、おい……どうしたんだよ?」
「別に……真一はそういう人だって事を思い出していただけよ」
「うん……真一君が私達の気持ちに気付くのは一体いつなんだろうね……」
「その気持ちが何なのか分からないんだが……ところで明日奈、里香。チョコをくれた事は嬉しいが、
教室でバレンタインのチョコや菓子を渡す事により何が起こるのかと聞かれれば、まず第一にあんな大声を出せば注目されるのは間違いない。そして義理だとしても、その事を周囲の人々は知らない。勘違いにより間違った噂が広まってしまうのは、仕方のない事なのだ。
「ゆ、結城さんのバレンタインチョコだと……!?」
「ねぇねぇ、絶対にあの2人って暁君のこと本命だよね?」
「篠崎さんの手作りクッキー……た、 食べてみたい」
「暁がどっちかと付き合ってるって噂を聞いた事があるような……」
「ハートの形をしてるなんて、もう愛情たっぷりじゃん!」
「相手の為に諦めずに頑張って作るなんて……里香って結構人に尽くすタイプなのかしら?暁君と付き合うようになったらいい関係を築けると思うなぁ」
「真一君と明日奈さんって付き合ってるんじゃないの?」
「何言ってるの、里香さんとでしょ」
みんなして教室の隅に集まり、こちらに視線だけを向けながら話し合っている。ヒソヒソと喋っているつもりなんだろうが、全部聞こえている。しかもありもしない事ばかりであり、明日奈と里香に失礼────と思いきや、何故か2人は顔を真っ赤にして今にも顔が熱で爆発しそうな勢いだった。
「た、たた、確かにチョコ作ってる時に……あ、愛情は込めてたけど……で、でで、でもし、真一君とはまだそんな関係じゃ……あぅぅ……」
「し、真一と、つ、つつ、付き合う?な、なに言ってるの私?で、でも真一はう、受け取ってくれたし、もしかして本当に……えへっ、えへへへ」
明日奈は顔を両手で隠すが耳までも真っ赤に染めているのが見え、里香は顔を見る事は出来ないが何やら笑いが止まらなくなっている。声を掛けようにもなんと掛けたらいいのか分からず、というか里香に至っては不気味過ぎて掛ける気になれない。
……この状況、一体どうすればいいんだ?
────と、色々あった朝が終わってからもチョコを何度か渡される事はあった。おかげで数が新記録に差し掛かってきている。どうにか食べて少なくしたい所だが、
「隣の教室なんだから屋上で会う必要はないと思うんだけどな」
まぁ、もしかしたら他の人には聞かれたくない話なのかもしれない。この寒い時期に屋上にわざわざ出る人はいないし、そういった事ならばうってつけの場所だな。
「あっ……真一!」
「ん、千佳?」
名前を呼ばれ、後ろを振り向くと走ってきていたのは小柄な黒髪の少女。SAOではサチと名乗っていたプレイヤー、
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?そんなに急いで、何かあったのか?」
「はぁ……ふぅ。えっと、真一に会おうと教室に行ったら屋上に向かったって聞いて……だから急いで追い掛けてきたの」
ああ、そういえば教室を出る時にクラスの1人からどこに行くのか尋ねられたな。わざわざ教えたのは正解だったか。
「悪かったな」
「ううん、真一にも予定があるんだからしょうがないよ」
「そうか。しかし何で俺の所に?」
「真一、今日が何の日か知ってる?」
「バレンタインだろ?」
ん?なんか朝もこんなやり取りを和美としたな。もしかしてあれか、これがデジャブって言うのか。
「うん、分かってなかったらどうしようかなって思ってたけど大丈夫みたいだね。……えっとね、その……これ、受け取ってくれるかな?」
千佳が背中に回していた手には今までの物と比べると、あまり派手ではない装飾がされた箱であった。その箱を千佳は両手で持ち、俺に差し出してくる。頬は紅く染まっており、恥ずかしさを堪えた行動である事は明白であった。
「当たり前だろ。ありがたく受け取るよ」
「本当!?良かった〜、真一だからきっと大丈夫って思ってたんだけど、やっぱり心配で……」
俺が箱を受け取ると千佳は両手を胸に当て、今までの不安や緊張を全て吐き出すように息をついていた。しかし俺が受け取ったにも関わらず顔にはまだどこか不安が残っているようだった。
「その、うまく作れてると思うんだけどちょっと不安で……だから食べ終わった後に味の感想とか聞きたいなって……」
「ああ、分かった。必ず伝えるよ」
「うん!それじゃあ私はそろそろ行くね?チョコ、溶けない内に食べてよ!」
嬉しそうに笑った千佳は最後にそう伝え、来た道を戻っていった。さて、またチョコを貰ってしまったな。流石にこれ以上は……と思いたくなるが、作ってきてくれた物を粗末に扱う事など出来るはずもない。相手が友人ならば尚更だ。
……また食べ過ぎで倒れなきゃいいんだけどな。
「よっ、と」
千佳から貰ったチョコをポケットに入れ、屋上へと向かった俺は扉を開けた先にある段差を飛び越え、屋上に辿り着いた。
あいつはどこにいるのかと思い、辺りを見渡すと────
「遅いゾ、シー坊。オネーサンを待たせるなんて、悪い奴ダナ」
「……年齢は変わらないだろ」
背後から囁かれる言葉に俺は溜め息を吐きつつ、俺は後ろを向いた。そこにはSAOで情報屋として活動し、『鼠』と呼ばれる事も多かった少女────アルゴこと
SAOでは自分の髪と髭のペイントしか弄っていないと思っていたが、実際はそれ以外も多少変えていたらしい。その為、外見だけでは叶花がアルゴだと分かる奴はいない。喋れば分かってしまうが。
「ていうかまた口調が変わってるぞ?」
「あー……ずっとこの喋り方をしていたからナ、癖がなかなか抜けないんだヨ。……じゃなくて、抜けないのよ」
アルゴの時の独特な喋り方は自分の事を相手に深く印象に残せるようにと作ったものらしい。その為、本来の喋り方ではないのだがあの長い期間によって定着してしまったようだ。
「まぁ、俺も違和感を感じるからそのままでもいいけどな」
「その事はみんなから言われてるヨ。でも流石に現実でもあの喋り方だと色々と不都合があるん……のよ」
「そうなのか?」
「現実で目上の人に対して使ったらどうなると思う?怒られるに決まってるじゃないカ……あっ」
……そういえばSAOでアルゴは明らかに自分より年齢の高い相手にも喋り方を変えていなかったな。確かにゲーム内では性別や年齢、地位も関係ないからいいが、流石に現実ではそうはいかないか。
「それで?あんな面倒な方法で俺を屋上に呼びつけた理由は何だ?」
「ふふっ、それはね……これを渡す為だヨ!……また戻っちゃった……」
肝心な時に口調が戻ってしまい、項垂れる叶花。差し出されたのは黄色くラッピングされた箱であり、表側には『大丈夫。アルゴからのバレンタインチョコだよ』とかつてどこかで見たような文章が一部を変えて書かれていた。
「あ、ありがとなアルゴ。わざわざ作ってくれたのか?」
「それが……その、ね……」
「ん?」
「初めは作って渡すつもりだったのよ。でも私って料理が下手で……何度作ってもうまく出来なかったんダ。だからそれ、中身は……し、市販品なんだヨ……」
市販品……つまり自分で作ったのではなく、既に作られている物を買ってきたという事か。しかし今まで貰ってきた中には市販品のチョコだった時もある。その人達も料理が苦手だったりと叶花と同じ理由であった。
「市販品でも、叶花が選んでくれたんだろ?」
「あ、あア」
「確かに手作りの方が喜ぶ奴もいるだろうが、1番大事なのは相手に対する気持ちだろ?」
料理が苦手だとしてもそれならそれで違う方法をとればいいのだ。『市販品だから気持ちが込められていない』『手を抜いている』等とは思わない。気持ちを伝えたい事に変わりはないんだからな。
「確かに……そうだナ!ウジウジ悩んでいたオイラがバカみたいダ!」
「叶花の気持ちは俺にちゃんと伝わっているからな、安心しろ。……それと口調が戻りっぱなしだぞ?」
「……あっ」
「重い……」
放課後、俺はチョコが一杯入った紙袋を持ちながら下駄箱へと向かっている。昼休みにいくつかは食べたがほとんど減ったような感じがしない。
「しばらくは毎日チョコを食べる事になるな……」
別に毎年の事だからいいんだが、それでも毎日食べ続けるのはなかなかにキツい。里香のようにクッキーなどをくれる人がいる事が唯一の救いである。
「あっ……し、真一?」
「ん?琴音、お前も今帰りか」
下駄箱に着くと、靴に履き替えようとしている琴音の姿を見つけた。竹宮琴音────SAOではフィリアという名で活動し、共にあのデスゲームを生き延びた仲間の1人である。
「か、帰ったんじゃなかったの?」
「いや、まだ帰ってないが……」
「でも教室に行ってもいなかったし……」
「ああ、ちょっとこれを取りに行ってたんだよ」
俺はそう言って手に持っている紙袋を見せる。琴音は初めはそれが何なのか分かっていなかったが、中身を見せた瞬間に唖然とした表情で固まってしまった。
「え、えっと……し、真一って今日こんなに貰ってたんだ……」
「毎年こんな感じだけどな」
「そ、そうなんだ……あーあ、これならずっと考えてた私がバカみたいじゃない」
考えてた?一体何を、と聞く前に琴音は床に置いた鞄の中から丸型の箱を取り出して俺に差し出してきた。ラッピングに使われている包装紙には大小様々な星が描かれており、とても可愛らしい物である。
「チョコじゃ普通すぎるかなって思って、ビスケットを作ってみたんだ。真一の口に合えばいいんだけど……受け取ってくれるかな?」
「受け取るに決まってるだろ。ありがとな、琴音」
琴音から箱を受け取ろうと手に取ったが、いつまで経っても琴音が箱を手離す気配がない。どうしたんだろうかと思い、琴音の顔を見てみると何か言いたげな表情をしていた。
「どうした?」
「えっ?あっ、えっと……その、真一はさ、私からバレンタインのプレゼント貰えて嬉しい?」
「ああ、嬉しいよ。当然だろ?」
「そっか……良かった〜」
箱から手を離し、安堵の笑みを浮かべる琴音。そして鞄を持つと腰の方に回し、俺の顔を上目遣いのように覗いてきた。
「ねぇ、途中まで一緒に帰らない?」
「ん?まぁ、いいが」
「やった!じゃあ、いこっ!」
「ちょっ、待てって。まだ俺は靴に履き替えてないんだって」
俺の腕を掴み、外に出ようとする琴音を止める。しかしそんな俺の言葉を聞かず、琴音は満面の笑みのまま腕を引っ張るのであった──────
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
さて、どうしてタイトルにIFストーリーと付けたのかと言いますと、この話が『本編→今回の話』には繋がらないからです。
繋げるには今回したネタバレよりもさらに倍のネタバレをしないといけない為、必要最低限の所だけ執筆したという感じです。
また、現実世界での呼び名がプレイヤー名ではなく本名だったり、アルゴの本来の喋り方は試用です。これらに関しては読者がどのように感じたのか知りたい為、活動報告でアンケートをとっています。