ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第30話 妹とサチとそれから

明日、迷いの森に行くという事やシリカからゆっくり話がしたいという要望もあって、今夜は俺も宿屋『風見鶏亭』に泊まる事にした。他のメンバー達もこの宿を利用しているらしいが、今はどこかに出掛けているらしく姿が見えない。

 

「ここのチーズケーキ、結構いけるんですよ!あたしもピナも大好きなんです!」

「へぇ、そいつは楽しみだな」

 

互いに部屋でくつろいだ後、シリカに誘われて俺は1階のレストランへと向かった。カウンター上のメニューからシリカが勧める料理を一通り頼み、空いている席の1つに座る。反対側にシリカが座ると、ピナがテーブルの上へと降り立った。

 

「きゅるるるっ」

「ピナ、そこだとシンさんの邪魔になっちゃうよ」

「別にいいぞ。料理が来た時にどいてくれれば、なっ?」

 

ピナの顎の下を軽くくすぐると、気持ち良さそうに目を細める。主人以外のプレイヤーには懐かないとされている使い魔であるが、何故かピナはシリカ以外だと俺には懐いてるんだよな。これも本来の使い魔とは異なる行動パターンだ。

 

「確かピナの名前は飼ってる猫の名前から取ったんだっけか?」

「はい。とっても可愛くて寝る時なんか、いつもあたしのベットの上にいるんですよ」

 

そういえば……前にシリカとレベル上げ中に休憩した時、仮眠をとっていたらいつの間にかピナが腹の上に乗っていたな。シリカもすぐ隣で眠っていたから両者とも俺につられたんだろうが、それを考えるとこっちのピナはどこか猫っぽいのか?

 

「シンさんは何か飼ってたりするんですか?」

「いや、俺は特に…ああ、でも」

「でも?」

「犬を飼ってやるって……()()()と約束しているな」

 

今より数年前──────俺がまだ小学生だった頃、隣の家には『年の離れた幼馴染み』、または『妹みたいな存在』が住んでいた。今はある理由により引っ越しをしてしまったが、それでも電話や遊びに行ったり来たりで繋がりが途絶えたわけではない。

SAOが発売するより少し前のある日、俺は電話である事を約束したのだ。

 

 

 

『────えっ?犬を飼う?真にぃの家で!?』

『と言ってもまだ道場の方が色々と立て込んでるから今すぐというわけではないけどな』

『あっ、そうなんだ……でも飼えるようになったら、真にぃの家に行けばいつでも遊べるんだよね!?やったー!』

『やっぱり嬉しいか』

『当たり前だよ!だってボク、大好きだもん!パパとママが犬アレルギーだから飼うのは無理だったけど……ねぇ、どうして犬を飼う事になったの?』

『……実は親父も犬好きなんだ。前は飼う金なんてなかったが、今はそれ位の余裕はあるからな』

『そうなんだ!いいなぁ……あっ、買えるようになったら電話してよ!ボクも色々と相談してあげるから!』

 

 

 

あの時、俺が話した飼う理由は嘘だ。いや、親父が犬好きなのは本当だが提案したのは俺なのだ。その目的はあいつを喜ばせること。誕生日にはいつもプレゼントを渡しているが、あの年は生活が特に厳しかった為に大した物はあげられなかった。故にクリスマスまでには道場を落ち着かせ、サプライズ的な感覚で犬と会わせてあげようと思ったんだが……俺がこのゲームに囚われたせいでどうなったかは何も分からない。

 

「とても仲良しなんですね、その人と」

「まぁ、他人から見たら本当の兄妹みたいって言われてたしな」

 

あいつは俺を兄のように慕っていたし、俺も妹のように可愛がっていた。家に泊まれば風呂やベットに飛び込んでくる事なんてしょっちゅうあったし、あいつが困っていれば俺はいつでも力になってあげていた。

どんな時も、どんな状況だろうと……俺はあいつを見捨てる事など一切しなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、部屋に戻った俺は事前に話をする為に部屋を訪ねると伝えていたシリカを迎え、この前別れてから今までどう過ごしてきたかを話し合った。そして明日挑む迷いの森についての話へと変わってからすぐの事だった。

 

「そういえば……シンさんは前にも迷いの森に行った事があるって言ってましたよね?」

「ああ、ちょっとしたクエストに参加していたんだ」

「クエスト?」

「……こいつを手に入れたかったんだ」

 

俺はストレージに置いているとあるアイテムをシリカの前に実体化させた。それは卵と同じ位の大きさの七色に輝く宝石である。

 

「綺麗……何ですか、これ?」

「還魂の聖晶石……背教者ニコラスを倒して手に入れたアイテムだ」

「背教者……ニコラス……?えっ、もしかしてあのクリスマスの時のボスですか!?」

「ああ、そいつで間違ってない」

 

名前を出し、思い出すのはあの不気味な姿だ。服装はサンタと同じだというのに、あれはただサンタを模した怪物である。ソロでは流石に危険と判断し、キリトやアスナ達と協力して戦ったものの、結果は誰もがHPの残りがギリギリで勝てたというものだった。

 

「こいつはな……噂では死んだプレイヤーを生き返らせる事が出来るって言われてたんだ。だが実際は死んでから10秒間以内に使わないと駄目でな」

「誰か……生き返らせたい人がいたんですか?」

「……前に俺は月夜の黒猫団ってギルドに所属していたんだ」

「少人数でありながら中層よりも上の方で活躍している、あの?」

 

俺が抜けた後、3人だけでギルドとしてやっていくのは難しかったはすだ。しかし俺から教えて貰った事などを活かし、攻略組にはまだ追い付かずともそれなりに目立った戦績を残しているらしい。

 

「既に攻略されてる迷宮区の罠をメンバーの内、2人が発動させてしまってな。自業自得だったのかもしれないが……俺はその2人を助ける事が出来なかったんだ。それで俺はギルドを抜ける事になってな」

「そんな事が……でも、それは……」

「分かってる。俺だけが責任を背負う必要なんてない、あの2人にも非があったって……でも責任を感じずにはいられないんだ」

 

俺は攻略組の1人として、あいつらの誰よりも先に立っていた。だから守らなければならなかった。あの時、危険だからとどうやってでも止めなければならなかったんだ。

 

「シンさんは……その2人を助けられなかった事をずっと悔やんでいるんですね……」

「サチと似たような事を言うんだな」

「えっ?」

 

俺の唐突な言葉にシリカは困惑した様子だった。それもそうか、突然名前も知らない誰かに似ていると言われたら動揺するのも無理ないか。

 

「月夜の黒猫団のメンバーでな、サチだけは俺を責めずに守ろうとしてくれたんだ」

「サチさん……ですか。ギルドを抜けたって事は、その人とももう……?」

「いや、サチだけとはメッセージでやり取りをしてるんだ。たまに会ったりもしてるしな」

 

ケイタやダッカーには秘密にしているようだが、それもいつまで隠し続けられるか。もしかしたら既にバレてるかもしれないし、俺と会っていないか問いただされているかもしれない。わざわざ無理に会う必要もないと思うが、断れば悲しむだろうしな。

 

「話を戻すが還魂の聖晶石で2人の内、1人を生き返らせる事が出来ればと思って挑んだが……結局は無駄骨だったというわけさ」

「……じゃあ、どうしてまだそれを……?」

「同じ事は繰り返さない為だ。こいつで救える命があったら……俺は迷う事なく使う」

 

たった10秒なのだ、使う事を躊躇っていれば救える命も救えなくなる。だがそれ故に使用には慎重にならないといけない。こいつで誰かの命を救うという事は、他の奴が死んでも救えないという事だ。

その『他の奴』が……キリトやアスナ、シリカやアルゴだったら────俺は使った後に後悔をしないと言えるのか?

 

「シンさん?ど、どうしたんですか?急に黙っちゃって……」

「……悪い、少し考え事をしてた。シリカ、そろそろ部屋に戻ったらどうだ?明日は疲れるだろうし、話の続きはまた違う日にしよう」

「そうですね……分かりました、今日はもう休みます。シンさん、明日はよろしくお願いしますね!」

「ああ、こっちこそよろしくな」

 

シリカは俺と軽く握手した後、部屋を出ていった。シリカにああ言った本人が休まないのもおかしな話だろうし、俺もそろそろ寝ようとした所でメッセージが届いた。

 

「メッセージ……こんな時間にか。送り主は……キリト?」

 

メッセージを開き、俺は書かれている内容を読んだ。最後まで読み終え──────納得がいった。

 

「……なるほどな」

 

だったら明日、俺がするべき事は1つか。




妹の登場はまだ先です。とりあいずまずはアインクラッドを攻略しないと。
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