ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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お久し振りです、仕事が忙しくてなかなか執筆に手が回りませんでした……。

今回から新章、開始です!


第4章 運命の変革
第35話 殺人ギルドとの邂逅


2024年──────第33層・サブダンジョン

 

 

 

 

 

私がこの階層を訪れたのは些細な理由なんだ。レアアイテムをドロップするモンスターがこのサブダンジョン現れたという情報を耳にし、他のプレイヤー達とパーティを組んで挑んだ。

しかしここには様々なトラップが仕掛けられており、メンバー達は次々にトラップに掛かっていってしまった。私も気付いた時には既に遅く、転移罠(テレポーター)で別の場所へと飛ばされてしまったんだ。

その結果────────

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

今、私の前にいるのは目的のモンスターではなく、この階層で一番強いモンスター──────見た目は直立した豚だが、力が強いだけでなく動きも速い。さらには武器の棍棒はたった一撃でも私のHPを大きく減らす程の威力。逃げようにも私が飛ばされたのは不幸にもクリスタル無効エリアだった。

しかし私のレベルでも倒せない程ではない。ただ唯一の問題は──────焦ってるせいで周りが見えていない事だった。

 

「っ!しまっ────」

 

いつの間にか後ろに回り込まれていたモンスターから攻撃を受け、私は吹き飛ばされてしまった。手にしていた片手剣は遠くに落ち、HPバーも全体の1割しか残っていない。

やられる……?──────そう思ったと同時に、すぐ目の前までモンスターが迫ってきていた。

 

「あっ……」

 

振り上げられる棍棒を防ぐ手段は今の私にはない。かわそうにも今から動いたのでは到底間に合わない。

ならば私はどうなるか……それを理解した途端、脳裏に浮かんだのは『死』という文字だった。

 

嫌だ……嫌だ嫌だ!やめて……こんな……死にたくない……死にたくないっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────ズゾンッ!!!

 

「…………えっ?」

 

背後から忍び寄っていた何者かにモンスターは斬り殺された。他のモンスター達も気だるそうな男や無邪気に笑う少年から次々に攻撃を受けていき、倒されていく。

そして気付けば私は突然現れたプレイヤー達に助けられていた。同じギルドに所属しているのか膝上まである黒いポンチョを全員が羽織っている。一体どこのギルドなのかと考えていると、全員が私に視線を向けてきた。

 

「あっ……え、えっと、あ、ありがとう。助けてくれて……」

「くくっ……どうだろうなぁ、まだ助かっちゃいないかもだぜ?」

「えっ?」

 

ニヤニヤと笑う気だるそうな男は私に顔を近付け、そう言ってきた。どういう事なのかと聞きたかったが、男はこちらへと歩いてくる人物に気が付くとそちらを向いてしまった。

 

「リーダー、どうします?」

「…………」

 

リーダーと呼ばれた相手は他のメンバーと違い、フードを深く被っているせいで顔がほとんど見えていない。しかしそれでも……他のプレイヤーとはどこか違う、異様な雰囲気を晒け出していた。

 

「……ッ!?」

 

そのプレイヤーの右手の甲にはタトゥーが刻まれていた。笑みを浮かべた顔と剣、手の骨を組み合わせたそのタトゥーは私だけでなく、多くのプレイヤー達が一度は見た事があるだろう。

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)、通称ラフコフ──────PoH(プー)というプレイヤーが今年の元旦に結成を宣言した他に類を見ない、最悪の殺人ギルド(レッドギルド)。ゲームオーバーが現実の死に繋がるSAOで平然とプレイヤーを殺すこの集団は、あの攻略組でさえ迂闊に手を出せない程に危険な存在だ。それがどうしてここに……!?

 

「こいつ、()()()()()()の仲間ですかね?そうすると所持品はあまり期待できませんが」

「あはっ!そんなのどうだっていいよ!」

 

笑みを浮かべた少年は片手にナイフを握り、私の髪を掴むと強引に顔を自分に近付けた。その表情はまるで新しいおもちゃを見つけた子供でしかない。こんな小さな子もラフコフにいるなんて……。

 

「今度は僕の番だよね?じゃあ……殺しちゃってもいいよね」

「ひっ……!?」

 

しかし今はそれを心配している場合ではない。モンスターには殺されずに済んだものの、このままでは間違いなくこの人達に殺される。

それにあの気だるそうな男の言葉からして、私が組んでいたパーティメンバーはもう……。

 

「待て。確か欠員が出てたな」

「欠員……?ああ、街への潜入員ですか。確かに逃げ出そうとした奴を消しましたね」

「えー!?それじゃこいつ、殺っちゃわないの?」

「俺達オレンジじゃろくすっぽ街への買い出しすらできねぇし、そういう手駒も必要なんよ」

 

初めは何を言っているのか……分からなかった。欠員?潜入員?手駒?彼らが今、何を求めていてそして────それを解決するには私が必要だと理解するのに大分時間がかかっていた。

 

「選びな。ここで死ぬか、俺達と生きるか」

「ッ……!」

 

目の前に出現していたのはギルド加入への申請だった。その相手は──────PoH。リーダーと呼ばれている事や異様な雰囲気から只者ではないと思っていたけれど、まさかこの人がラフコフの頭目だなんて……!!

 

「……早くしろ。このまま見捨ててもいいが、お前1人じゃここを抜け出せずに死ぬのがオチだろうがな」

「うっ……うぅっ……!」

 

あまりの緊張感と恐怖から息が詰まりそうになり、荒くなる。汗と涙が頬を伝い、伸ばそうとする手は震えてどうしようもない。この状況で申請を拒否するなんて考えられない。そんな事をすれば、殺されて終わるだろう。それに何でもいいから早くこの恐怖から逃れたかった。だから私にはこの選択を受け入れたくなくても、選ぶしかなかった──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────そいつを押すな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

聞こえてきた言葉に、私は指を止めてしまった。それと同時に私の頭上を振り抜いた刀が飛び退いたPoHを掠めていった。あと少しで押すはずだった丸印まではあとミリといった所で、そのままいけば私がラフコフに加入していた事は明白だった。

 

「右手、借りるぞ」

「えっ?」

 

突然私の後ろから声が掛かってきたかと思うと、掴まれた右手でギルド加入を拒否するバツ印を押されてしまった。「あっ」と声を出すが、既に遅い。こちらを押す事が彼らを裏切る事になる以上、選んではいけないこの行為を私は誰かの手によりしてしまった。

一体、誰が────────

 

「悪いな、だがお前もあいつらの仲間になる気はないだろ?」

 

後ろを振り向き、目に入ったのは私と年はそんなに変わらない少年だった。しかしあのラフコフを目の前にしてこの堂々とした態度……いや、もしかして彼らを知らないんじゃ……!?

 

「ラフコフ……こんな汚い方法で仲間を集めていたのか」

「くくくっ、今回はたまたまここでそいつと出会っただけ……つまり偶然さ、ビーターのシンさんよぉ」

「っ!?」

 

シンさん……だって!?あの攻略組トップの1人にしてビーターとも呼ばれてるプレイヤー……!色んな人達から尊敬や畏怖されたりしてるけど、それは『強い』という共通の理由があるから……でも、どうして最前線ではなく、こんな所に……?

 

「それで……彼女を見逃す気はあるか?」

「別にそんな弱っちぃ奴、いらないけどさ~……邪魔をしたお前は逃がさないよ」

「こっちは3人、そっちはザコを連れたあんた1人だ。どっちが劣勢かなんて……分かるよなぁ?」

 

シンさんの質問に対し、ラフコフの2人は剣を構え、ニヤリと笑みを浮かべた。それを見ていたシンさんは右手に刀を握っているものの、構えようとしない。今すぐにも襲いかかってきそうなのに、どうして──────

 

「……撤退するぞ」

「はぁっ!?リ、リーダー、何言って……!?」

「そうだよ!こんな奴、殺す機会なんて滅多にないよ!」

「──────足手まとい2人が何を言ってやがる?」

 

PoHからの命令に2人は抗議していたが、呆れたように呟かれたその言葉に愕然としていた。確かに今まで戦う気満々で喋っていたのに、突然そう言われたら驚くのはしょうがないと言える。

 

「貴様らがいるんじゃ、あいつと満足に戦えるわけがないだろうが」

「ぐっ……!」

「つまりそういう事だ。……だからな?」

 

 

 

「お詫びにお前の殺人ショーは、とびっきりなものになるよう考えといてやるよ」

「……俺はお前のような奴に殺されるつもりはない」

 

 

 

フードの下で楽しそうに笑みを浮かべるPoH。静かに、しかし戦慄する程に異様な雰囲気を纏うシンさん。おそらく……この場で2人が戦えば、私が思う以上に激しい戦いとなる。

 

「くくっ……はははははっ!!俺と真っ正面から対立して尻込みすらしないか。おもしれぇな。おもしれぇよ……お前が最期にどんな顔を見せてくれるのか、楽しみになっちまった」

「……言いたい事はそれだけか?ならとっとと失せろ」

「おいおい、つれねぇ奴だな。まぁ、いいぜ。お望み通り失せてやるよ。おい、行くぞお前ら」

 

PoHはシンさんの言う通りにこのサブダンジョンのさらに奥へと消えていく。他の2人もシンさんを睨むように見ながらもPoHの後を追い、その姿を消していった。

 

「…………」

「…………」

 

ラフコフの全員が姿を消し、静寂が訪れる。シンさんは奥へと視線を向けたまま一言も喋らず、私は緊張感と不安でどうすればいいのか分からなかった。ただシンさんを待ち続けていると──────

 

索敵(サーチング)スキルに反応はなし……ひとまず大丈夫か」

 

刀を鞘へと納めながらシンさんはそう呟く。その言葉に私は安堵し、今度こそ助かったんだと思えた。しかし本当にそうなんだろうか?シンさんがビーターと呼ばれるようになった由縁を詳しくは知らないが、何十人ものプレイヤーを利用したからと聞いている。それが本当なら、もしかして──────

 

「おい、大丈夫か」

「っ!?」

「考え込んでるみたいだったが……あいつらに何か吹き込まれたか?」

「いっ、いや!た、ただ仲間になるかここで死ぬかを聞かれただけだよ……」

 

とてもじゃないが、貴方を疑っていましたなんて事は言えない。もしも違っていて善意で助けてくれただけなのであれば、それはシンさんに対して失礼極まりない発言でしか──────

 

「それか、俺が信じられないとかか?」

「……えっ?」

「俺はビーターだ。LAボーナスを取ろうとして初心者達を利用した最悪の、な。そんな俺を信じられなくてもおかしくはない」

「っ……そ、そういう事じゃないんだ、その……」

 

確かにシンさんが言った事は私が考えていた事だ。しかし信じられていない事を知りながら、わざわざそんな事が言えるだろうか?

 

「別に気にしてないから心配するな……っと、そういえば名前は? 」

「ル、ルクス……それよりさっきのは……!」

「言っただろ、気にしてないって。別にルクスが何を考えていようと俺はどうもしない」

 

そう言うと、シンさんはこのサブダンジョンのマップと思われる物を出した。反対から見ている為、よくは分からないがどうやらここはかなり深い場所らしい。

 

「シンさんは……どうしてここに?」

「レアアイテムをドロップするモンスターが現れると聞いてな、どんなアイテムなのかと思って来たんだ」

 

そう言い、シンさんはマップを閉じた。そしてアイテムウインドウを開き、中に収められているアイテムの中から回復ポーションを選ぶと実体化させて私に渡してきた。

 

「っと、とと……え、えっと?」

「それ飲んで回復したら、俺とパーティを組んでもらっていいか?転移罠(テレポーター)対策の為にな」

「な、何をするつもりなんだい?」

「決まってるだろ」

 

シンさんはそう言い、鞘から再び刀を抜く。何故?と周囲を見渡すと、モンスター達がここに集まってきていた。その数は先程まで私が戦い、ラフコフが倒した時よりも格段に多い。

 

「教え、『その5 人を見捨てぬこと』……ルクス、お前を安全な場所まで連れていくんだ」




今回出てきたルクスは『SAO ガールズ・オプス』に出てくる登場人物です。ゲーム作品にも度々出ていますが、ストーリーには関与せず、オマケ程度である事が多い為、もう少し長めのストーリーを作ってくれないかなと思っています。

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