東方死人録   作:nismon

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三話 狂ったように踊りましょ!って一体どんな感じなのかな

 

 

 

「で、どうするの?私としては戦いたくないんだけど」

 

 私を見下ろす虹色の目の青年に話しかける。そのどこまでも綺麗な目。しかしそこから向けられるのはただただ純粋な殺気だけだった。

 

「ふん、抜かせ。お前みたいな輩を見逃しておく訳にいかない」

「交渉決裂、かな?」

 

 私は能力で刀を弾き飛ばした。それにつられ青年は宙を飛ぶ。しかしやはりただの人間と言う訳じゃないんだろう。かなり勢いが有ったにも関わらず、危うげ無く床に着地する。

 

「怪しげな力を使う。やはりお前は主の近くには置いておけない」

 

 その虹の目は狂ったように怒りに燃えている。

 

「別にヘカーティアにどうこうしようとはしてないんだけどなぁ……」

 

 第一あの女神様に敵うわけもない。むしろ彼女には少しは感謝している。しかしこの青年にはそれは伝わらないようで。

 

「信じられん。どうやら主様は気づいておられないようだが、そのお前のその根底にある莫大な力は彼女に害を成すに足り得る」

 

 そんなこと言われても全く心当たりが……

 ん?私の根底にある力って……もしかしてあの呪いのこと?

 

「ちょっと聞きたいんだけど、君のその目って何が見えるの?」

 

 その虹色に輝く目。その能力が気になった。

 

「これは、この目は私にとっての呪いであり希望だ。詳細をお前などに教えるわけないだろう。」

 

 呪いに希望ってなんだそりゃ。

 そう言って再び剣を構える青年。その切っ先は私を捉えて離さない。普通に聞いても駄目、か。

 

「……じゃあゲームをしよう」

「げいむ? なんだそれは」

「一種の賭事だよ」

 

 ただ単に聞き出そうとしても素直には教えてくれないだろう。でももしかしたらその力で私のこの呪いを解くヒントが得られるかもしれないのだ。それを逃すのは惜しい。

 

「お互いトドメを差すのは無し。制限時間はどちらかが気を失うまでって感じの決闘で。君が勝ったら私はこの国から出て行く。私が勝ったら君のその力を貸して欲しいんだ」

 

 私からの提案。正直殺し合いは勘弁願たい。本当はこんな決闘もしたくはないのだが……

 

「そんな制限はいらん。私はお前を始末する。」

 

 やっぱりダメみたい。こう好戦的なのはここのお国柄なのかな?

 

「個人的にはこのままヘカーティアの所に飛び込んで『襲われた!たすけてっ!』って言っても良いんだけどね。そしたら君もタダじゃ済まないんじゃない?」

 

 大分不思議でたまらないのは、何故今彼が私を襲ってきたのかと言うこと。何せ私はヘカーティアと明確に対立しているわけでもない。それなのに実行したと言うことは余程周りが見えてないかあるいは――

 

「その心配はいらん」

 

 そうあるいは私をここで確実に仕留める自信が有るということ。

 青年は狂気の垣間見える笑みを浮かべる。

 

「その前にお前を始末するからな」

 

 どうやら後者だったようで。

 

 

 

 

 

 

 

三話 狂ったように踊りましょ!って一体どんな感じなのかな

 

 

 

 

 

 

 

「死ねっ!」

 

 随分と直接的な言葉と共に私に振り下ろされる剣。さっきとは違いその剣を避ける。もし彼の自信が本物なら何かしら私に攻撃当てる算段が有るはずだから。直後に剣の突き刺さったベットから羽毛が吹き出す。勿体ないなぁ。私は窓から外へ飛び出した。何にせよあそこでドンパチやるわけにもいかない。

 

「待て!」

 

 待てといわれて待つ奴が…ってあるぇ?

 

「人間っていつから空飛べるようになったっけ?」

「何を言っている」

 

 その目は確かに虹色で人外のようだけども、体は多少なり鍛えてる人間程度。のように見えてたのだけれど。どうやら霊力によって体を浮かしているらしい。永琳達は飛んでいなかった、というか飛ぼうとすらしていなかったが人間やれば出来るということなのだろうか。

 

「どうにも力の使い方について良くわかってるね」

「当たり前だ。私はヘカーティア様の盾であり剣。故にお主を見逃しはしない!」

 

その熱意には感服するけど、どうにも行き過ぎな感じがするなぁ。まるで何かに取り憑かれたみたいだった。

 

「覚悟しろっ!」

 

 加速した青年が私に向かって斬りつける。私はそれを避ける。

 

「遅いっ!」

 

 空を切った剣がすぐに向きを変えて私に向かってきた。キラリと月明かりを反射するその太刀筋は洗練されているのがわかった。なかなかにやり手みたいだ。

 避けきれない。

 私はその斬撃を能力で反射しようとした。

 ザシュッ

 

「痛っ!」

 

 斬撃が能力の範囲を通過してきた。なんとか体を捻り深く傷を負わないようにする。そして急いで青年から距離を取る。左の二の腕から血が出てくる。

 そこから垂れた赤が私の白いワンピースを濡らした。

 

「ふっ、他愛もない」

 

 やはり彼には攻撃を与える算段が有ったようだ。恐らくあの目だろう。

 

「私の能力の弱い所が見える……みたいな感じかな?」

 

今の一撃で体に張り巡らせて居た能力の壁が破られた。

 

「ほう……今の一撃で看破したのか」

 

 前世でそんな能力を持ったキャラを見た気がするのでね。でもこれは厄介だ。思わず笑いがこみ上げてくる。

 

「全く痛いなぁ」

 

 痛い。痛い……なんで痛い? それは目の前の奴が私を斬ったから。

 

「ふふっ……」

「……何が可笑しい」

 

 あ、何かヤバい。

 私の中のスイッチが押された気がする。やる気スイッチとかそんなんじゃなくもっとヤバイ奴。何かにどんどん精神が蝕まれる感覚がする。それに逆らおうにももう遅い。既に私の大部分は染まりきっている。

 

「女の子を虐めるなんて酷いなぁ……」

 

 自覚していても止まれない。

 

「殺しちゃうよ?」

 

 口が鋭い三日月状に変わる。私は今、狂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しくぶつかり合う影二つ。

 

「キャハハッ」

「死ね!」

 

 狂ったように笑う私と狂ったように怒る青年の影。どこか箍の外れた私達の戦いは止まる様子はなく、ただひたすらに加速していった。

 私が炎弾を撃てば青年はそれを切り裂き、青年が剣を振りかぶれば私はその剣を避ける。

段々と増えていく傷互いの傷。青年の少し豪奢な服は所々焼き切れそこから見える肌は赤くなっている。対する私も白いはずの服は所々赤に染まり、所々服が切れて肌が見えている。私は傷がすでに癒えてるのは単純に妖怪だから。

 

「それっ!」

 

 炎弾で弾幕を張る。そこに殆ど逃げ道はない。

 

「甘いッ!」

 

 そんなもの端から無いとばかりにそこへ突っ込んでいく青年。弾幕を切り裂き私に向かって刺突する。

それを能力で無理やり避け、その後に背後に回り首裏に踵を落とす。しかし一体どうやって察知したのか、体を捻りそれを左手で青年は受け止める。そして逆の手で私の肩口に向かって剣も振り下ろす。再度能力を使い避け、青年の近くから離脱する。

 

(不味いなぁ……)

 

 戦いに身も心も熱狂する中、裏の残された少しの思考回路で私はそう思う。

 このままだと近い内にこの戦いは終わる。そろそろ私は限界だった。このままだと……

 

「そろそろ終わりにしようよ」

 

 このままだと彼を殺してしまう(・・・・・・・)。今の私には明確な殺意があるから。彼は確かに強い。だが人間だ。人外の私には彼を殺す手段は有るんだ。

 

 炎弾を手のひらに浮かばせ、そしてそれを圧縮する。

 莫大なエネルギーが集まったそれを中心に暴風が発生する。

 

「良いだろう。次でお前を始末する!」

 

 対する青年も剣に力を纏わせる。恐らく必殺技か何かなんだろう。駄目だもう時間がない。

 

「行くよ」

 

 私達は私互いに飛び出した。私は腕を突き出し圧縮した力を彼の方に向ける。そして彼はそれを切ろうと剣を構える。

 後、数十メートル。いや後数メートルで激突する。ぶつかったのなら互いに無事では済まない。

 だめだっ……!

 

「止まりなさい」

 

 しかし私達が激突することは無かった。それぞれの攻撃を紅色の盾に阻まれる。爆発音と破砕音が響く。

 

「全く二人共元気なんだから」

 

 その間で少しだけ不機嫌そうに女神が呟いた。

そこで最後の一撃を不発に終わらせた青年が力なく地へと向かって落ちていった。戦いに割り込んだ女神が彼を空中で掬い地面に着陸する。

 

「本当、無理するわね……」

 

自分よりガタイの大きい青年をその腕に抱く女神。そして彼に向ける目線はとても優しかった。

 

「ちょっと邪魔しないでよ。ああでも次はヘカーティアってことかな?」

 

 私も彼女たちに付いていき地面に降りる。そして満面の笑みで語りかける。ヘカーティアだとかなり苦労しそうだなぁ……

 

「貴女も落ち着きなさい」

 

 私に向かって手の平を向ける彼女。そこには紅く光る魔法陣。私に何か魔術を掛けたようだ。

すると、すうっと狂気が引いていく。ようやっと私の精神が理性の元に戻ってきたのだ。

「……っはぁ。あああ……うん、ありがとうヘカーティア。助かったよ」

 

私は大きく息を吐きへなりと地面に倒れ込む。うん、もう大丈夫っぽい。

 

「お礼を言うのはむしろこっちの方よ。なんだかんだ手加減してくれてたでしょ。……さてと、おいたが過ぎるわね」

 

 ヘカーティアは中に向けて手を出した。その先に有るのは月。そして再び魔法を展開する。

 バチッという音が月の方から聞こえた。

 

「痛いっ!」

 

 そしてそこから一人の少女が落ちてきた。そしてそのまま地面に落ちる。月に隠れていたのか……なんじゃそりゃ。

 

「いてて、途中まで良かったのに……あの白い奴やけに抵抗するんだから……」

 

 そんなことを呟く少女。格好はなんだろう…前世で見たピエロのコスプレ的な感じ?色使いがアメリカン。いや三色だからフランスか?この世界にアメリカもフランスも無いはずなんだけどなぁ。左手には松明を持っている。そこに灯された火の光はなんだか良からぬ雰囲気が有るような気がしたので能力で遮断をする。

 ……あれ?ヘカーティア何処に行った?

 気づいたら彼女は移動していた。瞬間移動と言って差し支えない。今はあの変な三色少女の前に居る。

 私からは後ろ姿しか見えないが、何か……うん。オーラがヤバイ。

 

「覚悟は出来てるわね?妖 精 さ ん?」

 

 あっヘカちゃんキレてるなう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻後……

 

「ううっ……はび、ひっく……もうじまぜん」

「解ればよろしい…本当は始末したいのだけどね」

「ひっ!」

 

満面の笑みで立ってるヘカーティアとそれに対してガチ泣きで怯えてる妖精が居た。何をしたのかは私からは明言致しません。

 

「ま、まあそれくらいでいいんじゃない?」

「あら? 儚ったら優しいのね」

 

 いやぁ……ねえ。そりゃさっきまでの拷問まがいのお仕置きを見てたらこうなるって。そこで気を失ってる青年共々彼女には散々やられたけど、それでも思わず同情が芽生えてしまうくらい凄惨なものだった。

 うん、ヘカーティアは絶対怒らせないようにしよう。

 

「それにしても随分としっかりした妖精だね」

 

 一応妖精という種族がこの世界にはいる。しかしその多くは大した知能も力も無いので殆ど居ても居なくても変わらないような空気な感じでは有るのだが。

 

「後先考えずイタズラするところは他と変わらないけれどね」

 

 今ここで跪いている妖精は少し違った。木っ端妖精に比べたら随分としっかりしてる。名前はクラウンピースというらしい。ピエロっぽいなぁ。どうにもさっきまでの戦いはこいつのせいで起きたらしかった。

 

「なんか不満気な男が居たから、面白そうだなって思って。それでちょっと狂わしてみようかなって。そしたらあなたのところに行ったから楽しくなっちゃって」

「それで私も狂わせた、と」

 

 なんともはた迷惑な話。要は彼女がふざけて掛けた能力のせいで私たちは死闘を繰り広げていたわけである。

 

「『人を狂わす程度の能力』ねえ。まったく、妖精が持ったら面倒な能力じゃない。」

 

 彼女はこの能力で私とその青年を狂わせたのだ。

 

「そっか道理で話を聴いてくれなかった訳だねぇ」

 

 青年は怒りに狂っていた。主への忠誠と私への疑心をクラウンピースが増長させたのだ。

 

「でも、儚まで掛かるとは思わなかったわね。貴女のせこい能力使えば掛からないでしょう」

「せこいって……その子に一瞬だけ能力破られちゃってね。そのときに狂っちゃったんだと思う」

「ああリュンが……」

 

 青年の名はリュンというらしい。

 私は基本能力を常時切らないのだけれどあの時は完全に止まっていた。恐らく力の核か何か、『目』みたいなものが見えるのだろう。そこにクラウンピースの能力が入ってきた。

 

「それでコイツどうするの?妖精は死なないから……永遠に封印でもする?」

 

そう言って恐らくは封印の魔法陣を手のひらに浮かべる。

 

「ひぃ!それだけは勘弁を……!」

 

うーんなんだかなぁ……やっぱり私には出来ないなぁ……

 

「他に何か無いかな?」

「貴女甘いのねー。しかし、そうね……」

 

 魔法を霧散させ顎に手を当てて唸るヘカーティア。それを切迫した様子で見つめるクラウンピース。

 

「そうだわ!」

 

 数秒後にピカーンと何か思いついたようだ。

 

「貴女、私の部下になりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で神殿に戻ってきた。私はヘカーティアに連れられ、王宮神殿の中にある、街を一望できるテラスの様なところに来ていた。月は煌々と光っていて照らされる街並みはひたすらに静かだった。テラスの手すりっぽいところに寄っかかりながら話すヘカーティア。

 

「……儚。ありがとうね」

「ん?何が」

 

 リュン君は眠ったまま、クラウンピースは泣きつかれて戻ってきてすぐに寝てしまった。彼女の寝顔はさっきまでと一転してただただ可愛いのでヘカーティアと二人で思わず苦笑してしまった。

その後、

 

「リュンの事よ。かなり手加減してくれたでしょ」

「ああそのこと……そりゃそうだよ。私は殺しはしたく無いから」

 

 狂気の中でも何とか力を制御しようと試みた。まあ結局最後は不味かったんだけども。

 

「まるで妖怪の言う事じゃないわね。本当に妖怪なのかしら?」

「よくいわれるよ」

 

 まあ根っこはただのチンケな人間だものね。その根は腐ってるけれど。

 

「それにヘカーティアが止めてくれなかったら手遅れだったよ。だからむしろお礼を言うのはこっちの方だよ」

「……そう」

きっと止めてくれなかったら私は彼を殺していたから。そう考えるとすごく…すごく怖い。

「貴女はやっぱり優しいのね」

「そんなんじゃないよ。でも女神様にそう言われると嬉しいね」

 

私なんかよりヘカーティアの方が何倍も優しい。優しいなんて言われる程のものはない。結果的にそうであれ私の場合元は自分の為だから。

 

「儚」

「……なに?」

 

私の名を呼んだヘカーティア。その目はやけに真剣だ。だけど一部戸惑いが見えた。

 

「何で貴女はそんなに死にたがっているの?」

「……バレてた?」

 

ああやっぱりヘカーティアは優しい。痛いくらいに優しい。こその優しさに私は甘えてしまいたい。

 

「バレてたも何も、最初私を利用しようとしたじゃない」

「ああ、そういえばそうだったね」

 

ヘカーティアの力で遠回しに自殺しようとしたんだっけ。でもそんな事したのに私を気にかけてくれるなんて……

 

「理由を聞いても良いかしら?」

 

 ヘカーティアはやっぱり優しすぎるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し前に大きな地殻変動あったでしょ」

「少し前?…もしかしてあの時のこと?あれってもう数えられないくらい前の事じゃない」

「そうなの?空を漂ってたからあんまりわかんないや」

 

 私は訥々とヘカーティアに過去の話をした。詳細はぼかしているけど一度死んだこと、呪いのこと、そして月へと飛び立った彼ら彼女らのこと。

 

「……それって別に儚は悪くないじゃない」

「そう見えるかもしれないけど、やっぱり私が悪いんだ」

 

 人との距離を見誤った、そして私が私自身を見誤ったせいで起きたこと。ゆえに責任を感じずには居られない。いや責任を感じることすら傲慢かもしれない。

 

「それを罪だと思うのなら、余計生きなきゃ駄目じゃないかしら」

「……そもそもこの生を受けたのがおかしいんだよ。だから私は必ずこの呪いを解く方法を見つけなきゃいけない」

 

 そして死ぬんだ。

 

「変なところで頑ななのね」

「はははっ、何も言い返せないや」

 

 あーあ…結構色々と話してしまった。きっと困らせてしまう。

 

「……女神としては貴女の道を正してあげたいけど……きっと聞かないわよね」

 

 はあ、とため息を吐くヘカーティア。そして私の方に顔を向ける。

 

「酒を酌み交わした友人としては貴女に生きて欲しいと思うわ」

「……ありがとう。ヘカーティア」

 

 そんな……そんな優しい顔をしないで欲しい。きっと堪えられなくなってしまう。

 

「ふぁあ……私はもう寝るわ」

「うん、おやすみ」

 

 何のことは無かったようにヘカーティアは歩きだす。

 私はその後も少しの間、静かな街を眺めていた。

 

 

 

 

 




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