「何というかさ、距離が近いよね」
ふと思った事を呟いた。
「何のこと?」
ヘカーティアが不思議そうに聞いてくる。
私達は王宮の神官達を連れ街道を歩いていた。相変わらず賑やかなその町並み。いつ見ても人で溢れているのは、ここがいわゆる首都的なものである由縁なのだろうか。しかしいつもと違い今回は、群衆は皆整列していた。私達は王宮に住む従者を連れて街の巡回へと出ていたのだった。ちゃんとした行事と言うこともありヘカーティアはいつも以上に豪奢な格好をしている。
彼女的にはもっとラフな格好がいいと愚痴っていた。
私達の行向く先には群集に囲まれた道。正直そんな花道みたいな道を彼女の隣で歩くのは居心地が悪い。だけれど私は一応客人等言うことになっているらしいので顔を出さないわけにはいかなかった。
周りを眺めつつ話を続ける。
「神様と人の距離のこと」
「何よいきなり。そう?普通じゃないかしら?」
彼女、ヘカーティアは王であり女神である。結構特殊な立場だなぁなんて最初は思っていたのだけれど、この世界、この時代ではわりと良くあることらしい。「天上の世界は暇だからそういう神は多いのよ」とのこと。
「私が昔……
「へぇ、そうなの」
群衆の中から一人の小さい子どもが親に抱えられて私達に向かって大きく手を降ってきた。ヘカーティアは微笑みながら手を振り返した。
こんな直接的な触れ合いは愚か、そもそも神を信仰するという事自体が怪しい世界だった。
「でもそれは……少し悲しいわね」
「神様的にはやっぱりそう思う?」
皆彼女を一目見るために首を伸ばしたり背伸びをしたりしている。見渡す限りの人々は彼女を求めてやってきている。
「神様……とは一概には言えないわね。人を嫌う神も沢山居るから。でも、もし世界がそうなったら私は少し悲しいわ」
「……そっか」
皆彼女を敬愛するように、彼女もまた彼らのことが好きなのだろう。
「なんだか女神みたいだね」
「みたいじゃないわ。私はこの土地の女神。まあ神が必要ない世界というのもそれはそれで面白そうでは有るけどね」
前にいた現代では幻想上の物として片付けられてしまうもの。それが普通に存在する世界。悪くないななんて思う。
「貴女は余り人と関わろうとしないわよね。メディアくらいじゃない。話すの」
「ああうん。まあちょっとね」
「余り言う気は無いけれど、別段気にしなくても良いんじゃ無いかしら? どうせ彼ら彼女らは貴女より短命よ」
「それはまあ。でもそれだけじゃないんだけど。……いやそもそもそれはそれで憚れるけどね?」
何のこと無いようにそうヘカーティアは言うが、確実に先に行ってしまう者たちと進行を深めるというのも、普通辛いんじゃないか。
「だからこそよ」
「はあ」
そこは神様視点ということだろうか。
「ん。まあ考えとくよ」
「はあ。全く変なところで頑固なんだから」
私の暗に意味した考えません宣言は見透かされているようだ。
余り人とは関わりたくない。その理由は色々有れど、解決する物じゃない。解決してはいけないし、その実答えもわかっているのだから。
六話 理不尽なまでの優しさを踏みつぶす理不尽さだってあるわけで
「魔法陣……展開」
手を伸ばした先には机の上に置かれた何の変哲のない石ころ。その置かれている地面に薄紫色の魔法陣が光る。
集中して魔力の流れを感じる。そしてその流れを事象を起こすために操る。
「浮遊」
私の呟いた言葉と共に魔法陣は輝きを増し、そしてゆっくりと石が浮かび上がった。
……
「……うぉっしゃぁ!浮いたぁ!」
浮いた!浮いた!!小石が浮いた!
某アルプスのなんたらのク○ラが立ったぽいセリフが思い浮かぶ。いやでも感動物だよ。マジで。
「やりましたね!儚さん!」
メディアも喜んでくれているようだ。あれから数ヶ月。魔法の修練をし続けた私はついに小石を魔法で『浮遊』させることにせ成功したのだ!これで私も立派な魔法使いだぜっ!
……はいそこ、しょぼいとか言わないッ!
「結構時間かかったねぇ」
「最初はこんなもんですよ」
ゆっくりと石を降ろし魔法を解く。体が魔力の流れを感じる。まだまだ少ないけれど確実に操れる魔力量は増えている。何事も積み重ねが大事である。
「……因みにメディアはこれやるのどれ位かかった?」
「え?あ、ははは。一週間位ですかね……?」
はい。世の中には才を持つ物と持たざる者が居るのです。
伊達に年少で巫女を務めているわけじゃない。その類い希なる才能と知識を求める好奇心と惜しまない努力の結晶なのだろう。
……いや私は普通だから。彼女がおかしいだけだから!
「しかしいつになるやら……」
この呪いを穏便に解除できる新しい魔法。それを作るのが一応の目標ではある。本当にいつになるやら。
私には腐るほどの時間が有る訳だからいつかは辿り着けるのかもしれない。けれどそれに甘んじてはいけない。魔法の研究をは続けつつ一応他にも方法は探っておこうとは思う。そしてさっさと死ぬのだ。
「じゃあ次の基礎魔法やりましょうか!」
「え、ちょっと位休憩しても……」
「魔道は一日にして成らずです!継続が大事なんですよ!じゃあ次の魔法のためにこの本の内容を全部覚えて下さいね!」
ドンっていうおよそ本とは思えないような重量感のある音。そして僅かに木の机が軋む音。思わず目眩がする。
オーマイガッそうかここが地獄か! あれ! もしかしたら私ここで死ねるかもしれない!?
「あら、お帰り。メディアにまたこってりやられたのね」
「なんでわかるのさ……」
「オーラが黒いからよん」
傍目から解るくらい疲れているらしい。妖怪のこの体的には全然問題ないのだけれど、やっぱり精神的な疲労はどうしようもない。勉強というのは前世でも今世でも一様に疲れるものだ。前世で真面目に勉強していた訳でもないけどね。
メディアに言って量を減らしてもらおうか…
いや、止めておこう。自分から頼んだので断るのは失礼か。ああ日本人の悪いところだね。よく言えば慎ましさって奴。
何度も言うように私は日本人、というか人ですら無いのだけれど。
「ありゃ友人様が珍しく妖怪っぽい?」
どこから出てきたかクラウンピースがそんなことを言う。ぽいも何も私は妖怪だよ。
「いやぁ友人様は街の外にたむろってる奴らと全然違うからさ。ついつい妖怪だって事忘れちゃうんだよね。襲ってこないし、人間襲わないし」
まあ……確かに妖怪らしくは無いのかもしれない。根っこはやっぱり人間なのだろうか。余り気にして無いつもりだけど。実はつもりなだけなのかも。
「それが儚の良いところよ」
むっ……何さ褒めても何も出ないよ。でも、ありが――
「いや、面白い所かしらね?」
いや撤回。その獰猛な笑みは何ですかね?
「それにかといって弱いわけでもないわ」
そんな好戦的な顔されても困る。戦いたくないからね。
「あら残念ね。でもそうね確かに今闘うのは勿体ないわね。もう少し魔法を使えるようになったら、ね?」
「ね?じゃないよ……」
女神がそんな好戦的で良いんですかね…いやもう今更過ぎてこれが普通な気がしてきた。これが慣れか。恐ろしい。
「本当にご主人は能力かけるまでも無く狂ってる」
「あら何か言ったかしら?」
「い、いやぁ何も言ってないですよん!?」
クラウンピースの呟きを聴き逃さないご主人様。地獄耳だ。しかし彼女の意見に同意……あ、いや嘘です。睨まないでっ。
「まあ良いわ。そうそう儚。貴女この後暇かしら?」
「? この後ってもう日が暮れ始めてるけど……」
魔法の授業を集中して受けていた私は、外に出た時その暗さに驚いたのだった。本来なら外に出る時間では無いはずだけれど。
「ちょっと付き合ってほしいのよ」
と彼女は言うのだった。
「でこんな所まで来て何するのさ?」
私達は町からかなり離れたところまで来ていた。周りには木や草がまばらに生えているだけでそれ以外には何もない。実に殺風景だ。
「掃除よ」
ヘカーティアはそう言い放った。しかし先に述べたように掃除するような物は何も無い――
「あら?本気で言ってるの? 貴女ならわかってるでしょ」
「……はあ、いやそうだけどさ」
思わず溜め息をつく。そりゃそうだ。解らないわけが無い。だってさっきから気になって仕方がない。さっきから向けられる突き刺さんばかりの無数の敵意。
姿は見えないけれど視線というか刺線? を感じる。なるほど、そしてこのまま死戦に突入すると。
「何馬鹿な事言ってるのよ」
「いや、だってねぇ。洒落の一つも言わないとやってられないよ。前から言ってるように私は戦いが嫌いなんだって」
戦いは嫌いだ。だってこれはゲームじゃないのだ。文字通り生死をかけた争いになってしまう。この前も危なかったのだから。そもそも現代の日本に生まれ育った私は命のやり取りなんて遠い世界の話だった。故に相手が自分と同じように知性を持っているとどうしても躊躇が抜けない。
「貴女がどうしようもなく優しくて、相手を傷つけたくないのは解ってるわ。」
「……だからそんなんじゃないよ」
そもそも私は死ねない。だから真剣勝負みたいなものに申し訳なさを感じるのもある。その時点で色々と甘いのだけれど。
「というかヘカーティアだけで十分じゃないの。三人でパパッとやっちゃえば良いのに」
そもそもの話、私がここにいる必要が余り無い気がするのだ。彼女が勝てないなんて事が万一有るはずがない。
「そうだと良いのだけどね。」
「え、ちょっと止めてよ。らしくないよ?」
珍しい。彼女が弱音をほのめかすなんて。意外と余裕が無いのか…?と言うかヘカーティアが無理なら私にも無理なんだけど。
「あら? 貴女には私を一度欺いたその希な力があるじゃない。」
「いやあれは偶然だって」
もう一度彼女に通用するとは思わないし、同様に他の人に通用するとも限らない。
「さてと……そうこうしている内に見えてきたわよ。」
遠い向こうを彼女が指差す。辺りは大分暗くなっていてうっすらと丸くなりかけな月が見えている。人間だったらそんな中、遠くなど見えたもんじゃ無いけれど、そこは妖怪特有の視力で。
「……うわぁ」
思わず声が出てしまう。いや今すぐにでも帰りたい。そう思うのは仕方ないだろう。
視界に入ってきたのは無数の巨大な影。これだけ距離があるのにあれだけでかいという事は、近づいたらそれこそ見上げても見切れないくらい巨大なんじゃないだろうか。
「あれ……何?」
「『ギガンテス』。その昔、西方の女神の血から生まれた神の血統を引き継ぐ種族よ。巨人族とも言われるわね」
巨人族。なるほど見た目そのままである。前世の漫画とかにもよく出てたよね。塀を壊して人の生活圏に侵入してきたり、100年間決闘し続けたり。その全てにおいて共通しているのは皆圧倒的なまでの怪力を有しているということ。その理不尽さは神にも等しい。
「うん、もう帰りたいんだけど」
「あら? 貴女にそれが出来るかしらん?」
巨人一人ならどうにかなるかもしれないなんて思った。もうその時点で色々私も可笑しいななんて思うけど。しかし現状はそれすらも超えていく。
「いやだってさ……あの数は一体どういうことさ?3桁位軽く行きそうだけど」
その数がやっぱり可笑しい。対する私達は二人、ヘカーティアが増えても四人な訳だ。圧倒的な兵力さ。巨人族一人一人の戦闘力も馬鹿にならない。
「そうね、報告より断然物騒だわ。でも私達以外にアレを止められる者は残念ながらこの国には居ないわ」
私らを抜いた最高戦力はメディアかリュン君だろう。ひしひしと感じる力から、残念ながら彼らがあの化け物に敵うとは思えない。
「そうだけど……戦わない選択肢は無いの?」
そもそもなんで戦わなきゃいけないのさ。いくら戦闘狂(バトルジャンキー)だからって余りに無駄な戦い過ぎやしないだろうか。
「気付かないのかしらん?あいつらはまっすぐこっちに向かっていることを。そして私達の背中には一体何があるのかを」
「なるほど。それじゃ確かに引けないわけだ。」
巨人族の向かう先、そして私達の背中には人々の住む王都がある。つまり彼らはそれを狙って歩みを進めているわけである。
「なんでそんなのと敵対してるの。ヘカーティア一体何したのさ?」
「心外ね。今回ばかりは私も被害者よ。本来関係の無いはずの西方のクソ野郎に『最近物騒だから死なないように気をつけてね~』って随分とノリの軽い手紙を貰っただけで、他に何も知らないのよ」
苛立ちを隠さずにそう言う彼女。クソ野郎の所に力が入っている辺りその人と過去に何かあったのだろう。
「さてと始めましょうか。知性の欠片もない奴らだけど、もし貴女が無理だったら止めは私が刺すわ」
「流石にこの国が掛かってるんなら私だって頑張るよ。多分」
あ まり関わっていないとはいえ何人か知り合いは居るし、何よりあの街がこんな怪物どもに壊されるのは納得がいかない。巨人族を始末することにしよう。どうせ死ぬつもりなんだからこれくらいしても罰は増えないだろう。
「……儚はやっぱり優しいのね」
「だからそんなんじゃないって」
向こうから私達に向けて無数の岩が飛んできた。まるで小石かのように投げられたそれはしかしどれも巨大だ。私は能力でそれを破壊する。ヘカーティアが魔法を使ってそれを消滅させる。
「向こう方はやる気満々みたいね」
そう言いながら彼女は他の二人を呼び出した。三色のヘカーティアが出揃う。
「ふふっ女神としての力を思う存分見せてやるわ」
「……なんか楽しんでない?」
好戦的なのは今回は良いか。……いや、良いことか?
「とりあえず売られた喧嘩を買いに行きましょう」
「はいよ」
私達はそこから飛び立った。
「うわぁ……やっぱ近くで見るとすごいね」
奇観を呈すというのはこの事。
巨人族はやはりとういうか、かなり奇怪な格好だった。上半身は人間ぽいのだがやたらに毛が多く、下半身に至っては蛇か竜か、とにかく鱗が見て取れた。今は足を止めているが、きっとそれをどしどし鳴らしながら進んでいくのだろう。
私達は巨人族と対峙していた。今はお互いに物音1つ立てない。やけに明るい月明かりの中そよそよと吹く風の音だけが聞こえる。
「……来るわよ」
ヘカーティアがそう呟いた。
ガオオオォォォ!直後に響き渡るのはおよそひと人の物とは思えない重量感のある叫び声。それを期に彼らは動き出す。
かくして戦いは始まった。
頭上から巨大な岩が降ってくる。というか最早小山と言っても過言ではない。私はその山に向かって飛び上がり触れる。そして『固まる』に関する向きを変え爆散させた。
今度は下を見ると無数の巨人がその口から光線のような物をこちらに向けてきた。それを手で受け止め反射してその巨人へと返す。自らの血からに打たれた巨人は木っ端みじんに砕け散る。血が吹き飛ぶ。
「うぇ……」
自分に降りかかってくる血にとてつもない嫌悪感を感じる。吐き気もするが止まるわけにもいかない。着地した所を無数の巨人に囲まれる。一人の巨人がその拳を私に向けて振り下ろしてきた。それを何とかよけ再び上空へ。そして一人の巨人の頭に触れ能力で破壊。
能力性質故直接攻撃のほうが効率が良いのだけれど、個人的には敵と相対する恐怖感もあり遠距離からどうにかしたいのだけれど……
再び地面に着地した所に駆け寄ってくる巨人。そちらへ向けて妖力の込めた特大の炎弾を打ちこむ。煙に包まれる。
しかしそれはすぐに晴れ中から巨人がこちらに手を伸ばしてくる。先程の炎弾が効いた様子はあまりない。その巨大な手で体ごと掴まれるが、その手を能力で破壊。そして痛みに呻くその頭を蹴り飛ばす。蹴られたそれは凄まじい速さで体と分離し、側に居た巨人の胸元を貫いた。
……我ながら
それもしょうがない。妖術の類が全くと言っていいほど聞かないのだ。神力を込めても無駄、いやむしろ扱いに慣れてない分余計に効かない。
故に物理的に攻撃をするしか無いのだ。巨人族はその強大な怪力と鋼鉄のような体を持っている。碌な戦闘経験を積んでいない私が、今まともに戦えるのは一重にそれをものともしない能力のお陰だった。
しかしキリがない。これだけ始末しているのに一向に向こうの攻撃の手は止まない。このままだとジリ貧だし何より気分が悪い。
(いやこれは人じゃない)
そう自分に言い聞かせても何処か引っかかるところが有る。それにこの巨人たちとメディアたちを天秤に掛けたら簡単に答えは決まっている。
そうだ利己的なのは自分の
「ま、そんなこと考えてる場合じゃない、っか!」
巨人の蹴りを受け止めその体を爆散させる。
(ヘカーティアは大丈夫かな?)
戦いが始まってすぐに彼女とは別れたのだった。ちらりと彼女の一人の方を向くと魔法を放ちまくっている彼女の姿が見えた。まあ一応は大丈夫そうだ。…いや、どうにも私以上に手こずっている気がする。
「貴様がヘカーティアか」
そこで地が響くような声がした。巨人族達が動きを止める。そして一際大きな巨人が赤いヘカーティアに向かって行っている。どうやら周りの巨人は攻撃をしてこないようなので私は彼女の隣まで飛んでいった。他二人のヘカーティアも集まる。
「ん?お前は……神では無いな。そして人で有るはずがない。なぜ妖魔風情がこんな所に。まあ良い」
その巨人族はあからさまに他と違かった。
「ギガースの癖に喋れるだけの知能が有るのね」
「当然だ。私はかの根源の女神に選ばれし者、クリュティオス」
クリュティオスと名乗ったそいつの言葉を聴いたヘカーティアが顔をしかめる。
「原初神の下僕がどうしてこっちを襲うのか分からないのだけれど」
「オリンポス神族に与するものは我らギガントスの殲滅対象であるからだ」
オリンポス神族。聞いたことが有るような無いような。古代の神話だっただろうか。
「…やっぱりか、あの男その内殺すわ」
それに心当たりがヘカーティアは有るらしい。
「どういうことヘカーティア?」
「私たちは巻き込まれてるのよ。違う場所の神様の全く持って下らない喧嘩にね」
なんともはた迷惑な話。それで国ごと潰されそうになるなんて、やっぱり神様は理不尽なようで。
「無関係な訳があるはずないだろう。お前があの男のお気に入りの一人なことぐらい知っている」
「あんなクソ野郎のこと思い出させないで頂戴」
いつの間にか一人になっていたヘカーティアの周りに力が集まりだす。空気が変わる。
「儚。後ろに下がってて」
「……わかったよ」
言われた通り私は彼女たちから距離をとる。見たことのない力の量。これがヘカーティアの本気か。恐らくだけれど三人に別れたまま一人になっているのだろう。その証拠かどうかわからないが彼女の髪は薄いブラウンに染まっていた。
きっとこの彼女の攻撃を直に受けたら私は本当に死ねるかもしれないー―なんてちょっと場違いなことを考える。
「これはこれは物騒な女神だこと」
「うるさいわよん。神になり損なった身の癖に私に牙を向こうなんて思い上がり甚だしいわ」
彼女が手の平に浮かべた魔法陣をクリュティオスに向ける。
「無様に死に晒しなさい」
その手を握る。そして巨人の姿の輪郭が潰れた。
次の瞬間眩い光と共にそれが爆発した。
「うわっ……!」
圧縮系の魔法だろうか。爆風が吹き荒れ周りの巨人共が吹き飛ばされる。私は能力で反射するけれど、ひしひしと圧倒的な熱量を感じる。能力を持ってしても気を抜くと防ぎきれない程。
これがヘカーティアの力か。いや……これでも全力じゃないのかもしれない。徐々に衝撃と爆風が落ち着いてきて様子が明らかになってくる。最早そこにどんな地形があったのかわからない。
地面はドロドロに溶けマグマのようになっている。これだけの攻撃を食らって無事であるわけが――
「甘い」
そこに巨人は居なかった。何故なら既にヘカーティアに肉薄していたから。
「なっ……!」
巨人に有るまじき速度にヘカーティアの顔に衝撃が走る。彼女にとってもありえなかったのだろう。あの魔法の威力は今までに見た彼女のどの魔法や技より強力だった。だがしかし。
目の前の巨人は無傷だった。
「実に甘い」
その巨大な拳が彼女を捉える。あまりに早すぎて目で追うのがやっとだ。そして次の瞬間私の後方の地面が弾ける。一歩も動けなかった。動く隙がないほど一瞬の事だった。
後ろを振り向くとはるか遠くのそこには人影が有った。……ヘカーティアだ。あの怪力でそこまで吹き飛ばされたんだ。私には飛ばされた彼女が目視できなかった。
「あの憎き男が一目置いていると聞いていたが……期待はずれだ」
私の目の前にいるこの化物はいとも容易く神を地に堕ろした。
ヘカちゃん撃沈。
感想批評あれば是非。