「きゃはははは!」
無邪気な笑いが響く。どこか箍の外れたようなその声。可愛らしいはずが何か空恐ろしく感ぜられる。
……まさか自分に能力掛けてるんじゃないよね?
そんな不安にさせる彼女、三色の妖精クラウンピースが松明を振り炎弾を放つ。妖精にしては強い程度でしかないその力は、この巨人にとっては深手に成り得る。
「調子に乗るなよ」
その相手は怒気を込めそう言い放つ。ただでさえ醜いその顔がより醜悪になる。
片腕の無い、と言ったら少し違うか。その腕は半ばで途切れ、切り口は溶けるようにシュウシュウ音をたてている。ぶっちゃけ気持ち悪い。
バランスが崩れて動きにくいだろうに、けれどその巨人はクラウンピースの攻撃を機敏に避ける。そして残っている片方の手を、地面に突っ込んだ。
「妖精風情が我に傷を付けるなど断じて有ってはならない! 女神の前にまずはお前を始末する!」
その巨大な手でメリメリと地面を抉る。抉り取ったそれを、その剛腕をもってクラウンピースに投げつける。まるで、と言うか文字通り壁のようにそれは彼女に迫る。
「あ、ちょそれ不味っ……」
「油断しすぎよ、ピース」
どこからともなく現れたヘカーティアが魔法陣を展開。
「ご主人! アタイは信じてたぜ!」
「まったく調子が良いんだから」
次の瞬間にはその地の塊は消えていた。流石は魔法の神様。
「おのれ!」
苛立ちを隠さない巨人クリュティオス。今度は先程の破壊光線を放とうと、その口内に光を溜め始める。
「させません!」
宙に浮くメディアの背後に無数の魔法陣が展開される。準備を終えた彼女は錫杖を振る。そこから空間を埋め尽くす程の魔力弾が放たれた。
「ッチ、クソが!」
光線を中断し、腕を振りそれらを叩き落とす。地面はえぐれ、砂塵で視界が塞がれる。
「次は私の番かなっっと!」
そこに飛び込んだ私は、能力を掛けに掛けまくった拳でそのデカイ腹に一発打ち込む。
「ぐぅ!」
少しだけうめき声を上げた。けど、あんまり手応えはないなぁ……。やはり人間であるメディア、そして妖精であるクラウンピースの攻撃とは通りが違う。
と、心の中でボヤきつつ、即座に側から離れる。肉弾戦じゃあちらに分がありすぎる。いくら命が有っても足りない。
まあ、私は幾らでも有るんだけど。
「ちょこまかと動きおって!目障りだっ!」
そういって今度は破壊光線を私に向けてきた。さっきの溜めが残っていたのかタイムラグなしで放たれたそれは一直線に私に向かってきた。離脱途中の私は宙に浮いている。
あ、不味…
「はあっ!」
すんでのところで眼前に魔法陣が出現。メディアの転送魔術だ。それによって現れたリュン君が再び光線を切り落とした。お見事。
「助かったよ。良く切れるねあんなの」
「今だけです。巫女殿の魔法の強化でようやっと対抗出来る状態ですから」
それでも十分凄いと思うんだけど。二人共本当に人間? 前世の私だったらきっと為す術無く塵になってるね。
「なら私は良いからさ。他の娘達を重点的に援護してよ」
「……貴女は自分を蔑ろにし過ぎる」
「そんなんじゃないよ。適材適所さ」
そう受け流す私を、リュン君はそのどこまでも見通す金色の目で数巡見つめる。しかし、折れたのだろう。少し長い瞬きの後彼は返答する。
「……わかりました。くれぐれも無理を成さらぬよう」
そういい残しリュン君は何処かへ飛んでいった。君が気に病む必要は無いんだって。
八話 戦いはいつか終わるもので、けれど再び始まったり
ヘカーティアは現在後方の支援に徹していた。どうやってもあの化物に私の力は効かないらしい。何より狙われているのが私のこの国であり、私自身なのに何も出来ないのが少し悔しい。
「ヘカーティア様少し宜しいですか」
リュンが話しかけてきた。
「何か分かった?」
「はっ、あの巨人についてですが――」
彼には類稀な力がある。その七色に輝く目はあらゆるものを見通す。その力故に私の元に来るまで色々苦労したのだけど、現在は私に尽すためその力を行使してくれる。
その信用の置ける目はかの巨人をどう見たのかそれを聞いた。
「それ確かなの?」
「はい」
「それなら儚が何とか出来るはずよ」
彼の分析の元、結論が出る。これなら奴を
そう、この下らない戦いにようやっと終始符を打てる。
「しかし、なんとも哀れなものね」
私はクリュティオスを含む巨人共へと目を向ける。無数に存在するそれらは盲目的にあのキチガイ女神を信じているのだから。それは無様で滑稽で、そして哀れだぅた。
「伝えてくるわ。貴方は援護を続けて頂戴。無理しちゃ駄目よ?」
「御意」
彼が再び飛び出したのを見送り、私も転送魔法を展開する。宙に浮く私の足元が赤く光る。向かう先は最近出来た友人の元。
(今回は頼りっきりね)
なんだかんだ色々振り回しても、文句を言いつつついてくる彼女。自分では無頓着と言いながら、その実かなり周りを気にかけている。何とも不器用なのだろうか。まあ、確かに無頓着な所もあるのだけど。
そういえば私も同じような理由で不器用と言われた事がある。そう言った奴は……おっと止めよう、イラッときたわ。
ともあれ、もしかすると彼女と私は、何処か似ている所があるのかもしれない。なんだか放っておけないのはそんな理由なのかもしれない。
「この戦いが終わったら何かお礼をしないといけないわね」
何が良いかしら。やっぱりお酒かしら?いやお酒ね。沢山の酒と宴会にしましょう。もう一回あれも見たいしね。きっと喜ぶはず。
「儚」
「何?」
丁度攻撃の小休止にヘカーティアが声を掛けてきた。合間を見計らったのかな?
「あんまり長いこと話できないよ?」
何故かクラウンピースの攻撃が奴の急所なのはわかったけれど、ようやく戦況は五分と言ったところ。
流石に警戒してか、一向にクラウンピースの攻撃が当たらないのだ。足止めをしようにも彼女しか有効打が無いので難しい。精々彼女への攻撃を妨げる位しか出来ない。クラウンピースに致命打が当たるのが最悪のシナリオだ。
ともかくようやっと均衡を保っているわけだから長い間私が戦闘から抜けるのは好ましくない。
「大丈夫よ。そんなに時間は取らないし、何よりこれで終わるはず」
彼女には何かが解ったらしい。ようやっとこの戦いに終わりが見えた。
私はリュン君の分析結果と彼女の考えとその方法を聞かされた。
「それ全部本当?」
「ええ」
私は左手を口元に持っていき思考する。
聞かされたその話は何とも言えない内容だった。奴の力の本当の仕組み、そしてそれへの対抗策……
そういう理屈なら私がなんとか出来る、はず。多分。不安要素は有るが。
しかし、それはまあ何とも救いのない――まあ、今は気にしてもしょうがないか。
とりあえず不安要素を彼女に伝える。
「それだとクラウンピースに負担が掛かるよ」
「そうなの?」
「そりゃあ容器そのままで水の量を増やすような物だからね」
「そう……」
「まあ、きっとやってくれると思うよ」
彼女ならヘカーティアの為ならそれくらいやってのけそうな感じがするのだ。なんだかんだヘカーティアに懐いてるし。
その作戦を遂行することに決め、私はクラウンピースの元へと向かった。
宙にふわりと浮く三色の妖精に声をかける。
「クラウンピース」
それに答えるように身体ごとぐるりと此方を向くクラウンピース。おいこら、無防備すぎるだろ。
「ん?友人様どうかした?」
「あ。そんな余所見しちゃ……」
「死ねぇ!!」
「ぎゃっ!その大きさは反則!」
いや、声を掛けた私も悪いんだけどさ。もうちょっとこう緊張感を持って欲しい。
その隙を奴が見逃すはずもなく。クリュティオスの叫びと共に投げられた岩がクラウンピースに向かって飛んでくる。
「いい加減投げ石は飽きたって」
私は半ばうんざりしながら呟く。とは言うもの、もともとこの辺は荒野で他に投げるもの等は無いから仕方ないと言えば仕方ないのだが。いや、そもそも投げるなって話よ。
能力で加速し彼女の前に回り込み手を突き出す。私ももっと魔法とかがちゃんと使えればもっとスマートな感じに処理できるんだけどなぁ……。
私の手に触れた瞬間、その岩は木っ端微塵に砕ける。
「さっすが友人様!」
「おだてても何も出ないってば」
調子に乗りやすいのが彼女の長所だ。一緒にいて楽しい。たまに短所でもあるけれど。
「少し話があるんだ」
「?」
何はともあれこの戦いを終わりにしよう。
「という訳なんだ。それで、クラウンピースはやる?」
彼女に伝えるべき事を伝え、後は判断を委ねる。どうしても彼女の力が必要……妖精でありながら、この場から逃げ出さず、戦う彼女にしか出来ない事のだから。
「アタイは――」
ここで断られると、まあこちらとしては辛いのだけど。危険を伴うから断られても仕方が無い。でも…彼女なら恐らく。
「アタイはやるよ。だってそれでこの国と……ご主人が助かるんでしょ?だったらやらない訳ないよ。それにもし駄目でも『一回休み』なるだけだからね」
彼女はそう言った。
……よかったねヘカーティア。クラウンピースは貴女の事を結構大切に思ってるみたいだよ。
「妖精らしくないね。もっと自由気ままなもんだと思ってたよ」
「へへっ、アタイは普通の妖精とは違うんだぜ!」
何はともあれ話は着いた。後は実行するだけ。暗くなってすぐに始まったはずなのに、もうほんのり空が明るくなり始めている。戦いの時間の長い短いはよくわからないけど、個人的には既に凄く長く感じた。
「にしても友人様は随分ぶっ飛んだ事を考えるね」
「そう? 割とありきたりな展開じゃないかな。上手く行くかは私達次第ってね」
きっと上手くいく。上手くいかせてやるさ。
「それに大丈夫なの?一緒に居たら友人様も無事はすまないと思うけど」
「その辺も大丈夫。もしダメでも私も『一回休み』になるだけだし」
「友人様のは何か違うような……」
腑に落ちない顔をしてるクラウンピース。気にしない気にしない。
ともあれ先の見えなかったこの戦い。もうすぐ終わる。
◇◇◇◇
「お待たせっ」
「……」
クラウンピースと儚が戦線に戻ってきた。どうやら話は付いたらしい。
「どう出来そう?」
「あったりまえじゃん! ご主人、アタイに任せなって!」
どうやらやってくれるらしい。なし崩し的に私の部下になったけれど、今は信頼できる。その小さい身体に思い役割を課すのは少し嫌だが、彼女を信じよう。
「作戦など立てたところで無駄だ。少し焦ったが、その妖精程度では我は倒せん」
「へっ! 弱い犬ほどよく吠えるってね! アタイを舐めてもらっちゃ困るよ!」
得意げにそう言ったその背中は今回ばかりは彼女は非常に頼りになる。
しかし弱い犬云々は何かの諺だろうか? そういえば彼女の出自を良く知らない。
今度聞いてみよう。そう、この戦いが終わったら。
「いっつつ……ヘカーティア。これで決めよう」
「ええ…大丈夫?大分息が上がってるけど。」
儚の様子がちょっと怪しかった。思った以上に能力の負荷が大きかったのかもしれない。
「へっ?ああ、うん。だ、大丈夫、だよ」
そう言ったら儚がやけに慌てた様子を見せる。これまでの付き合いで彼女が割りと出鱈目な存在であることはわかっている。よっぽどのことが無い限り大丈夫だろうが、そんな負荷を友人にかけてしまう自分の無力が恨めしかった。
「ご主人! 私達二人で仕掛けるから。ご主人と他の二人には援護を頼むよ」
「ええ、わかったわ……!」
儚の能力で力が増しているせいだろうか、クラウンピースの様子がやけに落ち着いて感ぜられる。
これなら安心して送り出せる。
「行ってきなさい!」
「ラジャ!」
二人は飛び立った。
◇◇◇◇
私達二人は奴の周りを飛び回り、炎弾を撃ちまくる。
……友人様の底の知れなさがわかる。当然私も苦しいのだけど、それ以上に扱う力の量が半端じゃない筈なのに、全くその様子を見せない。それになかなかの演技力だと思う。
「妖精風情が我の動きについて来れる訳がない!」
巨人は言う。ああ普段ならそうだろう。妖精である私は種族的に劣るからだ。けれど、今は見える。その姿を追える。友人様の炎弾を避けるその姿が終えるのだ。
「アタイをなめるなよ!」
そう言った『アタイ』は複数炎弾を放つ。それらは巧妙に奴の逃げ場を奪うように向かう。
「っちっ!」
舌打ちをしたクリュティオスは地面を凹ませながら素早く動く。震える地面が空気まで揺らすみたいだ。
「多少はやるようになったが甘いっ!」
炎弾の収まった一瞬を狙って再びクリュティオスが地面を抉る。
「非力な貴様は我に勝てん!」
先程より数倍でかいそれは『アタイ』向かって放たれる。けれど今の『アタイ』にそれは通用しない。
「クリュティオス、チェックメイトだよ。」
そう呟いた『アタイ』はいきなりそこから消えた。
「なんだ……と!?」
正確には消えたのではなく、それぐらい速く動いたのだ。力の増しているアタイにもその姿は見えなかった。巨人に突っ込んだ『アタイ』はそのまま豪速で巨人を地面に叩き潰した。妖精の範疇を遥かに越えたその速度に完全に不意を打たれた巨人はバランスを崩し倒れる。
「お前は……!」
「もう、終わりにしようか。」
巨人の上に乗った『アタイ』……もとい友人様は薄紫の炎に包まれ、その姿を変える。
「ほら、クラウンピース!あんまり押さえてられないから速く!」
友人様は立ち上がろうとする巨人をその能力を駆使して押さえ込む。何時も涼しそうなその整った顔に余裕がない。かなり無理していることがわかった。
「わかったよ!」
『友人様』の姿からいつもの三色の服と帽子に変わったアタイは手に松明を現す。
「……っう」
いつもの数十倍はある湧き上がる力に、身体の内側が熱い。爆発しそうだ。でも――
「アタイはやるって決めたんだ……!」
松明に火を宿す。アタイの…自然の力を宿した炎を。
「くそが!」
「逃がさないよっ!」
友人様が巨人を押さえ込む。アタイは最大まで強化されたその松明を持ってまっすぐと進む。
「やめろぉぉ!!」
「いけっ! クラウンピース!」
奴と友人様の真上まで来たアタイは、松明に全力を超えたその力を込めとんでもない大きさの火を灯す。その力の大きさに自分の体まで吹き飛ばされそうだ。
「うおおぉぉぉ!!」
それを耐えるために、気力を振り絞るために声を上げる。これで終わらすんだ。アタイが終わらすんだ……!
「喰らえっ!」
その松明に灯った巨大な炎を巨人に向かって振り落とした。一瞬の間が空く。その間が酷く長く感じた。
「がああああああ!!!!」
そして直後醜い叫び声とともに激しく巨人が燃えだした。
「うがぁうああ……!」
「逃さないって言ってんだろ!」
その体を燃やし煤を出し、そして所々溶けている巨人。暴れてどうにか炎から逃れようとする巨人を友人様が押さえ込む。友人様も熱いだろうに。
「はあああっ」
でも躊躇はしない。ここで中途半端にしたら駄目だ。それこそ友人様の努力が無駄になる。それにあの優しいご主人の為に退けはしないのだ。
「いけえええええええ!!」
アタイの最後の一撃に辺りが激しい光に包まれた。
◇◇◇◇
「終わった、わね」
もう周りには一体も巨人の姿はない。奴の消滅と共にすべて消え去ったのだ。
「終わったね」
呟くように言ったヘカーティアに私は返答した。彼女が目を少し細めて見る先には焼け焦げた地面が有った。
「まさか入れ替わってたなんて。私も全然気づかなかったわ」
「気づかれないように色々細工したからね。敵を騙すにはまず味方からってことだよ」
自分とクラウンピースに変化の妖術をかけたり、彼女の力を少し分けて貰って、それを能力で増やしつつ行使したり。この能力が無かったらどれもとても無理な事だった。
しかし、まあ、ぶっちゃけ維持するのが大変すぎたので、もうやりたくない。頭が割れそうな位い痛いし、足の着いてる感覚が怪しくなるくらいフラフラだ。
「向きと大きさねぇ……まさかピースの力があんなに強大になるとは思わなかったわ。流石ね」
「私も初めてやったから、上手く行って良かったよ、ホント。それに誉めるなら私じゃなく、その子を誉めなよ」
ヘカーティアの膝元ですやすや寝息をたてているクラウンピース。あどけない顔の彼女だが、この戦いでの一番の功労者は彼女だろう。
「そうね。本当よく耐えてくれたわ」
「……ん。ごしゅじん……」
ヘカーティアが優しく髪を撫でるとそんな寝言を漏らした。流石地母神というだけ有って母性の格が違う。そんな二人の姿は凄く絵になる。そうだ――
パシャリ
「……いつの間に取り出したのよ。カメラといったかしら?」
「そうそう。いやーこの顔は撮っておかないとと思ってね」
呆れ顔で見つめるヘカーティアをよそに私は空間を開けカメラを元に戻した。疲れてるのに何やってんだと言われるかもしれないが、可愛い子の写真を撮るのはもはや私にとって使命なのである。
「本当上手くいってよかったよ」
私は『大きさと向きを操る程度の能力』によって妖精に撮って力の根源とも言える、『自然そのものの力』を出来る最大まで『大きく』したのだ。
もし、クラウンピースが耐えられなかったらいろいろと木っ端微塵だったかもしれない。そんなの考えたくも無いけど。
「そんな事言って、ちゃんと補助してたじゃない。ギリギリまで貴女が力を制御して。貴女のそんな必死な顔初めて見たわ」
「はて、なんのことやら」
「全く素直じゃないのね」
何はともあれようやっと終わったのだ。
「ヘカーティア様、見回り終わりました」
薄青の髪の少女と白金の髪の青年が降りてくる。
「どうだったかしら?」
「もう何も怪しいものは居ませんでしたよ。」
メディアはそう答えた。巨人達の脅威が去ったのも確認した訳だしこれで本当に終わりだ。
「これでこの戦いは終了。祝いにぱあっと宴会でもしましょう。」
そんな事をいうヘカーティア。宴会って私も飲むんですか……。
「当たり前じゃない」
「ええ……私ヘカーティアと飲むたびに途中の記憶が飛んでるんだけど。」
「ふふふ、気にしないの!」
にやにやとするヘカーティア。ちょっとまてその時私は一体何をしたんだ……?
「まあ良いじゃない。帰りましょ」
「ええ……気になるんだけど」
まあそれは今考えても仕方ないか。もうここに用事は無いのだし帰るとしよう。
ふとクリュティオスの居た場所が目に入った。当然あの巨人はもう居ないし、残るのは焼け跡ばかりである。
「……なんだか哀れだったよね」
あの巨人は狂おしいまでにその主である原初神を信じていた。しかし、その実恐らくだがその原初神にとって捨て駒でしか無かったのだろう。
「はあ……儚、貴女は良くも悪くも他に入れ込みすぎるわ。私はそれに助けられたけれど、貴女のその優しさを利用する者もいるのよ」
「ヘカーティアに言われたくは無いなぁ」
「なっ!」
クラウンピースの力、と言うより『自然の力』が奴に良く効いたのはやつのその作られ方にある、らしい。詳しいことはヘカーティアとかリュン君に聞かないとわからないけど。
奴は自然の理から外れし者と自分を謳っていたが、その実際は違ったのだ。奴はただ出来損なりなだけだった。自然に生きることのできなく、また自然から離れるほど無機質でもない。まるで中空に浮くような、境界線上の存在としてクリュティオスら『ギガース』が生み出されたのだ。その中途半端さ故、神の庇護下には入らないが、妖精のようなちゃんとした『自然』には叶わなかった、ということらしい。
……正直原理よくわからないけど。
まあそれは別に良いのだ。ただ単に奴らは妖精の力に弱いということだから。それよりこの後が問題だ。そんな中途半端な存在がその後もこの世界で生きていけるのか、答えは否だという。当然この世界には自然が満ちてる訳で、どうやっても世界と自然は切り離せない。
だから奴らは私たちに勝ったとしても端から未来など無かったという訳だ。
最悪クラウンピースの手が失敗した場合奴の存在が揺らぎだすまで粘るみたいな脳筋なプランも有ったわけで。
原初神。手下を駒としか思っていないその様は、まあなんというかコテコテの悪役っぽいね。
「一体どんなやつなのやら……」
いっそ会ってみたい気すらするね。
「ふふっ、こんな奴よ。」
ぞわりと雰囲気が塗り替えられた。確かなはずの地面が震えるような、流れるはずの空気がピシリと凍るような、そんな圧倒的な存在力。…ここでラスボス登場っていうのは笑えなさ過ぎる。
「やっぱり中途半端な子達ねぇ。次はもう少し考えないと。それにしてもそこの妖怪。すごく面白いわ。片田舎の女神が入れ込むのも少しだけわかるわねぇ。最も入れ込みやすいのは元からねぇ」
妖艶さが溢れ出しすぎてもはや見えるんじゃないかと思う位惹き付けられるような感覚とともに、コイツとは関わっちゃ駄目だという恐怖を感じる。それが私の妖怪の部分か人間的な部分から来るのかわからないけど。
「……おい、何をしに来た。アンタの狙いはあの男たちでしょう。私達は関係ないわ」
「そうなんだけどねぇ。ここが最後だったからちょっと見に来たのよ。自分の子達の活躍を見たいじゃない?」
怪しすぎるその口元が弧を描く。
「それに貴女もそんなちんけなことに力を割いているのに、十分にあの子達と渡り合えるじゃない?私にとって、それは少し面白くないのよ」
そう言いながらその神は軽く指を振り、地を
「あなた達は私の世界に要らない」
そこから漏れ出すのは黒いもやに、白や灰色の煙のようなフワフワしたもの。前者は瘴気とでも言えば良いだろうか。後者は……幽霊……いやもしかして魂その物なのか……?
「もううんざりしちゃった。あの子達は私の可愛い子どもたちをどんどん始末していくんですもの」
それだけじゃあない。もっとえげつないものが居る。地面から現われる。
「だから私が住みやすい世界にするの」
大きさは先の巨人の比じゃない。文字通り空を覆っていると言っても過言じゃない大きさ。そして方から生えた無数の蛇にグニャグニャな頭足類のような足。
ゴオオオオ!
前後不覚になるような、天地が揺れる咆哮が発せられた。
「だからあなた達も協力してね」
それは地獄を体現した怪物だった。
「ご、ご主人……」
いつの間にか目を覚ましたクラウンピースが、いつもは快活なはずのその顔の色を悪くしている。私でさえ解るアレは駄目な奴だ。
「…儚。他の三人を連れて逃げて。」
まあそうなるよね。でもさでもさ。
「あれから逃げられる気がしないんだけど。」
この世の終わりを体現したようなアレから逃げる術が有るのか。というか奴の言葉通りなら世界は一度終わるのでは無いだろうか。
「私が時間を稼ぐわ」
「……ご主人。アタイも残る」
そうクラウンピースが言った。
「私も同意見だよ。どうせ無理なんだから当たって砕けろ精神みたいな。寧ろ砕けて本望みたいな」
「私もです!」
メディアが同意しリュン君が静かに頷く。
「そういう次元の相手じゃ無いのよ」
「だからこそだよ」
私たちはヘカーティアと数瞬見つめ合った。
「はあ…」
先に折れたのはヘカーティアだった。
「やるからには勝つわよ」
「当たり前だぜ!」
クラウンピースが元気に言う。手足を震えてるのを隠せていない癖に。
「何処までも付いていきます故」
「私もです。貴女の巫女ですから!」
さて最後の決戦と行こうじゃないか。これをさっさと終わらせて早いこと宴会を開くのだ。
「行くわよ。」
ヘカーティアが声を皆に声を掛ける。それに返答しようとしたところで……
私の視界が歪んだ。
そのまま地面に倒れ込む。
……えええええええ、ここでかよ。
流石に限界だったぽい。能力の使いすぎでもう力すら入らない。リセットするにもするための力がない。皆が何か声を掛けているけれど何を言っているかわからない。私を抱えたヘカーティアは若干呆れたように、しかし優しく私の体を横たえた。
そのまま怪物との戦闘が始まった。ラスボス戦前に倒れるとか冗談じゃないよ……
辛うじて認識できた光景は特大の魔法陣を現す二人のヘカーティア、そして天から差す光に包まれた男性の影――
そこで私の意識は途切れた。
神話に合わせる都合上これで戦闘終了です。
俺たちの戦いはこれからだ、エンドに乗っかれない主人公ちゃんエエ……
ちょっと物足りない気もしたのですがぽっと出のオリキャラの独壇場になってしまうので無慈悲にカットです。
感想あれば是非。次回で二章終了です。