東方死人録   作:nismon

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九話 最後はハッピーエンドってね

 

 目を開けるとそこには知っている天井があった。

 

 ふむ。少し前に、長々とセリフについて思考する切っ掛けになったあの天井だ。つまりここはあの都の宮殿。なんやかんやで戻ってきたのだろう。

 

 ……いや、まさかと思うけど、リセットしたとかじゃないよね。

 自分の命だけじゃ無く時間まで巻き戻ったらもう色々と絶望だ。もう一度巨人との死闘をやり直さなければならないとか最悪すぎる。どんだけこの世界は私に嫌がらせをするのかと……少し不安になってきょろりと周りを見渡す。

 よし以前目覚めた時ののお世話係の女性は居ない。どうやら死に戻ったわけではないらしい。

 天井は確かに前見たときそのままだし、古代宮殿風な造りの部屋も変わっては居ない。それだけだとやっぱり死に戻りしたんじゃと不安になる。

 けれど、確かに変わっている物が有ったので時間が繰り返している訳ではないようだ。

 だがしかしけれど、but、although。

 その事実確認は私の心を安らかにしてくれなかった。むしろ、私は混乱の淵にたたき落とされた。

 

 何故かって?

 

「やぁ、お目覚めかい?ハニー」

 

 

 全裸の男が私と共に寝ていたからだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

九話 最後はハッピーエンドってね

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 「そんな顔して。どうしたんだい?」

 

 いや、こっちが聞きたいわ!

 爽やかに私に語りかけてくる金髪の青年。現在私と向かい合うようにベットに寝ている。

何故だ。

 尚上裸。下は……見たくないです。見た目の年齢は成人したてぐらいだろうか。少し胡散臭いのだけど何か惹かれるその整ったその顔。

 口元をゆったりと綻ばせた彼は手を伸ばして私の頬を優しく包んだ。柄にもなく胸が高鳴るのを感じる。余りに鳴りすぎてはち切れそうなくらい。顔も熱い。あ、いい匂い。

 

「昨夜あんなに愛を育んだじゃないか。」

「ふぇ?」

 

 衝 撃 の 事 実

 

 はっ!? えっ? いや何ソレ!? 私いつの間に一線を越えちゃったの!

 というか妖怪ってそういうこと出来るの!? いや、この体になってからそういうことした事無いんだけど。つまり私はこの人に女として大事な物を……!? 

 いや、というか私は女なのか!?最近そういえばナチュラルに女の子として過ごしてるけど!

 待て待て前世は……そう俺は男だぜいえい。

 

「まだ足りないのかい? 仕方ないな……なら慰めてあげよう」

「えっ!いや、ちょ!」

 

 顎に添えられた手が私の顔の角度を調節する。向いた先、目の前にはイケメンの顔が。互いに合わさった目はもうそのまま動かない。何処までも深いその金の瞳に吸い込まれるようだ。緊張で私の動きは止まる。

 

「大丈夫、優しくするから」

「ひ、ひゃい!」

 

 微笑んだ彼はそのまま私の方に顔を近づけてくる。その距離はあと20cm…10cm…5cm…

 さよなら私のふぁーすとキス……!

 

 

「なにしてんのよ!!」

 

 怒号と共に私の目の前が爆ぜた。比喩でもなんでも無く爆ぜた。

 正確には私のいる部分を残して、ベットと眼の前の彼が空間ごと消え去った。

 

「へ、ヘカーティア!?」

「儚、無事!?まだ手出されてないわよね!?」

 

 私を心配してなのか、かなり焦った様子で寄ってくるヘカーティア。

 無事かどうか……私の純潔についてということなら、混乱の中で聞いた会話的には、もう既に一発やった後のような気がする。ああ、さよなら私のヴァージン……

 

「大丈夫よ。朝まであなたは一人で寝てたわよん。コイツの出任せよ」

 

 頭に手を添え、ため息をついて言うヘカーティア。どうやら私の純潔は護られたらしい。

 

「私が貴女から目を離した隙を目ざとく突いてきたのよ、女の(コイツ)は」

「痛いじゃないか、ヘカテ。まあ、僕はそんな君のことも愛してるけどね」

「黙れ、このクズ」

 

 辛辣な言葉を吐くヘカーティア。その対象であ人物、彼女の魔術によってベットごと吹き飛んだ筈の青年。彼は何事も無かったようにそこに立っていた。

 ちなみにいつの間にやら服を着ている。

 

「改めて初めまして。君は僕のことを知ってるみたいだけど、自己紹介はちゃんとしておかないとね」

 

 飄々としているし、顔に貼り付けた笑みは人畜無害そうだ。さっきまで私に害を成そうとしていたというのに。

 しかし、まあただ者じゃあないという事は強く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、今回の事を話そうか」

 

 そう始めた金髪イケメン。場所は王座の間。居るのは私と彼とヘカーティア、クラウンピースだけ。リュン君ら神官達は先ほど退室した。机の上には会談らしくマグカップが置かれお茶みたいなのが入っている。

 

「ねぇ、結局あの後どうなったの?」

 

 私としてはそれが一番気になる話。倒れた後、無事にここに戻ってきていることから、無事あの怪物と女神の後始末は終わったようだが――

 

「最終的にこいつが全部片づけたわ」

 

 頬杖をついて、少し口を尖らせながら言うヘカーティア。不満な様子が滲み出る。どうやら彼が一人であの化け物と女神を片付けたらしい。あんなの倒せる訳が無い……と普通なら思うが、彼の名を聴いた後だと納得だ。

 流石だね……って私が言える立場じゃ無いけど。先ほど名前を聞いてそのぶっ飛び加減がわかった訳だし。と言うかヘカーティアってへカテーだったんだね。余り神話に詳しくなくてもそのぐらいは知っている。

 果たして私はこの二人と同じ席に座っていて良いのだろうか……

 

「ああ、そんなかしこまらなくても良いよ。僕は可愛い女の子が好きなんだ」

「……何だかなぁ」

 

 全知全能の神と言っても過言でない存在がコレである。もう色々突っ込み所が多過ぎて……ああ、神様は何故変な奴しか居ないのだろう。あんまり気にしても疲れるだけな気がしてきた。

 

「相変わらず節操がないのね。浮気しまくって挙句この前は人間に手を出したんだったかしら?それなのに、今度は妖魔?」

「ははっ僕はどんなレディにも誠心誠意接してるからね。そこに差は無いんだよ」

 

 何だか答えにならないような。

 

「それに英雄を誕生させるために、彼女との交わりは必要だったんだ」

 

 ま、勿論彼女のことも愛してるけどね。と本心なのか建前なのかよくわからないことを付け足す彼。

 しかし英雄か……。もしかしたら私も名前を聴いたことのあるような人なのかな。

 

「それに君こそ相変わらずだよ。ギガース達はともかく、あの怪物くらいどうにかなっただろう? いや、本来ならギガース達にあんなに追い込まれる事も無かっただろうに。核を3つ全てを都に置くなんて馬鹿な真似はやめろってアレほど……」

「黙りなさい」

 

 彼の話を強く遮るヘカーティア。3つの核……?

 

「……はぁ、入れ込みすぎるのは君の美点であり短所だよ」

 

 いつだか聞いたような事を言う彼。そしてそんな彼を射殺しそうなヘカーティアの視線。

 それを全く気にせずに、彼は苦笑する

 

「話がそれてしまったね。いや正確にはヘカテのこれからに関係するから逸れてはいないのかな? アレの話をしよう」

「アレ?」

 

 生憎と寝ていたので何が起きているのか私にはわからないのだ。

 もしかしてまだあの怪物が生きてるとか?

 あるいは何かあのクソ女神がまた何かしでかそうとしてるとか?

 

「ははは、クソ女神とはなかなか言うね。アレでも僕の叔母さんなんだ多めに見ておくれよ」

 

 彼の……叔母さん? 神話の中でもずば抜けて名高い彼のその生みの親の親の子とか……というかそんなに高位な存在なのに気に入らないから世界を作り替えるとか……いや、止めよう。余り考えすぎると頭が痛くなる。

 

「それで叔母さんとタルタロス…そうだねぇ儚ちゃんには『地獄』と言ったほうがわかりやすいかな。その二つが交わってあの化物が生まれたわけなんだ」

 

 地獄? それって子供を産める系の物だったっけ?

 

「まあ、人間的に言うと可笑しいけど、そういうものなんだ。なんたって神様なんだから」

 

 なんでもありだな神よ。もう驚かされないよ。もはや半ば呆れつつある。

 

「そういう経緯で彼の化物が生まれたわけなんだけど、アレが顕界に出てきちゃったのが問題でね。あ、顕界っていうのはこの人が住み神が見守るこの世界のことだよ」

 

 説明を織り交ぜてくれるのはわかりやすくて助かる。何がどう不味いのだろうか?

 

「うーん、もしかしたらもう気を失っちゃってたかな? あれが地面から出てきた時一緒に何か出てきてなかったかい?」

 

 地面から? あの瘴気とか、後は白いふわふわした奴かな。

 

「そうそう。あれはいわば魂の残り滓みたいな物なんだ。怨霊とか瘴気とか。本来はあれは地獄内で何やかんや処理される訳なんだけど、あの化け物のせいでそれが上手く行かなくなっちゃってねぇ」

 

 本来認知されないままに完結していた地獄が、此度の件で崩れたらしい。

 地獄。罪のある物が死後行く場所。閻魔大王が仕分けるんだったか。いや、それは日本の話だから此処ではどうかは知らないけど。

 ともかく地獄が機能しないという事に問題があるようだ。

 

「このまま機能しないとどうなるの?」

「そのうち顕界が地獄から溢れた魂達によって満たされてしまうね。」

 

 あの黒いもや、そして死人の思念の残る怨霊。そんなもので満たされた地上。ろくな未来でないと思われる。

 

「……満たされるとどうなるの?」

「当然常人が生きていける環境じゃなくなるだろうね」

 

 だろうと思った。つまり地上が地獄と同化するわけだ。

 

「いや、そんなのダメでしょ。」

 

 地上から人間が居なくなる。流石にそれは大惨事過ぎる。そんなヤバいこと放置してたら駄目であろう。

 

「ふむ…何で、駄目って思うのかな?」

「えっ?」

 

 何でってそりゃ……歴史的に。あれ……?

 でもこの世界は別に違くても良いのか。いやでももし人間が居なくなったら……でもまあわたしは妖怪で……いやいや、そもそも……

 

「僕等は神様だからね。信仰に応えないとその存在を人々に知ってもらえないわけだ。そうしないと顕界に長く居られなかったりするわけだけど」

 

 それはそうだけど…また随分と利己的な話だ。本心からそう言っているのか、はたまたわざとそう言っているのか。

 そのニヤついた顔からは読み取れない。

 

「でも君は違うだろ? 理から外れた姫君さん」

「いやでも私は――」

 

 私は……何だ。一体どうしたいんだ……?

 

「君は一度見限ったんじゃないかい?」

「っ!」

 

 私は一度「生」を見限った。自らその生を絶ったのだから。なら私は、そんな私は――

 そこで不意にぽんっと優しく肩に手を置かれた。

 

「あんまり彼女をいじめないでくれるかしら?」

 

 ヘカーティア……

 

「酷い顔してるわよ。今は忘れなさい。そもそも生物が住めない地上なんて良いわけが無いんだから。貴女の常識に間違いは無いわ。遊ばれてるだけよ」

「え、あ、うん」

 

今は忘れよう。これは駄目だ。

 

「記憶を勝手に覗くなんて褒められた事じゃないわね」

「いや、儚ちゃんがあんまりにも面白いからさ。それにしても随分その子に入れ込んでるね……さっきも言ったけどそれは君の欠点だよ」

「すぐにほいほい取り替える貴方よりはマシよ。……全く。それで結局私に何をやらせたいのかしら?回りくどく話してないで直に言いなさいよ」

 

 私の肩から手を離しひらひら手を振るヘカーティア。嫌そうにはしているが、彼の頼みは受けるつもりみたい。

 

「うん、そうだね。実はあんまり時間もないし」

 

彼は話し合いが始まって以来そのままだったテーブルの上のカップを持ち上げる。一口じっくりと飲み込んだ後、彼はこう切り出した。

 

「ヘカテにはタルタロスに行って欲しいんだ。」

 

 瞬間、空気が凍った。

 

「……それは私にここを離れろって言うのかしら」

 

 ヘカーティアはまだ何もしていない。けれど彼女が話すだけで息が詰まる。それくらい重い。

「何もいきなり全員でって言う訳じゃないさ。一人だけで良い」

 

 やはりそれを何ともないように受け流す彼。

 微笑みはそのままに言葉を続ける。

 

「取り敢えずタルタロスが円滑に機能するように管理して欲しいんだ。清めと贖罪も司る君が適役だ」

「別に私である必要がないわ。冥府の二人に任やらせればいいじゃない」

「二人にも手伝って貰うけどそれぞれ元々の役割が有るからね」

 

 静かに言い合う二人。空気は張りつめたままだけど。…なんで私ここに居るんだろ。胃が痛くなってる気がする。

 

「アナタのお仲間は沢山居るでしょう」

「同じさ。皆それぞれ役目がある。それにきっと君はやらざるを得ない」

 

 彼は手を組みテーブルの上に立て、その上に顎を乗せる。少し細められた目は…ちょっと恐い。

 

「地獄の暴走で一番最初に被害を被るのはここ、この都さ。君が抑えてるようにここは地が裂けやすい。だからこそおばさんも此処で召喚したんだ、あの化け物、デューポーンをね」

 

 こんな事言いたくは無いけど、と少し小さい声で前置きをして彼はヘカーティアに語りかける。

 

「君はもっと自分の事を省みた方が良い。今何をして、何をやめるべきか、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああ、もうムカつくわぁ!」

「飲み過ぎだって……酒くさっ!」

 

 へべけれ女神。向こうのほうで神官たちが頭を抱えているような気がする。

 

「あんな奴、奥さんに後ろから刺されればいいのよん」

「一応めでたい席なんだから愚痴らないで欲しいなぁ……」

 

 首に腕を回し絡んで来る駄女神。もはや中年上司の酔っ払いのソレである。いや上司というよりは同僚か……会社勤めをしたことが無いので、実際はわからないが。

 

「ったく。わあってるつーの! でもあのにやけ顔がムカつくわ!! そう思わない? 思うわよねん!?」

「わかったから、わかったから!!纏わりつくなっ!」

 

 結局彼女は地獄へ赴く事になったらしい。それは彼女にとってそれは不服だった。それだけ彼女が此処を気に入っていると言うこと……まあそれだけじゃ無いのだけど。

 

「ほらほらヘカーティアは凄いんだからさ。もっとちゃんと節度をもってだねぇ……」

 

 私の前世でも彼女の名は至る所で聞いた。それだけ有名な神様なのだ。ソシャゲやラノベに彼女を元にしたキャラが沢山いた。それが神様的信仰を元にしているかというと微妙だけど。

 この世界で神は信仰を元に姿を保つ。もし前世に彼女に準ずる者がいたとしても、もう消滅していたのかもしれない。

 

「凄くなんかないわ」

 

 でもこの世界には神がちゃんといる。けれどそのままは良くないとあの全知全能の神は言った。未来は人だけでその歴史を紡ぐことになる。良いか悪いかではなくそういう物だと。

 今はまだその時じゃ無いらしいが、ヘカーティアは余りにも入れ込み過ぎている。彼女は自分の体の3つの核によってこの地に起こる噴火などの災害諸々を抑えている。そのせいでいくらか

 弱体化しているのだが……

 それはともかく、彼女がここに居続け民を能動的に守るが故にこの都は栄えた。まさに神の加護だ。

 けれどそれは余りに時の流れに反しすぎる。まだ神代だから良いもののヘカーティア無しでは続かない、つまりは人だけでは成り立たないのだから。余り流から逸脱するのは良くないらしい。

 ふはは話が壮大過ぎるぜ。此処に来て以来スケールがデカすぎて訳が解らなくなってきている。そういう小難しい話は他に任せよう。

 とりあえず私が今思うのは落ち込んで酒の入ったカップコロコロ回す彼女はらしくないということ。

 

「はぁ、しょうがないなぁ。付き合ってあげるよ」

「儚……」

 

 カップを取ってヘカーティアに向ける。

 

「宴会は楽しまないと」

「ええ、そうね」

 

 確かに彼女としては色々思う所は有るのだろうけど、今くらい、無事戦いに買った今くらいは心から楽しむべきだ。

 

「そうと決まったら飲むわよん! また酔いきった儚の姿を見たいしね!」

「……ちょっと待って。酔いきった私って何さ?」

 

 この前の酒飲みで途中の記憶が無いのと関係がある気がする。

 

「まあ良いじゃない!」

「え、ちょ。あ! 一気は無理だっ……」

 

 この後めっちゃ飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飲まされまくった私は何とか気を失う前に、ようやっとヘカーティアから解放された。というか逃げた。頭はふらふら、胃の中はぐるぐるだ。

 現在酔いを少しでもマシにするため、屋根に上り夜風に当たっている。石造りのため接地するお尻と手の平が少しひんやりする。

 

「まだ宴会中じゃないの?」

 

 私は前を向いたまま声を掛けた。後ろに感じる気配は見知った気配。思い返せば転生した直後はこんな事解らなかった。

 どうにも色々戦闘をこなす内にそういった力も育っているようだ。さすがは妖怪、化け物なだけはある……なんてね。

 

「儚様にお話があります」

「そんな畏まらなくていいって。私は神じゃあ無いんだし」

 

 礼儀の正しく青年リュンは話し出した。

 

「まずは感謝を。ヘカーティア様を助けて下さり本当に有り難うございます」

「だから別にそんな改まって言わなくても良いのに……」

 

 私が彼女に助力したのは頼まれたからでも有るけど、なによりヘカーティア自身に感謝しているからだ。再び前を……前を向くきっかけをくれたのだから。もしヘカーティアに会わなかったら今でも空を漂っていたに違いない。

 

「そんな事はない。貴方は偉大なのですよ。神ではないとおっしゃるが、少なくとも民は貴女を神のように崇めている」

 

 人を導く神様。ヘカーティアと同じような立場に私がなれるはずもない。そもそもなる資格が無いのだから。

 

「私は妖怪だよ」

 

 それも出来損なりだ。過去と決別できずどっち付かずで中途半端な。そのせいで幾度も後悔するようなちっぽけな妖怪だ。

 

「……それともう一つ。貴女様にお願いがあります」

 

 リュン君は何か言いたげだったがそれは飲み込み、そう言った。

 

「お願い?」

 

 私は体を反らし彼の方を向く。

 

「ええ、お願いです」

 

 お願い。それはつまり私に強制される筋合いは無いもの。けれど、彼は優しい笑顔で次の言を放つ。

 

「私はもう長くないのです」

「!? それはどういうこと…?」

 

 彼はもう先が長くないらしい。なんでも目の能力の代償だとか。原初神の創造生物を見抜ける力、まさに神にすら届くようなその力は人の身には思い、と。

 それは……それは余りにも酷すぎやしないか。

 

「ヘカーティアには?」

「伝えてません。あの方は優しすぎる。私と出会った時の様にまた救おうとするでしょう。ともすると自然の理を捻じ曲げてでも」

 

 ヘカーティアならやりかねない……いや、やるだろう。現に彼女は主神から警告を受けたわけだし。

 けど、それよりも何よりも私の頭の中は一つのことで一杯だった。

 

(何故、自分の死期を悟ってそんな顔で居られるの?)

 

 きっと彼は聞けば答えてくれるだろう。けど駄目だ。聞いちゃだめだ。だって私は――

 

「それでお願いですが」

 

 慕う彼女のことを考え満たされたように最期を迎える彼と、恐らくは嫌気が差して一度この生を絶った私。

 

「ヘカーティア様のことをどうか支えてあげて欲しい」

 

 余りにも正反対だった。

 

「それは無理だよ。だって私は……」

「よろしくお願いします。儚様」

 

 強い意思を持って私を見つめる目。そこに迷いなどなかった。

 

「……わかったよ。但しヘカーティアが此処を離れるまで」

「ありがとうございます」

 

 安心して微笑む彼。彼にとって何より大切なのはヘカーティアの事なんだ。

 

「ちょっと何二人だけで話してるのよぉ。逢い引きの相談かしらぁ?」

「友人様、神官様たしゅけてぇ……」

「そんなわけ有るはずないでしょ…というか、クラウンピースに潰れるほど飲ませたのか……」

 

 微妙に呂律の回っていないヘカーティアが此方にやってきた。肩には目を回している三色の妖精。

 

「丁度良いわ。リュンも付き合いなさい!今夜は飲むわよん!」

「仰せのままに」

 

 恐らくこの世界はいずれ変わってしまうのだろう。人とそれ以外の距離が開いていく、それがこの世界の未来だと彼の神は言った。

 

「飲ませすぎないようにね」

「じゃあリュンの分も儚に飲ませましょう!」

「いや私が潰れるから……飲み潰れてる間って私はどんな感じなのさ?」

 

 でも、まだ時間は在るらしい。大方科学が発達する近代以降にそれは顕著になるんじゃないだろうか?

 

「それは……フフフッ。ねえ? リュン?」

「ええ、そうですね。儚様も普段からああであれば良いのに」

「……やな予感しかしないんだけど」

 

 まだ時間はある。ならまだ急がなくても良いじゃないか。

 

「……んむ、ごしゅじん……」

「あらあら寝ちゃったわね」

 

 でも出来ることなら……

 

「さあ、飲むわよん!」

 

 彼らのような関係がずっと続けばいいのに、と思わずには居られない。

 

 




二章完。
神と人の話でした。
文字数が増えてく割に話が進まねぇ!…もっと精進します。

次回は幕間、クラピ回。(多分)
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