東方死人録   作:nismon

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クリュティオスと戦うよりちょっと前の話。


幕間 アタイのご主人様

 

 

 アタイはクラウンピース、妖精だ。

 

「クラウンピースちょっとこっちに来なさい」

「どうしましたご主人?」

 

 このやたらキラキラした布の服を着て、頭の上に変な玉を乗せてる女神。彼女こそ私が最近仕えることになったご主人、ヘカーティア様だ。

 

「これを持ってなさい」

「何ですかいこれ?」

 

 まあ仕えることになったと言っても半ば無理やりだし…ホントなら彼女に仕えたくなんかない。アタイは天下の妖精様だ。自然に伸び伸びと過ごしたいのが本心である。

 ……けど逆らえないでしょ! 怒ると超怖いんだって! ホント!

 

「私特製の御守りよ」

「はあ」

 

 ウインクしながら私に渡されたそれは何やら目玉のペンダントのようだった。

 

「持ってるときっと良いこと有るわよん」

 

 ご主人はそう言うけれど、見た目が何とも微妙だ。凄く…何て言うんだっけこういうの。おこがま……わがまま……そうだ、禍々しいだ。

 その禍々しい目玉を首から下げ服の中に入れる。素材の石の冷たさが少しひんやりと肌に伝わる。服の中に入れたのは何度も言うように見た目がアレだから。

 うん、とても幸運の御守りとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 「さあ今日は何をしようかなっ~!」

 

 街の高い建物の上に登りアタイは街を見渡す。とんでもなく大きい街だ。少なくともここに来るまで、アタイはこんなに沢山人を見たことはなかった。そんなに長く生きてる訳じゃないけど。

 夏を超えだんだん寒くなる位の季節。少し肌寒いが、空には澄み切った青が広がり、眼下の方では賑やかな人の営みが聞こえてくる。

 堂々とこの街に居られるのはご主人に仕えるようになって良かった事の一つだ。

 ご主人はこの都の主であり皆から好かれている、そのご主人の部下であるアタイは結構自由に過ごせるというわけ。

 

 「フハハ!絶好のイタズラ日和だぜ!」

 

 妖精はイタズラが好きだ。むしろイタズラの為に生きてると言っても過言じゃないね。

 こんなに人が居るってことは、イタズラして下さいと言われてるようなもんだぜ!

 とは言うものの最近マンネリ気味だ。余り大それたことをやると神殿の魔法使いが出てくるし、細かいことはそもそもやっても楽しくない。

 ……そういえばご主人にイタズラを止められたかとはないなぁ。なんでだろ?

 ともかくこれは大変だ。早急に何か新しいことを考えないと。

 

「およ?あれは友人様。」

 

 食事をする店でテーブルに分厚い本を開き、何だか唸っている。白い服に白髪の真っ白な少女。いつも通り何とも無さそうな表情をしている。

 そう言えば友人様が泣いたり怒ったりしているのを見たことがない。笑ったりはするけど。感情的にはならないというか、起伏が薄いというか。

 ともかくいつも落ち着いているのだ。最初に出会ったときも何だか全部水に流してくれたし……

 

 よし決めた!

 

 あの温厚な友人様をアタイの恐怖のイタズラでどうにか怒らしてやろう。

 

「にししっ」

 

 目的が決まったなら早速行動だ。

 楽しくなってきた!

 

 

 

 

 

 

 

 イタズラその1。狂気の松明。

 

「アタイの力をとくと見せてやるぜぇ!」

 

 友人様の近くに素早く現れ、松明を掲げる。アタイの力でこの松明は見たものに狂気を与える!

 これで友人様はアタイの思惑通り怒り狂う…!

 

「……あるぇ?」

 

 しかし何も起こらない。

 友人様はジトッとした目で此方を見たままだ。前は確かに効いた筈なのに!?

 

「いやあれはリュン君のせいだし、普段なら無効化できるから」

 

 なんだってー!? くそっならもっと力を込めてやるっ!

 

「あ、ちょ。そんないきなり力入れられると力加減が……」

 

 友人様が何か言うと共に私の視界がブレた。

 

「あ、れ?」

 

 意識が遠のく。パタリと倒れる、前から友人様が私を抱えてくれた。

 

「ごめん、いきなり強くするもんだからつい反射しちゃった」

 

 くっ! やられた! 友人様の意味の分からない能力のせいで……!

 強めすぎた狂気のせいでアタイは気を失った。

 数分後に起きたときアタイは友人様に膝枕されていた。凄く寝心地が良かった。

 

 

 

 

 

 

 その2。狂気の本入れ替え。

 

 コップを口元から離しコトッとテーブルに置く友人様。幻想的な容姿も相まって実に上品だ。

 

「駄目だ。わからない! メディアに少し聞いてくるかぁ」

 

 そんなことを言って友人様は席を離れた。テーブルの上の筆記具と本はそのままだ。

 にししっ来たぜアタイの時間が!

 友人様が曲がり角を曲がった直後に、アタイは彼女が直前まで座っていた席に行く。

  懐から本を取り出す。この店の倉庫からこっそり拝借した本だ。これを友人様の分厚いのと取り替える。

 

 うっ重た!

 

 少し本の厚さに驚いたものの無事交換。アタイは再び物陰に戻る。

 にししっ戻って来たら本が勝手に入れ替わっている。この理不尽な現象に友人様は怒りを隠せないはず……!

 数分後に友人様が戻ってきた。

 

「宿題増やされた……聞きに行くんじゃなかったよ……」

 

 何 やらぶつふつと愚痴を言っているが実に丁度良い。鬱屈したところにこの理不尽が襲い、遂に友人様は怒り狂う…!

 

「あれ?…おおこれ料理のレシピ本じゃない。」

 

 んん? 何か喜んでる??

 

「結構色々載ってるなぁ。郷土料理集なのかな? ふむふむ、なるほどなるほど」

 

 そのまま友人様はその本をじっくり読みだした。

 数刻して友人様はその本を読み終えた。実に真剣にその本を読み込んでいた。

 

「あっクラウンピースこれありがとうね。凄く参考になったよ。」

 

 アタイはお礼を言われたのだった。

 ……何故だっ!?

 

 

 

 

 

 

 その3。狂気の虫責め。

 

 ふふっ……あっはっはっはっは!

 2つもかわされてしまうとは予想外だったぜ!だがもう容赦はしない!

 アタイには取って置きがあるっ!

 アタイの手には無数の虫。こいつを友人様が席を立った隙に仕込んでやるぜ!

 

「ふっふっふ、我ながら最高に狂ってやがる……!」

 

 これできっと友人様も怒るはずっ!さあ来い友人様!

 

「飲み物おかわりしよ」

 

 カップを持った友人様が立ち上がる。

 来た、遂にこの時が来た!

 アタイはまるで風のように素早く友人様の席に近づき、まるで流れる川のように虫をセットした。場所は本の裏である。

 そして素早く再び物陰へ戻る。

 これでアタイの勝利だ……!

 

「ふふ~ん♪」

 

 鼻歌と共に友人様がやってくる。そんなに余裕でいられるのも今のうちだけだぜ!

 

「よっこらせっと。…あれ?何か本が浮いてる?」

 

 席に座った友人様はすぐに異変に気づいた。さあその本を持ち上げるんだ!

 

「何か挟まって……」

 

 本を持ち上げた所で動きが止まった。さあ怒り狂え!!

 

(…あれ?)

 

 友人様が止まったまま動かない。どうしたのだろう?友人様だったら怒らないまでも呆れそうなものだけど。そんな様子は無くただただ動かない。

 変わりにテーブル上の虫は蠢いている。

 

「き……」

「き?」

 

 ようやく言葉を発しそうだ。

 

 

「きゃあああああああああああ! む、む虫無理ッ無理ッホント無理無理無理!!」

 

 

 思わずポカンとする。

 友人様は呆れるでも怒るでもなく絶叫したのだった。椅子からひっくり返って、地面を後退りしている。腰が抜けたようで、目は涙目だ。

 

「うう……グスッ」

 

 いやもう殆ど泣いてる。

 あ、炎弾で机ごと虫を燃やしだした。かなり必死の形相。単に虫嫌いというかもはや恐怖心すら抱いている。

 

「予想外だけど…ぷぷっ、ははは!」

 

 堪えられなくなって私は笑い転げだす。予想とは違ったが友人様の意外な一面が見れた。イタズラ的には大成功だ。

 いつも落ち着いている友人様とのギャップが最高だね! 元の目的を果たせなくても十分過ぎる成果だぜ!

 

「ひひっふーふー…あの顔、傑作過ぎるよ」

 

 これだけで今日は楽しめそうだ。出来ることならあの顔を記録しておきたかったね。友人様の泣き顔なんて今後いつ見れるようになるか。

 ……いやまたイタズラすればいいじゃない! アタイって頭良いっ!

 

「それにしても『私って何だと思う?』とか変なことを真面目に考えてる友人様があんな顔をするとはね!」

「変なこと考えてて悪かったね。」

「へっ?」

 

 いつの間にか友人様は私の側に立っていた。さっきまでとは打って変わって笑顔だ。

 何処までも笑顔だ。

 

「私の嫌いなものトップ3って知ってる?」

「い、いえ知らない、です」

 

 笑ってるのに表情がわからないという謎の状態。

 

「一番目は置いておくとして……」

 

 ただこれはわかる。

 

「二番目は『虫』なんだ。それはもう見たら前後不覚になるくらい」

 

 友人様は――

 

「ねえ、クラウンピース。さっきの虫みたいに燃やしてもいい?」

 

 ――本当に怒ってらっしゃる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄を見た。

 あれは……駄目だ。友人様は怒らせちゃ駄目だ。ご主人も結構ヤバかったけど、友人様はもっとヤバい。とにかくヤバい。

 

『一回休みで復活しない向きに変えたら妖精ってどうなるのかなぁ?ねえ?フフッ』

 

 とか私が逃げ回る間に言っていた。恐らくかなり本気で。あの変な能力ならやりかねない。

 とにかく放つオーラが生命、というか存在自体の危機を感じたのだ。

 

「友人様に虫は駄目だ。今度は気をつけよう」

 

 しかし一体何が有ったらあんなに虫嫌いになるのだろうか。謎は深い。

 

「んー、ここどこだろ?」

 

 無我夢中で逃げ出したアタイは街のはずれまで来ていた。ふわふわと地面に近い所を飛びながら周りはなんだか木々が鬱蒼としてて見晴らしが悪い。

 

「……迷っちゃった」

 

 黒くなっていく空。どんどん方向感覚が無くなってくる。

 ポツリと頬に何か落ちた。

 

「うわぁ、雨まで降ってきたよ」

 

 うぅむついてないなぁ。友人様にイタズラした罰なのか??いやでもいつもイタズラはやってるし今更な気がする。

 

「どうしよう……」

 

 初めはパラパラ降っているだけだったのに、いつの間にか本降りになってきた。服が水を吸い肌にまとわりつく。

 

「うぅ寒い」

 

 どんどん体温が奪われて行く。暗くて不自由な視界も相まって少し…心細い。

 

「いやいやアタイは天下のクラウンピース様だ!心細くなんか無いもん!」

 

 ……強がったら余計に寂しくなった。

 とりあえずどうにかこの森から抜けよう。

 そう行動することを決め、足を踏み出した矢先に

 

「かはっ」

 

 アタイは強く横に投げ出された。

 

「っつ!」

 

 そのままぬかるんだ地面を転がり、木の幹に当たってようやく止まる。

 何が起きたの……?

 痛みをこらえ目をあけようとするけど、何かが片目が染みて開かない。

 何とかもう片目を開けるとそこには三頭の犬が居た。アイツに体当たりされたのか。

 

「妖魔……!?」

 

 恐らくは妖魔の類だろう。それもアタイにとっては強力な。

 普段友人様としか関わらないので余り気にしてなかったけど、本来妖魔は人間よりも強く、当然ながら妖精よりずっと強いのだ。

 

「オマエ、ヨウセイ」

 

 片言で話すその口からよだれが垂れる。濡れた地面に着くと白煙が発生した。きっとあれに触れたら溶ける。溶かされる。

 逃げないと……!

 アタイ視界を広げるため染みる片目を拭う。

 

「うわっ」

 

 拭った手にはべっとり赤い血が着いていた。さっきの衝撃でどこか切ったのだろう。

 血を認識すると急に体が怠くなった。動けない。さっきの一撃が大分効いている。

 

「ヨウセイ。デモ、ウマソウ」

 

 三頭の怪物はこちらを目掛けて駆けだしてきた。

 

「くそっ!」

 

 足が動かないので松明を出し、炎弾を放つ。狙いを定める余裕はない。

 

「ガルゥ!」

 

 頭の一つに当たったけれど他の二つは健在。止まる気配なしだ。

 

「こっち来るな!」

 

 止む終えず能力を使う。松明の火力が上がり妖怪の目を照らす。

 

(やった!)

 

 今度は上手くいったみたいで妖怪の足が止まる。二つの頭同士で喧嘩し合ってるみたいだ。

 アタイは動かない足を引きずってこの場から離れようとする。何とか今のうちに…!

 そう思った時奴の頭の頭の一つと目が合った。

 最悪だ。

 あれはさっき炎弾を当てた頭だ。炎弾で怯んでいたから能力が聞かなかったんだ。

 他の二つの頭をよそにその妖怪は私に近づいてきた。その鋭い爪の付いた足が振り下ろされる。その後の衝撃と痛みを想像して、こらえる様に胸元を握った。

 

 チェックメイトだ。

 

 

「はぁい、可愛い部下に何してくれてんのよ」

 

 

 痛みの代わりに聞こえたのは優しい声。

 そう、ご主人の声だった。振り下ろされた足をその手で握っている、いやそのまま握りつぶしそうだ。

 

「ご主人……」

「すぐ終わるわ」

 

 そのまま無造作に妖怪を投げ飛ばし木の幹にぶつける。そして手に魔法陣を浮かべ、次の瞬間すでに妖怪は消えていた。

 あっという間だ。圧倒的過ぎる。

 

「まさか丁度渡した後に、こんなことになるとは」

 

 どうやらあのお守りを通じてアタイの所まで来たらしい。

 

「大丈夫、じゃないわね」

 

 どこからか取り出したタオルで私の血を拭ってくれる。微笑むその目は見るだけで安心する。

 

「おぶっていくわ。乗りなさい」

「……うん」

 

 そう言ってこちらに向けられた背中にアタイは体を預けた。冷え切った身体に温もりが染みる。

 そのまま森の中を進んでゆく、どういう仕組みか雨はアタイたちに当たらない。ご主人様がなにか魔法を使っているのだろう。しとしと葉を揺らす雨の音だけが響く。そのまま言葉は無く森を進んでいく。

 

「ご主人……」

「ん?」

 

 少し経ってアタイは口を開いた。急に不安になったから。

 

「何でアタイを助けてくれたの……?」

 

 アタイは元々ご主人達にちょっかいを出して、仕方なく彼女の管理下に置かれたはず。それならわざわざご主人がアタイの事を助けてくれる理由なんて、有りはしない。

 

「はあ……全く」

 

 ため息を付いてご主人は片手をアタイの目の前まで上げ、

 

「あでっ」

 

 そのままデコピンされた。地味に痛いっ。

 

「妖精が一丁前にそんな事悩んだって仕方ないでしょ」

「むぅ」

 

 なんだか小馬鹿にされてる気分だ。

 

「助ける理由なんて一つじゃない。貴女は私の部下なのよ?」

「でもそれは仕方なく……」

「でももヘチマもないわ」

 

 ご主人は迷いなんて欠片もなく言う。

 

「貴女はクラウンピース。私の部下よ。貴女が無為に傷つくのは私が許さないわ」

 

 ああ、彼女はだからあんなにも皆に慕われるのだろう。何処までも真っ直ぐで優しい。

 

「だからそんな事言わせないわ」

 

 なんだかご主人の事が…いや、ご主人様のことがやっとわかったような気がする。

 

「そっか」

「ええ、そうよ」

 

 実際のサイズじゃないけど、この背中をすごく大きく感じた。体をもう少しだけ預ける。あったかい。

 

「……もう、無理やり部下にしといて何言ってるんです」

「あら、言うようになったわね」

 

 最初は納得行かなかったけど、もう少しだけご主人様の部下でいようと思う。

 

「ご主人……」

「何かしら? ピース」

「……ありがとう」

 

 その一言だけ伝えてアタイは眠りに落ちた。怪我して疲れていたのも有るけど、ご主人様の背中が心地よかったのもある。

 

「あらあら、なんだかんだ言って見た目通り子供っぽんだから。」

 

 うぅ。子供っぽくなんかないもん。

 

 

 




後日
へ「封印したこの妖怪どうしようかしら?」
ク「殺したんじゃなかったんですね。」
へ「そうだ、冥府の二人の結婚祝いに送りましょ!」
儚「絶対喜ばれないと思う」




クラウンピースは妖精の中では頭の回る方のイメージ。三月精読んで少しブレてきてますが…
そして妖精は人間的倫理観に少しかけているイメージ。
山盛りの虫とか普通置かないから!ましてや虫嫌いの人に…

次回から次章に進みます。



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