東方死人録   作:nismon

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五話 情報屋のおじさんはイケメンである

 

 

 

 

 

 

 

 『災厄の魔女』

 

 

 遥か昔、今みたいに建物や道具のない時代のこと。

 

 それはどこかから突然現れました。

 

 金色の髪に漆黒の翼をもつそれは当然ながら人ではありませんでした。

 

 それが指を振るだけで死よりも辛い毒の霧を出し、また星の杖を振るえば殺戮の雨が降りました。

 そして時に人を惑わせ殺し合わせたりもしました。

 

 破滅的な魔法を使うそれは、姿を見て生き残っていた人々に『魔女』と呼ばれました。

 

 現れたそれは悪逆の限りを尽くし、異形のしもべ達を使い人々を襲い、またそのしもべ同士でも殺し合いをさせました。

 

 その異形の物達は後に魔族となって世界に蔓延ることになるのです。

 

 当然ながら神綺様はこの非道な行いを許しませんでした。

 

 けれど神綺様が追い詰める度、魔女は奇怪な魔法で逃げ回ります。そして逃げた先で再び人々を襲い、そして争わせました。

 

 どうにかして魔女を止めようとする神綺様、ですが魔女は賢く、けっして捕まりません。

 

 どうしたものかと酷く悩む神綺様。

 

 そんなときにどこからか天使が現れたのです。純白の髪に翼を持った天使です。

 

 その天使は魔女に追われていました。

 その天使は特別な目の力を持っていて、魔女はそれを狙っていたのです。

 

 魔女をどうにかしたいと思っていた天使は神綺様に協力を申し出たのでした。

 

 それからは二人で協力し徐々に魔女を追い詰めていきました。

 

 そうして神綺様と天使は長い時間をかけながらも、魔女を封印することが出来たのです。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 以上がこの伝説、というかおとぎ話の全容らしい。

 魔女も天使も随分不意に現れるなーとか、神綺以外名前が無いのなーとか。いろいろ突っ込みどころは有るのだが。まあそういうのは、どんな昔話でもある事だ。気にしない気にしない。

 私はそんないい加減な『おはなし』のことよりも、世界の創造神を相手に立ち回る『災厄の魔女』に興味をそそられた。

 

「この魔女についての本って他にないの?」

 

 そんな強力な存在があるのなら調べる価値がある。話を見る限り随分残虐的な性格みたいであるし、あわよくば私を相手にしてくれるかもしれない。死よりも辛い毒っていうのにも気になる。

 まあ封印を解くと周りにもかなり迷惑が掛かりそうなのであくまで一つの可能性程度だが。

 

「……ここにはない。ここは本屋だ。歴史書は図書館で探しした方が良い」

「この街って図書館有る?」

「ない。少し離れた発展したところまで行かねばな」

 

 うぅむ、残念ながらここにはこれ以上の資料は無いようだ。まあおとぎ話だしねぇ。桃太郎の資料を探せと言われても現代の本屋に絵本以外あんまり無いだろう。

 しかし前世のおとぎ話と違うのは、恐らくその『災厄の魔女』の話は本当だということ。

 現におとぎ話の中の神綺が存在するのだから。もし話の内容が間違っていたら訂正なり何なりするだろう。

 

「おじさんは何か知らない?」

「……知らないね。私は嬢ちゃんと違ってただの人だからな」

 

 残念ながらおじさんも知らないようだ。なんか雰囲気的に裏話とか知っていそうな感じだから少し期待してた。

 漫画だったら裏社会の情報屋的な?ちょっとステレオタイプか?

 けれどまあ、フィクションみたいにそうそう上手くはいかない……

 

「って。いま『嬢ちゃんと違って』って言った?」

「……ああ言ったな」

 

 いつバレた?怪しい力は流れないようにしているし、私が人外だという素振りも見せてないはず。

 サラがやたらに過敏だったから私が魔族の類で有ることは伏せておこうと思っていたのに。

 

「……アンタからは人の魔力を感じない。普通の人なら大なり小なり魔力を持っているからな。これでもそういうのには鋭い方でね」

 

 まるで興味が無いようにパイプをふかすおじさん。ゆっくりと白い魔力煙が背の高い本棚に沿って立ち上ってゆく。彼のそんな様子を見ていると何となくはわかるけど一応聞いておく。

 

「それでどうするの?」

「何がだ」

「いや、私は人外だから退治なり何なりするのかなと」

 

 この世界においても人と人外の溝は有る。前の世界ほどじゃないようだけど。

 捨虫の魔法を使ったルイズだって人外と言えば人外だ、

 彼は再びパイプを吸い、そしてゆっくり煙を吐く。

 

「……別段何もしない。魔族だからって皆が皆害悪なわけじゃあない。そう判断する輩も居るがな。これでも長く生きている。それくらいの分別は付くつもりだ」

 

 イケメンだ。これがアニメだったら良い脇役になるだろうな、なんてどうでも良いことが思い浮かぶ。

 落ち着いた大人の雰囲気が良いね。やっぱり情報屋向きだ、このおじさん。

 

「はあ……サラにも見習って欲しいね」

 

 彼女にこの大人の余裕があったらもっと楽に修行が進むだろうに。どうにもあの子は余裕が足りない。

 いや私もあれ位の年だとあんなもんだったか? 自殺するくらいだし。人のこと言えないじゃん。

 

「……サラってのは赤髪の子のことか?」

 

 赤というかピンクだね、ピンク。

 

「もしかしてサラと知り合い? いやーやたらと邪険にされちゃってさ」

 

 邪険というか、初めはまるで親の仇のような素振りだったけどね。

 彼は再びパイプに口に付ける素振りをし、それを途中で止めた。

 

「そうだろうな」

「ん? もしかしてサラの過去に付いて何か知ってるの?」

 

 あからさまに話したがらない本人達に聞く気は起きなかったが、気になるものは気になる。

 

「……詳しくは知らないがな」

「良かったら教えてよ」

「……私が話すべきではないのだが」

 

 いやまあそうなんだけどさ。

 ま、無理して聞くほどじゃないから潔く諦めるけどさ。

 

「――いや、アンタには話しておこう。どうせあの子は自分から話さないだろう。それを知ったからって何かするわけじゃあないだろう?」

「良いの? 確かにそうだけど」

 

 単に興味があるだけでサラに危害を加えるつもりはさらさらない。あっ、今のダジャレじゃないよ。

 

「でも本当に良いの? 本人は話す気無さそうって」

「……だからこそ、きっとあの子のためにもなる」

 

 そう言った彼は一体どういう思いだったのだろうか。

 パイプを再び吸い込み一度煙を吐いてから彼は語りだした。

 

「彼女は十数年前にルイズという旅人がこの街に連れてきた。ルイズというのはそこの棚の旅行記を書いている」

「ルイズのことは知ってるよ。だって今家にお邪魔してるわけだし」

 

 おじさんが示した棚に目をやると一角が同じ背表紙で埋まっていた。著者名はルイズ。

 他の本は割と名字を含めたフルネームなのに、何故かそれは名前だけだった。やけに目立つ。

 

「そうか彼女は今戻ってきているのか」

 

 彼はルイズのことを知っているようだ。

 

「……彼女は本の著者でありこの店の客だ。もっとも、私の代ではその十数年前に一度来たっきりだがね」

 

 パイプのボウルを手で包む。確か温度を確認するため……だったか。前世でパイプなんか吸ったことは愚か、触ったことも無いからわからないけど。

 どうやらオーバーヒートらしく彼はパイプをことりとカウンターに置いた。

 

「ルイズさんはサラを旅先のある村で見つけたらしい」

 

 見つけた、という言い方引っかかりを感じる。おじさんの余り動かない表情にも微かに陰を見えた。

 

「なんでルイズはサラだけを連れてきたの?」

 

 嫌な予感……というよりほぼ確信に近いものを悟る。

 おじさんは右手を使い、緩慢な動作で眼鏡の位置を直す。そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……ルイズさんが着いた時、村にはサラしか居なかった。いや、サラ以外は死んでいた(・・・・・)

 

 そう彼は言った――

 

 

 

 

 

 

 

 ――ああ、あまり面白くない話であった。

 話を聞き終えた私はいくつか本を選び購入する。お金はルイズから借りた物なので彼女には何かお返しをしないとね。

 

「……そうだ、一つ思い出した。『災厄の魔女』についてのことだ」

 

 せっせと収納空間に本をしまう私におじさんはやっぱり何のことは無いように話しかける。

 

「何?」

「……神綺様と『災厄の魔女』との闘いだが…勝った訳では無いらしい」

 

勝っていない? どういうこと?

 

「……詳しいことは知らん」

「またそう言う~。それ本当なの?」

 

 神綺が負けていたら今頃この世界は混沌の渦の中にあるだろう。

 あの話をみる限りだけど『災厄の魔女』はそういう奴だ。人を人とは思ってなさそうな所業ばかりしている。

 

「…神綺様本人から聞いたから恐らく本当だろう。」

 余計意味分からなくなった。

「……私はこの本屋を継ぐ前は研究者だった。その頃にふらりと学舎に現れた神綺様がポロリと漏らした話だ」

 

 ふらりにポロリって、何だか神綺の話を聴く度彼女自身に興味が沸いてくる。本当に創造神なのか? もっと厳かじゃなくて大丈夫?

 

「まあ頭に入れておくよ。色々ありがとうね。それじゃあまた」

「……ああ、精々私が生きている間に来るのを楽しみにしているよ」

 

 その薄い表情は微かに笑っていた気がした。あまり気の利かないジョークで見送られた私は本屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中を進む。シレオの森、だったっけ。

 その名の由来は静かな森。そんな訳だから非常に落ち着いた雰囲気が漂う。森林浴にうってつけだろう。

 まあ、奥に進むほどそこら中木っ端魔族だらけになるので普通はそんな余裕など無いけれど。

 目指す目的地は森に入ってすぐの開けたところ。魔族達はそんなに居らず、日もよく入る。

 そんな運動するのに丁度よい所でサラは修行を――

 

「ルイズさん、それは私が決めることですっ!」

 

 ――している筈なのだけれど、聴こえてきたのは息切れ音でも落下音でもなく怒鳴り声だった。

 

「おーい、どうしたのさ一体?」

 

 私がその場所に着くと、二人は修行の木の下で向かい合って立っていた。

 

「っ!! あんたには関係ないっ!!」

 

 私を見て憎しみの籠もった目で睨みつけたサラ。彼女は駆け出し、そして私を突き飛ばし街の方へ走っていった。

 その大きくはない背中がみるみる小さくなってゆく。そんな様子を見送り、そして私は横で固まっている彼女に声を掛ける。

 

「で、どうしたの? サラがルイズに文句言うなんて珍しいね」

「……ちょっと失敗しちゃってね」

 

 眉を顰め、困ったように笑うルイズ。

 

「やっぱり捨虫の魔法のこと?」

「ええ……使うべきじゃないって言ったら怒っちゃって。当然よね。使っている私に言われても説得力なんて無いわ」

 

 残念そうに、けれど少し悲しそうに彼女はそう言った。

 

「ルイズは何でサラが捨虫の魔法を……いや、力を求めるんだと思う?」

「それは……」

「復讐のためだと思う?」

「!? どうしてそれを……」

「おじさんにざっくり聞いちゃった」

 

 まあ、聞かなくてもても何となくわかってたけれど。

 あからさまな私への敵意は、過去に魔族に受けた仕打ちに由来するのだろう。

 

「そう……でも私はサラにそんな事をして欲しくないし、何よりそんな理由で捨虫の魔法を使わせたくない。いや使ってはいけないのよ」

 

 ここまでルイズが捨虫を拒むのはやっぱり何か有ったのだろうか。

 

「元々私が魔法を彼女に教えたんだから…せめて私が止めないと。彼女には平穏に過ごしてほしいの。もう辛い思いなんてさせたくない」

 

 そう彼女は言うが、発火魔法からあれだけ独学で発展させるサラだ。ルイズが教えた、教えないに関わらず捨虫の魔法に行き着いた気もする。手っ取り早く人間の枠を超えられるのだから。

 しかし彼女は辛い思いをさせたくないと言ったが、果たしてサラにとってはどうなのだろうか。

 

「もしさ」

 

 多分ルイズは焦っていて気づかない……いや明確に殺意を向けられた私にしかわからないことなのかもしれない。

 

「サラに別の理由があれば捨虫の止めない?」

「別の理由……?」

「そう、例えば『旅をしたい』みたいな。なにか前向きなことの為だったらどう?」

「それは……私には止められないわ。それが本心なら」

 

 だって私はそうだったから、とルイズは言う。

 私はやっぱりなと笑う。

 

「ならもうちょっと様子見てあげようよ。確かに復讐心も有るのかもしれないけど……」

 

 きっとサラにもそれ以外にやりたい事が何か有るはずだから。

 じゃなきゃあんなに真っ直ぐ頑張れないと思うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何を言ったのよ」

「何が?」

「ルイズさんによ!いきなり謝られてびっくりしたんだから。それにもう少し様子を見るってどういう……」

「サラもちゃんとルイズに謝った?」

「当たり前でしょ! あの後どんだけ家で私が後悔してベット上で悶えたか…ってそんなことはどうでもいいでしょ!」

 

 薄々思ってたけどサラちゃんルイズ好き過ぎね? まあ二人の百合展開は私的にキマシタワーではあるんだけど。

 

「まあほら、良いから修業頑張りなよ。もうそろそろ時間も無いし。」

「むぅ……そうね。絶対に魔力を操れるようになってやるわ!」

 

 おうおうその意気だ。若者は活力に溢れていて良いねぇ。

 

「……ねぇ、は…いや、アンタ。」

「ん?どうかした?」

 

 『は』って一体何を言いかけたんだろうか。

 サラは何か改まって此方へ向いた。少し顔を赤くして。両手を後ろに回し、何故か私と目を合わさないようにしている。

 

「……あ、ありがとね」

「へ?」

 

 それだけ言って彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。かわいい。

 

「……ふふっ、ははっ!」

「ちょっ! 何で笑うのよ! 人がせっかくお礼を言ったてのに!」

「いやぁ、安心したからだよ。しかしまあ、そんなに顔真っ赤にしなくても良いんじゃない?」

 

 私の目も案外捨てたもんじゃないね。

 彼女はどこか「彼女」に似てる気がする。

 

「なっ! 私あんたのそういうところが嫌いだわっ!」

 

 過去に何があれどサラはサラって事だろうね。うん、私なんかより大分立派だよ。

 きっと彼女は何が有っても大丈夫だろうから。

 

「クソッ、さっさとこんな修行終わらしてアンタをけちょんけちょんしてやるんだから!!」

 

 木に向かって力強くダッシュするサラ。足に込められた魔力はしっかり地面を掴んで離さない。

 そして木の幹に足を掛け、体の向きが水平になった所で――

 

「あでっ!」

 

 背中から落ちた。何が有っても大丈夫……だと思う、多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




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