東方死人録   作:nismon

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七話 右手が疼くッ、疼くぞッ!

 

 

 爆風の発散する『向き』を変え周りへの威力を抑える。このまま暴発したらサラ自身が爆散してしまう。しかし、そちらは二の次だ。もっと拙い事がある。

 そこにある多量の魔力と急に現れた黒い何かを一気に自分の体内を通し、そこから必要なものだけを取り分けて掴んだ手を通してサラへと戻す。

 捨虫の魔法は自分の体内の重要な構成要素を操る魔法。そんなデリケートな魔法の最中だ。もし何もせず、そのままこの魔力を霧散させてしまったら、彼女の身に何が起こるかわかったもんじゃない。

 早くそして正確に……よし、これで大丈夫なはず。咄嗟の判断だけどこれで事なきを得られるはず。

 威力がかなり減った爆風が私の髪を揺らし、その内に止む。

 

「わ……私」

「うん、よくやったよ。ちょっと休もう」

 

 私の言葉を最後まで聴いていたか否か。そのままサラは気を失った。

 

「おっと」

 

 そのまま倒れ込みそうになるのを、彼女の腕を掴んでいるのと逆の手で抱えた。

 無理もない。一度に結構な魔力を消費したのだし。

 それにあの黒い瘴気。あれは、何だか……そう邪悪だった。月並みでは有るがそう表現するのが正しいだろう。

 

「儚!一体これはどういうことなの!?」

 

 駆け寄るルイズが私へ問い掛ける。そう言われても突然すぎて私にもわからいない。

 

「なんでいきなり、って。貴女その腕!」

 

 今度は血相を変えて私の腕を見た。サラを掴んでいる方の腕だ。一体どうしたって……ああ、うん。たいしたことないじゃない。

 

「ん?……いやあ、これくらい大丈夫だって」

「そんな訳ないでしょう!? 血だらけじゃないの!!」

 

 私の腕は彼女が言うように血にまみれていた。皮膚が裂けてしまったようだった。サラに負荷の掛からないように早くしなければならなかった。とだけ考えた結果だろう。かなり雑に魔力を流してしまったので腕が耐えられなかったのだろう。黒い瘴気の気配もいくらか感じるような気がする。禍々しい。

 

「サラの魔力やら黒い奴やらを通したから。これくらいなら問題無いって」

「どうして落ち着いてるのそんなに落ち着いてるのよ。そういうことを聞いてるんじゃないの! 早く治療しないと!」

 

 確かに見た目はアレだけれど別段問題ないって。これくらいなら全身の血管を破裂させるより随分軽傷だ。

 残念なことに死ぬことは有り得ないのだし。

 

「私なんてどうでも良いからサラを。早く連れてこう」

「でも……!」

「いいって言ってるでしょ。それよりサラを早く寝かせてあげよう。ルイズも手伝って。

 ほら、私が抱えたら。サラが血だらけになっちゃうよ?」

 

 彼女の服を汚すのも忍びない。そう思いルイズにサラを任せる。

 

「貴女、なんでそんな……」

 

 ルイズにびっくりさせて申し訳ないが、本当にさして問題は無いのだ。なにせ人じゃないのだし。

 

「……わかったわ。でも戻ったら貴女も治療するのよ。」

 

 どこか悲痛そうに、ルイズはそう言う。そんな顔を見て私は酷く申し訳なくなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サラになにが起きたの?」

 

 場所はルイズ宅の食卓。当然ながら料理に舌鼓を打っている、訳では無い。空気は重く、特にルイズは普段穏やかなその表情が翳るくらいに心持ちが芳しくない。

 

「わからない。でも多分あの黒い瘴気のせいだね」

 

 どうでも良いけど首に回した包帯が地味に動き辛い。こんなことする必要ないと何度も言ったのだけれども聞いてくれなかった。ルイズはそのまま家まで私を連れ込み、そのまま手早く処置してしまったのである。別に骨は折れてないし過剰だと思うんだけど

も。

 やけに手際が良かった辺り、やはり旅人なのだろう。そのようなスキルも磨かれるのだろうか。

 

「ルイズはアレに心当たりは?」

「無いわ。あんなもの初めて見たわ。……いえ、似たものなら見たことはあるけれど」

「似たもの?」

 

 サラが『捨虫の魔法』を成そうとした最中、突如起きた謎の魔力の暴走。

 謎とはいっても原因はあからさまにあの禍々しい黒い瘴気だろう。

 問題はその元が一体何かということ。突然現れたように思えるアレは一体どこから来たのか。

 

「昔、見た上位の魔族、悪魔があんな感じの物を出していたわ。あの時はもう少し紅かったけれど」

 

 悪魔ねぇ……

 

「というかそれでよく無事だったねルイズ。私のイメージだと悪魔とか相当ヤバそうな感じだけど」

 

 私のイメージは当然前世のフィクションのそれではある。この世界のけれど木っ端魔族や、魔法の様子を見るに余り違わないのではないだろうか。

 

「その通りだわ。悪魔は魔族の中でも強力な存在なの。上位の悪魔は個体にもよるけれど危険よ。でも、私が出会ったのは何故か手負いだったから……すぐ姿を消したのよ」

 

 存外ルイズの旅路はワイルドなのかもしれない。

 

「一体手負いじゃなかったらどうしたのさ……しかし、悪魔ねぇ。」

 

 手負いの悪魔。そんな強力な悪魔を下したのは誰なのだろうか……いや、まあ今はそれは良いのだ。それよりもサラのことである。

 

「じゃあ、あのサラに纏わりついた奴は悪魔のものってこと? 呪いみたいな?」

「そう、かもしれないわ。でも、一体なんで……」

 

 それが問題ではあるけれど、肝心なそこがわからない。 サラと悪魔に一体何の関係があるのか。

 それはサラに聞いてみないとわからない。いや、聞いてもわからないかもしれないけれど。

 

「貴女は本当に大丈夫なの?腕に移ったとか言ってなかったかしら?」

「ああ大丈夫大丈夫。何か黒いだけだし。」

「黒いだけって、そんな軽く。サラみたいにとりつかれないの?」

 

 いや本当に黒いだけで何も無いし。

 ……多少ちくちくしたり、熱かったりするけれどさした問題じゃ無い。なのでルイズには言わない。 

 

「まあ、私は能力があるからどうにかなっても簡単に押さえられるし、何よりとっておきの手段も有るから大丈夫」

「そう……わかったわ」

 

 最悪一度さくっと自殺してしまえば体の状態がもとにもどるはず。あら便利。

 それよりも今話すべきは……

 

「どうしよっか」

「……」

 

 サラのことだ。

 このまま放っておくわけにいかない。何せ原因がわからない。捨虫が駄目なのか、それとも魔法自体を使うのが駄目かはたまた……

 また何か有ったらと考えるとそれは賢明ではないだろう。

 

「私残るわ。旅なんてしている気分じゃないもの。サラの無事が確認できるまで。いえ、なんならサラがその生を終えるまで――」

 やはりサラが心配なのだろう。ルイズは真剣な顔でそう言った。

 

「でも、それじゃ根本の解決にならないじゃない?」

「それは、そうだけど。でも……」

 

 リスクを背負ったまま生きるというのもどうかと思う。やはりベストは原因の究明と根本の解消だろう。

 そしてルイズよ、何よりも――

 

「サラが大人しくそれを聞くと思う?」

 

 私は思わない。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 誰も居なかった。

 誰も動かなかった。

 何故かなんて私にはわからない。

 だけど、少しだけわかったことは有って

 そう、それは目の前に広がるのはきっと取り返しがもうつかないことだってことくらい。

 だけれども網膜に届いているはずのその光景は私に欠片の現実感も持たせてくれなかった。

 

 誰かが動いた。

 

 『それ』は私の方に手を伸ばす

 

 その艶めかしい手は私の頭に触れる

 ゆっくりとそれは口を開き、そして……

 

 

 

 

 

 ……ラ、サ……サラっ!

 誰かが私を呼ぶ声がする。

 

「ぅん……?」

 

 私は寝ていたみたいだ。捨虫の魔法の途中で……どうしたんだっけ。

 いまいち重たいまぶたを私はゆっくりと開く。

 そこには二人の顔があった。

 心配そうなルイズさんと……白いアイツのふてぶてしい顔。

 

「大丈夫? 何かうなされてたけど。悪魔でも見た?」

「サラ……」

 

 うなされてた? そんな酷い夢だっただろうか? 

 懐かしくて、けれど……あれ、良く思い出せない。

 

 私は何を見ていた?いや、たかが夢だ。覚えてなくても当然か。

 まずは、心配をかけたルイズさんに謝り倒さないと。

 

 

 

◇

 

 

 

「だから! もう大丈夫です!!」

 

 余り広くはないルイズ宅の居間にサラの叫びが響く。

 

「でも、もし何か有ったら……」

「ルイズさんは気にしないで下さい。これは私の問題です!」

「そうは言っても……」

「良いんです! だから気にしないで下さい!」

 

 ほら、こうなったぁ。

 いくらルイズに従順とはいえ、そもそも頑固なサラが忠告を聞きいれるはずなど無いのだ。じっとして居ろ?何ともサラに合わない言葉だ。

 そもそも大人しく過ごしていたならこんな事にならないわけで……まあ、私はそういうところは嫌いではない、と思う。

 

「私は貴女を心配しているのよ? もしまたこんなことが有ったら……」

 

 対するルイズもサラが心配で気が気でないのだ。けれど、少し過保護な気がしてしまうのは、やはり私がいくらかサラに入れ込んでる証拠なのだろうか。

 それとも親代わりとしては普通なのだろうか? それは私には――色んな意味でわからない話だ。

 

「うっ、それは……でも、私を見守るってルイズさんはその間旅に行けないじゃないですか!」

 

 ガタッと音を立て机から前のめりに立ちあがるサラ。

 

「それはそうだけれど。だからといって貴女を放って置いてもし……」

「駄目です! 貴女の旅行記を楽しみにしている人だって居るんですし、それに私は『捨虫の魔法』を使って魔法使いになるんです! いつまでもルイズさんの世話になるわけにはいかないんです!」 

「それこそ駄目よ! 今回は儚が居たから良いけれど、もしそうじゃなかったら貴女どうなってたかわからないのよ!」

 

ついにルイズまで立ち上がり更に白熱していく言い争い。そろそろ止めなければならないね。

 

「はいはい、ストップストップ。二人とも一旦落ち着いて」

 

 二人を宥める。水をさされた二人は、少し落ち着きを取り戻し席に座る。

 

「まず、問題はサラのあの黒い瘴気のことね」

「……私は良くわからないんだけど」

 

 まあサラ本人はそうだろう。多分あの時点で彼女に意識が有ったかわからない。寧ろ何かに乗っ取られていたのかもしれない。憶測に過ぎないけど。

 

「で、あの黒い瘴気については特に何もわからないわけで」

 

 謎にまみれているのが現状。

 

「だから、とりあえず安静に……」

「でも、ルイズ。じっとしていても解決はしないじゃない?」

「……ええ、そうね」

 

 ルイズの心配は理解できるけれど、動かないのが良いとは限らない。

 

「で、サラはルイズの旅路を妨げたくは無い、と」

「…そうよ」

 

 ルイズにこれ以上迷惑をかけたくない。それがサラの思いだ。

 なら、簡単じゃあないか。私は得意げに人差し指を立てこう言い放つ。

 

「旅へ行こうよ。三人で。」

 

 これで万事OK。

 

「……はあ?」

「どういうこと?」

 

 なに言ってんだコイツ風の目線はサラの物、詳しい真意を気にする目線はルイズの物。

 まあまあ二人ともそんなに慌てないで。

 

「まず私じゃさ、サラの問題は解決できない。何か有るのはわかるけどそれを引き剥がすのは今の所は出来ない訳」

「それじゃあ儚。貴女も……」

「ああ私は大丈夫だって。とっておきの手段が有るって言ったじゃないの」

 

 瘴気が私に感染したことを思い出したサラは少しだけ申し訳無さそうな顔をした。本当に気にすること無いのになぁ、なんだかんだいい子である。

 サラの体を弄るもとい調べてみて、体内……というか某作品風に言うなら魔力回路だろうか。そこに何か流れを妨げるような、禍々しい何かが有るのは感ぜられる。けれど、それを引き剥がすのは出来ない。出来たとしても何か色々大事なものが引っ付いてきそうなのだ。無理に剥がしたら魂とかちょん切れそうである。

 とどのつまり何か別の方法を探す必要があるのだ。

 

「そこで私は思うんだよ。誰がそれを解決できるのかってね」

「一体誰なの?」

 

 この世界には何でも出来そうな人……というかお方が居るじゃない。

 

「それってまさか……」

「そうそう」

 

 当然世界丸ごと一つ創ってしまうのだ、悪魔の呪い的な物くらいどうとでもなるはず。私も彼女に用事が有るしサラの旅の練習にもなるし一石三鳥くらい有るね。

 

「神綺様に会いに行こう」

 

 

 

 

 

 




遅れました。更新頻度上げたいです…
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