東方死人録   作:nismon

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ご無沙汰してます。


九話 ファンタジーな世界であれど人間ってのはそう変わらないもので

 

 

「おお…おおお!!」

 

 開けた窓から体を乗り出す。私の白銀の髪は暖かい日差しに照らされながら、田舎道の景色と共に風に流されてゆく。我ながらなかなか絵になるんじゃない?

 後方へ目をやるとそこには先ほどまで居た湖畔の白い街があった。

 日の光を反射して浮き上がって見えるそれはとても幻想的だった。本当に綺麗なんだね、あの街は。

 しかし今、私にとってそんな絵画顔負けの景色達よりももっと感動すべき事が有ったのだ。

 

「バス…!私は今バスに乗っている!!」

 

 バス。それは大量の旅客輸送を目的として作られた乗り物。主に内熱機関を動力源とし走行する。

 公共交通機関として使用され前世でもそれはもう日常的に使っていた奴である。

 

 やべぇ!動いてる!こいつ動くぞっ!

 

「子供かっての。落ち着きなさいよ。」

「なにおう!感動して何が悪い!」

 

 サラは呆れたように私にそんな小言を言ってくるが、しようがないじゃないの。

 何せ云千年、いや云万年?正確な時間など覚えていないけれど、それ位ぶりに自動車というものに乗ったのである。

 乗り物は男のロマン。もう男じゃないけど。

 少し興奮するくらい許して欲しいね。

 

「そっちの世界には無いのかしら?」

 

 とルイズからの問い。

 うーん、まあ無いと言えば無いのだけど…

 

「まだ無い、みたいな?」

 

 まあ、これが妥当な答えだろう。事実あの世界は私の前世と同じ道を辿りそうだから、そう遠くない未来に…いや、結構遠い未来にそう言う物が生まれてくるかもしれない。

 

「まるで未来を見てきたかのような言い草ね。」

 

 鋭いところをついてくるサラ。

 

「ただの予想だよ、予想。それよりこれって何で動いてるの?やっぱり魔力?」

「そうよ。確か魔力で回る動力装置が使われていたはずよ。」

 

 はえー、やはりこの世界は隅々まで魔法によって成り立っているらしい。石油や石炭とかの化石燃料より随分クリーンみたいだし良いね。走行音もかなり静かだ。もしかするとエネルギーの変換とか無いのかもしれない。魔法なら直接タイヤを回す事も出来るし。

 

「その魔力って誰が?運転手さん?」

「違うわ。確か魔力を詰めたカートリッジがある…んだったかしら?」

「そうだよ。嬢ちゃん詳しいね~」

 

 バスの運転手さんが話しかけてきた。気さくなおっちゃんな感じだ。

 

「バスを自分の魔力で動かせる人なんかそうそう居ないさ。本物の魔法使いなら別だが、わざわざバスなんか動かす物好きはこれまたそうそう居ないんだね。」

 

 思いの外大量に魔力を消費するのだろうか。

 …それよりも『魔法使い』のところを何だか気持ち卑下するように言っているのが少し気になった。

 

「嬢ちゃん達は何処まで乗ってくんだい?」

「終点の『都市』までですわ。」

「ほう、『都市』とな。あそこは色々田舎だと珍しい物があるからな。白い嬢ちゃん、こんな旧型のバスなんかで驚いてたんじゃ耐えられないぜ?」

 

 ほう、頼もしいことを言ってくれるじゃないの。バスを『なんか』呼ばわりである。というか旧型のなのかこれ。新型は一体どうなっているのだろうか。宙に浮く?いや、寧ろど○でもドア?ハードル上がっちゃうね。

 あ、でもどこでも○アって、もうそれ転移魔法か能力使えば良いんじゃん…いや、わざわざバスに乗っているのだって旅の趣という奴である。

 

「都市には何しに行くんだい?買い物?それとも学び舎?図書館もあったな。」

 

 何かぐいぐいくるなこのおっちゃん。

 いや、気さくだから悪い気はしないんだけれどもね。

 

「ああ、いやね。始点のリオベナコから都市まで乗っていくお客さん何てあんまり居ないものだから。ついつい気になっちゃってね。」

 

 あまりこのバスはリオベナコからは使われないらしい。何故だろうね?あの湖畔の街は結構な人数人が居たように思うけれど。人口的に公共交通機関がもっと活発に活用されそう。

 

「だからこそさ。あの街は他の村や街に比べるとかなり大きいからね。街の中で大体完結してしまうんだろうさ。都市までは結構時間かかるからね。わざわざ行かない。」

 

 なるほど。その辺は前世の現代と変わらないかもしれない。

 私だって都心に住んでいたわけではないし。学校が地元だったから殆どそこから出なかったように思う。

 単に私が出不精であった可能性も否定できないけどね。

 

「で、何しに行くんだい?嬢ちゃん達随分と若いじゃないか。そんな可愛らしい嬢ちゃん達が揃って何をするのか、おじさん気になっちゃってね。」

「それは…」

 

 そこでルイズが何故か言い淀んだ。

 …何故に?

 

「ああ、言いづらかったら別に大丈夫だよ。うんうん、誰にでもそう言うことは有るよね。おじさん話し好きでついつい聞いちゃうんだよ。」

 

 おじさんは気を使っている(多分)ようだが、それよりも何故ルイズが言いづらそうにしているのか気になった。

 

「どうしたのルイズ?」

「…ん?る、ルイズ?」

 

 ありゃ?

 そこでなんだかルイズの名前にやけに反応するおじさん。

 

「も、もしかして、旅人の?」

 

 そう酷く声を震わせる彼は単に驚いているだけでなく、どこか脅えているようにも感じられた。 

 そうこれは…この感じは何か異物な物を見るかのような様子だ。あんまり良いものじゃない。

 前世で酷く記憶に残るあの嫌な視線だ。自分に向けられる分にはどうでも良かったが、そういう目線に晒される謂われなんて奴がそういう目で見られると流石に少しだけ腹が立つ。

 

「ええ、そうだけれど…」

「そ、そいつぁ失礼しました!きっちりかっちりちゃんと輸送しますんで!何卒どうか!!」

 

 ええ…なんでそんなに怯えているのさ…

 当然ルイズが何した訳では無い。ルイズが『紀行者ルイズ』であると悟ってからその態度が豹変したのだ。

 

「無礼な態度をとってすいませんでしたぁ!」

「えっと、別に大丈夫よ?」

 

 眉をハの字にして頭を下げるおじさんを宥めるルイズ。ルイズの見た目は10代後半か其処らなので随分と特異な光景ではある。

 

 いや何故に…?

 

 過去に何かおじさんと有った…訳じゃなさそうだしなぁ。ううむ。

 そうだサラはコレをどう見ているのか…と気になった私は彼女の方を見た。

 

(…ふむ。なるほどねぇ。)

 

 予想に反して彼女は余り動揺した様子は無かった。

 …無かったが、その閉じられた口の端が心なしか、少しだけ力がこもっているように見えて…

 

 

 

 

 

 

 

 そんなちょっと特異なことはあれども、特に何事もなくバスは道を行く。小さいエンジン音と共にゴトンゴトンと。

 すっかり会話の無くなってしまったまま景色だけがガラスのない窓を流れてゆく。

 見渡す限り突き抜けるような草原。それはしかし、私達の間に有った何ともいえない空気を払拭するには至らない。

 

「ごめんなさいね…」

 

 幾らか経った後、ポツリ、小さな声で彼女はそういった。

 

「一体どうしたの?」

 

 まあ、多少は気になるわけで。

 無理に聞くつもりは無いけれど、彼女が話してくれるのならその訳を知りたくはあるのだ。

 

「魔法使いを恐れてしまう人も居るのよ。言ってしまえば…人では無いでしょう?」

「ああ、そういう…」

 

 端的に言えば差別意識の一種だろう。

 人間どうしても自分と違う物に忌避感を抱いてしまう。

 それが種族が違うなら尚のこと。

 

 …なるほどどうりで見たことの有るわけだ。

 

「どの世界も変わらないね。」

「そうなの?」

「うん、そうだよ。」

 

 前世の世界も今世の世界も、そしてこの異世界もやっぱり人は何処まで行っても人なのかもしれない。

 

(その点へカーティアの所は上手くやってたんだなぁ。)

 

 魔法使いもたくさんいたし、普通の人間もいた。

 腹心の部下は地面の底出身の妖精だしそもそも彼女自身が神なのである。

 

 だけれど皆笑っていた。

 

 けれどもそれは残念なことに彼女が神であったが故、人との距離を置かねばならない故に長くは続かなかったのだが。

 

 でも…それでもあれが、彼女のあの国が一つの形なのかなぁなんて思ってみるのだ。

 

 そんな少し感傷にも似た淡い思いを浮かべる。

 勿論過去を文字通り自らぶった切って、それに失敗し続けてきた私がそれを思うのはちょっとどうかとも思うが…そう思うのだ。

 

 前世のガソリンのエンジンとは打って変わり、窓は前回なのにガソリンの匂いも音も殆どしない。

 そんなバスはそのままなかなか変わらぬ景色と、私のそんなぼんやりとしたモノローグを載せて走ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、私達は無事に『都市』へと着いた。

 

「おお…おお!!」

 

 私は感動している。いや、何度目だよと言われるかもしれないが何度でも言おう。

 この世界は私にとって非常に魅力的な世界のようだ。

 元の世界も神様や魔法等、それはそれで色々面白くは有った。

 が、ヘカーティアの件や魔法の普及度合いから考えると基本は前世と同じ歴史を辿るように感ぜられた。

 

 しかし、ここは完全に異世界だ。

 

 中に浮かぶ電車やモノレールみたいな何か乗り物のようなもの、地面を走る魔力で動く車に、それに並んで走る何かでっかい蜥蜴みたいな生き物…etc

 

 その他にも色々突っ込みどころの有りそうなものが所狭しと見渡す限りにある。

 

 リオベナコの街を回ったときも感心したがやはりここは違う。流石『都市』と言うだけはある。

 

 これぞ、これこそ!

 

「魔法都市…!」

 

 ラノベでもアニメでも無く目の前に広がるその光景は前世で軽いオタクだった私の心を酷く興奮させるのに十分だった。

 

「気に入ったみたいね。」

「うんうん、そりゃもう。あ、あれ何?何で浮いてるの?」

「あらあら、はしゃいじゃって。」

 

 少し柄にもなくはしゃいでる気もするが、しようがないでしょう?いやこれはホントにしようがな、うんうん。

 

「…あんた、そんな顔もするのね。」

「ん、どしたの?」

 

 サラが何か興味深そうに此方を見てくる。

 …一体何だろうか?

 

「いいえ、別に何でも無いわ。」

 

 そう言って彼女はそっぽを向いてしまった。

 若干腑に落ちない反応たけどもサラの性格的に追求しても素直に教えてくれないだろう。

 

「出版社へ行っちゃいましょう。観光はその後ゆっくりでも良いかしら?」

「うんうん、これだけ色々あると直ぐには周り切れなそうだからね。そうしようか。」

 

 ルイズに連れられて私達は目的地へと向かうのだった。

 

  

 

 

 

 




次話は日曜日(3/3)の予定。
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