東方死人録   作:nismon

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十話 有名人ってぱないの

 

 

 

 

 

 いちいち街並みに感動しながら、数十分ほど歩いた。

 

 アスファルト…とは違うのだが近い道。

 そんな足元の綺麗に整備されている感覚が懐かしくもあり、遠い記憶のせいか一周回って新鮮であった。

 

 土属性の魔法を駆使すればこの位の事がやってのけるのだろうか。それとも動力が魔力の重機が有るのだろうか?

 

 そういう細かい所に興味は尽きないが、まあ知ってどうすると言う話でもない。純粋に楽しむのに努めるのである。

 

「ここが私の本を出してる出版社ですわ。」

 

 そうこうしているうちにどうやら目的地についたようだ。

 

 全然なんということも無いようにそう言ったルイズ。

 彼女が足を止めたので釣られて私達も止まる。

 

 そして見上げた。

 

「ここが…?」

「ええ、そうよ。」

「これ全部?」

「ええ。」

 

 唖然とする私にやはりどうと言うこともなく、至って普通に返答するルイズさん。

 

「でかくない…?」

 

 凄く…大きいです。なんて少々クソみたいなことを思わず呟いてしまう位だ。

 首が痛い。そんなレベルで見上げるそのビルはとにかくデカかった。

 前世の首都圏の高層ビルを彷彿させるそれは、リオベナコに比べると只でさえ大きくなった建物達の中でも、一際目立ってデカかった。

 

「ええ、まあ少しだけね」

「少しって……いや、うん。まあ良いや」

「フッフッフッ、ルイズさんは凄いのよ」

 

 少し照れくさそうにそう言ったルイズ。そして何故だか得意気にしているサラ。

 

 しかしまあ、思わず呆れてしまったのと仕方ないだろう。溜め息の一つや二つも漏れるというもの。

 それはとんでもなく馬鹿でかいビルだった。これじゃあルイズがまるで……というより実際この世界ではV,I.Pなのか。

 つい彼女のおおらかな態度と、自分の世界に対する無知さ故に忘れてしまうけれども、彼女の書いた紀行記は凄まじく有名なものであるようなのだから。

 前世の売れっ子漫画家辺りをイメージすると納得がいくかもしれない。

 ……一体いくら稼いでるのか非常に気になる所ではある。

 

「ルイズ大先生って呼んだ方が良い?」

「もう、からかわないで頂戴」

 

 少し頬を膨らませたルイズ先生。

 その可愛らしい様子からは、やっぱり貫禄は感じられない。

 

(あんなに恐れ敬う必要なんて有るのかなぁ)

 

 その様子を微笑ましく眺めながら脳裏を先のバスのおじさんの様子がよぎった。

 まああれはルイズが魔法使いだからということが主な理由で有るけれどもね。

 どちらにしろあんな反応をされるのはルイズにとって良い気持ちじゃないだろう。

 

 前世から今に至るまで、何処にでも種族や人種によるその溝は大なり小なり有る。

 なかなか色々とままならないものだなぁ、とも思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一通りそのデカさに感動したところで私達はそのビルの中に入った。

 一足踏み入れたところでまた一つ驚く。

 

「こりゃ……すごいね」

 

 入ってすぐにわかるこの建物の異常さ。

 味のある木を柱として、独特のアンティークな感じを漂わせるその雰囲気もそうだが、何よりも文字通り至る所に本が有るという点が際立って異常である。

 

 天井も高く凄まじく広いロビーであるのだが、壁一面には本棚が据え付けられている。

 そこには端から端までぎっしりと、何やら古めかしそうな本が詰まっていたのだ。

 

 

 ルイズ達は迷わずに受付のカウンターへと向かったので、そんな光景に見とれていた私は遅れないように少し駆け足でついていく。

 向かった先のそのカウンターの中にも本棚が有り、受付嬢の肩越しに本の背表紙がぎっしりと有るのが見えた。何だか随分とせわしなく本が置いてあるなぁ。

 

「なんか、めちゃくちゃ本多くない?」

「ええ、この出版社はかなり歴史があってね。設立から……そうね私の年齢の三倍以上はだったかしら? 細かいところはもう忘れてしまったけれど」

 

 彼女は顎に指を添えながらそう言った。

 

「その年月分の蔵書が有るのよ。ここには図書館が併設されているのだけれど、なんでも入り切らないのだとか。だから言ってみれば編集社自体が図書館になっているのよ」

 

 しかし、少しって量でもないような気がするけど。

 このロビーだけでこんなに量があるというのに、まだ別に図書館が有るというのだから驚きである。少々気になるね。

 

「というかルイズの三倍? いやいや、そもそも何歳なのよさ?」

「ええと、そうね……百……あら? 何歳だったかしら?」

 

 このお姉さん意外にもお年を召しているようであった。自分の年をそんなに簡単に忘れてて良いのか。いや人のこと言えないけれど。

 まあリオベナコの本屋で見た彼女の紀行記の巻数からすると、確かにそれくらい長生きしてないと合わないのか?

 その間の旅の記録を全て記しているというのなら、ルイズはなかなかにマメなのかもしれない。

 

「それじゃあ私は手続きをしてくるからあなた達は……」

 

 

 

 

 

 

「も、ももももももしかしてルイズさんですか!!??」

 

 

 

 

 

 ルイズの言葉を遮り、一つの声がロビーに響き渡った。その声の主である女性は酷く興奮している様子だった。

 その手には一つの本、いや雑誌か?そんな書誌を持っている。

 その表紙に使われている写真は…あれ?これルイズの写真じゃん。

 すこし色あせているからそう新しいものでは無いのだろう。けれど少し淡いその写真は、確かに今と変わらないルイズの姿を映していた。

 

「私、子供の頃からルイズさんの大ファンで、えと、あの……よろしければサインください!!」

 

 それはもうすごい勢いのお辞儀だった。

 見た目もう成人してそうな大人の女性が、それに比べると少女の類から抜けない容姿のルイズに対して、直角にお辞儀をし、雑誌を差し出している。

 うーむ、中々に異様な光景では有る。というかこの世界でも日本と同じようにお辞儀が礼儀として通用するんだなぁなんてどうでもいい感心をしてみる。

 

「えっと、この雑誌にで良いのかしら?」

「はい!ぜひお願いします!この雑誌は私の宝物なんです!!」

「そう言われるとすごく書きにくいのだけれど……」

 

 その女性の圧にかなり気圧されつつも、彼女は結構手慣れた様子でその本にサインをした。

 おお、なんかルイズが有名人ぽいぞ!

 

「あ、ありがとうございます!! 一生大事にします!!家宝にします!!!」

「いえそんなに大げさにしなくても……」

 

 なんとも凄まじい反応である。はえー本当にルイズが凄い人なんだと改めて実感してきたぞ。

 

「あ、握手してもらっても良いですか……?」

「ええ、どうぞ。」

 

 その女性に対してルイズは快く差し出した。

 女性は一度ゴクリと息を飲んだ後ゆっくりとルイズの手を取った。

 

「ああもう死んでもいいです……一生手洗いません!」

「ち、ちゃんと洗っていいのよ?」

 

 女性は感極まった様子で泣きそう…てか泣き出した。

 すげぇよ。 

 

「ルイズって凄いんだね」

「え、ええ。本当ね」

 

 小声で隣のサラにそう語りかける。サラの様子をみるとどうにも彼女も現状に驚いているようだった。

 サラもここまでとは思ってなかったのだろうか?

 

 というか……

 

(なんでこんなに静まり返っているのさ……)

 

 サラとの会話が小声にならざるを得なかったのはそのせいだった。

 女性が「ルイズ」という単語を発していこう、適度にざわついていたはずの周りの喧騒がピタリと止んだのだ。

 それはまるで嵐の前の静けさのようだなんて形容しようと、思ったのだけれど――

 

 

 

「ルイズさん!?」

「どうして!?!?」

「本物だ……本物だ!!」

「ああ、お姿を拝める日が来るなんて!!」

「私にもサインください!!」

「俺にも!!」

「あ、握手してくれ!!!」

 

 一転して嵐が吹き荒れたわけである。

 はじめはざわざわするだけだったのがあれよあれよの合間に凄まじい騒ぎに。

 

 ルイズを中心にとんでもない数の人が全て集まってくる。これはヤバイ。人の波に流される。

 

「サラ、退散! ルイズまた後で!」

「あ、ちょっ。引っ張んな!」

 

 人に飲まれていくルイズを尻目に、私達は逃げることにした。

 じゃないと圧死してしまう。そう思う程に迫力のある人の量だった。

 誇張でも何でもなく、このバカでかい建物の中にいる人々が全員あの場に集っているんじゃないかと思う。

 

 ルイズぱないの。

 

 というかさっきのバスのおじさんも、魔法使い云々というよりもこのルイズの有名人度にビビってたんじゃないだろうか? ルイズさん少しズレちゃいないかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺までくれば流石にもう誰も居ないね」

 

 ひたすら駆けてようやく人の流れが無いところまで来た。にしてもやはりこの建物は広い。

 

「ちょっと! 急に引っ張らないでよね。転びそうになったじゃない」

「ああ、ごめんごめん」

「まったく……でもまあ良いわ。確かにあの場に居たら人に飲まれてどうしようも無くなってたわ」

 

 凄まじい人数が集まっていたからね。都市に来て以来ルイズの凄さを度々感じる。

 

「当たり前じゃない。ルイズさんは凄いのよ!」

 

 誇らしげに余り無い胸を張るサラ。

 さも自分のことのように自慢するのは、やっぱりそれだけルイズのことが好きなんだろう。

 ともあれ、あのルイズショックとでも言うべき騒ぎが収まるまでどうしていようか……

 

「あら、向こうが図書館みたいよ」

 

 そう言ったサラの視線の先を見てみると、壁に標識が取り付けられていた。

 建物の案内のようである。そこにはこの世界の言葉で「図書館はあちら」と矢印と共に表記されていた。

 

「どうせなら行ってみようか。なんか凄いんでしょ?ここの図書館」

 

 ルイズがそう言っていたのだから、多少なりとも気になっていたのだ。

 どうせ戻ってもまだ人は引いていないし、当然ルイズの仕事も終わっていないだろう。

 そんな訳で二人で併設された図書館へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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