東方死人録   作:nismon

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十一話 れっつ図書館

 

 

 

 

 

 

 

 図書館へと私達は向かった。

 

 しかしまあ、中々に広い建物である。

 歩けど歩けど沢山部屋が有るばかりで中々図書館へたどり着かない。

 一体この会社の財力はどうなってるんだろうか。何をしたらこんな建物を建てられるんだろうか。非常に気になるところではある。

 

 そんな思いの外長い道のりなのだが、個人的に幸いなのは建物の意匠が飽きない所。

 外見が余りにデカいので前世のビル群の如く無機質な内装かと思っていたが、中々どうして芸術性が高い。

 一定間隔で凝った彫刻が施された額に入った絵画や、何だか凄い輝き方をしている謎の生け花的な物などインテリア一つ一つが確かに置いてあった。

 

 あの光ってる花はやはり魔力が源なのだろうか、というか光る意味は有るのか、なんなら普通の花で良いんじゃないか…等々。

 デザインした人に聞かれたらどちゃクソに怒られそうな事を考え流しながら、ひたすらに歩いていく。

 

「ねえ、魔族の住んでる所にも図書館って有るのかしら?」

 

 同じ様にキョロキョロ見回しながら一緒に歩いていたサラが不意にそんな事を問いかけてきた。

 私とは違い調度品を眺めるのに飽きてきたような感じだ。

 

 まあ、気持ちは解らなくもない。わたしだって前世ではそんな美術品に興味が有ったわけじゃない。

 あくまで世界観の違いを楽しんでいるだけなのだから。彼女と同じ年頃…つまりちょうど自殺した頃の自分だったらろくに興味を持たなかっただろう。

 

 しかし、魔族の住んでいる所か…

 サラには結局自分が異世界の「妖怪」であることを伝えてないんだっけ。

 

「まあ、あるんじゃない?多分」

「なんで多分なのよ」

 

 まあ、あんまり隠すことでもないし。彼女に教えてしまおうか。

 

「実はね、私は――」

「ぎやぁぁぁあ!!」

 

 せっかく私が語ろうとしたのを遮るように豪奢な廊下に似合わない悲鳴が響いた。

 それはさながら断末魔みたいだった。

 

「あっちからだね」

「あっちって……図書館の方よね?」

 

 その叫び声はどうやら図書館の方から聞こえてきたようだった。

 

「まあ、とりあえず行ってみよっか」

 

 もし何か事件が起きているのならそれは問題だ。助けがいるかもしれないし。

 

「……あんたは本当」

「ん? 何か言った?」

「……いえ、何でも無いわ」 

 

 私の聴力でも聞き取れないくらい小さい声だった。サラが何を言ったのかは解らない。

 だが彼女の表情は何処か呆れているのと共に、何か不安そうだった。

 

「どうかした?」

「だから何でもないわ。早くいきましょ」

 

 その事を訪ねても彼女は応えてくれず、そのままスタスタ歩き出してしまった。

 仕方なく私もその後を付いて行く。まあ、腑に落ちないけれど、やっぱり無理に聞くのは良くない気がした。

 

 とりあえず今は進もう。向かう先は図書館だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁお……」

「凄いわね……」

 

 美麗な彫刻で飾られた重厚感のある木製の扉を押し開けて、遂に私たちは図書館へと入った。ルイズショックのせいか辺りは人が一人も見当たらない。閑散としていた。

 

 しかし、そんなことは全く気にもとまらない些細なことで。

 私達はもっと別のことに圧倒されたのだった。

 

「え……広っ! 多っ!」

「……ちょっとっ、図書館なんだから静かにしなさいよっ」

 

 ワンテンポ遅れてサラが小声で私を嗜める。

 余りの感動でつい声を漏らしてしまった。しかし、それも仕方ないというもの。

 

 今いる図書館のエントランスは少し高いところに有り、その内部の様子を展望台のように見渡せる。

 

 ロビーから既に異様な本の量だったが、この図書館はそれすらも凌駕する。

 ともすれば壁のように下から上までぎっしりと本の詰まった棚が、ドミノみたいにずらりと並んでいる。

 

 そもそもこの空間自体が広い。何本もの太い柱を超えた後、部屋の向こう側の壁はかなり小さく見える。

 

 あまりの広大さと本の量感に、なんならこの世界の本全てを集めたと言われても驚かないだろう。

 それをただひたすらに感嘆してしまうほどに凄まじい。

 

「こりゃ、ただ眺めるだけでも苦労しそうだね。」

「ええ……こんなに凄かったなんて知らなかった」

 

 小声で感動を共有する。サラも私と同じくこの異様な図書館に感嘆を漏らす。

 

「あ、そういえばさっきの悲鳴は何だったのかな?」

 

 辺りを見回してみても特に変わった様子は……

 

「だ、誰か居るんですか?」

 

 何処からか声が聞こえてきた。女性の声だ。先の悲鳴の声にも近い気がする。

 張り上げられたはずのその声は、しかし少しくぐもっている。

 

「えっと、居るよ。今この図書館に来た所だけど……貴女どこにいるの?」

 

 辺りを見回すが誰も居ない。

 

「二十三列目の右から四番目の本棚の辺りに居ます!そのー……出来れば助けて欲しいな、って……あっ、また崩れ、ぐへっ!」

 

 助けてという割に何処か余裕すら感じられるその声。危機感が感じられないがどうしたものか。

 

「どうする? 行く?」

「一応行ってみましょ。なんか、大丈夫そうだけれど」

 

 だね。助けてと言っているのだしわざわざ無視することもないだろう。

 そんな訳で声の指示した場所へと私達は向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入り口から階段を降り、見上げて首が痛くなるような巨大な本棚が幾つも並ぶ通路をそれなりに歩いた。

 

 そしてようやっと二十三列目の右から四番目までたどり着いたのだが…

 

「山、だね」

「ええ、山ね」

 

 そこには山が有った。

 本の山である。

 

「本棚から崩れたのかな?」

「それだけじゃこんな風にはなんないでしょ」

 

 確かに近くの本棚は幾つか空いている部分があるが、明らかにそれ以上に本が有る。

 

「おーい、来たけど……この中で合ってる?」

「はい!はいっ!!この中に埋まってるんです!お願いします!!早く助けてっ!」

 

 元気な声がそこから聞こえてきた。どうやらその声の主はこの山の中に埋まっているらしい。

 ……普通の人間だったらこんなの潰れて圧死してそうなものだけれど、その声にはやはり幾らかの余裕が感ぜられた。

 

「しかし、どうやってこの山を退かそうか」

「一つ一つやるのは根気がいるわね……」

 

 文字通り山を築いているこの本を一つ一つどかすのは中々に骨が折れる。一冊一冊が厚いものが大半のようだし、一体どれだけの労力が掛かるかわからない。

 

「あと本にはなるべく傷を付けないようにお願いします! でないと私が怒られます……」

 

 山の中から注文が来た。まあ確かに本を傷つけないようにするというのは図書館では当たり前とも言えるのだが。

 

「こんな風に本を崩した時点でアウトだと思うのだけどそのへんどうなの?」

「……何卒この事は内緒でお願いします!!」

 

 それで良いのか、おい。

 本の管理で怒られるということは、この中に埋まっているのは司書さんなのだろうか。

 この広大な図書館を管理するのにしては、なんとも間抜けな司書な気もするれど…

 まあとりあえずこの山をどうにかしようか。

 

「んー仕方ない。能力を使ってみようか」

「能力?何よそれ」 

「まあ、見てなって」

 

 私はその山に手を触れる。

 その本一つ一つに能力を適用してその位置を把握し、動かす。

 

「本が勝手に……?」

 

 サラがそう呟くが、残念ながら私に解説する余裕はない。

 何せ本一つ一つを能力かに置いてるので頭がこんがらがってパンクしそうだった。

 

 一つ、また一つ。丁寧に『向き』変え地面へとゆっくり下ろしていく。

 段々とその山の高さは減っていき、遂に最後の一冊を取り除き終わる。

 

「ふぅ……」

 

 息をつく。結構疲れた。細かい作業は神経を使う。

 そうしてようやっと片付け終わった本の中からは一人の女性が出てきたのだった。

 

「……魔族」

 

 そんな言葉をサラが呟く。

 彼女はそれでも抑えているのだろう。私の時のように飛びかかったりはしない。まあ、此処は図書館だし、あの時はルイズの事が心配なのも有ったのだろう。

 しかしどうしても憎しみが滲み出る。そんな眼差しを、その本の山から現れた女性に向けていた。

 

「わあ! 凄い!! こんな魔法が有るんですね!!」

 

 それを全く気にした様子もない女性は、その背から生やした立派な()を元気にパタパタさせて喜んでいる。感情が実直に現れているのが面白い。

 

「それで、貴女は?」

 

 サラは余裕がなさそうだし、なんで埋まってたのか理由も聞きたいのでその女性へ話しかけた。

 女性の容姿はともすれば少女とも形容できそうな年齢で、その特徴的な羽は、まるで――

 

「助けて頂いてありがとうございます!私はこの図書館で司書をしている『悪魔』です」

 

 そう彼女は言った。

 

 そう。その羽根は昔RPGゲームやアニメで見たような少々禍々しさを感じるような羽根、『悪魔』の羽根だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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