東方死人録   作:nismon

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ご無沙汰してます。


十三話 二つの世界

 

「私、本が好きなんです」

 

 そう彼女は言った。その笑顔はとっても柔らかくて。ああ、本当に彼女は本を愛しているのだと感じた。

 それは私には無いもので、胸に少しばかりの鈍い痛み感じながらもそう思った。

 

 紅茶の香りが漂う司書室。私達は一つの丸テーブルを囲むようにして私達は静かに彼女の話に耳を傾ける。

 サラもやはり興味が有るらしく、真剣に聞いているようだった。

 

「大昔にですねたまたま人間が書いた本を読む機会が有って。そこで初めて、本って良いなって。 今はどうかは知りませんが、その頃は魔族の社会にそういった本はあまり流通してなかったですから。あっても強くなる為の魔導書とかで」

 

 恐らくはその頃に思いを馳せる彼女は、部屋一面の本棚に詰まっている本に目を向けながら話を続ける。

 

「私がその時読んだのは冒険物の本なんですけど。すごく感動して。もちろん話の内容にも感動したんですけれど、その話の世界に連れて行ってくれる、本にも凄く感動しまして……」

 

 一通りそれらの本を眺めた後、目をつむり胸に手を当てる。よっぽどその思いを大事に噛み締めているようだった。

 

「その頃は色々有って、色々諦めて居た時期だったんですけど……でも、それ以来本が好きで好きで堪らなくって、自分の悩みなんかどうでも良くなっちゃいました」

 

 彼女に何が有ったのかは余り聞かないほうが良さそうだった。それを少し話すだけでもかなり辛そうに表情をしかめていたからだ。

 でも、そんな辛い思いすらちっぽけだと言えるほどに、彼女は好きなんだ。

 

「で、その勢いのまま人間の街にやってきまして。最初はまあ……色々と大変だったんですけど」

 

 色々と、というのはやはり魔族故に有った苦労の事だろう。言ってみれば魔族とは人間にとって"異物"なわけだから、それに対する反応は想像に難くはなかった。

 あのヘカーティアの所に居たときも小さいそういった差別は無くならなかったし、遠い記憶の中出会った頃の『彼女』もそういう目に有っていたから。

 

「でも、運良くいい人に出会えて」

「いい人?」

「はい。悪魔の私にも普通に接してくれて……まあ、少し変な人だったんですけど」

 

 その『少し変な人』と彼女は称したが、その人は本当に良い人なのだろう。だって彼女の顔はわかりやすい。

 

「『お前が魔族だから云々はどうでも良い、それより研究だ。手伝ってくれ』とか本心から言ってしまうような人でしたから。それからその人の手伝いをずっとやってまして、それでその人が引退してから、まあ紆余曲折有って今はこの図書館の司書をやっているんです」

 

 自分が好きだから、という理由。

 それだけで耐え難かったであろうを物ともせずに突き進む彼女は余りに眩しかった。

 

 

「貴女は幸せ?」

 

 

 だからつい彼女にそう聞いてしまった。

 唐突な私の問いに彼女はキョトンとする。しまったと思った。

 それは彼女の話をちゃんと聞いていたら、聞くまでも無いことであった。実際私はそんな事はわかっていた。

 でも、聞きたかった。彼女の口から聞きたかった。

 ――いや、本当は。彼女は満たされている人だ。

 

「幸せ、ですね。こうして、本に囲まれた生活が出来るんですから。まあ、さっきみたいに魔族だからこそ大変なこともありますけどね」

 

 安月給ですし。と笑いながら文句を言うその顔はやっぱり晴れ晴れとしていて。

 それは余りにも眩しくて、だからーー

 

「儚さん? どうかしました?」

 

 きょとんとする悪魔ちゃん。うん、眩しいね。

 

「いや、なんでもないよ。悪魔ちゃんが本が好きなのはよくわかったよ」

 

 とにかく彼女が人間と生活を共にする理由は、大体解ったのだった。

 その事に付いて少しばかり思う所のあった私、そして自分の事を沢山喋ったせいか少し恥ずかしそうにしている悪魔ちゃん。ほんの少しだけ会話は途切れ私達の間には静かな沈黙が訪れた。

 

 しかし、それは思いの外早く終わった。 

 今まで殆ど黙っていたサラが口を開いたのだ。

 

「ねえ、その貴女が出会った人って、どんな人だったの?」

 

 サラは悪魔ちゃんが出会ったという"人"に興味を持ったらしい。

 彼女が毛嫌う魔族に対して、手を差し伸べた人物。サラはどちらかといえばその人のことも疎みそうなものだけど。

 ……サラも何か前に進もうとしているのかもしれない。

 よくよく考えれば彼女は単なる十代の女の子の訳だからそれもそうか。

 それを嬉しく思う半面、少しだけ汚らしい感情が私の中に生まれる。

 その感情はわかっている。だけどぶちまけるほどのものじゃない。

 

「私も聞きたいな。悪魔ちゃんさえもって『変な人』って言わせるその人のこと」

 

 だから押し殺して悪魔ちゃんの話を促すことにした。もちろん単純にそれが気になっているのもある。

 

「私をもってって……何か悪意を感じるんですけど?」

「ははは、気のせい気のせい」

 

 ジト目でこちらを睨んでくる悪魔ちゃんを受け流す。可愛いね。

 しかし件の人物。人間と魔族のあれこれよりも研究だと言い切るその人物は、少なくとも多少世間とズレた変人であると言える。

 

「その人は魔法の研究者でした」

 

 悪魔ちゃんはその人の事を訥々と話し出してくれた。一言一言を大事そうに。

 

「出会った頃は本当に自分の知的好奇心を満たすことしか求めてないような人で、それはそれは変人でした」

 

 魔法の研究にしか興味を持たない人だったらしい。悪魔ちゃんがその人の元に言ったのも魔法の研究の一環で悪魔が射て欲しかっただけだかららしい。

 

「でも、良い人なんですよ。研究所は彼一人だけではありませんから。他の人は私のことを色眼鏡で見るようにしてたんですが。

 そんな研究員の方達に対して『無駄なことに思考を割く余裕があるのか?』って煽って叱っていましたから」

 

 それは彼女に気を遣ってそう言ったのか、それとも本心で言ったのか。

 彼女曰くそれすら解らないようなくらい研究狂いな人だったようで。

 それでもそのブレない態度に彼女は随分と助かったらしい。

 

「研究に都合が良かったと言うのは解ってるんですけど、彼は私のことをただの『私』として扱ってくれたんです」

 

 ともすれば恋でもしてそうなくらい、その人の事を話すのが楽しそうだった。

 

「まるで恋話ね」

「あはは、そう聞こえますか?」

「そりゃもう」

 

 サラと二人で少し呆れつつ頷く。

 しかし、彼女にとっては違うらしく苦笑しながら否定する。

 

「既に奥さんもお子さんもいらっしゃいましたし……」

「もし、居なかったら?」

「……私は魔族ですし」

「もし魔族じゃなかったら?」

「もうっ。儚さんからかってます?」

「はは、反応が面白いからついつい」

 

 野暮だけど彼女の反応が面白いでついつい。

 ま、悪魔ちゃんにとってそれは名前を付けないまま終わらせたい感情だったと言うことで。うーん、エモーショナル。

 

「今はその人はどうしてるの?」

「お孫さんと二人で住んでいるらしいです。元々の実家だった本屋さんをしてるんだとか」

「孫と二人?」

 

 先の話しに出たお子さんとその番の人はどうしたのだろうか。

 

「えっと、その……不幸が有りまして」

「ああ、なるほど。ごめんね、不躾なこと聞いちゃって」

「いえいえ」

 

 心苦しそうにそう言う悪魔ちゃん。

 んー、この話しは続けても仕方ない。話しを戻そう。

 

「ま、ともかく悪魔ちゃんはその人と出会って助けられて恋をして何やかんや有ってこの人間の都市の図書館で司書をしてると」

「こ、恋はしてませんてば~」

 

 頬を赤らめて翼をプルプル振って否定する悪魔ちゃん。可愛い。

 まあ、何はともあれ彼女は良い出会いを経て魔族でありながらこの街に居ると言うことだろう。

 ……前世のあの時、今世のあの時。私にもそんな助けてくれる人がいれば何か変わったのかな。

 なんて、身も蓋もない話を一瞬だけして打ち切る。出会いに救済は求めてはいけないことは、それこそ前世で結論付いたことだった。

 そんな無駄な思考を流すように紅茶に口を付ける。ほんのり甘くて美味しい。

 

「ねえ、少し聞いても良いかしら?」

「はい、サラさん。なんでしょう?」

「本に出会って魔族の社会を抜けてきたって言っていたけれど、後悔とか未練は無いのかしら」

「ありませんよ」

 

 やけに即答した悪魔ちゃん。

 そこまで即答できる物なのだろうか。もっと家族との別れとか、友人とか仲間とか……って自殺してる私に言える事じゃあないか。

 

「魔族の社会は弱肉強食です。それに誰もが親の腹から生まれる訳では有りません。人間と違って魔族はその根本を魔力的な物に依存してますから。私も親がいないくちです」

 

 魔族の生態的な話は新しい知見だ。

 根本が魔力に依存、というと魔族はその存在が肉体的物理的な物じゃない。人間とは似て非なる物という感じ……なのか?

 その辺は何となくわかるような、わからないような。自分も妖怪だから根本が肉体じゃないのは何となく解る。

 傷がやたらすぐ直るとかもそのせいだろう。とはいえ、私は肉体を持っているし手で物を触れる。実際に見て解る類の話ではない。

 

「私は親も無く、つてもなく、加えて強くもなく……危うく死にそうになって命辛々魔族の領域から抜け出してきたんです」

 

 なるほど、そういうあんまり良くない経緯があるからこその先の即答だったわけだ。

 

「ですから、後悔なんて有りませんよ。逃げてしまったのは情け無いと思いますけど、良い出会いが有って今はこうして本に囲まれて幸せです」

「だろうね見るからに幸せそうだもん」

 

 顔からよく解る。彼女はわかりやすい。

 きっと昔はきっとこんな表情豊かじゃなかったのだろう。環境が人を変えるのはどこでもいつでも同じだ。

 

「あはは、なんか恥ずかしいですね。サラさん、こんな感じで良いですか? 質問の答え」

「……ええ、ありがとう。魔族の社会の事なんて全然知らなかったわ」

「いえいえ、面白い話じゃなくてすいません。それにこんな事言ったらアレですけど、人間の社会の方が文化的で遥かに良い物ですよ。魔族の社会なんて知らなくても、いえむしろ知らない方が良いですよ」

 

 基本優しい感じの悪魔ちゃんが滅茶苦茶魔族社会の事をディスっておる。

 よっぽどだったのだなあなんて苦笑する。

 

 しかしまあ、どうしてこうも魔族と人間で社会が分断してるのか。ふと疑問に思う。

 この都市やリオベナコを見る限り人間社会は普通だ。前世で言う近現代とそう変わりは無いだろう。

 しかし魔族社会は話を聞く限りもう少し殺伐としていそうである。

 

「なんで魔族と人間ってこんなに分断してるの?」

「アンタそんな事も知らないの?」

「あー、うん。ほらずっと田舎に住んでたからー」

 

 今話すとややこしくなるので適当に誤魔化す。

 

「田舎って、この世界のどこの田舎よ」

「あー、湖の近く?」

「はぁ、教える気は無いのね」

 

 すいません。この世界じゃ無いし……

 なんならこの時代でも無いかもしれない。あ、でも湖の近くなのは本当です。

 

「まあ、それはそれとして。どうしてなの?」

「私は遙か昔に戦争があってその結果そうなったって学び舎で習ったわ」

「そうですね。大体はサラさんの認識で合ってると思いますよ。……せっかくですし、本を探しに行きませんか? ここは世界有数の大図書館ですし、詳しい資料がありますよ」

 

 淹れて貰った紅茶もお菓子底をつく。

 先程は本の整理を手伝っただけだし、せっかくの大図書館だ。場所に相応しく調べ物をするのも良いだろう。

 

 ……そういえばルイズはどうなったのかな?

 有名人の彼女はまだ人に囲われているのか、有名税というのも大変だな、とか思いつつ。

 私達は司書室から図書館へと戻る。

 

 

 

 

 

 

「えっと神話のその類の話が中心の本は、これとこれとこれと、あとこれと、あっ、これも……」

「いやいや、悪魔ちゃんそんなに読めないから。せめて二、三冊で」

 

 私達は黒い翼をはためかせこの大図書館を飛ぶ悪魔ちゃんの後ろをついて行く。

 

「ええ、そうですか? 貸し出しも出来ますよ?」

「貸し出されても当分返しに来れないからねぇ」

 

 今は一応ルイズと旅をしてる事になっている。サラもそれについて行くのだし数年単位、下手したら数十年単位でこの街には戻ってこないかもしれないのだ。

 それにそうでなくても私はいつ死ぬか解らない。だから本なんて借りられない。

 

「そうですか~、……ってルイズ? あの旅人のですか?」

 

 ルイズの名前に驚く悪魔ちゃん。

 ああ、そう言えば特に話してなかったっけ?

 

「そ。旅人のルイズだよ。ここに来て大騒ぎになってる有名人てのも彼女だね」

「ひえー凄い。なるほどぉ、それで合点が行きました。通りでお二方とも魔法が上手なんですね」

 

 ルイズの事は当然悪魔ちゃんも知ってるようで。

 って、んん? ルイズと魔法がどうしてそうすぐ繋がるのだろうか。

 

「いやいや、ルイズさんって相当若い時に捨虫を習得してる凄腕魔法使いじゃないですか。だから旅仲間もそういう物なのかなぁと」

 

 なるほどなるほど。それはそうかもしれない。

 

「捨虫ってやっぱりこの世界……あー、この辺りでもそこそこ難しい魔法なの?」

「それはそうですよ。私がお世話になっていた彼も修得したのは四十終わり頃でしたよ。それでもかなり早い方です」

 

 件の悪魔ちゃんの恩人、魔法の研究者でさえその位らしい。

 そう考えるとルイズは相当天才なのではないだろうか。

 

「それじゃあその人も不老長寿?」

「いいて、彼は普通に生きる事を選びました。あくまで研究の一貫だって言って。使えるのに使わないんです」

 

 そういう悪魔ちゃんはどこか寂しそうだった。それもそうか、魔族と人間はそのままだと生きる時間が違う。彼女にとってはあまり嬉しい事じゃ無い。

 

「まあ、それは良いんです。それにしても本当に魔法が上手ですよね。人間で自力で飛べる人って今時なかなか珍しいですよね」

「へぇ、そうなの?」

「そうなのって、ええ……? そんな知らなかったみたいな顔されても」

「ああ、うん。少し私世間知らずなんだ」

「自分で言うことですか? それ」

 

 この世界には魔法が浸透しているものだと思ってたが魔法使いの絶対数は向こうの世界とそう変わらないのかもしれない。

 

「まあ、私はともかく。確かにサラは才能あるかもね」

「な、何よ急に褒めても何も出ないわよ」

 

 別段ただそう思っただけだよ。

 

「でも、そっか。あんなに街中で魔法な物が飛び交ってるのに魔法使いは多くないのか~」

「あれら魔法具は彼含め研究者たちの努力の賜物って事ですね」

 

 そう自分の事のように誇らしげな顔をする悪魔ちゃん。可愛い。

 しかし、つまるところこの世界の魔法も実は前世の科学と変わらないのかもしれない。例えば電車に乗ってるときそれがどういう仕組みか解らなくても利用する上では何ら問題は無い。つまり科学が使えなくても科学によって作られた恩恵を受ける事は出来る訳で。 

 

「これと……これで良いかな。本を選び終わったので戻りましょうか。すいません付き合わせて」

「いや良いよ良いよ。私が読む本だし。それに図書館を回ってみたかったんだ」

 

 これだけ壮大な図書館の棚の間を飛び回るだなんて、そう出来る経験じゃない。

 それだけでもかなり有意義と言える。

 こんな圧倒的な本の量前世の世界でもそうそうないだろう。

 

「そう言ってくれると助かります。では行きましょうか」

 

 さてさて、読書をしよう。

 この世界で人間と魔族が分断された過去について。……そして創造神神綺について。

 

 場所を司書室に移し本を広げる。

 

「といっても、先程サラさんが言った事が概要なのは変わらないですね。強いて他に述べるなら、これとかですかね」

 

 そう言って古そうな紙の上を指差す。

 なんて書いてあるか解らないがそこには三人の人の絵が有った。いや、人というよりは神か。

 

「神綺様は当然ご存知ですよね。あとは横の二人は左から『サリエル』と『エリス』って言うんです。彼らが引き起こした戦争が一番の原因だと言われていますね」

 

 ん? エリスっていうは聞いたこと有るぞ?

 災厄の魔女だとか何とか。あの本屋のお爺さんからそう聞いたはずだ。

 魔族を引き連れて神綺と戦争したとか何とか。

 

「何だ知ってるじゃないですか~。それが根本の原因で魔族と人間の中は険悪なんですよ」

「ああ~、なるほどなるほど。繋がったよ」

 

 童話みたいなのを読んだだけでいまいちピンと来てなかったが、その遙か昔の出来事が今に至るまで尾を引いてるようだ。

 

「その話には異界から魔族を引き連れて~って書いてあった様な気がするんだけど。そうすると魔族は皆異世界人ってこと?」

「いやいや、そんなわけ無いと思いますけど。多分それは盛ってるんじゃないですかね? 所詮童話ですし」

 

 異世界なんて眉唾ものだと言わんばかりな悪魔ちゃん。

 私みたいな転移者って実は珍しく無い? とか思ったけどそんなことはなかった。

 

「二人はさ『異世界』って有ると思う?」

「有るわけないわ。それこそ童話の話よ」

 

 との事。サラ的には有り得ない話らしい。

 まあ、目の前に居るんですけれども。

 

「悪魔ちゃんは?」

「そうですねえ。小規模な物なら魔法で作った事例を聞いたことがありますけど、アレは異世界というより結界ですからねぇ。うーん……でも、魔法にも解らない原理が沢山あるって聞きますし、同じ様にまだ知らないだけで無いことも無いと思う……て感じですかね」

 

 サラよりは幾らか肯定的だが、やはり現実的ではないようだ。

 なるほどねぇ。まあ、私自身事故でこの世界に来たわけだし。その事故も恐らく私くらいしか起こせないだろう。

 

 ……神を除いては。

 

 ヘカーティア達は元々神界とかに住んでいたと聞くし、地獄という世界もあった。神ならばもしかして世界を跨ぐことは容易いのかも解らない。

 

「神綺様に聞いてみたいね」

 

 この世界だと神綺ならその辺が解るのだろうと思う。

 ……聞いてどうする? 元の世界に戻る? 戻ってどうする?

 んー、いっそ神綺に殺してもらえないだらうか。

 など取り留めなく身も蓋もない考えを思考の端でしつつ、私達は歴史書を読みふけった。

 

 

 

 

 コンコン。

 書物達を眺め読みふける私達の居る司書室の戸を叩く音がした。

 

「はーい? どうされましたか~?」

「あのー図書館に知人が居ると聞いたのですが、どうに見当たらなくて……」

 

 聞き覚えの有る声だ。

 がちゃりと悪魔ちゃんが扉を開くとそこには金髪の女性が居た。

 

「あらあら? ここに居たのね二人とも」

 

 

 超有名人こと旅人ルイズさんである。

 

「ああルイズ、ごめん。もしかして結構探してた?」

「いえ、原稿のやり取りを終えてから二人がこっちに行ったって聞いて。今来たところよ」

 

 ここに来る事自体はそんなに苦労してないと、彼女は言うが。その表情はどこか疲れている。

 

「あの大量に強請られてたサインやらファンやらは?」

「途中までは対応してたのだけど、この会社の外からも人が集まるようになっちゃって。途中で警備の人に止めて貰ったわ」

「うお、凄いね。流石有名人」

「もう、からかわないで頂戴」

 

 まるでハリウッドスター。というか実際それに準じてる気もする。

 

「二人とも遅くなってごめんなさいね」

「大丈夫ですよ。ルイズさん」

 

 ルイズと話すサラ。ほんの数刻ぶりの再会だが嬉しそうだ。しっぽが有れば多分振っている。

 さて、ルイズも用事を済ませた事だしそろそろこの図書館からもお暇しようか。

 

「悪魔ちゃんありがとう。ルイズも来たし私達はそろそろーー」

「ルイズさん! サインください!!」

 

 私の言葉をぶった切っていつの間にか本を携えた悪魔ちゃんがルイズに本を差し出す。

 

「あら、貴女も読んでくれているの?」

「はい! 私ルイズさんの本大好きなんです! 知らない世界をきめ細かく鮮やかにかかれていて、呼んでるだけで本当にそこに行ったような気分になって……。最近の巻だとルナファリカ島に行った時のーー」

 

 おやおや、ここにも”ファン”が居たようだ。

 ルイズはその悪魔ちゃんの熱量に嬉しそうにしながらもどこか困ったような顔をしている。

 

 ま、ここを離れるのにはもう少し時間が掛かりそうだね。

 

 

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