東方死人録   作:nismon

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気持ちグロい描写があります。


八話 別れと呪いと嘘と

 

 

 

 

 私の視界は光に満たされた。

 

 その瞬間から全身を襲う熱。目が溶け、皮膚が焼ける生々しい感覚。とっさに能力を体に張り巡らせる。その身に受けるエネルギーの向きを変え、何とか直撃を回避しようと試みる。能力の使いすぎと全身の負傷で頭ががんがんする。熱線から解放された肌がジュクジュクと妖力によって回復する感覚が伝わってくる。相変わらず視界は真っ白で何も見えない。

 その直後爆風が襲ってきた。その衝撃の向きを変え何とか直撃しないようにする。それが精一杯で体をその場で維持できない。激しい勢いで飛ばされていくのを感じた。

しかしまだ終わらない。眼球が回復し視界が戻っても光に満たされたままなのは変わらなかった。熱線と爆風の勢いはますばかりで止まる様子はない。能力の使いすぎで限界が近づいてきた。

 不味い……死ぬ。

 そこで私の意識は手放された。

 

 

 

 

 

 

 

 一体どれだけ経ったのだろうか。

 目を覚ました私を迎えたのは、どんよりとした……いやそれよりももっとどす黒くなった雲に覆われた空だった。いつの間にか仰向け倒れていたらしい。体を起き上がらせようと力を入れると全身に痛みが走る。歯を食いしばり耐え何とか立ち上がる。この力のおかげで外傷はそんなには酷くない。しかし、能力の疲労と、逸らしきれなかった分のダメージで満身創痍だ。

 

 私はゆっくりと周りを見渡す。

 そこには何もなかった。文字通り何も。ケモ姉との荒ら屋も、人里の有った場所も。目に入る範囲すべてが焦土と化していた。

 

 頭痛が激しい。息も荒くなる。能力を解くことは出来ない。目には見えないがいまこの大地には人に害のある物質が漂っているだろうから。

 月へと旅だった人間達は置き土産を置いていったのだ。

それも1つじゃない無数に。前世での記憶が確かなら、アレは1つで都市を壊滅に追い込める物。そんな物が大量に落とされたら当然ひとたまりも無い。それは正しいようで辺りには文字通り何も無かった。

私は限界にある能力をさらに使って周囲の様子を探る。何か、誰か、生き物がいるかもしれない。それに…

そんな逃避にもにた希望的観測。頭がかち割れそうに痛い。しかし索敵はやめない。

…いた。

私はよろよろとその方向へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「……ケモ姉」

 

 荒野にぽつりと見えた人影はケモ姉だった。

 

「ああ……儚か。人間共がこんな力を持ってるなんてな……しかしやっぱり無事だったか。良かった……」

 

 そう力なく言うケモ姉。息は途切れ途切れだ。そして左の手足がなく至る所に焼けただれた跡があった。千切れた肢体からは血と妖気が流れている。

 

「無事で……良かった」

 

 私の声。そんな訳がない。それは頭のどこかでわかっていて、それでいてそれは私の中では間違っていた。

 

「儚……」

 

 それでも彼女は気丈に返してくれた。私は唇を噛み締めた。

 

「ケモ姉今……助けるから」

 

私はケモ姉の横に膝をついて彼女の胸元のリボンの辺りにに右手をかざす。そして能力を使い、まず彼女の傷口を止血する。 

「くっ……」

「儚…」

悲鳴をあげる体に思わず苦悶の声が漏れる。いやそんなことはどうだって良い。なんだったら自分の体の保護の分を回しても構わない。

 

「もういいよ……儚」

 

 そういって右手をゆっくりと動かす。その動きにはいつもの俊敏さもはや感じられなかった。

 

「なに言ってるのさケモ姉……これから旅をするんじゃないの?そんな手足じゃ歩けないよ」

「儚……」

「そうだ、人里を見つけたらさ、また近くに家を建てようよ。今度はあんなボロ家じゃなくもっとちゃんとした奴」

「もう……良いから……」

「どうせなら湖とか近くに有ると良いよね。前に話したっけ?昔見た湖が凄く綺麗だったんだ……」

「……儚ッ!」

 

 強い力で右手を握られ私の能力が途切れる。それと共にケモ姉の傷口から再度血が流れ出した。その血の量と対比するように私の手を掴んだケモ姉の手から力がみるみる抜けていく。

 

「もう良いんだ」

 

 それからケモ姉の足先からちりちりと赤色の火の粉が舞っていく。…いやその光の粒はケモ姉そのものだった。

 

「何……言ってるのさ」

「……私はもう十二分に生きたさ。それこそ一度は死体になったり、あるいは死にたくなったりもする位な」

 

 そう傷だらけの顔で満足そうに言うケモ姉。

 

「ねぇ……やめてよ」

「本当に色々あった。だけどお前と過ごした最後の十数年が一番面白くて楽しかったよ」

「止めてよ!」

 

 話している間にもともと欠損していた彼女の下半身は半分以上崩れている。きっと彼女の時間はもう殆ど無い。

 

「そうだ儚……」

 

 彼女は残っている手で胸元のリボンを解き、震えるその手で私の手をリボンごと包んだ。

 

「これ、持っててくれ。お前は私のことを『ケモ姉』って呼ぶのに全然姉らしいこと出来なかったからな。最後に姉ちゃんからのプレゼントだ」

 

 そして彼女手から力が抜ける。もう上半身までその体は崩れてきている。その目にはもう光が有るのかすら怪しい。

 

「姉ちゃんっていうなら一緒に生きてよ……」

「……悪い」

 

 駄目だ。こんなんじゃ……

 

「いつもがさつで飄々としてるのに何でこんな時だけ姉ぶるの!」

「ごもっともだ」

 

 こんなこんな…

 

「私の事を『儚』なんて名付けといて、先に行くなんてありえないよ……」

「……ああ」

 

 こんな……

 

「私はまだ妹らしいことなんて出来てないんだよ……」

 

 こんな別れなんて認められないよ。

 

「ごめんな、儚。お前が寂しがりなのは知ってるのに」

 

 そんなことを言わせたくない。謝るのは私の方なのに。

 もう彼女の胸元より下は既に無く。今度は全身が光を帯びてきている。

 

「でもな……お前がなんと思おうと私の自慢の妹は一人だけさ」

 

 目が熱くなってくる。息が苦しい。言葉が出ない。

 

「泣くなよ……顔だけは良いんだからさ。まったく台無しだよ?」

「だってぇ…だって!」

 

 彼女を包む光が徐々に強くなる。

 

「時間もない、か。……儚、きっとこれから色々有るだろうけどさ。たまに見せる陰りのあるお前の顔を見てると、不安になるんだ……」

 

 だから、そう言って私の頭に消えかけた手を載せた。

 

「生きろ。儚」

 

 その言葉で事が切れたようにケモ姉の体が光に包まれそして次の瞬間霧散した。

 

 

「う、あぁ……」

 

 嗚咽にまみれまともに息ができないけれど、私はその赤い光を胸元に集めて抱きかかえた。出来るだけ多く。しかしそこに彼女の温もりは無い。

 

「ケモ姉っ!ケモ姉ぇっ!!」

 

 私の叫びと共にその光は焦土に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は一人で仰向きになっていた。見上げるそらは一面が黒だった。変色した雲は物凄く近く見えて、すぐにでもあの恐ろしい雨が降ってきそうだった。

 

「……死のう」

 

 私はゆっくりと立ち上がった。あれからどれ位時間が経ったかわからない。その位覚束ない意識を巡らした思考、その末に出した答え。

 

 きっと私が永琳に会わなければ月夜見と知り合うことも無かった。

 

 きっと私が居なければ月夜見は不死の研究に本気にならなかったかもしれない。

 

 きっと私が月夜見を振らなければこんな事にならなかったかもしれない。

 

 きっと月夜見に前世の姿を見せなければ、

 

 きっと人里に行かなければ、生まれ変わってからここにたどり着かなければ、

 

 きっと……きっと……

 

 

 私が居なければ良い。

 

 

 自ら命を断った癖にもう一度普通に生きようだなんて虫が良すぎたんだ。

 このどうしようもない空虚感は罰だ。生きてはいけないのに生き続けた罰。きっとそれだけじゃ償いきれない。

 だからその罪を償う(から逃げる)ためにはやっぱりもう死ぬしか無いだろう。

 

「ごめん、ケモ姉。約束守れないや」

 

 そう呟いた私は胸元に手を当て能力を発動する。

 

「やっぱりこの世界はクソッタレだったよ」

 

 その能力で私の体内の血液の向きを『逆』にした。

 私の体は内側から割け、溢れた血は白ワンピースを赤く塗らした。

 

 

<<君にその権利は無いよ。>>

 

 はずだった。

 

「……え?」

 

 次の瞬間私は仰向けになっていた。いや仰向けに戻っていた。

 

「くそっ!」

 

 私はもう一度能力を使う。

 

「なんでだよ!」

 

 また戻る。

 もう一度っ。もう一度っ!!

 

「なんで……」

 

 何度やっても私は死ねなかった。

 

「お願いだから、死なせてよぉ……」

 

 力なく座り込んだ。それを見計らったように空からぽつぽつと黒い雨が降ってきた。

 でもその黒い雨が私を犯すことは無く。

 

 

 この真っ黒な世界で、私は何処までも白いままだった。

 

 





これにて一章完結です。
幕間を一つ挟んだら二章に行きます。
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