IS~転~   作:パスタン

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皆さんに楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・。


死闘2

「ブリュンヒルデの弟である織斑一夏を拉致するわよ」

 

 その任務をスコールから聞いた時、ソファーで寝そべっていたアタシは自分でも分かるくらいのアホ見たいな顔をしていた。

 

「おいスコール、もう一度任務の内容を言ってくれないか?」

 

 ふつふつと沸いて来る怒りを抑えて改めて恋人であるスコールに問いかけた。だがスコールはにこやかに繰り返すだけだった。

 

「あら、聞こえなかったかしら?じゃあもう一回言うわね「スコール並びにオータム両名はブリュンヒルデの弟である織斑一夏を拉致せよ」という任務が先程決定したわ」

 

 その瞬間私はブチ切れた。

 

「ふざけんのも大概にしろスコール!!このアタシは泣く子も黙るオータム様だぞ!!それがたった一匹の男のガキを誘拐して来いだぁ!!んなもん下っ端の仕事だろうが!!!」

 

 あたしらクラスの人間であれば送られてくる任務をある程度拒否することが出来る。どう考えてもこんな任務は下っ端の役目だ…。それに加え「男」ってとこがまた虫唾が走る。

 

 あたしが見てきた男なんざどいつもこいつも「家畜」と同程度の存在だった。女と分かって強気に出てくる奴らもISをチラつかせれば犬みたいに頭を垂れるのだ。

 

 そんな男共に愛想を尽かせたアタシは、現在スコールと言う恋人がいる。

 

「落ち着いてオータム」

 

 そう笑みを零しながらスコールはアタシの手を握った。

 

「確かに私もこの程度の任務は下級構成員で事足りると思ったわ・・・この写真を見るまではね」

 

 そう言って、1枚の写真を差し出してきた。その写真には1人のガキが写っていた。

「!!!!」

 

 その瞬間、私の身体に電流が走った。

 

 何だこいつは?写っているのはどこにでもいる穏やかに笑みを浮かべるガキだ。だが問題はそこじゃない。

 

 …こいつの「眼」はなんだ?多くの戦場で多くの敵の眼を見てきた。色んな眼をしたやつを見てきた。 だがそんなもんが一瞬で吹っ飛んでしまった。こいつの眼からはあらゆる「負」が読み取れた。

 

 恐怖、後悔、無念、嫌悪、軽蔑、嫉妬、破壊、殺意、空虚、憎悪、憤怒、悲哀、苦痛、狂気、絶望…。

 

 それを全部1つの鍋にぶち込んでゆっくり時間をかけて抽出したもの。

 

 そう闇だ!!うまく笑顔の仮面で隠しているつもりだがアタシの眼はごまかせない。このガキ、常人じゃ発狂しそうなほどの闇を抱えている。なのにそんな事を何でもないかの様な穏やかな笑みを浮かべていやがる?

 

 …一体どんな精神構造をしていやがるんだ!?

 

「分かってくれたみたいね。オータム」

 

 そう笑顔を浮かべるスコール

 

「ああ、理解したよ。何なんだこいつは?本当に同じ人間か?」

 

「その子がターゲットの織斑一夏よ」

 

「!?そうか~、こいつが・・・こりゃ下っ端にはまかせられねぇな~」

 

 自然と笑みが零れてくる。自覚できる今自分はとんでもない笑みを浮かべてるだろう。

 

「決行は3日後。準備しといてね」

 

 そう言って、スコールは部屋から去って行った。

 

 

 あ~、楽しみだ。いつ以来だ?こんなに気分が高揚したのは…早く会いたいな織斑一夏…

 

 

 

 

 

 オータムの言葉で周りの雰囲気が変わった、いよいよだ。この世界に来て初めての「実戦」…恐らく「命のやり取り」になるだろう。俺は初めて本気を出す。

 

 唐突だが俺はよく「あるがまま」という思考を使う。これは状況をしっかりと受け止め今後の対処を考える時、所謂「外側」に関して考える時に使っているが、最初は違った。

 

 俺自身の「内側」にあるどうしようもない負の感情を内在化させるために使っていた。この世界に無理やり転生させられたことへのあらゆる負の感情。それを時間をかけてゆっくりと心に定着させていったのだ。

 

 普通の主人公ならばそれらの感情を乗り越えることで強くなるであろうが、俺の場合はこの感情をあえて心に沁み込ませたのだ。これらの感情だって俺が思った事に違いはない、それを伴った上でこの世界に生きると決めた。こうして酷く歪な織斑一夏が出来上がった。だが後悔はない大切な者を守るためには、こういった負の感情も大いに役立つからだ。

 

 そして、俺は今あらゆる「負の感情」をこの場で出すことを決めた。これが俺の本気だ。さぁ戦おうか。イキシニヲカケテ…。サァ!!イクゾ!!!ブタノヨウナヒメイヲアゲロ。

 

 

 

 最初に「それ」気付いたのは、スコールとオータムだった。そして伝播するように周りも気付いた。雰囲気が変わった…彼を中心にして熱を奪われているような錯覚を受けた。冷や汗が流れる、まるで丸腰で怪物の檻に入れられたみたいだ。

 

 彼が構える両腕を頭の位置まで上げ右足を半歩引く基本的なファイティングポーズだが、顔は影が遮って見えていない。それを見て緊張に耐え切れなくなった一人の男が彼に向っていく。

 

「よせ!!!」

 

 オータムが無意識に声を出した。男の右ストレートが一夏の顔面を捕え…なかった。

 

 それより早く一夏が男の喉(のど)に拳を叩き込んだからだ。

 

「かっ!?!?」

 

 声にならない声を上げながら膝をつく男に一夏は容赦なく攻め立てる。下を向いていた顔にアッパーを喰らわせることで無理やり上を向かせ、振り子のように戻ってきた所に膝蹴りを入れる。男は糸が切れたかのようにうつ伏せに倒れたが更なる追撃を加える。その後頭部に容赦のないジャンピングエルボー叩き込んだ。

 

 悠然と起き上がる一夏。誰も声が出なかった戦慄を覚えたからだ、一連の動きに何の容赦も躊躇もなかった。まるで、そうすることが当然のような無駄のない、そして慈悲のかけらもない攻撃。ここで一夏の表情がやっと確認できた。

 

 眼の瞳孔は開き、口は三日月を描くようにニタリと笑っていた。

 

 だれもが思った・・・人間じゃない・・・化け物だ

 

 残った男2人が同時に攻めようとして

 

「やめろ!!!」

 

 オータムの怒鳴り声が響いた。

 

「お前たちじゃ束になっても敵わねぇよ。そこに転がってる男を回収して下がってな」

 

 オータムは静かに、だが有無は言わせないと言外に伝えた。男たちは止む終えず男を回収して下がった。息をしている…どうやら死んではいないらしい。

 

 

「スコール、…一つ訂正がある。」

 

「なにかしら?」

 

「アタシは、あいつの事を同じ人間かって聞いたよな?」

 

「ええ」

 

「あれ訂正する。ありゃ間違いなく…化け物だ」

 

そう言いながらオータムが一夏の前に出た。

 

「おいガキ、次はこのオータム様が相手になってやるよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 一夏は答えない。ニタリと笑い再び先ほどの構えをとった。

 

 ここで、オータムは少し一夏を挑発してみた。純粋に気になったからだ自分がISを持っている事を知ったらどうなるか?他の男と同じに用にはならないだろうが気になってしまった。しかしこの行為は一夏の逆鱗に触れるものでしかなかった。

 

「おいガキ、良い事教えてやるよ。アタシはISを持ってる。今ここで展開すればてめぇなんざ紙を引き裂くのと同じように殺せる。どうする?」

 

 その瞬間、一夏の表情はさらに変化した。明らかな怒りを含んだ獰猛な笑みに変わった。

 

「それがどうした!それがこの「闘争」をやめる理由にでもなるのか?能書き垂れてねぇでさっさとかかってこい!!ハリーハリー!!!!!!」

 

 それを聞いた瞬間オータムは歓喜の震えに襲われた。

 

「ふふ、ははっは、…そう、そうだよな。そんなもんは関係ないよな。悪かったよ「一夏」、ISなんざ使わねぇ。そんな事したらせっかくのお楽しみが台無しになっちまうもんな~」

 

 スコールは、自分の耳を疑った。あの男嫌いのオータムが彼の名前を呼んだのだ。なるほど、どうやらオータムは彼を認めたらしい、私も彼の事は気に入っている。

 

「決勝戦が始まるまでどれくらい時間があるかしら?」

 

 近くの男に聞いた。

 

「約2時間後です」

 

 2時間か・・・だったら

 

「あなた達は、当初の予定通りに動きなさい。それまで誰も此処へは近づかせてはダメよ」

 

「分かりました。指示に従います。」

 

 そう言って男達は、そのまま消えて行った。

 

 私はここでも見守ろう。この戦いの行く末を、どんな結末が訪れるのかただ見守ろう。

 

 

 

 

 

 最初に動いたのはオータムだった。

 

 ものすごいスピードで一夏に近づき、その顔に拳を繰り出す。ギリギリのところで回避した一夏が逆にオータムの脇腹に拳を叩き込んだ。苦悶の表情をするオータム。

 

 追撃を加えようとするが、反対側の拳が一夏の顔に振り下ろされた。二歩ほど後ろに下がり体勢を立て直す一夏。追撃を加えようとするオータムにローキックで牽制するがオータムは飛び上がりそのまま左わき腹え蹴りを叩き込む。まともに入った…。

 

 さらによろめくがこれは一夏のブラフ。勢いに乗って攻撃してきたオータムの顔に右斜めから変則的なアッパー喰らわせる。オータムの首が跳ね上がる。更にがら空きになった腹に前蹴りを叩き込む。これによって互いに距離が開いた。呼吸を整えつつ互いを見合う、両者が獰猛な笑みを浮かべていた。互いに分かっていたかのように距離を縮め互いに顔に拳がめり込む。

 

 

 それからは両者の拮抗した状態が続いた。殴れば殴られ、殴られれば殴り返し、蹴れば蹴られ、蹴られれば蹴り返す。そして時は現在に至ったのだ。

 

 

 

 

「なぁ~一夏~、あたしたちと一緒に行こう。あんたは絶対に「こちら側の人間」だ。あんたほどの男がこんな生温い世界にいること自体が異常なんだよ。その眼の奥に燻っている常人じゃ発狂しかねない程の闇・・・。あたしらだったらまとめて受け止める事が出来る。だから来い一夏!!あたしら「亡国企業(ファントム・タスク)のもとへ、そして…、この「オータム」様のものになっちまえよ!!!」

 

 

 オータムの話が終わったようだ。こちも準備が出来た。

 

「…オータム」

 

 俺は、静かに語りかけた。

 

「何だ一夏?」

 

「最後だ」

 

「あ?」

 

「俺は今から最後の一撃を放つ」

 

「っ!!」

 

「これでもしお前が立っていたならお前の勝ちだ。どこへ成りとも連れて行け。だが、もしお前が倒れたら・・・黙って見逃せ。俺は…姉さんの試合を見に行くんだからな」

 

 俺は構えをとる。左足を前に肩幅大にまで開き、左手をオータムに向け伸ばし右拳を自分の体に引き込み力を込める。そこに「あるイメージ」を加える。身体の関節数十箇所を全て固定するイメージだ。

 

「いいぜ、その賭け乗ったぜ!!」

 

再び笑みを浮かべてオータムは突っ込んできた

 

「お前は私のもんだ、一夏!!!!!!!」

 

 

このタイミングだ!ここしかない!!俺は全ての力を右手に乗せてオータムに叩き込んだ。

 

 

 

メキメキ

 

 

 

 

 ……骨が軋む音がした。なんだ?俺はオータムを打ったはずなのに。何か壁みたいなものに遮られた????

 

 

 

 そこで俺は頭に衝撃を受け意識を手放した。

 




いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしております。
ちなみに後1~2話続きます

では次回。

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