IS~転~   作:パスタン

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「死闘」完結です。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・・


死闘3

 衝撃の光景だった。一夏君が放った技、間違いない…あれは「剛体術」だ。

 

 パンチの動作に稼働する関節は実に数十箇所ある。同時にこれは数十箇所のクッションが存在するという事になる。そしてこのクッションこそが打撃の最大の障害となっている。もし仮に、このクッションを完全に固定化できたなら…人は鉄球になれる。一夏君の体重が約60キロと仮定すると文字通り60キロの鉄球の出来上がりだ。この年齢でこれほどの技を習得しているとは、畏怖すら感じてしまう。

 

 そんな正気の沙汰とも思えないバカげた拳がオータムの胸部に向かって放たれる。当たれば良くて肋骨の粉砕骨折、最悪命を落とすかもしれない…。

 

 だが手出しは出来ない。そんな事をすれば彼女のプライドを傷つけることになる。

 

 両者の拳が交差する。僅かにだが一夏君の拳の方が速い!!やられる。私がそう思った時、更なる衝撃的な光景が起こったのだ。

 

 突如としてオータムの胸にISの装甲が部分展開された。次の瞬間に聞いたことがある嫌な音、骨が何らかの障害を発する音だ。そんな状態で無我夢中のオータムは一夏君に拳を叩き込込む、喰らった一夏君は前のめりに崩れ落ちた。恐らくISが搭乗者の生命の危機を感知して自動的に部分展開を行ったのだろう。

 

 呼吸を整えながらオータムは訳が分からないといった表情をしていた。彼女は分かっていたんだ一夏君の拳が自分を先に捉えていた事を…。

 

 そしてやっと事態を把握した、自分の胸にISの装甲が展開れている事に…。彼女は青ざめた表情でガタガタと震えだした。そして倒れている一夏君の傍でへたり込んだ。

 

「お、おい一夏、ま、待ってくれ。これは違うんだ。ア、アタシはISなんて使っちゃいない!!」

 

 見ていられなかった。オータムはこの戦いを心の底から楽しんでいた。まるで長年待ちわびた恋人との語らいのように、この戦いで命を落としても本望だったのだろう。それがこんな形での幕引きだ。悔むに悔やみきれない…。

 

「なぁ頼む一夏、起きてくれ!!あんたの拳は間違いなくアタシを先に捉えていた!!なのにこんな、こんな終わり方ってねぇだろ!!!」

 

 そんな時に通信機から連絡が入った。どうやら潮時のようだ。私はオータムの肩に手を掛ける。

 

「オータム、時間よ。…ドイツ軍へのリークが済んだわ。もう此処にはいられない。」

 

 しばらくして、オータムは立ちあがった。しかしその顔は、酷く憔悴していた。

 

「一夏は、一夏は置いて行く。もうどのツラ下げて、こいつに会ったらいいか…アタシには分からねぇよ」

 

「……」

 

 私は何も言えなかった。酷く緩慢な足取りで出口に向かうオータムに肩を貸しながら一緒に進む。

 

 

 

 だん!!!!

 

 

 

 

 その音は私たちの近くから聞こえてきた。力強く大地を踏みしめる音、…ありえない。今この場には、私とオータムと倒れている一夏君しかいない。私とオータムは弾かれた様に後ろを向いた。

 

 

 この子には…何度となく驚かされていたが、最後の最後にこんな「サプライズ」があったとは…。

 

 彼は…立ち上がろうとしていた。膝が震えガクリとなる、それでも倒れない。そして完全に立ち上がったのだ。だがそれだけじゃなかった。あろうことか彼は、震える腕を必死に上げながら戦闘の構えを取ろうとしている。

 

 

 

 

「くくく、あははあはっはは、ひひはは、はーははははっはははっはは!!!」

 

 隣りからけたたましい笑い声が響いた。オータムだ。もう先ほどの憔悴した彼女はいない。そっと私の手をどけて再び戦闘態勢をとった。

 

「アタシの声が聞こえたか一夏?それなら本当に嬉しいぜ。柄じゃないが言わせてくれ…愛してるぜ一夏!お前はアタシが愛するに値する唯一の男だ!!」

 

 そう言いながら、彼女は一夏君に向かって飛び出す。拳を振り上げ一夏君に当り…そうになって止まった。なんだ?何が起こったの?私が一人考えていると、オータムが声を出した。

 

「スコール・・・。こいつ…意識が…ない。」

 

 意識がない?…意識がない!!慌てて一夏君の傍に寄った。そして見てしまった。その眼に…光はなかった。

 

 オータムはだらりと腕の下げ、彼に近づいて壊れ物を扱うような動きで一夏君の頬に手を添えた。

 

「一夏…今回はアタシの負けだ。認めるよ…。だが、必ずお前をアタシのものにする!!それまではせいぜい、ぬるま湯の世界で楽しく過ごしてな…」

 

 そう言ってオータムは足早に出て行った。すれ違い様に見た彼女の頬に流れる光るものは、私の見間違いではなかっただろう・・・。

 

「ありがとう一夏君。オータム…とても満たされていたわ。ふふ、私も君のファンになってしまったみたいね。それじゃ縁があったらまた会いましょう」

 

 そしてその場に残ったのは、戦いの終焉を知らない一夏だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始5分前

 

「一夏が拉致された?」

 

 初めは言っている意味がよく分らなかった…。

 

「はい、現在ドイツ軍の情報部が総力を挙げて捜索に当たっています」

 

 なぜだ?一夏が、どうして?私は突然足元が崩れ去った感覚に引きずり込まれそうになった時、突然ドアが開いた。入ってきたのは左目に眼帯を巻いた小柄な銀髪の少女だ。

 

「失礼します!!先程、情報部より新しい情報が入りました。どうやら織斑一夏さんは試合会場付近の廃工場にいるらしいです」

 

 それを聞いた瞬間、私は暮桜を展開した。

 

「お、お待ちください。何処へ行かれるつもりですか!?」

 

 スタッフが慌てて止めに入る。

 

「知れた事だ…。家族を助けにいく!!」

 

 失ってたまるか。これ以上…私の大切な家族を失ってたまるか!!

 

「今出て行けば失格になってしまいいます!!」

 

 尚も食い下がるスタッフ。

 

「どけ…私の邪魔を知るなら…」

 

 斬る。そう言外に伝わった。周囲に緊張が走る。その時、少女が叫んだ。

 

「あの…私も連れて行ってください!!決して足手まといにはなりません!!」

 

 突然のことだったが、この状況を切り抜けるには形振り構ってられない。

 

「…名前は?」

 

「ハッ!!ラウラ・ボーデヴィッヒ中尉であります」

 

「よし、案内を頼むぞ中尉」

 

 そう言って私は彼女を右腕で抱えた。

 

「はい!!」

 

「では、行くぞ!!」

 

 私は空へと駆ける。待っていろ一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 中尉の案内もあってその廃工場にはすぐに着いた。私は中尉を下がらせ展開した雪片で入口を切り裂いた。注意深く1歩、2歩と中へと入ってすぐに気付いた。

 

「うっ!?」

 

 隣で中尉が鼻を覆った。むせかえる様な濃密な血の臭いだ…。

 

 

まさか…。

 

 

「大丈夫か…中尉」

 

「は、はい。進みましょう」

 

 中尉は銃を構えながら先頭を進んだ。

 

 少しするとハイパーセンサーが生命反応を捉えた。

 

「中尉…気をつけろ。前方に誰かいる」

 

 私の言葉に更に緊張感を高めた。暗闇に誰かいる。その時、月明かりがその人物を照らした。

 

 

 

 

「…い、一夏?」

 

 血だまりの中で私の弟が、構えをとって佇んでいた。眼に光がない、気絶しているのだ。その姿はボロボロだった。どこもかしくもが傷だらけで無事な部分を探すほうが難しかった。特に右拳は皮膚を突き破って骨が出ていた。

 

 隣で中尉も唖然としている。間違いない一夏は戦っていたんだ。こんなボロボロの姿になっても戦っていた…。まさに「死闘」だったのだろう。気を失っても構えだけは緩めていない。

 

 

 …だが、もう終わったんだ。

 

 

 私はゆっくりと一夏に近づいた。

 

「一夏、もう…終わった。もう…拳をおろして、大丈夫だ。…良く、頑張ったな」

 

 私は言葉が震えた…。気をしっかり持たないと、この場で泣き崩れてしまいそうだから。

 

 その瞬間、私の言葉を待っていたかのように上げていた腕がダラリと下がり身体が前のめりに倒れた。私が慌てて抱きかかえると、一夏はボソボソと何かを繰り返していた。

 

「ま、も、る、おれ、が、まもる、だ」

 

 それを聞いた瞬間、私の涙腺は決壊してしまった。…やっと分かった。一夏は、私を守るために戦ったんだ。恐らく敵はとてつもなく強かったんだろう、恐怖もあったのだろう。だが一夏は逃げなかった。自分の大切な者を守るために命をかけて戦ったのだ。

 

 馬鹿者が!お前がそんなボロボロの姿では、私は嬉しくもなんともないんだぞ!!しかし聡明な一夏の事だ。それを分かった上で戦ったのだろう。だから私は伝える「感謝の言葉」を愛する弟に…。

 

「あ、ありが、とう。ありがとう一夏…本当にありがとう」

 

 そうやって私は、医療チームが来るまでしっかりと一夏を抱きしめていた。

 




いかがだったでしょうか。うまくまとまっているか心配です。

感想並びに評価をお待ちしています。

では次回。

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