皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・
最初に眼にしたのは真っ白い天井だった。意識が少しづつハッキリしていく、どうやら随分と眠っていたらしい…。
とりあえずこの言葉は言っておかないと。
「知らない天井だ…」
何言ってんだ俺?とりあえず感覚的に自分がベットの上で寝ているのは分かる。
「ん?気が付いたか」
誰かいるのだろうか?痛む首を少しづつ声のする方へ向ける。そこに居たのは小柄で長い銀髪をなびかせ左目に眼帯をした少女だった。
会った事ある。主に前世の二次元で…。
「私の声が聞こえるか?」
「…うん」
「うむ、意識はハッキリしているようだな。お前は5日近く眠っていたんだぞ」
5日?・・・・5日!?
「あ、いたた!!」
身体を起こす動作をすると全身に激痛が走った。
「お、おい!?無理をするな。手伝ってやるから少しづつ身体を起すんだ」
そう言いながら彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒ俺の背中を支えながらゆっくりと起こしてくれた。
「あ、ありがとう。えーっと…」
「?、ああ、自己紹介がまだだったな。しばらくの間、お前の警護をするラウラ・ボーデヴィッヒだ」
そうラウラちゃんは自己紹介してくれた。
「そ、そうなんだ。よろしくお願いします、ボーデヴィッヒさん」
初対面で呼び捨てする勇気なんて俺にはありません!!
「そう、堅苦しくしなくて良いぞ。それと私のことはラウラで良い。私もお前のことを一夏と呼ぶ、異論は認めんぞ」
はい、早速ラウラさんから名言をいただきました。ありがとうございまーす。
「わかったよ。よろしくラウラ」
「うむ」
ラウラちゃんは、優しい表情で答えてくれた。
そうだ、これは聞いておかないと…。
「ねぇラウラ。姉さんの試合はどうなったの」
「「教官」は…、決勝を投げ出してお前を助けに行った。当然だが試合は相手の不戦勝だったよ」
やはりそうなってしまったか。俺は負けてしまったんだろうな。
………あれ?今ラウラは千冬姉さんのことを「教官」と呼ばなかったか?
「あの、ラウラ聞いてもいいかな?」
「どうしたのだ?」
「今ラウラは、千冬姉さんのことを「教官」って言ったよね。どういうことかなと思ってさ」
「ああ、それは…」
「ラウラ、それは私から話す」
そこには、いつの間にか花束を持った千冬姉さんが立っていた。
「きょ、教官!?」
ラウラちゃんは慌てて敬礼をとった。
「ラウラ、しばらく一夏と話をしたい。席を外してくれ」
「ハッ!では私は外で待機しています。ではな一夏」
そう言ってラウラちゃんは部屋から出て行った。
千冬姉さんは、手早く花瓶に花を飾ると俺の近くにある備え付けの椅子に座った。
「……」
「……」
く、空気が思い。そりゃそうだこんだけの大怪我しちまったし、5日間も意識が戻らなかったようだし、・・・何にしても謝らないとな。そんな風に俺が思考していた時に、突然何かが覆いかぶさった。
でもすぐに分かった。姉さんだ。姉さんが俺を抱きしめているんだ。姉さんの体は震えていた。
「馬鹿者、この大馬鹿者め!!どれだけ心配したか分かっているのか?眼を覚まさないお前を私がどんな思いで待っていたか分かっているのか?この馬鹿者め、こ、の、ば、ば、ばか、ばか、ううう」
…泣いている。姉さんが泣いている。どれだけツライことがあっても気丈に振舞っていたあの姉さんが、声を押し殺して泣いているんだ。今までひた隠しにしてきた胸の内を抑えきれなかったのだろう。
なら、俺がやることは一つだ。痛む体を押して姉さんの身体をギュッと抱きしめた。そして比較的痛みが少ない左手で姉さんの背中を優しくさする。
「ごめんなさい、姉さん。たくさん心配掛けてごめんね。でも大丈夫、俺は姉さんを一人にはさせないから。何処にも行ったりしないから…。だから…泣いて良いん
だよ。もう…泣いて良いんだよ」
「う、う、う、うあああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
俺の言葉が引き金になったのか姉さんは今まで溜めていたものを全て曝け出す様に泣いた。暖かい涙がとめどなく零れて行った。
しばらくそうやって抱きしめていると不意に姉さんが俺の背中を優しく叩いた。どうやらもう大丈夫という合図らしい。俺はゆっくりと抱きしめていた腕を解いた。
そこには、目元を赤く腫らしながらも今までにないほど穏やかな表情をした姉さんの顔があった。
そうだ、姉さんも束さんも同じなんだ。誰にも言えないような大きな思いを抱えながらこの世界で必死に生きている。
弱音も吐けない、弱みも見せられない…常に気を張ってないと自分が自分でなくなってしまうのかもしれない恐怖と闘っているんだ…。
俺が出来ること、些細な事だが2人の拠り所になろう。2人が家に帰って来た時、その一瞬だけでも心も体も休められるように、2人がまた戦えるように・・・。
「す、すまなかったな一夏」
少し頬を赤らめて姉さんが言う。いっちゃなんだがとても可愛らしい。
「うんうん、もう大丈夫?」
「ああ、お陰でだいぶ楽になった。(この私が、こんな簡単に泣いてしまうとは…、まったく我が弟ながら恐ろしいものだ。)」
そう言う姉さんは、なぜか苦笑いを浮かべていた。
「そう言えばラウラが言ってた教官の事なんだけど…」
「ああ、そうだなそれも含めて説明しよう」
姉さんの説明を要約するとこんな感じだ。
試合開始直前に俺の拉致を聞いた姉さんは、報告に来たラウラちゃんを引き連れて俺が死闘をした廃工場まで来た。そこで見たのは、血塗れになりながらも戦いの構えを取りながら気絶していた俺だけがいたそうだ。すぐに駆けつけた医療班に俺を任せ病院に直行した。その際、護衛にラウラちゃんを付けたようだ。
翌日、姉さんは不戦敗の責任を取る形で引退を宣言した。元々この大会が終わったら引退するらしかったので姉さん自身は何とも思ってないらしい。なんだか俺が複雑だ…。
それから二・三日日か過ぎて、姉さんは諸々の礼も兼ねてラウラちゃんが所属する「黒兎部隊」へ1年間限定での教官をしたいとドイツ軍に対して申し出たそうだ。
ドイツ軍は、これを二つ返事で承諾し現在の姉さんはISの教官を務める事になったようである。色々な準備などがあるため正確にはまだ教官ではないらしいが…。
「そっか~、俺が眠ってる間にそんなん事があったんだね」
「ああ、しばらくはお前を一人にさせてしまうな…」
そう言う姉さんはどこか申し訳なさそうだった。
「俺は大丈夫だよ。姉さんは自分の道を信じて進んで」
俺がニッコリ笑って言うと姉さんは一瞬目を見開いたが、どこかイタズラっぽい笑顔を浮かべて俺の頬をツンツンしだした。
「全く、弟のくせに生意気だぞ」
「や、やめてよ姉さん。恥ずかしいよ」
そう俺が言うと更に笑みを浮かべてツンツンしだした。
「ほう、一夏が恥ずかしがる事なんてそうはないからな、もう少し堪能させてもらおうかな」
そんな感じで俺はしばらく姉さんのおもちゃにされていた。
一週間後
あれから、病院の検査で特に異常がない事が分かった俺は、松葉杖をつきながらではあるが歩行が出来るまでに回復した。…これが主人公だけが持つ驚異の回復力なのだろうか?原作であれだけボコボコにされているのに一夏ってほとんど無傷だもんな~。ただ右拳の傷は相当に酷かったようで完治にはもうしばらくかかるようだ。
まぁ、骨が皮膚を突き破って出てたみたいだからしょうがないか。ちなみにしばらくの間は食事をラウラちゃんに手伝ってもらった。具体的には「アーン」してもらった。恥かしかったけどラウラちゃんも楽しそうだったし良しとするか。ラウラちゃんの視線からは、どこか俺を尊敬しているような感じを受けたのだが…何かしたかな俺?全然記憶にないぞ。
それから俺達は、帰国の途に着くことになった。見送りにはラウラちゃんが来てくれた。
「ラウラ、短い間だったけどお世話になりました。右手はちょっと厳しいから今回は左手で許してな」
俺はそう言って左手を差し出した。
「何、気にする事はないさ。こちらも楽しかったぞ。またアーンしてやるぞ」
握手に応じながら、そうイタズラっぽく笑うラウラちゃんにおれは苦笑いを返すしかなかった
「ラウラ、お前には世話になった。ここに戻ったらお前は私の生徒第一号だ。1年でお前を部隊のナンバー1にしてやる。その変わりビシバシ行くから覚悟しとけよ」
「ハッ!!よろしくご指導お願いします!!」
そう言ってラウラちゃんは綺麗な敬礼を取った。空港のアナウンスが聞こえる
「それじゃあ、そろそろ行くね」
「ああ、道中気を付けてな」
俺は頷いて背中を向けた。しばらく進むと突然大きな声が聞こえた。
「一夏!!」
ラウラちゃんの声に俺が振り向く
「私は絶対に強くなる!!そしてお前のように誇り高くなる。だからお前も頑張れ!!」
そう叫ぶラウラちゃん。俺はどこか嬉しくなった。
「うん!!俺ももっと強くなるよ!!またねラウラ」
そう叫び返し今度こそ振り向かず、ゲートをくぐった。
この世界に来て初めて本気の勝負をし、初めて敗北したが得る物も多かった。
強くなろう…もっと、もっとだ。
いかがだったでしょうか?
感想並びに評価をお待ちしております
ではまた次回。