皆様に楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・
倉持技研
どうも倉持技研での滞在が決まった織斑一夏です。
あれから俺は政府の公用車を利用して目的地である倉持技研の前にいます。
白を基調とした施設は如何にも「研究所」と言った様相だ。
「…誰もいない」
目の前にはシンプルな門があるだけでインターホンすらない。どうしたものかと途方に暮れていると、ふいに誰かに尻を触られた。
「うおお!!?」
油断していたとはいえ、こうも簡単に間合いに入られるとは…修行が足りないな。俺は誰であるかを確認するべく後ろを振り向いた。そこに立っていたのはシンプルな黒のスーツに白衣を着てなぜか水中メガネを付けた女性だった。
…間違いないこの人が篝火ヒカルノだ。
「んーふふふ、やっぱ未成年のお尻はいいねぇ。君のは特にガッチリしているね、何かスポーツでもやってるのかい?」
こちらの事などおかまいなしと言った感じに聞いてくる篝火さん。やはり束さんと似ているとこがあるようだ…。
まぁ、ここは相手のペースに乗るとしよう。
「え、ええ、剣道と格闘技を少々…」
「ほほー!!だからこんなにいい尻してるんだね。近年稀に見るいい尻の持ち主だよ君は~」
そう言って笑う顔からはやたらと長い犬歯が見え隠れする。ていうか褒められても嬉しくないぞ。
「そりゃどうも、あの今日からお世話になる織斑一夏です」
そう言って俺は、目の前の篝火さんに挨拶をする。
「おお、君が噂の織斑君か…、ふーむふむふむ」
「…」
見られてる。メッチャこっち見られてる!!何なんですか!?俺なんて食べてもおいしくないですよ!!!そんな感じで嫌な汗が流れそうになった時だった。
「いたぞ!皆こっちだ!!」
何処からか数名の男性達がこちらにやって来た。皆一様に白衣を着ていることから恐らくこの研究所の職員なのだろう。俺を見るとハッとしたような表情をした
「お、織斑一夏君だね」
一人の男性職員が俺に声をかけた
「はい、今日からお世話になります」
俺は彼にお辞儀をする
「そうか、いやすまないね。所長が迎えに行く約束だったんだが、突然姿を消してしまってね。慌てて探していたら…」
「すでに俺の所にいたという事ですね」
彼の言葉を引き継いで話す。
「そう言う事だね。ところで織斑君。君所長に何かされなかったかい?今はこんな感じだけど、この人ど変態だからね。」
うわー、スゲーどストレートに言っちゃったよこの人。仮にも所長だろうに…。いいのかな?
「やかましいぞ、このブサイクめ!!」
そう言いながら篝火さんは話をしていた男性研究員に何処からか取り出した野球ボールを投げつけた。
「ほぎゃ!!」
見事に股間にヒット!何だか俺が喰らったような錯覚に陥り、下半身が「キュッ」と縮こまってしまった…。周りの男性陣も同じ様に顔を顰めている。目が合うとお互いに苦笑いをした。
研究所の住居室
「ふぅ、何とも慌ただしい挨拶だった…」
現在、俺は研究所内にある居住区の一室に案内された。ここが二ヶ月間住むことになった部屋だ。壁は白を基調とし床には畳が敷いてあり、和洋折衷と言った感じの部屋だ。
あれから何とか回復した男性研究員が俺を部屋まで案内してくれたのだ。歩き方が少し変だったが、そっとしておいた。去り際に篝火さんから「君は、中々に面白そうだ。暫くしたら私が研究所の案内をしてあげよう。」言って一人足早に去って行った。
「何だか見えない人だ……」
先ほど会った篝火さんのイメージを聞かれれば束さんとは、違う部類で異質な存在だと感じた。とにかく二ヶ月あることだし、ゆっくりと俺なりに見定めておこう。
さて話は変わるが 本日のスケジュールは、午後から研究所内の規約説明と施設の案内となっている。なお携帯電話は、エントランスで預けている。連絡の際は、研究員立会いの元で連絡を行うのだ。少々面倒に感じるが、物が物だけに仕方のないことだ。技術情報が流出でもすれば冗談では済まされないしな。
「さて、本格的な訓練は明日からだし…取り敢えずストレッチでもしておくか」
俺はひとり呟き、体をほぐし始めた。
しばらくして、午後となって研究所に関する様々な規約の説明が終わり、俺は篝火さんの案内で研究所の施設を巡り、今は所長室を篝火さんと話をしている。
「しかし君はお姉さんと似ているね。今もお姉さんは元気かい?」
「ええ、…あの姉とは知り合いなんですか?」
「そうそう、言ってなかったね。君のお姉さんとは高校時代の同級生だったんだよ」
しっくりこないのか、ゴーグルの位置を直しながら俺の質問に答える。
てかゴーグルは必ずしなきゃいけない物なのか?
「という事は、束さんとも友人なんですか?」
「いやいや、それは違うのだよ織斑君」
篝火さんは首を横に振るって否定の意を伝える。
「友人やそれに類似する言葉は、対等な相手を指すんだよ。彼女らにとって友人はお互いでしかないのだよ」
それから彼女は、やれやれと言わんばかりに溜息をつきながら続ける。
「私は、二人の足元にも及ばないからね。だから同級生なのさ」
ふむ…何だか違う様な気がする。
「何だか変な感じがしますね」
独り言のつもりで言ったのだが篝火さんに聞こえてしまった様だ。
「ほほう、変か〜、面白い。是非君の意見を聞きたいな」
明らかに目の色が変わった。猛禽類の様な目だ。どうやら彼女の何かに火をつけてしまった。
はぁ〜…。仕方ないか。
「まず、お互いが「対等」でなければならないという所に疑問を感じました」
「ふむふむ」
「これは俺の持論ですが、まず人間は人種、性別、立場、生きる環境も含めてほとんどが違うものですよね?」
「まぁ当然だね。この世に生まれ落ちた時から既に不平等が発生しているからね」
彼女は頷く
「ならば、必ずしも友だちであるには「対等」でなければならないという言葉は、いささか説得性に欠けるように思われるんです」
「…続けて」
「所謂「相違」があるからこそ人に対して興味が湧くし、アクションを起こそうとするんじゃないでしょうか?」
「相違……」
俺は頷く
「俺の友人に出身が中国で明るく活発で勉強が少し苦手な子がいます。対して俺は、目立つのが苦手で割と周りから一歩遅れてしまう事があるんです。でも俺たちは互いに友人としの関係が成り立っています。」
彼女は別の形を望んでいると思うけど、とりあえずこの場をこれで切り抜けよう
「…」
「最初、俺がいつも引っ張られたり遠慮したりする形でしたが、それも時間をかけて対等になりました。この事からも分かるように初めから「対等な関係」なんてないと思うんです。」
間をおかず続けて言う
「姉さんも束さんも確かにすごい人ですが、厳密に言えば対等ではありません」
俺の言葉に篝火さんは目を見開き体を前に出してきた。
「ほほう、どの部分で対等ではないのかな?」
俺は自信を持って話す
「それは…「料理」です」
若干の静寂
「…え、え~と…料理??」
戸惑うように篝火さんが口にする
「はい、口外しないで欲しいのですが、姉さんは料理が得意ではありません。むしろ苦手な部類に入ります。対して束さんは料理がとても上手です。この部分で既に対等な関係は崩壊しています。以上の事から「対等」という言葉は変ではないかと判断しました。」
「………………」
呆けている篝火さんをよそに俺は締めに入る。
「勿論、これは俺の持論で、強引で説得性や論理性に欠けていますが…。」
篝火さんが下を向いてプルプル震えだした。
や、やばい!!偉そうなことを言いすぎたか!?かくなる上は…当方に土下座の用意あり!!
だが、俺の心配は杞憂だったようだ。
「ふ、ふふふ」
突然篝火さんが笑い出した。その声は、どんどん大きくなっていく
「ふふふふ、あはははは、だーーはははははっははっはは、ひっひひひひ」
そして遂には腹を抱えて笑い転げてしまったのだ。突然の事に驚く俺をよそに目に涙を溜めながら笑い声が続いた。そして…
「はーー、こんなに笑ったのは久しぶりだ…。しかし「料理」と来たか、それは盲点だったな~」
「あ、あの~」
「うん、本当に面白くなってきたな~」
聞いてない…おーい所長さ~ん
「織斑君…いや一夏君!」
「は、はい!!」
「明日からのISの勉強は私が教えよう」
「え?」
「今後私の事は「篝火先生」と呼ぶように!!」
笑顔でのたまう篝火さん
また厄介な人に気に入られたようです…。
神様、どうしてこうなるのでしょうか?
いかがだったでしょうか?
今回は大変苦労しました。
安易に新キャラを出すのも考えようですね…。
1つ勉強になりました。
感想並びに評価をお待ちしております