皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。
ではどうぞ…
強大な衝撃が地面を揺らし、アリーナ中央では未だに大量の粉じんが舞っていた。
『な、…何が起こったの?』
突然の出来事に戸惑う鈴に一夏が答える。
『どうやら、…招かれざる客が来たようだ』
一体何の事か理解できなかったが、今やるべき事は分かっている。鈴は一夏に叫んだ。
『とにかく一夏、試合は中止よ!すぐにピットに戻って!!』
鈴は頭をフル回転させ、愛する人を如何にして守るか考えた。そうピットに入ってしまえばとりあえずの安全は確保される。しかしその提案は無情にもその相手に否定されてしまった。
『無理だ。…ピットの格納扉が閉まってる』
『そ、そんな…』
僅かに動揺する鈴。だがこの動揺は致命的、敵ISが甲龍にビーム砲を放った。
『っ!?鈴!!』
一夏は鈴を抱きかかえてその場を緊急回避。同時に2人が居た空間に凄まじい熱量が通過した。一夏がオープンチャンネルを開く。
「危なかった…。怪我はないか鈴?」
「だ、大丈夫…」
「そうか…悪いがもうしばらくこのままだ。敵を視認したら下ろす、それまでしっかり抱きついてろ。いいな?」
「は、はい!」
返事とは裏腹に鈴は動揺していた。想い人の顔が息が当たるほど側にあり、身体同士はこれでもかと密着している。この鼓動の速さは戦闘だけが要因ではないだろう。
そんな鈴の心情に一夏が気付くわけもなく敵が放つビームの連射を回避していると、ようやく不明機の姿が露わになった。
ーーーその姿は一言で表すとまさしく異形。
全体は世にも珍しい全身装甲(フル・スキン)仕様、肩と頭部が一体化した胴体にはセンサーレンズが幾つか並び、姿勢制御のためか全身にはスラスターが点在している。そして最も特徴的な地面につきそうな程に長い両腕には左右2門づつ、計4門のビーム砲が搭載されている。
ビームの連射が止むと同時に不明機に注意を向けながら鈴を傍らに下ろした。
「ちょっと!あんた何者よ!?」
先程の事もあって少し八つ当たり気味に相手を威嚇する鈴。
「………」
そんな言葉に相手が答える事も無かった
『織斑君!凰さん!アリーナを脱出して下さい!直ぐに制圧部隊が向かいます!』
その言葉に一夏が静かに答えた。
『…山田先生、ピットの格納扉が閉まっています。脱出不能です』
『え!?い、今開き、そんな…シールドレベルが4になってる。しかも扉が全てロックされてる!!』
慌てる山田先生を余所に、通信に千冬が割って入る。
『織斑、凰、聞こえた通り現状は最悪だ。システムクラックが完了するまでそちらへの支援が出来ない』
その言葉に一夏は迷いなく答えた。
『分かりました。こちらで迎撃行動に入ります!』
『織斑君ダメです!そんな無茶なこと…』
『許可する!ただし2人とも、決して無理はするなよ』
『『了解!!』』
ここでタイミングを見計らったように敵が突っ込んできた
「行くぞ鈴!!」
「オーケー、やぁぁってやるわぁぁ!!!」
2人は敵を挟んで左右に展開した。
管制室
「織斑!凰さん!応答してください!」
必死に回線を開こうとする山田先生を千冬が戒める。
「落ち着きなさい山田先生。…悔しいが今の私達には何も出来ない。あの2人に任せるしかないんだ」
「ですが…」
「信じるんだ」
「!?」
「生徒を信じるのも教師の役目だ…」
「織斑先生…、はい!!」
pppp
「ん?通信だと?」
千冬がコンソールを操作してモニターを映した。そこには打鉄弐式を纏った簪の姿があった。箒とセシリアから驚愕の声が上がった。
「簪!」
「簪さん!どうしてピットに?」
「試合に向けて機体の調整をしていたの…それより織斑先生、お願いがあります」
「…何だ?」
普段の簪からじゃあり得ない発言が飛び出た。
「私に出撃許可をください!」
突然の申し出に驚く一同。当然ながら最初に異議を唱えたのは山田先生だった。
「なっ!何を言っているんですか更織さん!?だいたい格納扉が閉鎖されてるのに…」
「今シュミレーションしましたが山嵐と春雷の同時攻撃で格納扉を破壊してアリーナに突入する事ができます!」
「だからって…私は反対です!!これ以上、生徒を危険な目に合わせるなんて…」
尚も食い下がろうとする山田先生。だが…
「約束したんです!!!」
「!」
山田先生だけでなく、箒もセシリアも言葉にしていないが驚いている。あの簪が怒鳴ったのだ。普段彼女と長い時間ともにしているが、どこか気弱で自己主張が決して得意ではない印象が強かった。だが今の簪からは普段の気弱さはなかった。ただただ真剣な眼差しをこちらに向けていた。更に簪の言葉が続く。
「どんな敵にも絶対に引かないって、私は…『彼』と約束しました」
彼が誰であるか…簪の視線が答えていた。今もアリーナで戦う翼を纏った戦士の姿を。
尚も戸惑う山田先生を余所に千冬が簪に問いかけた。
「…更織、一つだけ聞く」
「…はい」
「怖いか?」
単純明快な質問。だがこの質問は極めて重要だ。これから簪が向かうのはルールに守られた『試合』ではなく『戦場』なのだ。1つのミスが簪だけではなく一夏や鈴にまで危険を及ぼす可能性がある。故に簪が自身の状態を冷静に判断できているか含めた意味での質問である。簪が口を開いた。
「怖いです…」
偽りのない簪の本音だ。
「でも、ここで引けば私は一生後悔し続けます!!だから…行かせてください!!!」
そしてこの思いもまた簪にとっての偽りのない答えなのだ。しばし両者がじっと眼を合わせる。とここで千冬の口元が少しだけ緩んだ。
「…いいだろう。行け!…みんなを守ってみせろ!!」
「…はい!!」
格納扉に向かって全武装を格納扉にロックオンした所で箒とセシリアからプライベートチャンネルに通信が入る。
「簪!一夏と鈴を頼んだぞ!!」
「ご武運を!!簪さん!」
大切な友人である2人の言葉に簪がしっかりと答える
「うん!行ってきます!」
簪は格納扉に向かって全弾発射した。
アリーナ
「いけえええ!!」
衝撃砲の斉射。何発が不明機に掠り機動が乱れる。
「一夏!今よ」
「うおぉぉぉ!」
隙が出たところを横合いから右ストレートを叩き込む。手に伝わる衝撃で一夏は確かな手応えを感じたていた。しかし不明機は人間では信じられない様な動きから直ぐに態勢を直し長い両腕を生かし駒の様に回転しながら一夏に迫った。
「ちっ!」
まるで嵐のような猛攻から辛うじて回避に成功した一夏は、鈴の所まで戻って行った。
「一体何なのアイツ!!アタシや一夏の攻撃を何発も食らっているのにピンピンしてるじゃない!?てか何で一夏はグローブでばっか攻撃してんのよ。雪片はどうしたの?」
鈴の疑問に一夏が説明する。
「この『八龍』は、機体のダメージがそのまま攻撃力に返還される武器なんだ。鈴との試合で貰ったダメージ分が上乗せされた一撃を浴びても大して効いてる様には見えない。今の八龍は『雪片弐型』の実体剣より攻撃力は上なんだけど…こりゃ厄介だな」
「どうにかなんないの?」
「さてはて…どうしたものか」
しかし一夏には予感があった。予想も出来ないような「神の一手」がこのアリーナに舞い込んでくると。
ドカーーーーーーーーーーーーン
敵の後方に位置するピットから爆発音が聞こえた
「こ、今度は何なの!!」
「新手か?」
突然の出来ごとに緊張感が増す二人。と、ここで未だに煙が立ち込めるピットから多数のミサイル群が姿を現す。
一夏と鈴が慌てて回避行動を取ろうとする。が、ミサイル群はそのまま不明機へと脇目も振れずに進んでいった。回避行動を取りながらビームによる迎撃を行う間に一機のISが一夏たちの基に近づいてくる。ハイパーセンサーがその正体を正確に捉えた
「あれって…」
鈴と一夏が驚く。
「打鉄弐式…。簪か!!」
「一夏、鈴、…お待たせ」
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