皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・
どうも、さっきまで主夫をやっていた織斑一夏です。この世界では姉弟で食事をとる機会しかなかったので、誰かを加えた食事なんて初めてだ。正直、楽しみにしている。しかし束さん、あの悲鳴を聞く限り姉さんに相当ボコられただろうに食事を運ぶ時に見た姿は何事もなかったようにぴんぴんしていた。…本当に彼女は人間なんだろうか?
さて本日の我が織斑家の献立は、ご飯・豆腐の味噌汁・肉じゃが・焼き餃子と水餃子・レタスのサラダでございます。前世の家事スキルが役に立った…。人間何でも経験しておくものだ。そんじゃ三人とも席に着いたので
「「「いただきます!」」」
今日は一夏の入学式。忙しさを理由に一夏に寂しい思いをさせてきたが、こんな時くらいは姉らしいことをしてやらんとな。
今日まで色々あった。あの人たちが突然いなくなって大変だった。幸い蓄えは豊富だから何とかなるだろうが、慣れない家事やらを必死にこなした。一人では間違いなく潰れていただろう。それを乗り越えられたのは、今隣で束と楽しそうに話をしているこの小さな弟がいたからだ。
一夏はだいぶ大人びている。いや、こんな簡単な言葉では言い表せない何か大きなものを弟からは感じている。私は周りからは何でもこなしてしまうイメージが定着しているがそんなことはない。私だって人間だ、間違いだってある失敗だってする。なのに皆は、私の成功しか見ない。かかる期待に比例して日々増していくプレッシャー…辛かった、表には出さないがとてもとても辛かった。だがそんな風に私が沈んでいると一夏はきまって傍にいて声をかけてくれる。
「大丈夫だよ」
「千冬姉さんは間違っていない」
「俺は姉さんが頑張っていることを知っているから」
「一緒に頑張ろう」
純粋に嬉しかった。報われた気分にもなった。
その時はまるで、自分より遥かに大きな男性に包まれるような錯覚を感じるほどに…。
あの雰囲気は束とは違うが、ある種の何かを超越したようなものが一夏にもあるのだろうか?
……いや、やめよう。考えたところで無意味なことだ。仮にそうだとしてもだから何だと言うのだ?
こいつは私の自慢の弟ということに変わりはない。私にとって、たった一人の家族だ。今はそれで良い…もし一夏が何か話してくれるのならば、どんなことでもただ聞こう。姉として、家族として。一夏が私にそうしてくれたように…。
しかし問題は、目の前のこのウサギだ。当たり前のように一夏の隣に座り餃子を作っていた。しかも私よりも断然にうまい…。おい束、お前料理なんてやったこともないだろうにどういうことだ?私へのあてつけか?
更にどういうつもりか知らないが、一夏に自分のことを姉と呼ばせ。挙句の果てに突然抱きしめたのだ。
…思い出しただけでも腹立たしい!
しかし疑問に思うこともある。こいつの行動は、基本的に人をおちょくることが前提だが初対面であそこまで露骨な接し方は私にもなかった。むしろ一種の愛着すら感じるほどだ。やはり束も何かしらのものを一夏に感じたのだろうか?今度その辺りを詳しく聞いてみよう。
「え!姉さんって百人切りを達成したの!!」
…おいウサギ、一体一夏に何を吹き込んだ?
予定変更だ。やはり今ここで亡き者にしてしまったほうが良さそうだな。私は決意を新たに右手に力と殺意を溜め、機会をうかがう。
いっくんについては以前からちーちゃんに聞かされていた。普段から厳格な性格で、他人をあまり褒めないあのちーちゃんにここまで言わせるのだ。しかも元々感情の変化が少ないあのちーちゃんが薄くではあるが「笑み」を浮かべながらである。
興味が湧いた。唯一の肉親とはいえ、ただの子どもにそんなことが出来るだろうか?あり得ない、もしかしたら私と同じような異常性があるのかもしれない。
私を正常か異常かで判断するなら間違いなく後者である。1の問題に対して100通りの答えを出せる上にそこまでの道筋も答えられる。私にはそれが出来る確たる自信がある。周りは称賛するがどうでもいい…。
他人など私にとって道端の石ころと同じレベル…、いや、それ以上に嫌悪感すら感じるのだ。両親でさえ「私を生んだ人間」程度にしか認識できない。そこら辺に私の異常性あるいは狂気が存在するのだろう。
私が本当に信頼を置けるのは妹の箒ちゃんとちーちゃんだけだった。そんなちーちゃんが絶賛する弟君に興味が湧くのも当然のことだ。小学校のデータベースにクラッキングをして確認してみれば偶然にも愛しの箒ちゃんと同じクラスではないか!
「会ってみたい」ただその思いだけが私の思考を支配し行動させた。
そして着いた場所は、織斑家の玄関前。うぷぷぷ、この程度の鍵など束さんにかかればイチコロである。素早く鍵を開け、音もなくリビングの前にに辿り着いた。 この先にいる。一体どんな子なのだろう…私の好奇心を満たしてくれるだろうか?期待と不安を胸に静かにゆっくりと扉を開けた。
だがそこで見た光景に私は驚愕した。
その子は、ちーちゃんと一緒に餃子を作っていた。あのちーちゃんが餃子を作っている?普段は厳格で他人を寄せ付けないような雰囲気すら出しているあのちーちゃんが!?だが本当の驚愕はここからだった。
「今度こそ~、ぬぉ!また破けた、なぜだ、何がいけないのだ!?」
一瞬我が耳を疑った。あのちーちゃんが悪態をついた!!…いや確かに普段から私に対しても冗談交じり?の悪態はつくが、たかだか餃子ごときで子どものように悪態をついている。普段のちーちゃんと全くかけ離れている。
…ダメだ、何なんだこれは、もはや私の理解の範疇(はんちゅう)を超えている。一体何が起こっているのだ?天才と自負している私が全く理解できないのだ。…だがその中でも二つだけ分かったことがあった。
一つ目は悪態をついているちーちゃんは楽しそうだった。ちーちゃんの作る餃子は歪(いびつ)だが一つ一つを一生懸命に作っている。私が何かものを作る時と雰囲気が同じなのだ。
二つ目は、この空間を作りだしたのは間違いなくちーちゃんの隣に座っている弟君だということだ。私は、まるで誘われるかのように彼の隣りに静かに座る。不思議だ他者に対して一番に感じる嫌悪感が全くない。それどころか安心する。まるで包まれるような暖かさを感じる。彼は全くこちらに気づいていない。ちらっとその顔を見る。ちーちゃんと同じような切れ長の目、柔らかそうな黒髪、なるほど確かに彼はちーちゃんの弟だ。だがそれだけでは、ここまで私を安心させるその異常性を説明できない。確かめよう…この好奇心を満たすために。
私は弟君の手順に習って餃子の皮をとり、餡を乗せ皮のふちを水で濡らしてから包む。完璧といって良いほどの出来だ。単純な作業だし特に難しいわけではない。 だが楽しい、理由もないのに本当に楽しいのだ。作る手が止まらない。そして考えもなしに声をかけてしまった。普段の私ならこんなこと絶対にあり得ない。しかしもう遅い、いくしかないと内心冷や汗をかきながら彼の言葉を待った。
そして彼は言ったのだ。
「まぁーそれでも大切な姉さんですからね。良いと思いますよ。これで」と。
彼にとっては、何気ない言葉、半ば無意識なものだったのだろう。とてもじゃないが子どもが使う言葉ではない。しかしどこにも違和感がない。まるで何年も使ってきたかのように、言葉自体に重みを感じるのだ。異常だ、明らかに異常だ。だが不快感はない。それどころか笑みが零れる。本当にちーちゃんを大切していることが良く分った。
しばらく話をしたが未だに謎は解けない、難解なパズルあるいは方程式?…それどころかいつの間にかあの暖かい雰囲気に飲まれてしまっていた…あれは一種の麻薬のようだ。暖かさが心に沁み込む、もっともっと、と欲しくなる。
ふふっ、ふふふ、イイ、イイよ、いっくん、最高だよ、君は最高だ!!
いつか、イツカ、ワタシダケノモノニ……
いやー本当に楽しい食事会だった。具体的には、束さんが姉さんをおちょくるor俺にちょっかいを出す→姉さんが制裁を加える(物理的に)→俺が仲裁する。そしてこの無限ループである。でも楽しかったから良いか…。そして楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。
織斑家の玄関前
「いや~今日は、本当にご馳走様。また食べにくるね」
「二度と来るな、一夏塩持って来い」
「ひっど!?」
「姉さん抑えて抑えて、束姉さん今日は楽しかったですよ」
「ふふ、ありがといっくん。じゃ、そろそろ帰るよ」
そう言って、玄関へと近づく束さん。が、
「あ、そういえば忘れてた。」
何かを思い出したかのように俺に近づき話をしだした。
「これはお礼。私を受け入れてくれたお礼」
束さんの顔が近づいてくる。そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちゅっ
唇に暖かいものを感じた。
「ふふ、束さんのファーストキス。じゃーねーーー。」
バタン。
・・・・・・・・・え?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
次は絶対に箒ちゃん出す
また次回。