皆様が楽しんで頂ければ幸いです
ではどうぞ
朝、目が覚めると視界一面に青空が広がっていた。
「……んん?」
あれ?おかしいな、昨日は寮のベッドで寝たはずなのに…。とりあえずゆっくりと身体を起こしながら辺りを見渡す。
どうやら何処かの海辺の様だ。
コバルトブルーの海が奏でるリズミカルな波の音はとても心地良い。寝そべっていた砂浜はゴミ一つ落ちていない。美しく幻想的な光景、まるで俺の理想を体現した様な世界がここには広がっている。
気になる点といえば浅瀬に生えている朽ちた木々の枝にはには大小様々な「骸」が括り付けられている位か…。まるで歪な果実のようだな。
風が吹く度にカタカタとこの世の無情を嘆くように骸達が音を奏でる。
美しくも残酷な現実を突きつけるような酷くアンバランスな世界観は、ここが現実の世界ではないことを示唆している。
「白式の深層心理……」
無意識に呟いた言葉を脳内で反芻して結論が出た。そうだ、原作一夏が福音に墜とされた時、彼はこの世界に初めて足を踏み入れた筈だ。
「一体どうなっているんだ?」
俺も白式も健在だし、福音が現れるのはもう少し先のはずだ。朽ちた木々はあったが、あんなものはついていなかった…。近場にあった流木に腰を下ろしてボーっと海を眺めた。異常な光景のはずなのに特に危機感が湧かない。俺の心はこの海のように穏やかだ。
暫くそんな風にしていると、右側から突然人の気配を感じた。
「あ…」
「…」
白の大きな帽子と白のワンピースを着た少女。こんなに近いのに目元は影になっていて分からない。恐らくだがこの子が白式の統制人格なのだろう。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ〜、隣に座るかい?」
無言の世界に耐えられなかった俺が彼女に声をかける。俺の言葉にこくりと頷く彼女、どうやら会話は成立するようだ。
ぎゅ
「おろ?」
右隣に座った白式(仮)は、俺の腕に抱きついてしまった。
「えっと…」
心無しか隙間から見える彼女の頬は少し紅潮しているようだ。…照れてるのかな?なんだか可愛らしい。心の中で苦笑いを浮かべながら俺は視線を海へと戻した。
「楽しい?」
「ん?」
「あなたの暮らす世界は…楽しい?」
鈴を鳴らしたような美しい声から発せられた唐突な質問。何を意図してか分らないが彼女にとっては重要な事なのかも知れない。
「楽しいよ」
「色々大変なこともあるけど、大切な人たちと過ごす世界を愛おしく思えるよ」
ただ思っている事を正直に彼女に伝えた。欲を言うならば修羅場は勘弁してください。本当マジで…。
「…そっか」
ただそれだけ呟いて彼女はまた黙り込んでしまった。此方からも質問をしようとした時だ。
ゴーン、ゴーン、ゴーン
不意に響いた大きな鐘の音。音の元に目を向けると少し離れた場所に教会のような建物が存在した。
はて?さっき見た時、あんな建物あったかな?
「そろそろ戻る時間」
これまた唐突の別れの言葉。一体なんでここに来たのだろうか?全くもって分からない
「…そうか」
「一夏」
「なんだい?」
「私も『あの人』も…どんな事があろうと一夏の味方。この命が尽きるまで…」
あの人、恐らくは『白騎士』のことだろう。しかし命が尽きるまでときたか…どれぼど俺は信頼されているんだか。
「だから…負けないで」
確かに伝わった彼女の想い。笑みがこぼれた。俺は彼女の頭をひとなでして最大限の感謝の言葉を伝える。
「ありがとう、君の想い…確かに心に刻み込んだ」
その瞬間、俺の意識はブラックアウトした。
「ん…」
ゆっくりと意識が覚醒する。天井がある、いつもの天井だ。ついで上半身を起こして周りを確認。いつもの学習机、備え付けの簡易キッチン、…箒がいなくなって空いたベッド。
ついこの間、部屋の調整ができたので箒が出ることになった。少々しょんぼり顏をして去って行くその姿が子犬みたいでなんだか可愛らしかった。
「なんだったのかな…?」
夢と言うにはハッキリし過ぎた記憶があるし…白式はどうして俺をあの『世界』に呼んだのだろうか?正体不明な胸のつっかえを抱えながら俺は身支度を整えた。
「一夏、明日は予定ある?」
土曜日の授業が終わり、いつものメンバーで夕食をとっていると右隣にいる鈴から明日の予定を聞かれた。
…相変わらず座るまでやたらと時間が掛かる。理由はお察しください…。
「いや、特にないよ」
「じゃあ、皆で買い物に行くわよ」
突然の提案にセシリアと簪は戸惑っているようだ。
「買い物ですか?鈴さんどこに行くんですの?」
セシリアが鈴に問いかける
「レゾナンスっていう駅と直結した複合施設よ。お店もかなりの数があるし一日中楽しめるわ」
そう言いながら鈴がレゾナンスのパンフレットを出してきた。鈴の言う通り様々なお店の名前が連なっている。しかし買い物か…。う〜ん特に買いたいものもないんだけどな。
と、ここでさらに鈴の言葉が続いた。
「それに…あんた、ここ最近オーバーワーク気味よ。たまには休まないとそれこそ潰れちゃうわ」
はて?オーバーワーク?なんのこっちゃ?
「そうかな?」
「クラス代表の仕事、連日のIS訓練と自主トレーニング、女子達のお悩み相談、果ては山田先生の仕事の手伝いまでしてるじゃない!!これをオーバーワークと言わずしてなんて言うのよ!!」
「……」
俺ってそんなに働いてたのか!?やべぇ…全然意識してなかった。確かにオーバーワークだな。これが日本人の性だと言うのか…恐ろしい。
「ん?」
「「「………」」」
視線を感じて顔を上げると残り3人の非難混じりのじと目をいただきました。アザース!!
……はぁ〜、心の中でおちゃらけてみたけど、こりぁ勝てないわ。降伏でーす。
「分かった。明日一日は皆で羽根を伸ばしてのんびりしようか」
「決まりね」
満足そうにうなずく鈴
「じゃあ、俺は明日に備えて戻って休んでるよ」
「ああ、明日は楽しみにしてろよ」
「おう、じゃあまた明日」
一夏が去った後、乙女達の作戦会議が始まった。
「良いわね、明日はみんな私服を着て少しでも女子力を見せつけるのよ」
「うむ」
「勿論ですわ」
「頑張る」
それぞれが想い人のために一致団結する姿は美しい友情が伺える。ここに日英中同盟が締結された瞬間だった。
しかしここで鈴が呟いた。
「まぁー、一夏が私のものになるのは間違いないけどね」
「ははは、何を言ってるのだ鈴?それは私の間違いだろう」
「やれやれ、箒さんが冗談を仰るなんて明日は槍が降るかも知れませんわね」
「…妄想乙」
「「「「HAHAHAHAHA〜」」」」
食堂に高らかな笑い声が響き渡る。しかし目が笑ってない完全に据わっていた。
「「「「……」」」」
底冷えする様な空間が生まれた。『触らぬ神に祟りなし』という格言の通り周りの女子たちは足早にこの場から撤退した。
「さてと、…そろそろ白黒ハッキリさせるべきかしらね」
「上等だ」
「このわたくしに敗北はありえませんわ」
「負けられない戦いがここにある…」
「「「「勝負!!」」」」
いとも容易く同盟が破棄された瞬間でもあった。
「うお!?」
とんでもない悪寒がした…。な、何だ?一体何だったんだ!?
「気のせい…だよな?」
知らぬは彼ばかりであった。
いかがだったでしょうか?
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