IS~転~   作:パスタン

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 今年最初の投稿です。みなさま本年もよろしくお願いします。

 ではどうぞ


ブルー・デイズ/レッド・スイッチ

 俺が今手にしている獲物はいつものブレードではない。かと言って無手でもない。一般的な名称を『ライフル』と呼ばれる代物である。

 

 俺は心を落ち着かせ、精神を集中させる。倉持で簪に習ったことを思い出す。

 

 ストック(銃床)の定着は射手の右頬を、一定の位置に密着させる。この定着性が高まると、その分が銃の安定性に繋ってくる。安定性が高いほど、照準も段違いにしやすくなる。バット(床尾)の位置は右肩のくぼみに正確に当てることにより、よりしっかりと銃を構える事が出来ることに加えて反動軽減にも繋がる。右肘は位置は射手のバランス調整、バットの当て具合に影響を与えるので、ここを軽視してはならない。右手は人差し指を引き金に、残る指はグリップ(銃把)をしっかりと握る。同時に、銃を引きつけてバットをしっかり肩のくぼみに固定する。左手のハンドガードを支える位置は、射手の体格、目標の位置によって異なるが、基本的には指が自然にハンドガードに巻き付く感じで手首共々楽にし、左肘はその時の構えに応じて、出来るだけ銃の機関部の下に持ってくるようにする。

 

 態勢は万全。

 

 然らば撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!撃つ!!

 

 五五口径アサルトライフル『ヴェント』を的に向かって撃ちまくる。銃声が非常に耳に心地いい。心臓の鼓動が高鳴り、銃を撃った後の反動が体に響く……そしてなぜだか口元が自然と吊り上がる。間違いなく楽しんでる。気分が高揚する。やっぱり俺も男の子なんだなと内心で苦笑いしつつリズミカルにマガジンを撃ち終え、安全装置をかけると銃を下ろして楽な姿勢で一息つく。

 

「ふぅー」

 

 隣から二人分の拍手が聞こえてきた。

 

「すごいよ一夏!!とても初心者には思えなかった!」

 

「ふむ、FCS(射撃管制システム)ナシでここまでやれるとはな……。射撃の適性もあるようだし格好も中々様になっていたぞ」

 

 どうも織斑一夏です。シャルとラウラが転校してきて5日目の午後。本日は射撃関係のレクチャーを両名から教わってるところだ。ちなみに他の4人は箒のレクチャーに回っている。ここで改めてラウラが登場しているISについて説明していきたいと思う。

 

シュヴァルツェア・レーゲン 

 

 ドイツが製作したラウラの第3世代型IS。主な武装は右肩の大型レールカノンと両肩・リアアーマーに計6機装備されたワイヤーブレード、両腕手首から出現するプラズマ手刀。AICと呼ばれる機能を搭載する。待機形態は右腿の黒いレッグバンド。機体カラーは黒色。AIC(慣性停止結界)とはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称。ラウラ自身は「停止結界」と呼称している。もともとISに搭載されているPICを発展させたもの。対象を任意に停止させることができ、1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要であり、複数の相手やエネルギー兵器には効果が薄い。

 

「ここに来る前なんだけど、倉持技研でISを操作する機会があってな。一通りの射撃訓練を教えて貰ったんだ。ちなみに先生は簪だった。リクエストがあれば言ってくれ」

 

「そうだったんだ」

 

「一夏の撃つ方を見ればわかる。基本を忠実に守った綺麗な姿勢だった。簪は良い指導者だったようだな。それじゃ次は伏せ撃ちを見せてくれ」

 

「了解」

 

 伏せ撃ちは他の姿勢に比べて非常に安定性が高い。従って射撃精度も高くかつ姿勢が低く敵に対する防御にも優れているので、戦闘で最もよく取られる射撃姿勢の一つとされている。但し、遠距離での撃ち合いと言う事に限定されるだろう。つまりこの姿勢の欠点は、近付かれた場合一方的にやられてしまう可能性が高くなり次の動作に移る時、他の姿勢に比べて最も時間が掛かこと等がある。幾ら射撃姿勢が安定しているとはいえ、状況を考えずにこの姿勢ばかり取るのは考え物である。まず、両膝を地面に落とし、銃のバットストックを地面に付け、右手、左肘の順で地面を突き、状態を前方に倒す。次に、右手でストックを持ち、バットをしっかり右肩に当て、両肩の線と銃を直角にする。そして右の頬を自然にバットストックに当てる。この時、両肩は水平に。両足は軽く開き、楽にする。両肘は肩幅よりやや広く、上体の重みを均等に掛ける。右足を曲げることにより、呼吸がしやすくなり、左足がストッパーの役目を果たしている。

 

 更にラウラが言っていた通り白式には兵器が目標物を正確に射撃するために火器を制御するための、計算機・測的器を主体とする装置であるFCS(射撃管制システム)を含めたその他の機能が備わっていない完全なる近接格闘型のISなのだ。それを分かっていた俺はこうして旧来の構えを簪から習うことができた。

 

 準備万端、カートリッジを交換しリズムをつけて撃つ!!撃つ!!撃つ!!……先ほどと同じくワンマガジン分撃ち終えてから先程のを含めたトータルの命中率を確認する。

 

……総合命中率73.2%か、それなりにはやれているだろうか。

 

「まずまずだな」

 

 ラウラからのありがたい評価である。

 

「でも、初心者にしてはすごいと思うけどなぁ」

 

 苦笑いしながら俺のフォローをするシャル。そこにラウラは付け加える。

 

「無論、初心者ということを加味すれば中々のものだ。しかしこれが実戦となると命中率は今の半分以下を想定しておいたほうがいい。実戦になれば外の状況に加えて心身も全く変わってくる。今も撃つ瞬間に銃身がブレてしまっていた。まだまだ実戦で信頼を置くには鍛錬が足りんだろうな」

 

 この辺のことについては、特殊部隊の隊長をやってるラウラの言葉は何よりも説得力がある。しかしあの一瞬でこうも的確に指摘が飛んでくるとは……流石だよな。

 

「確かにまだまだ訓練は必要だな。しかしシャルルはすごいよな」

 

「え!?何のこと?」

 

「それぞれ特性の違う武装を20も扱えるんだから。俺だったら2つか3つが精一杯だよ」

 

 実際まじかで見たシャルの特技『ラピッドスイッチ』には思わず目を見張った。鈴とシャルの模擬戦でその場の状況に応じて適切な武装が瞬時に切り替わっていく様は、正しく才能と努力によって得た千変万化といっても過言じゃない。鈴もかなりやりずらそうに相手をしていたし、見ていた箒はポカンと口を開けてた。機体の性能差が戦力の決定的な差ではないというセリフが思わず思い浮かんでしまった。様は全てにおいて操縦者の扱い方次第なんだろうな。

 

俺に出来ないことがシャルには出来るシャルに出来ないことが俺には出来る。今はまだこれでいい……そう、今は

 

「そんな、僕なんてまだまだだよ」

 

 そう言いながらも、嬉しそうに答えるシャルを見るがその仕草はどう見ても女の子だろう。思わず溜息が出そうになる。こっちからするといつか誰かにばれないか内心冷や汗ものだ。お願いだからもう少しだけ男っぽくふるまえないだろうか……無理だろうな~。まぁ女子たちにはこれが貴公子の振る舞いに見えるのだから良しとしよう。

 

 事実上、男子が2名いる1年ではどちらが好みかで二分しているらしい。俺への評価は、強く頼りがいがあり料理が上手で守ってくれそうな男子。シャルの評価は、気品があり儚げで思わず守りたくなる男子。気持ちは分からなくはないけど、その評価が本人の知るところになるとどうしていいか分からず戸惑ってしまうのが本音である。

 

「みんな~、そろそろ終わりにしよう。アリーナの閉館時間が迫ってるぞー」

 

 俺はプライベートチャンネルで4人を呼び出した。

 

「はぁ~今日も疲れた。それじゃあシャル、俺は先に入って着替えてるな」

 

「うん。また後でね」

 

「はいよ~」

 

 こんな風に出来るだけ鉢合わせにならないように自然な会話からシャルと離れるようにしている。最初の頃は変にどもっていたが、今では自然な流れができていると思う。ただ部屋にいるとこんな事もある。

 

 

 

 

『ちょっと一夏!また髪乾かしてない』

 

『いいじゃないか、そのうち自然に乾くよ』

 

『そんなこと言って、風邪ひいたら困るでしょ!』

 

『夏も近いし大丈夫だよ』

 

『そういう問題じゃないの!ほらドライヤー持って来る!僕が乾かしてあげるから』

 

『はいはい』

 

 

 

 

 とまぁこんな感じに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるシャルについ甘えてしまう自分がいる。俺からしてみると、だらしない父親にプンスカ文句を言いながらも世話を焼く娘の描写がイメージに浮かんでしまって妙に笑えてくる。それを見たシャルが勘違いをしてさらに怒って小言が増えてしまう。でもこんな感じのやり取りができるくらい仲良くなったことは喜ばしいのだろう。

 

 

「さてと着替えも終わったし、部屋に戻りますかな」

 

「ああ、織斑君!ナイスタイミングです」

 

「山田先生、ナイスタイミング?」

 

 着替えを済ませて更衣室から出ると山田先生がいた。何か俺に用があるらしい。ちなみにあの件はしっかり山田先生から謝罪してしまった。どうやら山田先生も織斑先生からこってり絞られたらしく暫くションボリしていた。

 

「俺に何か用ですか?」

 

「今月の下旬から大浴場が使えるようになります。週二回の使用日を設けました」

 

「本当ですか⁉︎」

 

 これは予想以上に嬉しい‼︎この学園に来て以来、シャワー三昧だからな〜。広い風呂で体を休めたいと思ってたんだ。俺はこの予期せぬ朗報に自然と笑みがこぼれる。

 

「山田先生、ありがとうございます。凄くうれしいです」

 

「そう言ってもらえると、頑張ったかいがあります。後ででゅのあ君にも伝えてくださいね」

 

「はい、分かりました」

 

 そう言うと顔を綻ばせる山田先生。察するに許可を取るのに結構苦労したんだな。本当にありがとうございます。

 

「それと織斑君にちょっと書いて欲しい書類があるので、職員室まで来てください。白式の正式な登録に関する書類なので、枚数が多いんですが」

 

「分かりました」

 

 風呂が使えることの嬉しさも相まって意気揚々と山田先生についていく俺。

 

 でも俺はこの後に起きるある意味最も大きなイベントを忘れていたんだ……。ホント時折自分の馬鹿さ加減に呆れてものも言えなくなる。




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