IS~転~   作:パスタン

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 遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。今回は非常に難産でした。
みなさんが楽しんでいただければ幸いです。



ブルー・デイズ/レッド・スイッチ2

 どうも、織斑一夏です。少しの間だけ俺の話に付き合ってほしい。生き物には大なり小なり『隙』というものがある。中でも最も大きな隙が生じる場面として疲労が高まっている時ではないかと考えてる。この時、俺もシャルもアリーナでの訓練で結構な疲労がたまっていた。加えて俺は白式を自身の期待にするための登録書類を何十枚と書いていたため精神的な疲労も溜まっていた。

 

 

 

 

 

だからだろう、こんな状況が生まれてしまったのだろう。

 

 

 

 

 

「いっ、一夏……」

 

「シャ、シャルル……」

 

 部屋の脱衣所で正面から向き合っている俺とシャル。一方は制服をしっかりと着ている『男子』、もう一方は生まれたままの裸体を晒し片手にボディーソープのボトルを持った『女子』がそこにいるのだ。前もって言っておくが、俺が彼女に渡したわけではない。あらかじめ彼女の正体を知っている俺が平然と風呂場に行けば変態野郎もいい所だ。

 

 色々と疲れて注意力が散漫としていた俺が脱衣室に入ったのと替えのボディーソープを探そうとシャルがお風呂場から出てきたのはほぼ同時だった。

 

 

 

その瞬間時が止まった。

 

 

 

 双方が同時に相手を認識したが多分2~3秒程度は惚けていたと思う。こんな奇跡の出会い方をするなど互いの頭の中にの片隅にも無かったのだ。

 

 ……俺はベッドに座っているが思わず頭を抱えて大きなため息が出てしまった。我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れしか浮かばない。こんな事だってちょっと考えれば分かるだろうに……。余談だが日常での織斑家は脱衣所にある洗面所で歯を磨いたり手を洗ったりしていたが、シャルが来てから入り口付近にある台所の洗い場で手を洗うようにしていた。ところが今回、上記のような事情で半ば無意識に習慣的な行動をしてしまいこのような事態になってしまったのだ。

 

 

「あ、あがったよ」

 

「う、うん」

 

 思考の海に沈んでいた俺を引き上げたのはシャルの声だった。彼女の話が原作通りだと幾つか解せない部分がある。それらを統合して道筋を立てれば彼女にとって良い結果を生み出せるかもしれない。原作通りの展開では問題の先送りにしかならないからな……このままいけばシャルの立場はかなり不安定なものになってしまうかも知れない。ここは一つ他の方々も巻き込んでしまったほうが事態を迅速に解決するだろう。俺の予想通りだと俺自身も幾つか危ない橋も渡るだろう……。

 

 でもそれだけの危険を冒す価値はあるはずだ。

 

「そーだな。うん」

 

 覚悟を決めると案外どうにでもなってしまうものだ。しかし命令とは言えシャルのやろうとしていた事はハニートラップと間違えられても仕方ないことだしな。その部分も追々考えないとな。

 

「?」

 

「シャルル」

 

「な、なに?」

 

「お茶でも飲もうか」

 

「え?」

 

 俺の言葉に目をぱちくりさせるシャルに苦笑いが浮かんだ。

 

「もちろん色々と聞かなきゃいけないこともあるし言いたいこともあるけど、まずはお互いに落ち着かないと」

 

「そう、だね。うん、僕もそう思うよ」

 

 シャルは俺の言葉を一つ一つ噛み締めながら聞き、納得したような表情を浮かべた。まずはこちらに協力的なようだし良い兆候かな。

 

「緑茶でいいかな?」

 

「うん、ありがとう」

 

 さて手際よくいこうかな。茶葉の量は大さじ約2杯くらい。お湯の温度は約70~80度で横ゆれして湯気が上がる程度が良いくらいだ。お湯の量180ccで、浸出時間は蓋をして約1分間くらい。

 

 お湯をまず人数分の湯のみに注ぐ。これお湯を冷ますためとお湯の分量を量る事が出来るためである。次に急須に茶葉を入れる。そして、あらかじめついでおいた湯のみのお湯をゆっくり急須に注ぎ、その後約1分ほど、お茶の葉が開くまで静かに待つ。急須を揺すると、お茶の中の苦みの成分が出てしまうから揺らさずそのままにしておく。約1分ぐらい経って、お茶の葉が開いたら、急須から湯のみに均等につぎ分ける。つぎ始めは薄く、後になるほど濃くなるので、お茶の濃さが平均するように注ぎまわす。注ぐときには急須に残らないように、必ず最後の一滴までしぼるように注ぎきる。こうすれば2煎、3煎まで美味しく飲むことができるからだ。

 

 よし、良い感じに入れられたようだ。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 緑茶独特の味と香りを楽しみながらお互いゆっくりした時間が過ぎて行く。カップを半分ほど開けたところで俺から話を切り出した。

 

「さて、それじゃあいいかな?」

 

「……うん」

 

「まずは、どうして男のふりをしていたんだい?」

 

「その、実家のほうから……」

 

「デュノア社?」

 

 無言でゆっくりと頷くシャル

 

「父からの命令なんだ」

 

「……」

 

 フム、この辺りは原作通りか。この様な検証をおざなりにすると痛い目に合ってしまう。この戦いは正に情報が非常に重要になる。正しい情報を掴むことで交渉のカードが増えるかもしれない。一つ一つの情報を見極めて相手より優位に立たなければ。デュノア社だけでなくフランス政府も巻き込むだろうしな。

 

「親なのにどうしてって言いたそうだね」

 

「え?ああ、その……」

 

 実際は別のことを考えていたわけだが……普通はそんな風に考えるよな。シャルは苦笑いを浮かべながら話をつづけた。

 

「僕はね一夏。愛人の子なんだ」

 

「引き取られたのが2年前。ちょうどお母さんが亡くなったときに、父の部下がやってきたんだ。そこで偶然ISの適性が高いことがわかって、非公式にデュノア社のテストパイットをやることになったんだ」

 

「ふむ」

 

「父に会ったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。本妻の人に殴られたこともあったかな……」

 

「それは……」

 

 なんというか……実際に話を聞けば随分と理不尽な言いようだろう。シャル自身には何の罪もないのに。

 

「それから少し経ってからかな、デュノア社が経営危機に陥ったんだ」

 

「……最後発の第二世代機に加えて第三世代機の開発に遅れたことが原因かな」

 

「その通り。それにフランスは欧州連合統合防衛計画である『イグニッション・プラン』から除名されていることが話をややこしくしているんだ」

 

「聞いたことがある。確か第三次イグニッション・プランの次期主力機にはセシリアのティアーズ型、ラウラのレーゲン型、それにイタリアのテンペスタⅡ型の中から選定中なんだっけ……悪いことはつながるな」

 

 俺の言葉にシャルは失笑を浮かべながら話を続けた。

 

「本当にね、話を戻すと一夏の言う通り元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算も大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかったら予算を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪されるって流れになったんだ。ここまで話せばあとは分かるよね」

 

「シャルルが男装していたのは注目を浴びるための広告塔としての役割。そしてあわよくば白式のデータを手中に収めること……かな」

 

「大正解」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 少しの間をおいて、シャルは視線を宙に浮かばせながら大きなため息をついた。

 

「とまぁ、そんなところかな。でも一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。」

 

「……」

 

「でも話したら楽になったよ。ここの皆は良い人ばかりで、こんな僕にすごく良くしてくれたし。ウソをついてる自分がどうしようもなく惨めになってウンザリしてたんだ。一夏、本当にごめんなさい」

 

「なに、俺自身に被害が出たわけじゃないんだ。」

 

 俺はなるべく明るい口調で言葉を紡いだが、シャルはあいまいな笑みを浮かべるだけだった。

 

「まぁ、それについては一つ貸しにしとくよ。それより今はこれからのことを考えなきゃな」

 

「これから?」

 

「ああ、このままの流れじゃどう考えてもシャルルにとって良い結末が来るとは考えられないからね。そうならないためにいくつか対策を講じないと」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「ん?どうかした」

 

「僕の話ちゃんと聞いてた?僕は一夏を騙そうとしてたんだよ。一夏だけじゃない他の皆も欺いていたんだ。そんな僕に……」

 

「……なら君は好きでこんなことをやってたのか?」

 

「そんなはずないだろ!!僕は、僕は……」

 

「シャルルが率先してやってたなら俺だってこんなことは言わないさ。でも命令されて仕方なくやってたなら話は別だ」

 

「……」

 

「但しここからは君の意思が大事になってくる」

 

「僕の意思?」

 

「そうだ。ここに残る事を選んだ時、この先シャルルにとってとてもツライことがあるかも知れない。それでもその先へ進んでいける勇気が必要になる。どうする?このまま何もせずただ流れに身を任せるか。それとも運命に抗って、逆風の中を自分の足で歩いて行くか?」

 

「……」

 

 いまだに迷っているシャルに俺は自分の右手を差し出した。

 

「この手を握るかは君自身が決めるんだ。君の人生はだれのものでもない君だけの人生だ」

 

 暫くしてシャルはうつむいていた顔を上げた。その顔には覚悟を決めたことが容易に分かった。そのまま俺の手を握り締め小さくも力強く言葉を紡いだ。

 

「僕の、ぼくの名前は『シャルロット』」

 

「シャルロット……それが君の」

 

「うん、僕の名前。お母さんがくれた本当の名前。僕はみんなと、一夏と一緒にいたいんだ」

 




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