IS~転~   作:パスタン

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 お待たせしました。皆様からの感想を踏まえながら無駄をなくしつつ、楽しんで読める小説を書けるように心がけたいと思います。今回はなるべく第三者視点という部分に力を入れてみました。

ではどうぞ


ブルー・デイズ/レッド・スイッチ3

「……」

 

「……」

 

 翌日の放課後。IS学園のとある一室に織斑一夏と織斑千冬が対面に座っていた。一見するとわからないが部屋は盗聴・盗撮対策がなされた特殊仕様になっている。一夏は先日の件をすぐに千冬に報告するためこの場を設けてもらった。人の目や耳はどこにあるかはわからない。なるべく部外者に聞かれないよう最大限に配慮された結果といえよう。一夏から話された内容はこの部屋を使うだけの深刻かつ厄介な内容だった。話を聞くにつれて自身の顔がこわばっていくことを感じ取れるくらいに……。

 

 一夏が大体の概要を話終えると、双方に長い沈黙が続いていた。やがて千冬は手元にあったコーヒーに口をつけながら言葉を紡いだ。

 

「……しかし厄介な事案を持ってきたものだな」

 

「返す言葉もありません」

 

 バツが悪いのか目線を合わさない一夏。普段の身内からは見られない表情に場違いながらも千冬は内心で苦笑いを浮かべると同時に嬉しさもあった。この苦労性の弟は何かと自分だけで物事を進めてしまう。そして悪いことに何事も粗なくこなし、それなりの結果をだしてしまうのでこちらも軽い説教だけで済ませてしまうことが多々あったのだ。ただ今回のように一学生では到底解決できない事態に対してこちらを頼ったという点は評価していた。何事もできてしまう人間は総じて人の頼り方を知らない。IS学園へ入学する前に自分が伝えたことを間違えなく理解してくれていた弟に安心感を抱いていた。だからこそ今度は私が教師として、一人の大人として生徒の気持ちに応える番だと強く決意していたのである。

 

「まぁいいさ、デュノアに何かあるということは薄々感じてはいたんだ。実際に話を聞くと悩ましいものだが到底見過ごせる問題ではない。よく知らせてくれた」

 

 それを聞いた一夏は、少し困ったような笑み浮かべながら頭を下げた。見過ごせない問題とはいえ多忙を極める実姉に負担をかけてしまったことは看過できることではないからだ。これは一夏にとっても悔やむ負えなかった。自身が信頼するもう一人の姉の手を借りるという選択肢も考えることはあった。

 

 しかしそれを一夏は良しとしなかったのだ。例え今回うまくいったとしても彼女を利用したというシコリが残る。が、これは自身の心情の問題だからどうにかできる。問題は彼女との関係を第三者に勘ぐられてしまうことだ。最悪自分を利用して彼女をどうにかしようとする不逞な輩が出ないとも限らない。常に最悪なケースを想定する。こちらに転生してから常に一夏が心がけていることの一つである。

 

「それで」

 

「?」

 

「今回の件についてお前はどう見る?」

 

「……」

 

「お前のことだ。何かしらの推測はあるのだろう?」

 

「憶測も含まれますが」

 

「それでも構わないさ」

 

 少しの間をおいて一夏は静かに語り始めた。

 

「……結論から言えばこの計画自体は非常に杜撰極まりないと思います。ですがそれに関連する根っこの部分はかなり深いものではないかと」

 

「……」

 

「……」

 

「続けてくれ」

 

 一つ頷いてさらに言葉を紡ぐ

 

「たった一代で世界を代表するような企業を起こしたリチャード・デュノア。いくら経営危機にあるとはいえ、いつばれるとも知れないシャルロットを送り込む……リターンに対してあまりにもリスクが高すぎます。実際こんなにも早くばれてしまった。このことが明るみに出れば会社自体がなくなってしまうことは火を見るよりも明らかです。それだけじゃありません。ことはフランス政府の国際的な信用問題にまで発展します。リチャード氏はスケープゴートにされた挙句、頃合いを見て事故死あるいは自殺という名を借りて殺されるでしょう」

 

「……」

 

 実弟から出た現実に即した冷酷な言葉に一瞬顔をしかめそうになるも千冬は踏みとどまった。千冬と一夏の考えは一致していたのだ。トカゲのしっぽ切りとはよく言ったもの、多数を生かすために小数を切り捨てる。古来から国家や組織が使ってきた常套手段、感情も慈悲もなく、自分たちが生き残るための謀略。使い古されたものであるが極めて使い勝手がいい方法。その尻尾は大きく肥えていればいるほどに良い餌となる。尻尾の名前はリチャード・デュノアとシャルロット・デュノア。一夏は知らないのだ。保身に走った人間の醜悪な姿を、自分が生き残るためにはなんだってするのだ。たかが小娘を生贄に捧げれば助かる、彼らからしてみればその程度のことだ。『娘を生贄に捧げる鬼父とその犠牲になった悲劇の男装の麗人』陳腐な見出しだがメディアにとっては素晴らしい餌になるに違いない。

 

 そんな千冬の思考をよそに一夏の言葉は続く。

 

「俺みたいな一学生が考えられることをリチャード氏が考えない訳ありません。しかしそれだけのリスクを冒してもシャルロットをIS学園に送り込みたかった。何らかの価値を彼は見出した……あるいはそうせざる負えなかったか」

 

「ふむ」

 

 そうせざる負えなかった……。彼が言った希望的観測の部分だろう。しかし一体何が彼をこんな愚行に駆り立てたのか。

 

「実は、それ以上に気になることがあります」

 

「というと」

 

「代表候補性になるにはISに関する知識や技術は勿論ですが、その出自や身分といった様々な情報も重要視されます。シャルロットが女性であることをフランス政府が知らなかったということはあり得ないでしょう」

 

「つまり……」

 

「政府の中にこの件で利を得た人物がいる。問題はどれほどのポストにいる人間が関係しているか……最悪な場合、国際IS委員会も関係してるかもしれません」

 

「……」

 

「……」

 

 話し終えた一夏は腹に溜まった不快感を吐き出す様に大きなため息を吐きつつ少し温くなってしまったコーヒーに口をつけた。根が深いとはよく言ったもの、千冬はというと深刻かつ厄介な事案は極めて深刻かつ厄介な事案にランクアップした今回の事件、どう対処しどこに落としどころ作るべきか思案していた。国際IS委員会が絡む。言葉にするのは簡単だが、これは今だ嘗てない世界的な事件になる可能性もある。対応を一つでも誤ればIS学園の存在意義も揺るがしかねない。一夏は気づいてるか分からないが編入生の入学にはIS学園の教師陣も関わっている。もし仮に今回の件にこちら側にも関係者がいるのなら学園にだって何らかのペナルティーが科せられることは火を見るより明らかだろう。

 

「……」

 

「……」

 

 長い沈黙を破ったのは千冬だった

 

「ふぅ、考えれば考えるほど厄介なものだ。これは私だけでは手に負えなさそうだな」

 

「かといって、手をこまねいていると向こうが先に手を打つ可能性も……」

 

「無論分かっているさ。餅は餅屋の諺があるようにこの件には専門家の力が必要になるだろう」

 

「専門家……ですか?」

 

「うむ、性格に……少々難ありだが、信頼のおける人物だ。お前も知っている」

 

「俺も?」

 

「IS学園生徒会長……更識楯無。更識簪の姉だ」

 

「よく分からないのですが、なぜ簪のお姉さんが専門家になるんですか?」

 

「うむ、そこから説明しなきゃいけなかったな。そもそも更識家とは……」

 

「織斑先生、そこからは私が説明します」

 

「「!?」」

 

 この部屋に聞こえるはずのない声は通気ダクトからその正体を表した。まず目についたのはその鮮やかなスカイブルーの髪の毛、同じ学年の彼女と瓜二つの美しい髪だ。しかしその目元は自身が知っている彼女と違い、勝気だがどこか本心のつかませず知らない内にこちらの奥底へと入って来てしまう、そんな不思議な感覚に陥りそうな眼をしている。

 

 そんな一夏の心情をよそに彼女は堂々と挨拶を行う。

 

「初めまして一夏君。私が生徒会長の更識楯無よ。簪ちゃんがいつもお世話になってるわ」

 

「は、初めまして」

 

 ウィンクと同時に広げられた扇子には『よろしくイッチー!』などと書かれていた。一夏はと言えば多少どもった上にこわばった形での挨拶になってしまった。それは彼女が予想外の登場をしたからということも少しあるがその理由の大部分を占めているのは陽気に挨拶をしている楯無しの後ろの存在にあったからだ。

 

 バシーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

「いったぁぁぁ~~~~~~!!!!」

 

 突如自分を襲った大きな衝撃と次いで表れた激痛にその場にうずくまってしまう楯無。その後ろには額に二つほどの鋳型マークをつけ、普段の鋭い目つきをさらに鋭く、その右手にはみんなのトラウマご存じ出席簿を持ち仁王立ちしている我らが千冬の姿があったのだ。

 

「楯無……お前何でここにいる?」

 

 生徒が聞いたら震え上がってしまうような声を出しながら千冬はうずくまっている楯無に問いかけた。そんな問いに楯無は頭頂部にマンガみたいなコブを作りつつも怒りマックスな千冬真っ向から対峙しする。何か大事な言葉が更識から出るのではないかと一夏は姿勢を正したが、右手にこぶしを握りしめながら紡いだ言葉はというと。

 

「放課後の人気のない、それも盗聴、盗撮対策が万全な部屋に生徒と教師が二人っきりなんて……気にならないほうがどうかしてますよ‼︎嗚呼、学園という閉鎖された空間で遂に始まってしまう姉弟の禁断のラブストーリー……解き放たれる一夏君の熱く若いパドs

 

 バシーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 言わせねえよ!?どこぞの芸人張りの締めのセリフを出席簿に乗せた千冬の無慈悲な一撃は楯無が無言で転げまわってしまうほどの威力が備わっているようであった。当たった場所も先ほどコブを作った場所だが姉のことだから狙ってやったのだろう。一夏は思う俺の緊張感を返してくれと……。だがいつまでもこのままでいる訳にもいかない。意を決して一夏はこのカオス空間に入り込んだ。

 

「あ、あの〜」

 

「……んん、すまない。更識、場を掻き回したんだ。収集しろ」

 

「はいは~い。了解しました」

 

 「一夏くん、私たち更識家は室町時代から時の権力者の影として代々仕えていたの。現代では対暗部の暗部、破壊工作から政府が表立って処理できない対外交渉なんかもやってるのよ」

 

 先ほどの場面なんてなかったといわんばかりに楯無はとても真面目に分かりやすく更識家についてドヤ顔で説明している。が、悲しいことに頭頂部のコブ二つが『私は馬鹿です』と言わんばかりにこれでもかと主張してしまっている。一夏はまじめに話を聞きつつ両頬が吊り上がってしまうのを必死に水際で食い止めていたのだった。

 

「な、なるほど。正にこの件ではスペシャリストですね」

 

「ふふ~ん。その通りよ」

 

「さて、顔合わせも済んだことだ。これからどう動く?」

 

「まずはシャルロットから詳細に事情を聴きましょう。それと更識先輩にお願いが……」

 

「はいダメーーー!」

 

「え!?」

 

「もう一夏君~。他人行儀なの!これから一緒にイタズラする仲なんだから、私のことは『たっちゃん』か『楯無さん』って呼びなさい」

 

 半ば強引だがどこか彼女ならしょうがないというおかしな雰囲気が一夏を戸惑わせていた。同時に原作で語られた『人たらし』という原作一夏の人物評価は極めて正しいということを一夏は改めて理解したのであった。

 

「……た、楯無さんにお願いがあります」

 

「あら、たっちゃんでも良かったのに、まぁ良いわ。それってシャルロットちゃんと政府要人を含めたリチャード氏周辺の情報収集ってとこかしら?」

 

「はい、それと合わせてなんですが……」

 

 一夏から出た言葉に楯無は若干首をかしげる

 

「確かに調べるのは簡単だけど……関係あるかしらね?」

 

「恐らくこの事件の中心点はここだと思うんです」

 

「ん~……分かったはとりあえず調べてみるわね」

 

「よろしくお願いします。こっから先は焦らず、でも早急に行きましょう。相手が油断している今が絶好のチャンスです」

 

「うむ」

 

「ふふふ、なんだか楽しくなってきたわね」




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