皆様が楽しんでいただけたなら幸いです
ではどうぞ・・・。
どうも、箒ちゃんから「認めない宣言」をされた織斑一夏です。
あの後、走り去った箒ちゃんを追いかけようか迷ったが、行ったところで一体何が出来るのだろうかと考え、結局その場に留まった。気まずい雰囲気が俺の心を支配したが、ポンっと肩に手を置かれた。柳韻先生だ。
「大丈夫さ」
たった一言だったが、その言葉には力があった。子を持つ親の言葉は、偉大だ。
前世でそこそこ生きた俺だが、結婚もしてないから子どもだっていない。そういった部分では、前世の経験はアドバンテージにならないことを改めて知った。
結局その日は、道着などのサイズを測って姉さんと一緒に帰宅したのだった。
~その日の夜~
俺は、布団の中で最近の出来事を改めて振り返り、そして整理し始めた。この短期間で俺にとって大きな出来事が二つあった。
まず束さんのこと、続いて今日起こった箒ちゃんのことだ。
まずは、束さんのことから振り返ってみよう。キスのインパクトで隠れがちだが、見逃せないワードがあった。それはこの二つ、千冬姉さんの「…こいつは、気に入った人間をあだ名で呼ぶ癖があるんだ。それ以外のやつは、人間とも思わんからな」と、束さんの「これはお礼。私を受け入れてくれたお礼」である。
最初の千冬姉さんの言葉は、束さんの性格を如実に表すものだ。
つまり束さんは原作通りの性格なんだろう。そう、彼女は人間関係が極めて狭いのだ。恐らく信頼を置いている人間も妹の箒ちゃんと千冬姉さんくらいだろう。天才であるが故の孤独と言えば分るだろうか?自分の感性に周りは追い付かず、その周りに異端扱いされた上に孤立する…。そんな中で、種類は違えど同じ様な才能を持つ千冬姉さんに会えたことは彼女にとって不幸中の幸いと言って良いだろう。
そして、そんな天才は俺という異質な存在に眼を付けた。誇張ではなく俺は束さん以上に異質な存在だ。転生というオカルト的な過程の果てに誕生したのが織斑一夏という名の「俺」だからだ。
そんな自分以上の異質に会うことで、ある種の仲間意識、あるいは親愛の感情がでたと仮定する。それらを考慮すれば「受け入れてくれた」というフレーズが出てもそんなにおかしくはないだろう。さすがにキスされるとは思わなかったが…。
ただこれからも俺は束さんへの接し方を変えるつもりはない毛頭ない。「あるがまま」に受け入れる。それだけだ。
続いて、箒ちゃんのことだが…これに関しては、未だによく分らない。が、俺が彼女の逆鱗に触れてしまったことは間違いない。ただある一つの「感情」を仮定すれば納得のいく結論が出せる。
その感情とは「嫉妬」だ。そういえば篠ノ之道場へ向かう途中に箒ちゃんはこんな話をしてくれた。
「父さんは、私の目標なんだ。いつか認められたいと思っている」と…。
………やっちまったーーー!!!!!そりゃ怒るわけだ。いきなり現れたやつに自分の目標をアッサリとクリアされちゃったんだもん。誰だって怒る、俺だって怒る。しかもどう取り繕っても無駄だろうし、むしろ状況が悪化する可能性が高い・・・。これについても状況の推移を見守るしかないな。
・・・・・・・・・・・・・ん?結局のとこ打つ手ねえじゃん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明日も早いしもう寝よ。
それから月日は刻々と流れて行った。あれから学校や道場に関係なく、事あるごとに箒ちゃんは俺に勝負を仕掛けて来るのだ。
道場での打ち合いは勿論のこと、学校から道場へどっちが速く着くかの競争、運動会での徒競走、学校でのテスト、道場での雑巾がけなど、よく色々と思い付くものだと半ば感心している。
ちなみに学校関係での勝負事は俺が勝ち越しており、道場での勝負事は僅差で箒ちゃんが勝ち越しているという情報は全くの蛇足である。
しかしこの勝負事、一概に俺へのデメリットばかりではない。この勝負事そのものが俺の身体作りへの良い訓練になっているのだ。お陰で、剣道と同時にこっそり練習している格闘術がメキメキ上達している実感がある。
そして、たまにだが束さんが織斑家のご飯を食べに来ることがある(勿論アポなしで)。何か心境の変化があったのだろうか、必ず来た時は俺の料理作りを手伝ってくれている。これには主夫織斑一夏も大助かりである。一度しか教えてないのにほぼ完ぺきに、こなしてしまうのだ。
ここら辺はスペックの違いを見せつけられた感じがする。そして隣では、卵を握りつぶしている千冬姉さんがいる。
…戦力外通告も視野に入れるべきだろうか?割と本気でそんなことを考えたこともある。
そんな生活を続けていくうちに、いつの間にか2年生の春になってしまった・・・。ただいま俺は、教室内の清掃中である。モップで教室をえっちらおっちら回っている。
すると
「やーーい男女~」
と、どこからか威勢の良い声が響いた。声がしたほうを見ると箒ちゃんを囲むように4人の男子がいた。あ~、こいつらか、この男子4人は所謂クラスの悪ガキどもである。名前が分からないからモブA~Dにしておこう…いや、何かめんどいしモブ達にしよう。
さてどうしたものか?運悪く先生方はいないし、周りのクラスメイトは腰が引けてるし…目立つのは嫌いなんだが、しゃーないか…。
「おい、お前らそれぐらいにしとけよ。」
俺はモブ達に声をかける。
「何だよ。織斑、お前この男女の味方するのかよ?」
「俺知ってるぜ、お前ら道場に行く時も二人一緒だもんな」
「お前ら夫婦なんだな?夫婦~夫婦~」
「夫婦だー」
何というか…思わず懐かしい気持ちになる。俺も昔はこんなんだったのかな~前世的な意味で。
あの時からかった女子に土下座して謝りたい気分だ…名前出てこないけど。ただやはりうっとおしいことに変わりはないので声を低くして少々凄んでみることにした。
「おい、何とか言って…」
「黙れ」
途端に、モブたちの顔が強張った。あれ?箒ちゃんの顔も強張っている。いや違うからね!箒ちゃんのことは睨んでないよ。信じてプリーズ!!!
「…恥かしくないのか?」
「な、何だと」
「一人の女子に、男が…しかも4人がかりなんて、恥ずかしくないのかって聞いてんだ」
「う…」
「お前たちが、どういうつもりか知らないが。篠ノ之さんは学校の勉強も、道場での稽古も一生懸命なんだ。お前らみたいに茶化すしか出来ないガキどもが、その子をからかって良い資格はないんだよ!」
…うーーむ、この状況で言うのもなんだが多少熱くなってしまったとはいえ俺ってば結構恥ずかしいこと言ってね?あれ、なんか箒ちゃんの顔も赤いし…。
まっ、まぁー今は目の前のことに集中しよう。さてモブ達はどう出るかな。
「う、うるせーー!?、俺たちに逆らうんじゃねえーー!!」
あー、予想していたとはいえ、安い時代劇ばりに一番下っ端的モブが殴りかかってきた。
向こうから来たわけだし、こりゃ正当防衛でも仕方ないよな・・・。俺は両腕を頭の高さまで上げ右足を半歩引いて戦闘態勢をとり、隙だらけのモブの右すねに蹴りを入れる。所謂ローキックである。まともに喰らったモブは俺の横を通り過ぎながら膝から崩れ落ちるように倒れ込み「うぐあああーー」と呻き声をあげた。残り3人…。
一瞬の出来事に何が起こった分からない顔をしていた箒ちゃんと3人のモブ達、その隙を逃さず一番近いモブに同じようにローキックをかまし、喰らったモブは先ほどのモブと同じように膝から崩れ落ちた。残り2人…何が起こったか分からないうちに仲間の半分を失ったモブ達は大きな動揺に晒された。
さて、ここでもう一回凄んでみるか。うまくいけば全員逃げるかもしれないし、グラップラ―でお馴染みの組長さん!!ちょっとセリフ借ります。
「まだやるかい」
「ひっ、ひーーー!!」
あ、モブが1人逃げてった。いやーーーさすが組長さん、効果絶大です。あざっした。なんてお気楽な思考を余所に残はり1人、残ったのはモブのリーダー「モブリーダー」だ。…可哀想に全身が震えている上に眼もうつろだ。だが、あそこで凄んでも逃げないのだからもう同じ手は無理だろう。
「さてどうする?残りはお前ひとりだぞ?」
「うっうっう……。」
どうやら逃げることも戦うこともできないらしい・・・仕方ない
「逃げるなら逃げろ。戦うなら…覚悟を決めてかかってこい!!」
俺は、腹から声を出しモブに発破をかける。
「!!、う、うおおおおおおおーー!!」
モブリーダーは、覚悟を決めたのか。目の集点をしっかりと合わせ、俺に右ストレートを放った。
・・・なんだやればできるじゃないか。
俺はモブの右ストレートを、ちょうど背後を取る様に回避しそのまま右手を絡め捕り、さらに左手で相手の顎を抑え、がら空きになった足首部分を思いっきり後ろから蹴りあげたと同時に顎にかけた手を軽く引く。
すると相手は一瞬宙に浮き、そのまま背中から落ちて行った。後に残ったその姿は、ひと昔前にお決まりだったズッコケポーズのようだ。
ちなみに先ほど使ったローキックとこの技は、某駆逐系男子が受けた技である。当時あれを初めて目にした時の俺は「なにあれ、カッコいい!!」とちょっとばっかし、はしゃいでしまったもんだ(遠い目)。そしてこの世界に来て以来、イメトレとこの技の動き方だけは練習していたのだ!!しかしここまで綺麗に決まるとは…技を繰り出した俺自身もビックリだ。
さて~・・・・・・・・・どう収拾しようかなこれ?誰か助けて
最後の敵をひっくり返す技って名前が付いているのだろうか・・・
それではまた次回