IS~転~   作:パスタン

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箒ちゃんの視点からです。
皆さんが楽しんでいただければ幸いです
ではどうぞ・・・。


振り返りと新たな局面2

 織斑一夏への第一印象は「他の男子よりも落ち着いている」程度だった。

 ある日、父が年少の入門者が少ないことに困っていると、千冬さんが「弟だったらやってくれるかもしれません」と父に話していた。

 

 織斑とは同じクラスだがまだ話したこともなかった。物静かでクラスでも目立つ方ではなかった。学校で見る限りでは剣道に向いているとは思えないが…。

 

「箒、すまないが明日にでも一夏を道場へ連れてきてくれないか?」

 

「わかりました。」

 

 私は軽く了承した。

 

 道場へ向かう道すがら織斑は篠ノ之神社のことや道場のことを質問してきた。私が答えを返すと興味深そうに頷きながら聞いている。

 

 クラスでの私は気の良い女子たちが、私をグループに入れてくれている。ただ、話は決まって自分の自慢話かクラスの男子で誰がカッコいいかなどだった。時々、織斑についても話が出てくる。「あの落ち着いた雰囲気が良い」とか「誰に対しても優しく話してくれる」などだ。興味のない話だったが、私から出せる話題など道場のことか神社のことくらいしかないし…。

 

 正直疲れていた。

 

 だがあいつは、そんな私の話を嬉しそうに聞いてくれていたのだ。この時点では私の印象は「男子だが話の分かる奴」であった。まぁ困ったことがあったら助けてやろう。

 

 そんな矢先に道場で事件は起きた。

 

 私の父は、新しく入ってくる年少者に対して人となりを見るために真っ直ぐに目を見る。その時の父の目は鋭く大抵のやつは震えるか泣き出してしまう。そうした理由から年少者が少ないのだ。織斑はどちらだろうか?少しだけイタズラ心が芽生えた。

 

 

だがそんな私の予想は最悪の形で裏切られた。

 

 

 

 「君の勇気に敬意を」あの父が…握手を求めた。それは織斑を認めたのだ。会って間もない、それも私と同い年の人間が…じわじわと怒りが込み上げてきた。織斑がこちらに握手を求めてきた。

 

 いつもの優しい笑顔で、でもそんな笑顔でさえ私を見下していると錯覚してしまった。差し出された手を思いっきり叩き罵声を浴びせ、その場から逃げ出してしまったのだ。

 

 それ以降、私は事あるごとに織斑に勝負を仕掛けた。織斑に勝てば父も認めてくれると思ったからだ。勝負は私が勝つこともあったし負けることだってあった。織斑は勝っても負けても「楽しかった。またやろう」と優しい笑顔でいう。

 

 気付いた時には当初の目的を忘れ、勝負すること自体が楽しくなり、そんな織斑に認めてもらいたいという欲求が芽生えた。そんな時に事件は起きた。

 

 私と織斑を含めた何人か生徒で掃除をしている最中だった。私は「今日はどんな勝負を仕掛けようか…」と一人考えているといつの間にか4人の男子に囲まれていた。

 

 またこいつらか。こいつらは特定のクラスメイトに対し悪口を言ったりして遊ぶ所謂悪ガキ共だ。度を超えて泣いている子も見たことがある。最近は私をターゲットにしている。理由は私がリボンをしていたからだ。私だって女子だしオシャレだってしたい。

 

 でもこいつらは、そんな私をせせら笑うのだ。

 

 いつもは誰もいないところで私をからかって満足すると去っていくのだが怒られないことを良い事にここまで露骨な行動に出たみたいだ。4人は私よりも大きい身体でニヤニヤと下卑た顔をしながら迫ってくる…それに数の暴力も加わる。私は少しでも相手を威嚇しようと睨みつけることしかできない。正直…私は怖かった、足がすくむ、今にも泣きだしそうだった。助けを求めようにも周りのクラスメイトは皆腰が引けていた。

 

 

誰か、誰か・・・たすけて。

 

 

 

「おい、お前らそれぐらいにしとけよ」

 

そんな時に声が聞こえた、それはいつも聞いている慣れ親しんだ声…織斑?

 

「何だよ。織斑、お前この男女の味方するのかよ?」

 

「俺知ってるぜ、お前ら道場に行く時も二人一緒だもんな」

 

「お前ら夫婦なんだな?夫婦~、夫婦~」

 

「夫婦だー」

 

 相手の罵声に織斑は黙っているだけだった。やめろ、やめてくれ、頼むから織斑まで巻き込まないでくれ。言葉にしようとするが恐怖で声が出てこない。必死に喋ろうとするがダメだった。半ば諦めかけた時それは起こった。

 

「おい、何とか言って…」

 

「黙れ」

 

 場が静寂した。

 

 底冷えする様な怒気をはらんだ声だ。そして私は見た。織斑は怒っていた。初めて見た。あんなに怒った織斑を…普段の優しく暖かい雰囲気は全くない。ただ相手を鋭く睨みつけていた。まるでその目は、敵を前にした狼のようだった。自然と私の顔がこわばった。

 

「…恥かしくないのか?」

 

「な、何だと」

 

「一人の女子に、男が…しかも4人がかりなんて、恥ずかしくないのかって聞いてんだ」

 

「う…」

 

「お前たちが、どういうつもりか知らないが。篠ノ之さんは学校の勉強も、道場での稽古も一生懸命なんだ。お前らみたいに茶化すしか出来ないガキどもが、その子をからかって良い資格はないんだよ!」

 

 私の心は震えた。ただ目の前の悪意に対し、何の妥協もなく己の正当な怒りを叩きつける織斑のその姿に…そして震えは喜びへと変わった。織斑は…いや「一夏」は私のために怒っている。私の努力を、私を認めてくれていたんだ!!頬が熱くなる。嬉しい、嬉しくて仕方なかった。許されるのならばこの場で泣き出したい。

 

「う、うるせーー!?、俺たちに逆らうんじゃねえーー!!」

 

 一人の男子が、一夏に殴りかかった。危ない!だがそんな心配を余所に一夏の行動は早かった。両腕を頭の位置まで上げ、右足を半歩引いた。あれが一夏の構えなのだろうか?そして向かってくる男子の右足に鋭い蹴りを叩きこんだ。男子は一夏の横を通り過ぎながら膝から崩れ落ちるように倒れ込む。

 

 何だ今のは?ただの蹴りのはずなのに立ち上がれないほどのダメージを相手に与えた。

 

 私や男子が呆けているうちに一夏は他の男子にさっきと同じような蹴りを与える。まるで先ほどの光景を振り返るように男子が崩れ落ちる。この時点で、4人もいた男子が半分に減った。強い…ただひたすらに、圧倒的なまでの強さだ。

 

 だが一夏は毛ほどの油断もなく残った二人を睨みつけながらこう言い放った。

 

「まだやるかい」

 

 それはまるで、絶対的強者が弱者に与えた最後の警告のようにも聞こえた。恐怖に負けた男子が一人逃げだす。これで残り一人…最後に残ったのは主犯格の男子だった。

 

「逃げるなら逃げろ。戦うなら…覚悟を決めてかかってこい!!」

 

「!!、う、うおおおおおおおーー!!」

 

 その時の光景は、今も目に焼き付いている。相手のパンチをかわし背後に回ったかと思えば右手を絡め左の掌で相手の顎を押さえ背後から足をおもいきり蹴り上げたと同時に顎を引いた。

 

 後に残ったのは男子が無様に倒れた姿とそれを見下ろす一夏の姿だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、技術を行使してあの場を納めようとした織斑一夏です。

 

 結果ですか?ええ、怒られました。しかしクラスメイトの証言からモブ共の悪行が明かされ、箒ちゃんの弁護もあったことでお小言だけで済みました。いや~良かった、千冬姉さんにバレたらどうなる事やら…考えただけでも恐ろしい。

 

 現在は、道場での稽古が終わり頭を洗っております。春先とはいえ締め切った道場は暑いのなんのって、そういえば今日は箒ちゃん勝負を仕掛けてこなかったな~

 

 …どうしたんだろ?

 

「織斑」

 

 おや?噂をすれば箒ちゃんである

 

「どうしたの、篠ノ之さん?」

 

「その…だな」

 

 あれ?何かモジモジしてる?一体何が始まるんですか?第三次大戦だ的な話じゃないでしょうね!?

 

「うん」

 

「…ありがとう」

 

「へ?」

 

 今何とおっしゃいましたか?ワンモアプリーズ

 

「だから!さっきは助けてくれてありがとう!」

 

 

 ・・・・・・・・・き、キターーーーーーーーーー!!箒ちゃんのデレ期キターーーーーーー!!

 

 約1年の長いツン期からいきなりのデレ期到来である。おおお、落ち着け俺、こんな舐めた思考がバレたら、今度はツンデレどころかツンドラになってしまう。クールだCOOLになれ織斑一夏。

 

「うん、その…もう大丈夫なの?」

 

「ああ、大分落ち着いたよ。一夏のお陰だ」

 

今まで見たこともない優しい笑顔だ…。…っていうか今名前で!?

 

「あ、いま名前で」

 

「!?そ、そのだな、もし良ければこれからは一夏と呼ばせてほしい。私のことは箒で良いから。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんだこのデレのフルコースは…ああそうか明日死ぬんだ俺、前世より短かったなー。姉さん先立つ不幸をお許しください。

 

「そ、そのだめだったか?」

 

 !!??あーーーヤメテそんなションボリ(→こんな感じ(´・ω・`))した顔で俺を見ないで!!

 

 全然OKですから。むしろ呼んでください。お願いします。

 

「うんうん、いきなりだったからビックリしただけだよ。えっと、箒?」

 

「ああ、それで良い。その…これからもよろしく一夏」

 

 そう言って右手を差し出してきた箒ちゃん。それは偶然にも一年前とは逆の光景だった。

 

 でも結果は違う。俺は、差し出された右手を握る。

 

「うん、よろしくね箒」

 

まるで憑き物でも落ちたかのように箒ちゃんの笑顔は穏やかだった…。

 




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では次回まで失礼します。

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