IS~転~   作:パスタン

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物語の歯車は動き出しました。
皆様が楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ・・・


インフィニットストラトス〜白騎士事件2

情報はリアルタイムで俺たちに状況を教えてくれる…それは良くも悪くもだ。

 

 飛来する2000発以上のミサイルに自衛隊と在日米軍は必死の迎撃行動をとるが、その圧倒的な物量と初動の遅さから半数以上が日本領空への侵入を許してしまう結果となった。まさに焼け石に水とはこのことだ。

 

 誰もが絶望の淵に立たされていた。普段から当たり前と考えていた「平和な日常」は、ふと湧いた「死」に喰い尽くされてしまった。隣に座っている箒ちゃんは、全身が震え両眼に大粒の涙を溜め、俺の手を握りながらも画面から絶対に目を離さなかった。

 

 本当に強い子だ。願わくばこれから来るであろう過酷な運命にも抗ってほしい。俺はそう願わずにはいられなかった。

 

 そして日本本土からミサイル群が見えるか見えないかの距離でそれは起こった。突如として空が煌めいた。そう、ミサイルが爆発したんだ。突然のことに慌てながらも中継を行っていたカメラが最大望遠で原因の正体を突き止めた。

 

 それは、一対の翼と一振りの剣を持った騎士だった。

 

 騎士はその力を如何なく発揮し、瞬く間にミサイル群を文字通り消滅させた。その圧倒的な光景に俺たちは目を奪われた。少しして日米両軍の動きが慌ただしくなった。恐らく騎士を捕獲あるいは撃破するつもりだろう。

 

 無駄なことを…あれはお前たちがどうこうできるほど生易しいものではない!!

 

 狂気の天才篠ノ之束が、その技術の粋を集めて完成させたマルチ・フォームスーツ「インフィニット・ストラトス」そしてその搭乗者は、後に「ブリュンヒルデ」と呼ばれる程の戦闘力を持つ我が姉である織斑千冬なのだから。

 

 …結果は俺の予想通り、最新鋭の艦船や戦闘機がその使命を全うすることなく落ちていく、そして後に「白騎士」と呼ばれる第零世代のISは夕日と共にその姿を消した。

 

 

 涙が出てきた。歯車は動き出し、幾年かを経て物語は俺を中心に動き出すだろう。覚悟は出来ている。

 

 原作が完結していない以上、物語はどのように進むか分からない。強大な敵がこの先待ち構えているだろう。でも、もしかしたらその過程で誰かが死ぬかもしれない。その時俺は…どうなってしまうのだろうか?

 

 不意に身体を暖かいものが覆った。何だこれは?とても暖かくて優しい感覚

 

「もう大丈夫だ。一夏」

 

 箒ちゃん?そうか、箒ちゃんが俺を抱きしめてくれているのか…。

 

「ミサイルは、みんなあの白い騎士がやっつけてくれた。だからもう泣かなくて大丈夫だぞ。」

 

 励ましている?自分だって震えているのに?…何やってん俺は、ふざけるな!!決めたんだろ、この世界で生きるって?あがき続けるって。そうさ、泣いてなどいられない。

 

 もう世界は動き出したんだ。誰にも止められない。だったら「あるがまま」に受け入れて、自分に何が出来るか考えるんだ。思考を止めるな!歩みを止めるな!

 

「もう…大丈夫。ありがとう箒」

 

「い、いや気にするな」

 

 顔を赤らめながらしどろもどろする箒ちゃん。今は構ってられない。

 

「そういえばさっきの質問にまだ答えてなかったね」

 

「ん?あ、ああ、そう言えばそうだったな。」

 

「大切なもの、それは「これまで出会ってきた人たち、そしてこれから出会えるであろう人たち」なんだ」

 

「出会ってきた人たち…これから出会える人たち」

 

「うん。千冬姉さん、箒、束姉さん、柳韻先生、学校の先生やクラスメイト、そしてこれから生きていけば会えるかもしれない人たち。そんな人たちの為なら俺は戦える。たとえそれがどんな敵でも…ね」

 

 これだけは伝えなきゃならない。これから来るであろう逃れられない運命に彼女が負けないように。

 

「だから、箒も見つけてほしいんだ。自分が命をかけても戦える大切なものを。」

 

これが、今のあなたに送る俺からの最高の言葉です。

 

 

 

 

 

 

 一夏が泣いていた。

 

 どんなに厳しい稽古でも泣いた事もないあの一夏が、まるで何かを悟ったように。その姿は、今よりもずっと小さい迷子の子どものように儚く見えた。このままでは一夏がどこかへ行ってしまう。そんな不安に駆られた私は半ば無意識に彼を抱きしめた。暖かい、一夏の温もりが伝わってくる。

 

 しばらくして、落ち着きを取り戻したのだろう。一夏が照れくさそうに「ありがとう」といってくれた。今になって私は、トンデモナイことをしてしまった恥ずかしさにしどろもどろするしかなかった。

 

 それから一夏は、私の質問に答えてくれた。嬉しかった。一夏が言う大切なものに私が入っていたことが、そして「だから、箒も見つけてほしいんだ。自分が命をかけても戦える大切なものをね」と言った。

 

 一夏、お前は一つ勘違いをしている。…もうあるんだ。私にも命をかけて守りたい大切なものが。

 

 そう、それは「一夏」…お前なんだ。いつも見る優しい眼も暖かい雰囲気も、私を助けてくれたあの鋭い眼も。全部私にとって大切なものなのだ。

 

 伝えよう私の大切なものを、そして言おう…一夏が好きなんだと。不器用な私だけど、ちゃんと伝えよう。この淡い「恋心」を。

 

 

しばらくして、箒ちゃんは口を開いた。

 

「…一夏にとっての大切なもの。私は、しっかりと分かったよ」

 

「うん」

 

分かってくれたみたいだ、良かった。

 

「でも私にもあるぞ、命をかけても守りたい大切なものが」

 

「え?」

 

これは予想外の答え、でも、まさか…

 

「それは…」

 

 

 

ピンポ―ン!!ピンポーン!!

 

 

 

「一夏君!私だ。柳韻だ!いるなら此処を開けてくれ!!」

 

 

・・・・・・・・・Oh…柳韻先生、なんてタイミングで来るんですか。

 

 

 きっと箒ちゃんと俺を心配して来てくれたのだろう。開けない訳にもいかない。俺は箒ちゃんに断わりを入れて玄関へ向かう。

 

 

 どうも、箒ちゃんの大切なものを聞けなかった織斑一夏です…。あの後、姉さんもすぐに帰ってきたことで箒ちゃん達も家に帰って行った。俺の胸には靄が残ってしまったが、しかたがない。帰り際に箒ちゃんが、「次に会う時、ちゃんと伝えるよ」と少し恥ずかしそうに言ったことが印象に残っている。

 

 

 …だが、それ以来彼女とは会えなくなった。道場はもちろん神社にさえ近づけなくなってしまった。政府の人間が24時間体制で警備をしているからだ。 …それから二週間後、学校で彼女の転校を知った。合わせて栁韻さん達もここにはいない。政府の重要人物保護プログラムで日本各地に強制転居していったのだ。幸い神社と道場の管理は箒ちゃんの叔母である篠ノ之雪子さんが管理することになったようだ。俺は、使用後の清掃を条件に道場を使える許可を貰った。雪子さんとは交流があって助かった。

 

 次に彼女に会えるのは6年後。どうか元気でいてね・・・・・・・箒ちゃん

 

 その年の冬、俺は座布団に座って休憩している。姉さんは今は留守中だ。テレビを付けてもISのことばかりだ。世の中はゆっくりと、だが確実に女尊男卑の世界に移っている。

 

 その時、不意に俺の視界が覆われた。

 

「だーれだ?」

 

 場違いなほどに明るい声。…全く、この人も本当にブレないな。

 

「来る時は連絡を入れてくださいって言ってるでしょ。…束姉さん」

 

 視界を遮る手を握ると彼女も握り返してくる。

 

「にゃはは、そこが束さんクオリティーなのだよ。いっくん」

 

 何がクオリティーなのやら。俺は彼女の姿を見ようと振り向こうとした。が、

 

「おっと、そのまま、そのまま~」

 

 そう束さんは言うと、手を俺のお腹に巻きつけ、足が左右から伸びてきた。所謂

後ろから抱きしめられる状態だ。束さんはこれがとても気に入ったみたいで、時々俺にしてくる。その度に俺はドキドキしている。彼女の豊満な胸が当たるからだ。

 

「いやー、やっぱり落ち着くね~」

 

 こうなるとテコでも動かない。しばらく好きにさせていると、彼女が唐突に喋りだした。

 

「実は今日、いっくんにお別れを言いに来たんだ」

 

「え?」

 

 一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。現在、世界各国は血眼になって束さんの行方を捜しているのだ。まぁ、捕まるとは毛ほども思っていない。

 

「石ころどもがうるさくて参っちゃうよね~。それで、ほとぼりが冷めるまで世界を回ってみようかなって思うんだよね。」

 

「それは良いですね。是非世界にまつわる謎を姉さんの頭脳を駆使して解いてくださいよ」

 

「おお!!いっくん天才だね。暇つぶしにはちょうど良いかも」

 

 世界の名立たる学者たちが解けなかった謎を暇つぶしか…やはりこの人は底が見えない。

 

「でも、ここも寂しくなります。箒ちゃんも引っ越しちゃったから…」

 

 ほんの一瞬だったが束さんの手が震えた。やはり思うところがあるのだろう…。

 

「それでしばらくいっくんにも会えなくなるから、「3つ」だけいっくんに質問をしようと思って来たんだ」

 

 質問?なんだろう

 

「この質問にいっくんは、答えても答えなくても良いからね。まぁ気楽にしてちょ~だいな」

 

 ふむ、1つはある程度予想できるし、まぁ良いだろう。

 

「分かりました。その質問受けましょう」

 

「ふふっ、では第1問です。いっくん君、君は…何者ですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 やはり気付いていたか。予想道理の質問だ。

 

「おおよそ、子どもでは考えられないような言動、雰囲気、立ち振る舞いそして聡明さ。でも不思議とそれに違和感がない。そして、この私をも受け入れる圧倒的な包容力。でも、その根底にあるものが何なのか全く分からない。この天才の頭脳を持ってしてもね。」

 

…ごめんなさい束さん。

 

「ごめんね束姉さん。その質問には答えられません。」

 

 きっぱりと伝えた。

 

「確かに俺は、俺の中に何があるのか知っています。でも誰であっても話すつもりはありません。…それが例え千冬姉さんであったとしてもです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 しばしの沈黙…そして

 

「そっか、ならいいや。この質問に関しては全然期待してなかったからね」

 

 答えた俺がビックリするぐらいアッサリと引いてくれた。そんな俺の心情を余所に質問は続く

 

「では第2問です。いっくんは…私を怨んでいますか」

 

…なるほど、でもそれは愚問というものだ。

 

「束姉さんにしては、珍しいですね。そんな当たり前の質問をするなんて」

 

 束さんの全身が大きく震えた。

 

「そんなもん、これっぽちもありませんよ。どんな意図がったか知らないですけど、俺は絶対にあなたを否定しません。…絶対に拒絶しませんから。あなたは…俺が守りたいものの1つなんですから」

 

 これだけは言える。俺は、彼女を嫌いになることなんて出来ない。世界はISの誕生により混乱する。

 

 でもそんなの関係ない、俺は知ってしまったからだ。

 

 彼女の痛みを、悲しみを、優しさを知ってしまった。嫌いになれるはずがない。

 

「そ、そっか。こ、これは、予想外の答えだね。この束さんを出し抜くなんて、た、大したもんだよ」

 

 束さんの震えが大きくなる。

 

「そ、それじゃあ、さ、最後の質問です」

 

 ここでようやく束さんは俺を抱き起こし正面に向けさせた。そこで俺は見たんだ。

 

 彼女は…泣いていた。ぽろぽろと子どものように涙を流していた。

 

「ま、まだ、こ、ごごに、来ても良いですか?ご飯を食べたり、ゲームをしたり、一緒に遊んでくれますか?私を受け入れてくれます!!!」

 

 最後は、血を吐くような言葉だった。束さんにとって、ここは本当の家だったのだろう。彼女にとって、ここには本当の「家族」がいたんだろう。自然と俺も涙が出てきた。止めることが出来ない。どうやら随分と涙腺が弱いようだ。俺も束さんも涙でぐちゃぐちゃだ。

 

 「…い、いつでも、いづでも「帰ってきて」ください。こ、ここが、ここがあなだの帰る家なんでず。あなたは!俺の大切な「姉さん」なんですから!!!」

 

 彼女は目を見開いた。そして

 

「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!!!」

 

 彼女は俺の胸で泣いた。ダムが決壊したように、泣きじゃくっている。そして、何度も謝った…。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと、それはまるで罪人が許しを乞うようだった。俺は彼女を抱きしめた。大丈夫、大丈夫と何度も伝えた。そんな風に時間は過ぎて行き、そして

 

「ふー……」

 

 溜息を洩らしながらゆっくりと俺から離れる。

 

「ありがとう、いっくん。一生分泣いたかも知れないよ」

 

 束さんの目は真っ赤だったが、その笑顔は憑き物が取れたかのように晴れやかだった。

 

「スッキリしましたか?」

 

「うん、こんなに心が軽いのは生れてはじめてかも。もう…何も怖くない!!」

 

「こら!!!やめなさい!!」

 

 ここ来て超ド級の死亡フラグをかましやがった!!つーか何で知ってんの?何で知ってんの!!

 

「い~やん。いっくんに怒られちゃった。なんか良いかも~」

 

 そう言いながら、両手を頬に添えてイヤンイヤンとだらしない笑顔でくねくねしている。

 

・・・台無しである、色々と。特に理由のあるやるせなさが俺を襲う。

 

「…さてと、それじゃあ、そろそろ行くね」

 

 別れの時が来た。彼女と会えるのも6年後。寂しくなる。だがこの世からいなくなる訳ではない。必ず会える。原作とか関係なくそんな予感がするからだ。だから俺は、彼女にこの言葉を伝えて送り出した。

 

「「いってらっしゃい」束姉さん」

 

 一瞬ビックリしたように眼を見開くが、すぐにいっぱいの笑顔でこう返してくれ

た。

 

「「いってきます」いっくん!!」

 

 そういって彼女は、織斑家から去って行った。

 

 こうして物語は、一つの節目を迎えた。だが、新たな出会いはすぐ傍まできていたのだ。

 

 …この時の俺は、そのことを知る由もなかった

 




篠ノ之雪子はOVAで登場した。箒ちゃんの叔母さんです

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ではまた次回
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