あたらみは雪風のように   作:草浪

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第2話

 

佐世保海域奪還作戦。出撃命令を受けていない雪風は勝手に艤装を装備し、第一艦隊の後ろを航行していた。命令無視をしている雪風を咎めるものは誰もいない。当の雪風も呉に帰るつもりはなかった。

 

「雪風ちゃん。私からも提督に言ってあげるから」

 

第一艦隊のしんがりを務める大和が雪風に声をかける。雪風は首を横に振った。

 

「その必要はありません。福永司令なら雪風を佐世保に戻してくれるはずです」

 

福永が雪風を拒んだ。浜野の言葉は信じられなかった。雪風の知る福永は雪風のことを、艦娘のことをとても大事にしていた。そんなはずがない。雪風は浜野が自分にとって都合のいいことを言っていると思っていた。

 

「もうすぐ佐世保の艦隊と合流するポイントの筈なのだが……」

 

先頭を航行する長門が自信の無い様子で言う。雪風は持っている双眼鏡で先の方を見ると、人影らしきものが二つしかない。一つはとても大きな艤装を背負っている。大和型二番艦、武蔵であることは間違いない。そんな武蔵の横にいる独特の長髪をした人物。雪風は隼鷹だとすぐにわかった。二人とも雪風が佐世保にいた時、第一艦隊として何度も一緒に出撃している。

 

「佐世保艦隊が二隻だけ……?」

 

『三隻だよ』

 

艦隊に呉からの通信が入る。声の主は浜野だ。

 

『先ほど、雪風を佐世保所属に変えた。誉れ高い佐世保鎮守府第一艦隊旗艦として一層の奮励努力を期待しているよ』

 

浜野の発言に呉第一艦隊の全員が驚いた。あれほどまでに雪風の出撃に反対していた浜野があっさりと雪風を佐世保第一艦隊に配属させた。

 

「お前……雪風を見捨てるつもりか?!」

 

長門が叫ぶ。耳に直接聞こえる声と、艤装に内蔵されている通信機から聞こえる声とで相当な音量だった。中には耳をふさぐものまでいた。

 

『向こうの武蔵と隼鷹の了解も得ている。今は余計なことを考えずに作戦に集中してほしい』

 

浜野はそれだけ言い残し、無線を切った。長門は舌打ちをすると、雪風の方を見た。

 

「行ってこい」

 

長門にそう言われ、雪風は主機の出力をあげた。武蔵と隼鷹に近づくと、二人は雪風に敬礼をした。

 

「お待ちしておりまた。雪風殿」

 

武蔵が改まった挨拶をする。雪風は一礼だけすると、二人のすぐ近くに立った。

 

「お久しぶりです。他の皆さんはどうされたのですか?」

 

「出撃出来るのがあたしたちだけでさ……正直、あたしも結構きついわ」

 

隼鷹は苦笑いを漏らす。雪風はそれがいつもの都合が悪い時に出るものではなく、本当に辛い時のものだとすぐにわかった。武蔵にも余裕は無さそうだ。よく見ると艤装のあらゆる所が凹み、傷ついていた。それほどまでに佐世保は酷い被害を受けたのだろうか。雪風はこれまで感じたことのない不安に襲われた。

 

「そうですか……無理はしないでください」

 

「そうはいかん……佐世保の海に居座るやつらを根絶やしにしなくてはならない」

 

武蔵の纏う冷たい雰囲気に雪風は畏怖感を覚えた。雪風の知る武蔵ではない。

 

「雪風がビビってるじゃないか。今は少しだけでも雪風との再会を喜ぼうじゃないか」

 

「大丈夫です。雪風も佐世保に戻りますから」

 

「それは……本当かい?」

 

隼鷹が訝しげに雪風を見た。雪風が頷くと、雪風の頭に手が置かれた。

 

「悪いがそれはまだ決まっていない。今だけ佐世保に所属しているだけだ」

 

「だろうね。じゃないとあたし達が困っちまうよ」

 

隼鷹は冷たくそう言い放ち、雪風の横をすり抜けた。それに武蔵も続く。昔の仲間が自分に対して疎ましく思っている。雪風はそう感じた。目尻に涙がたまり視界がぼやける。

 

「それで、雪風。どうする?」

 

「雪風には……どうすればいいのかわかりません」

 

ぼやける視界の中で武蔵と隼鷹を見る。武蔵は大和と話していた。大和がとても寂しそうな顔をしている。隼鷹は赤城と蒼龍と真剣な顔で話していた。「すまないね」隼鷹がそう言うのが聞こえた。

 

「雪風、意見具申いいか?」

 

大和と話し終えた武蔵が雪風に近寄った。

 

「どうぞ」

 

「佐世保の海は私達の生まれ故郷だ。その奪還を他の者に任せるわけにはいかない。私達で突入し敵艦隊を中から食い破る。漏らした敵を呉に任せたい」

 

「別に首泥棒なんぞする気はない。だが、あまりにも無謀過ぎはしないか?」

 

「雪風は構いません」

 

雪風がそう言うと、武蔵は笑みを漏らした。

 

「そう言うと思っていたさ。心配するな。雪風に弾は当たらんよ」

 

「赤城と蒼龍が直掩機を出してくれるってさ。上の心配はしなくて良さそう」

 

隼鷹も戻り話に加わった。

 

「大丈夫。漏らすことなんてないよ。二人が漏らした敵はあたしの艦攻と艦爆で潰してやるから」

 

「行きましょう。奇襲するなら早いほうがいいですから」

 

雪風に武蔵、そして隼鷹が続く。その後ろを呉の艦隊が続いた。

 

 

ーーーー

 

 

『なるほどね。言いたいことはたくさんあるけど、それは後にするよ。長門と大和の砲撃で佐世保艦隊を突入させよう』

 

浜野の声は冷静だったが怒気が含まれていた。雪風は呉からの無線が雪風達佐世保艦隊に聞こえるのか不思議に思った。だが、武蔵と隼鷹がそれを気にする素振りは見せなかった。

 

「あたしはなんでもいいよ。やるならさっさとやろう。決心が鈍っちまう」

 

隼鷹は早口にそう言った。決心とは何のことだろうか。雪風にはわからなかった。

 

『長門。雪風を頼む。どんなことをしてもいい。連れ帰ってきてほしい』

 

「無論、そのつもりだ」

 

長門は短く答えた

 

 

ーーーー

 

敵の連合艦隊は大島と黒島の間の海域に停泊し補給艦から補給を受けていた。雪風たちは鹿児島方面から回り、南側からこの艦隊を叩くことになる。敵の編成は機動部隊と戦艦三隻を中心とした部隊だった。武蔵は話では、佐世保鎮守府は敵の戦艦の対地攻撃の後に爆撃機が飛来。佐世保湾に閉じ込められ、一方的に嬲られた、とのことだ。

 

「隼鷹、用意はいいか?」

 

「いつでも」

 

隼鷹は霊力を込め、いつでも発艦できる態勢を整えていた。旗艦は雪風のはずだが、武蔵がいつの間に仕切っていた。佐世保の艦隊が二隻だけ。武蔵と話した大和の寂しそうな顔。隼鷹の決心。雪風にはわからなかった。わかりたくなかった。

 

「しれえ……雪風はどうすればいいんですか?」

 

無線機の電源は入っている。だが浜野は何も答えなかった。

 

「そろそろ始めるぞ。敵の補給が終わる前に叩きたい」

 

長門の発言に大和も黙って頷いた。二人の砲塔の仰角があがる。それに同調するかのように、武蔵と隼鷹は主機の回転数を上げた。

 

「全主砲、斉射……」

 

轟音が響いた。長門と大和の全ての砲門が火を噴く。それに合わせ、武蔵と隼鷹、遅れて雪風が突っ込む。雪風たちの頭上に航空機の爆音が響き渡る。一機、また一機と増えていく航空機。赤城と蒼龍の戦闘機隊の後ろに隼鷹の艦爆、艦攻隊が攻撃態勢を整える。

 

「全部あげたよ」

 

隼鷹は飛行甲板を兼ねている巻物を海に捨てた。その光景を見てしまった雪風は言葉を失った。空母が飛行甲板を捨てたのだ。武蔵は横を並走する隼鷹に46センチ砲の砲弾を渡した。隼鷹はそれを両脇に一つずつ抱え、武蔵の前に出た。

 

「隼鷹さん! 何をする気ですか?!」

 

「飛行機が飛ばせない空母がやることなんてひとつじゃない?」

 

隼鷹は速度を落とさず敵艦隊に突っ込んでいく。

 

「雑魚が……」

 

武蔵の15.5三連装砲が火を噴く。対空装備を捨てた4基12門の反動を物ともしなかった。その攻撃により敵の前衛、駆逐艦、巡洋艦が海の藻屑とかした。こじ開けた突破口に隼鷹が突っ込む。

 

「隼鷹さん! 下がってください!」

 

雪風の思いとは逆に隼鷹は敵の砲火を潜り抜ける。右へ、左へ。空母とは思えない、駆逐艦の様な動きで敵空母に肉薄していく。空母ヲ級は頭の艤装から航空機を展開する。隼鷹の狙いはまさにそこだった。

 

「ヒャッハーー」

 

左脇に抱えていた46センチ砲の砲弾をそこに突っ込む。それと同時に大爆発が起きた。

 

「隼鷹さん!」

 

雪風が叫んだ。爆煙が風に運ばれると二つの人影が確認できた。

 

「まだ飲み足りないねぇ……」

 

首から上が無くなったヲ級の返り血を浴びた隼鷹が立っていた。隼鷹は左肩から先を失っていた。

 

「もうやめてください!」

 

「……雪風はいつも飲み過ぎる私を止めようとしていたねぇ……でも、これまで私を止められたことがあったかい?」

 

隼鷹の声はとても優しかった。先ほどの冷たい声が嘘のような。

 

「呑み始めたら、潰れるまで飲む」

 

隼鷹はそう言い、次の標的に向けて突っ込んだ。雪風は涙が止まらなかった。

被弾したことない雪風には隼鷹の痛みがわからなかった。左腕を失い、動きが鈍ったのだろうか。隼鷹の当たる弾が増えた。だが隼鷹は速度を落とさなかった。隼鷹や武蔵、雪風に向かう敵の航空機は直掩機によって全て落とされている。それでも全く攻撃してこないわけではない。別のヲ級から発艦する敵機はまっすぐ隼鷹に向かっていた。発艦してすぐに魚雷を落とすぐらいだ。だが隼鷹に魚雷は当たらなかった。

 

「雪風がいてよかったよ。浜翔に無理言ってよかった……」

 

「もう……やめて……」

 

「私の酌を受けろッ!」

 

隼鷹は力の限り右脇に抱えた砲弾をヲ級の頭部の艤装に突っ込んだ。先程とは違う。利き腕の力の限りでだ。砲弾の先端がヲ級の頭部に突き刺さる。ヲ級の顔が驚きの表情なのか、苦痛に歪んだ表情なんかわからなかった。その直後に爆発。

 

「ヒャッッッッハッッッッァァァァァァーーーーー!!!」

 

隼鷹の歓喜に満ちた声が響いた。

 

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