平和な世界の真ん中で 作:薫。
とある日曜日の昼下がり。今日は、自分が勤めている学校が休みなので暇を持て余していた俺は昼飯を食べた後テレビのリモコンを持ちながらテレビのチャンネルを色々変えていた。何も面白い番組がない。
どうしようか、少し早いが夕飯の材料でも買いに行くか?と悩んでいると突然俺の携帯が震える。
篠ノ之束と携帯電話に映っていた。
この時間はまだ仕事の時間のはずである。何かあったのだろうか。少し不思議に思って通話開始のボタンを押すと自分の耳に大きな声が鳴り響く。
「やあやあやあ!君の愛しの束さんだよ~!」
束のテンションの高さに気圧されてしまったが持ち直して返事をする。
「束、声でかいよ……で、どうしたんだ?」
「あ、ごめんね?でさ!今仕事終わったんだ~今日はいつもより断然早くに帰れそうだよ!」
1週間ぶりくらいに束が早くに帰ってくる。これまで束が帰ってくるの日を跨いでいたからな……どこのブラック企業だよ……
余談だが、束は今、女性にしか扱えない《インフィニット・ストラトス》通称《IS》と言われる身体補助装置を作る会社の代表として働いている。
ISは束が発明したもので(何故かどうやって作っても男性には使えなかった)どうにかして世界で役に立たせられないかと俺と一緒に考え、設計図と論文を世界中の政府に提出した結果世界中で作られるようになったものである。
そこに至るまで色々あったのだが、論文が世界中に認められたときの束が
「良かっだぁ……良かったよぉ……」
と泣きじゃくっていたことは一生忘れないだろう。
今では世界各国でISが使われ、女性にも男性しか出来なかったような力仕事も出来るようになり作業の効率化が進められている。
すると男性が必要なくなり女尊男卑となってしまうのでは?と考えてしまうのだがISにも防水ではなかったりや繊細な作業が出来なくなったり充電性だったりと様々な欠点はあり(コスト削減のために仕方なかったらしい)仕事はしっかりと分担されていて、男性が差別されるということは無い。
そうか、久し振りに束と一緒に夕飯を食べられるのか。それに一週間も夜遅くまで仕事をしていたのだ。何か好きなものでも作ってあげようと束に聞いてみる。
「何か今日の夕飯食べたいものはあるか?」
そう言うとすぐに大きな声で返事が返ってくる。
「ハンバーグ!君のハンバーグはすごく美味しいからね!」
束は何がいいか聞くといつもハンバーグだなと内心で思いつつ分かったと言い、電話を切った。
なら、材料を買いに行かないといけないな。と俺は近くのスーパーに向かった。
今は6時ごろ、ハンバーグとそれだけでは物足りないだろうと思ったので軽く酒のつまみを作り終え、束を待っている所だ。すると家の鍵が開く音がして誰かが入ってくる音がする。
「たっだいまー!待った?」
やはり束だった。束の問いかけに俺は
「いや、今作り終わったところだよ」
と返事をする。束はかなり疲れた様子で俺の隣に座った。
「今回の仕事は長引いちゃったよ……本当ならもっと早くに終わるはずだったんだけどねー」
「まあ、無事に終わったんなら良かったじゃないか。束の今回の仕事の終了を祝って乾杯でもしようぜ」
そう言いつつ束にビールの入ったグラスを渡し乾杯を促す。
「そうだね!じゃあ、「乾杯!!」」
ゆっくりと束と会話しながら夕飯を食べている所でちょうどいい機会かと俺は束にずっと聞きたかったことを聞いてみる。
「なあ束」
「なあに?」
「俺はさ、いつも思ってるんだよ。ISみたいな凄いものを作れる人間がなんで俺みたいな凡人と一緒にいてくれるのかって。
そりゃ束と一緒にいれるのは楽しいし嬉しいよ。けど、こんな何の取り柄もない俺なんかより束にはもっと相応しい人間がいるんじゃないかって思うんだ。
本当にどうしてなんだ?」
そう俺は思いの丈をぶちまける。本当に俺が常日頃から疑問に思っていたことだ。
すると、束は驚いた顔をした後すぐに泣きそうな顔になって
「なんでそんなこと言うのかな?
君は小さいころの全てを拒絶してた私に広い世界を教えてくれたじゃん!
君がいなかったら私はどうなってたのか分からないし考えたくもないよ……
けど絶対に今より悪い人になってたってことは確信を持って言える!
君が色んなことを教えてくれたから今の私がいるんだよ。
そうして、人の美しさを知った私はちーちゃん達とも仲良くなってクラスの皆にも認められていったんだ。
そんな君が私に相応しくないなんて馬鹿みたいなこと言わないでよ!
もし相応しくないっていうんなら私のほうだよ……」
束がそう言った時には束の目からは涙が流れていた。その言葉を受け俺は束を初めて見て話しかけた日のことを思い出す。
初めて見た束は誰も寄せつかせないようなオーラを放っていた。そんな束が気になってに話しかけたんだ。
すると、そのときの束は酷く冷徹な目をして
「私に話しかけないでよ。この凡人が」
そう言ってまた俺から目を離してしまった。
だけど俺は束の凍えるような声の中にとても悲しそうな感情が混じっているような気がして束に拒絶され続けても諦めずにずっと話しかけ続けた。
そうして色々あって、束は今みたいに態度が柔らかくなったんだっけか。
「だから私は君に隣にいてほしいんだ。
君以外の誰かがこの想いを邪魔するなら君を連れて二人きりでどこかに行く覚悟だってある。
もしも君が嫌って言うんだったら私は一人でここを出て行くよ」
ああ、俺はなんて思い違いをしていたんだ。こんなにも束から必要とされていたんじゃないか。
そう理解すると胸から幸せな気持ちが溢れてくる。
「なに言ってんだよ。さっきも言っただろ?俺はお前といることは楽しいし嬉しいって。
だからさ、お前がいいってんならずっと側にいてほしい。
だから……束結婚してくれないか?」
すると束は泣きそうな顔で、だけどさっきまでの悲観的な表情ではなくとても嬉しそうな笑みで
「うん!」
そう元気よく返事をした。