平和な世界の真ん中で 作:薫。
今日は特別な日である。そんな特別な日を快晴で迎えられたことを嬉しく思う。
……こんな日が来るなんて昔の俺に言っても信じてもらえないだろうな。束に会うまでの俺は自分のことなんてまるで考えてこなかったから。誰かを肯定することで自分が世界から肯定されているような気分を味わいたかったのかもしれない。
なんて、今になってそう考えるだけでその時の俺は何にも考えてなかったんだろうな。そう思うと小さく笑いが零れる。
そんな風に考えているうちに10分ほどたったがまだ束は出てこない。
今の時間は午前8時。9時には約束の場所に着いていなければなのであまり時間はないだろう。
すると、そのタイミングを見計らったように扉が開く。
「ごめん、ごめん。念入りに準備してたら遅れちゃって」
はにかみながら軽く俺に謝ってくる束。
「大丈夫。あんまり気にしてないからさ。それに、今日は大切な日だからな。遅れるのもしょうがない。
さあ、俺たちが遅れても駄目だし早く行こうぜ」
「ちょっと、あんまりって何さ。少しは気にしてるんじゃん!」
そんなやりとりをして俺たちは約束の場所へと向かった。
約束の場所に着くと、俺たちの知り合いがもうたくさんいた。
皆来るの早いもんだよなぁ。よくこんな集まったもんだ。学生生活で親密にしていた人もいるが、束は仕事をほんとに頑張ってるんだな。また帰ったら声かけてやらないと。
なんて俺が思っていると服の袖が引っ張られた。
「もう、時間も時間だし私行くね。
そうだ、絶対に途中で入ったりしてこないでよね!君には完成されているところをみてほしいからさ」
なんだよ。……そんな風に言われると俺も恥ずかしくなってくるじゃないか。
「そういうお前だって俺のとこには来るなよ?
俺だって恥ずかしかったりするんだよ」
「なにそれ、君でもそんな風に思うんだね」
そう軽口を叩いて俺とは反対方向に向かっていく束を見送って、俺はこんなにも魅力的なこいつと今一緒にいれることを幸せに感じ、俺もこうしてはいられない、と、この場所を後にするのだった。
プランナー?の人に着替えさせてもらっている間、俺はこれまでのことを思い出していた。
なんか、走馬灯みたいだな。
色んなことがあった。
束が作った発明品が暴走して千冬まで巻き込んで止めたこともあったな。
……あの時の束は初めての失敗だったのかしてすごい取り乱してて、てんで使い物にならなかった。
千冬に彼氏が出来て問いただしに行ったこともある。
千冬に彼氏が出来たと聞いた時の束の顔は忘れられない。
「あのちーちゃんに彼氏なんて出来るの!?」
なんてすごい失礼なことも言っていたし。千冬は、もうすぐ結婚するのかな。だとしたら俺たちで盛大に祝ってやらないと。
一夏くんと箒ちゃんが良い感じになってたので三人でお膳立てしたりもした。それが原因かわからないけど二人は付き合ってる。
まだまだたくさんあるけど、こう考えてみると、俺たちの出来事はどうも色恋関連が多い気がする。まあ、俺たちもまだ若いからそういう話題になるのは仕方ないことなんだろうけど。
そうこうしてるうちに着付けは終わったらしい。
そこから、少し時間はたち、束の着替えも終わるころだ。俺たち二人の待合室で束を待っていると、ふと、視界が何かで覆われた。
「だーれだ?」
「ここは、俺たちしか入らないんだから束しかいないだろ……」
そうやって俺は少し呆れたように言う。
「ちょっとくらい、驚いてくれてもいいのにな……」
若干、束は拗ねているように感じられた。
そんな束の機嫌を直そうと振り返ると、着替えの終わった束の綺麗さに思わず声が漏れてしまう。
純白のウエディングドレス。テレビ等でしか見る機会のなかった美しいドレスを俺の最愛の人が着ている。それだけで俺は幸せな気持ちになってゆく。
そうやって束のことを見つめていると、束は照れてしまったのか顔を背けてしまった。
「なんだよ……そんな風に見られるとさっきのことなんてどうでも良くなるじゃん……」
そう呟く束に対して少し笑ってしまう。
「恥ずかしいんだからね!?笑わないでよぉ……」
「いいだろ、これが俺の本心だ。
ほら、もう皆待ってるぞ。主役の俺たちが遅いんじゃ駄目だろ。早く行こうぜ」
「君は本当に女たらしだよ……」
二人で並んで、式場に入ると本当にたくさんの俺たちがお世話になった人や親密にしている人たちがいた。
それぞれが俺たちにお祝いの言葉を送ってくれる。
ああ、俺は本当に束と結婚するんだな。多分だけど何かがひとつでも変わってしまっていたらこんな風にはなれなかったんだろう。
そもそも俺は存在していなかったのかも知れない。そうなれば世界はどうなっていたんだろうか。束が何かを変えていたのだろうか。だけどそれは、ifの話。今現在では存在しない世界線の話なんだから、俺は妻となる束との未来に思いを馳せよう。
式場の奥までたどり着いた俺たちは誓いの言葉を発する。
式も終わり、皆が解散していく。
ちなみにブーケは千冬が受け取っていた。次は千冬の結婚式かな。そう遠い話でもなさそうだ。
まだ結婚式が終わってそう時間もたっていないのに式が遠い昔のように感じてしまう。
「終わったな。俺たちの式」
「そうだねぇ。私、今幸せだよ。君に会えて本当に良かった。式でも言ったけどさ、これからもよろしくね!」
「ああ、よろしく。俺も式で言ったけど、お前のこともっと幸せにしてみせるよ」
そう言い合って、駐車場を目指して歩いていると、姉妹であろう二人組が俺たちの前を横切った。
「ほら、クロエ!早くしないとおいてゆくぞ!」
「待ってくださいよぉ……ねえさまぁ……」
とても快活そうな、左目に眼帯をしている銀髪の少女が大人しそうなクロエと呼ばれる少女を急かしている。
結婚式に参加していた誰かの娘だろう。
その姉妹を何故か気になってしまったが、俺たちは二人を横目に車までたどり着いた。
車に乗ると束が話しかけてくる。
「さっき銀髪の姉妹がいたよね?
私たちに子どもが出来たらあんな感じなのかな?」
「そうかもな。だけど、まだまだ先だよ。俺たちは結婚したばかりだ。今、スタートラインにいる。これからどうなるかは今の俺たち次第だろ?だからさ、家に帰ったらこれからのことを考えよう」
くさいことをいっている自覚はある。一人じゃこんな台詞言えないだろう。
良い意味でも悪い意味でも俺は束と出会って変われたと思う。そんな俺と出会ったことで束も何か変わっていたのなら、これ以上に嬉しいことはないだろう。だって確かに今の束の中に俺という存在がいるということなんだから。
「うん!そうだね、レン!」
そんな束の元気の良い声を聞いて俺はアクセルを踏んだ。