ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~ 作:早起き三文
砂塵の舞うヴェルトマーの地にポツンと館が建っている。
「お館様」
紫色をした美しい娘が館の主の名を呼ぶ。
主が執務机から頭を上げる。
燃えるような赤髪をした男であった。
娘に劣らぬほどのかなりの美丈夫である。
「ディアドラ」
館の主であるお館様と呼ばれた男、アルヴィスはその美しい娘へ近寄る。
娘も背が高い方であるが、男はそれと比べてもかなりの長身であることがわかる。
「仕事中でしたか?」
「うむ」
アルヴィスは執務机を見ながら、ディアドラと呼ばれた娘へ顔を向ける。
「アゼル様の準備が出来たそうでございます」
「アゼルがお前に知らせたのか?」
「はい」
ディアドラはクスクスと笑う。
「アゼル様は苦虫を噛み潰したようなお顔で……!!」
「ハハハ……」
アルヴィスは豪快に笑いながら、館の玄関へと早足で歩いた。
館の玄関には赤い髪をした少年と背中に竜の翼を生やした女がいた。
「兄上」
少年が頭を下げる。
「良い格好ではないか、アゼル」
アルヴィスはアゼルと呼ばれた少年の旅装束姿を褒めた。
「凛々しい出で立ちですねぇ」
翼を生やした女が囃し立てるように手を叩く。
「ロプトゥス、お前は何をしに来たのだ?」
顔をしかめながら聞くアルヴィスの問いに竜の翼が生えた女は妖艶な笑みを浮かべて答える。
「私が行動するときはロプトの事以外ないでしょうに……!!」
女は白い歯を見せながら、翼を羽ばたかせる。
「このグランベルでロプトをやっている所と言えば……」
「シアルフィですなぁ……!!」
アルヴィスの質問に女は再び手を叩きながらはしゃぐ。
「シグルドめの所であるな……」
「あの顔の良い男の領地ですわねぇ……」
アルヴィスの呟きにディアドラが笑みを浮かべて答える。
「ふん……」
アゼルはそのディアドラに冷たい目を向ける。
「いかがしました? アゼル様?」
ディアドラがアルヴィスにもたれ掛かりながらアゼルを魅惑するような目を向ける。
「早く兄上と別れていただけないかと思ったのですよ、義姉上」
「ふふ……」
ディアドラは芯が強い女のようだ。
アゼルの皮肉にも動じない。
「やめないか、お前達……」
アルヴィスが苦笑いしながら、二人を止める。
「では、アルヴィス卿」
ロプトゥスと呼ばれた女は背中の翼を広げ、空へと舞い上がる。
「油断ならぬ女だこと」
ディアドラがコトコトと笑う。
「貴女が言うでないわ……」
アゼルはディアドラを冷ややかな目で睨み付けながら、ロプトゥスが飛び立った姿を見つめていた。
「マムクートであるな……」
アルヴィスが飛び立った行った女を見上げながら言い放つ。
「竜人でありますか?」
「うむ」
「得体が知れませぬ」
アゼルのはっきりした言い方にアルヴィスは苦笑する。
「ロプトの柱を憎むものではある」
「古の魔王の名を語る者でありますからな……」
「不遜な女よ、あれは」
アゼルに答えたアルヴィスのその言葉にディアドラが再び笑う。
「では、アルヴィス様、私はこれで……」
ディアドラがヴェルトマーの館へ入っていく。
その後ろ姿をアゼルは冷ややかに見やる。
「女狐が……」
アゼルの言葉にアルヴィスは微笑む。
「お前はディアドラが嫌いか?」
「兄上はもう少し女を見る目があると思いましたが」
「ディアドラは俺のアイーダやヴァハには優しくしてくれているぞ?」
「うわべだけでありましょうに……」
「ふふ……」
アルヴィスはこの弟の感じすぎるセンスに苦笑した。
「誰に似たのか……」
アルヴィスは笑いながら懐から一冊の本を取り出す。
黒い表紙に紅く燃える焔の装飾がされたその本から数ページを破る。
アルヴィスはそれをアゼルへと手渡す。
「ファラの炎である」
「よろしいので?」
「うむ」
アゼルは腰のポケットへその紙を無造作に突っ込む。
「もう少し丁寧に扱えよ……」
アルヴィスは苦笑しながら、弟の旅装束の点検をしてやる。
「剣は使えるか?」
「ヴァハに習った」
「あやつの剣は貴族の剣だ」
アルヴィスが渋い顔をする。
「野盗山賊には通じん」
「ならば、私の魔の法で蹴散らすまで」
「ふふ……」
弟の一人前な言葉にアルヴィスは頼もしそうに頷く。
「ドズルのランゴバルト殿には粗相の無いようにな?」
「ちゃんと礼状は渡しますば……」
「その後はどうする?」
アルヴィスの言葉にアゼルはしばし考える。
「そのまま、ここへ帰ってくるか?」
「いえ、せっかくですので」
アゼルは真面目な顔をして話し続ける。
「南のシアルフィへ南下して……」
「ロプトの柱を見る気か?」
アゼルは頷きながら続ける。
「そのまま東のエッダに入ります」
「クロード大司祭に会うのか……」
「クロード様ならロプトをせずに済む方法を御存知かも……」
「そう上手くいくものかよ……」
アルヴィスは目前の砂漠を見渡しながら自嘲する。
「ヴェルトマーはまだましだ」
「人口が少ないゆえ……」
「まあな」
アルヴィスは肩を竦めながら、アゼルの装束を整えてやった。
「準備がいいな……」
アゼルが保存食をきちんと持っているのを見て微笑む。
「飲み水を喚ぶ風魔法は?」
「ブリザードの下位をどうにか覚えました」
「よし」
アルヴィスはニカッと笑いながら、弟の旅立ちを祝福する。
「元気でな、アゼル」
「兄上も」
アゼルは腰の剣を触りながら言葉を続ける。
「あの女狐とは早々に別れるように」
「あの女はベッドでは優しいのだよ……」
「だから、たぶらかされたのですな」
「ふん……」
「違いますか?」
「その意気があれば旅に出すのは安心だな」
生意気な弟の言葉を聞いて、アルヴィスはかえってほっとしたようだ。
「では……」
アゼルは西のドズルの地へ歩き出した。
「達者でな……」
アルヴィスは弟の姿をいつまでも見つめていた。