ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~   作:早起き三文

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第11話 マイラの剣

「アゼル、よく帰ってきた」

 

アルヴィスは満面の笑みを浮かべて、アゼルに抱きつこうとする。

 

「あ、兄上!?」

 

「ハハッ……」

 

アルヴィスは軽くアゼルを抱擁する。

 

「アゼル様、ずるい!!」

 

ディアドラがアゼルを睨み付ける。

 

「最近、アルヴィス様は私に構ってくれないの……」

 

「それは貴女の本性に気づいたからでしょうに……」

 

「まあ、ひどい!!」

 

ディアドラはヨヨヨと泣き崩れる。

 

「相変わらずだな、ディアドラ」

 

ディアドラの元夫であるシグルドがディアドラを軽く睨む。

 

「あら、ばれました?」

 

「昔からの手だろう?」

 

ディアドラは元の夫に妖艶な笑みを浮かべながら、アルヴィスに抱きつこうとする。

 

「クロード様」

 

アルヴィスはディアドラのタックルをかわしながら、クロード達の方へ顔を向ける。

 

「アゼルの世話をありがとうございます」

 

「なんの……」

 

クロードは一礼をして、微笑む。

 

「良い弟をお持ちになられましたな……」

 

「未熟な奴だよ……」

 

アルヴィスが苦笑する。クロードはシグルドの方に顔を向ける。

 

「戦争ですか?」

 

「うむ」

 

シグルドは軽く頷く。

 

「イザークの蛮族どもが攻めこんできた」

 

「マムクートの王国ですな……」

 

「恐るべき剣士達の国でもある」

 

シグルドは腰の聖遺物「ティルフィング」を手で押さえる。

 

「まあ、剣なら俺も引けをとらんがな……」

 

「夜の方の剣もお上手でしたわね……」

 

「おい……」

 

「アルヴィスはあんまり剣が得意では……」

 

ディアドラはよほどアルヴィスに構ってもらえないのだろうか。

アルヴィスにチラチラと視線を向けながらそんな事を言う。

 

「全く……」

 

アルヴィスは溜め息をつく。

 

「大変だな、アルヴィス」

 

「お前は気楽な独身生活になれて良かったな……」

 

アルヴィスがシグルドにそんな皮肉を言う。

 

「ではな、アルヴィス」

 

「クルト王子達との合流地点は?」

 

「ここより北、リューベックだよ」

 

「気を付けろよ」

 

アルヴィスは真顔になって言う。

 

「トラキアとも手を組んでいるとも聞く」

 

「グランベルもレンスターと組んださ」

 

「そりゃあ……」

 

アルヴィスははるか東の国、レンスターの方向を見ながら笑みを浮かべる。

 

「お前の義理の弟の国だろう?」

 

「まあな……」

 

シグルドは城門の前にいるシアルフィ軍への元へ向かう。

 

「レプトールやクロード達と一緒に留守を頼む」

 

「ああ」

 

アルヴィスに一礼し、馬上の人となったシグルドは颯爽と去っていった。

 

「シグルド様……」

 

ディアドラが少し寂しそうに呟く。

 

「やつれましたね」

 

「ロプトの柱のやりすぎだよ……」

 

「お優しいお方故に……」

 

ディアドラのその悲しげな姿をアゼルは少し意外そうに見ていた。

 

「女狐の別の一面か……」

 

「なにか?」

 

「いや……」

 

ディアドラの地獄耳にアゼルは苦笑した。

 

 

 

「炎の紋章?」

 

コーヒーを飲みながらアルヴィスはクロードに顔を向ける。

 

「知っていますか?」

 

「ん……」

 

アルヴィスは懐から一冊の魔導書を取り出す。

 

「ファラの炎?」

 

「これが炎の紋章の一部だよ」

 

「ほう……」

 

クロードはティルテュにケーキを切り分けてやりながら、アルヴィスに話の続きを促す。

 

「ロプトの聖戦士マイラから、それの娘である魔法戦士ファラが受け取ったとされている」

 

アルヴィスは目を瞑りながら話し続ける。

 

「ファラの炎がそれの一部……」

 

「残りは」

 

「残りは?」

 

魚料理を頬張りながらレックスが訊ねる。

 

「ユグドラルの樹に安置されている」

 

「ユグドラルの樹?」

 

「うむ」

 

アゼルにアルヴィスは視線を向けた。

 

「レンスターに一つはある」

 

「一つと言うことは……」

 

「残りのユグドラルの場所は解らない」

 

アルヴィスがコーヒーを飲み干した。

 

「ディアドラ」

 

「コーヒーですね?」

 

「それと、ヴァハにあの剣を持ってこさせてくれ」

 

「はい」

 

ディアドラが屋敷の中へと入っていく。

 

「ユグドラルの樹は……」

 

クロードが呟く。

 

「大陸の深い森のある場所に存在すると伝承では伝えられています」

 

「クロード大司祭は知っているようだな……」

 

「この大陸の聖地ですよ……」

 

アルヴィスにクロードがそう答える。

 

「聖地ねぇ」

 

ケーキを食べながらティルテュが首を傾げる。

 

「どういう場所なんだろう?」

 

「さあ……」

 

ティルテュの問いにアゼルも首を傾げる。

 

「レンスターのユグドラル、そこの最深部に炎の紋章が安置されている」

 

「なぜそんな場所に……」

 

「わからないが……」

 

アルヴィスは腕を組みながら答える。

 

「何かを封印しているらしい」

 

「封印……」

 

「古の魔王ロプトゥスともなにか関係があるらしいな」

 

「へえ……」

 

アゼルがケーキを食べようとすると、ティルテュがそれを横取りした。

 

「それ、僕の!!」

 

「バラすわよ!!」

 

ティルテュは笑いながら、アルヴィスへ顔を向ける。

 

「アルヴィス様ぁ~ こいつすっごいウジウジしてて~」

 

「ティルテュ!!」

 

「毛がなくてぇ~」

 

「やるよ、やる!!」

 

ティルテュはニヤリと笑うとケーキを食べ始めた。

 

「なにやってんだ、アゼルよ。お前は……」

 

片肘をつきながら、アルヴィスは苦笑いをする。

 

「だから未熟なのですよ……」

 

「だな……」

 

クロードとアルヴィスが顔を見合わせて笑う。

 

「はぁ……」

 

アゼルはそのままテーブルへ突っ伏してしまった。

 

「アルヴィス様」

 

ディアドラがヴェルトマーの騎士団の副隊長であるヴァハとともにテーブルへやってきた。

 

「ヴァハ」

 

ディアドラにコーヒーを淹れてもらいながら、ヴァハから一振りの剣を受けとる。

 

「その剣は……」

 

「マイラの剣だよ」

 

アルヴィスは再びコーヒーを口にしながら、突っ伏してままのアゼルの目の前に剣を置く。

 

「闇の聖戦士マイラの剣……」

 

「これで紋章の封印が解ける」

 

アゼルは身を起こし、剣を手に取る。

 

「僕に……?」

 

「剣として使えとはいわんよ」

 

アルヴィスがニヤリと笑う。

 

「腰にでも佩いておけ」

 

「はい……」

 

そう言いながらもアゼルはその剣をテーブルの上に置いた。

 

「魔力を感じますねえ……」

 

クロードがその剣をしげしげと見る。

 

「懐かしい剣ですわねぇ」

 

ディアドラが嬉しそうに剣を見る。

 

「見たことがあるの?」

 

「ええ、昔に」

 

ティルテュの問いにディアドラは含み笑いをする。

 

「使いやすい剣ですわよ」

 

「ディアドラ……」

 

アルヴィスが変な物を見るようにディアドラに視線を向ける。

 

「不思議な女だな、お前は」

 

「ミステリアスであって?」

 

ディアドラはコトコトと笑う。

 

「ほんとに女狐かよ……」

 

「あたしもそう思う」

 

「俺も……」

 

アゼルとティルテュ、レックスのぶしつけな視線にも動じず、ディアドラは微笑む。

 

「いったい、お前は何歳なのだ?」

 

「女に歳を聞くのでありまして?」

 

「ふふ……」

 

アルヴィスは笑いながらコーヒーを飲み干した。

 

 

 

その部屋には豪華な装飾が施され、あたかも神殿のような雰囲気につつまれていた。

 

護摩壇の焚かれたその薄暗い部屋の中、アルヴィスは数枚に重なっている羊皮紙に自らの指先から数滴の血を垂らす。

 

カァーン……

 

羊皮紙が発光し、文字が浮かび上がる。

 

「お館様」

 

ディアドラが飲み物を片手にアルヴィスへ近づく。

 

「ディアドラ」

 

アルヴィスはディアドラからジュースを受けとる。

 

「アゼルの様子は?」

 

「アイーダ様とヴァハ様に剣の稽古をつけてもらっています」

 

「付け焼き刃だな……」

 

「アゼル様も必死なのですよ」

 

「魔法の方から一人前になってもらいたいのだがね……」

 

アルヴィスは羊皮紙を眺めながら、ジュースを飲み干す。

 

「ファラの炎ですか?」

 

「アゼルには是非使いこなせてもらいたいのだが……」

 

「アゼル様には荷が重いのでは?」

 

「中途半端な神族の血か?」

 

「幼子にお酒を飲ませるようなものです」

 

ディアドラが少し険しい顔で言った。

 

「だがな、ディアドラ」

 

アルヴィスは腰を上げながら言う。

 

「全ては使い方なのだ」

 

「聖遺物の力を全力で使う必要はないと……」

 

「ランゴバルトの息子のレックス君はそれを理解している」

 

アルヴィスは手で聖斧スワンチカを描きながら言い放つ。

 

「レックス君のネールの神族の血は絶えるかもしれんからな」

 

「聖痕が誰にも顕れなかった……」

 

「ヴェルトマーもそうなる可能性はある」

 

「だったら、私との子を……」

 

抱きつこうとするディアドラをアルヴィスは引き離す。

 

「俺は疲れてるのだ……」

 

「酷いお方」

 

ディアドラは手を口に当てて笑う。

 

「それに俺は……」

 

アルヴィスは少し遠い目をして呟く。

 

「ロプトの柱に架けられる可能性がある」

 

「魔王ロプトゥスの弟である聖戦士マイラの血のため……?」

 

「最大のロプトの血である」

 

アルヴィスは苦笑しながら部屋を出る。

 

「俺を架ければ、数年は豊作が約束されるかもしれん」

 

「クルト王子は賢明な方ではあります」

 

ディアドラも部屋を出る。もうすでに夜は深くなっている。

 

「冷酷ではありますけど」

 

「どうかな……」

 

アルヴィスは真剣な面持ちで暗い夜の廊下をカツカツと歩く。

 

「飢饉の前兆がある」

 

「はい」

 

「だから、シグルドめも白髪が増えた」

 

「顔の良さは変わりませんわ……」

 

「フフ……」

 

アルヴィスの顔が少し綻ぶ。

 

「炎の紋章か……」

 

「アゼル様達ならきっと為し遂げますわ」

 

「それで本当にロプトの柱をせずともすむかな……」

 

「さあ……」

 

「ナーガやブラギの考えは解らぬわ」

 

アルヴィスは寝室の前で立ち止まる。

 

「今日はどうする?」

 

「止めときますわ……」

 

ディアドラは含み笑いをしながらアルヴィスに軽くキスをする。

 

「お館様は疲れておいでですので……」

 

「すまんな……」

 

ディアドラは一礼して暗い廊下を歩いていく。

 

「神竜ナーガか……」

 

アルヴィスは嘆息しながら一人呟く。

 

「俺は人の生き血を啜るあなたを嫌悪しておりますよ」

 

窓の外の夜空に向かって言葉を放つ。

 

「魔王ロプトゥスと同じ行いを人に強いるのに、どうしてあなたを崇拝できようか……」

 

アルヴィスはそうひとしきり呟いたあと、寝室への扉を開けた。

 

 

 

「レンスターってどういう所?」

 

ティルテュがパジャマ姿でクロードに訊ねる。

 

「鎖国の国ですよ」

 

「サコク?」

 

「閉ざされている国と言う意味です」

 

クロードが少し酒を飲みながら答える。

 

「かなり、国に入ってくる人間に対して敏感に反応する国です」

 

「なぜさ?」

 

「イザークとトラキアという竜人の国に囲まれた国だからです」

 

クロードは一呼吸置く。

 

「なぜかその両方の国につねに狙われている」

 

「大変そうだな……」

 

レックスが口をはさむ。

 

「ゆえに、警戒心が強いのですよ」

 

「へえ……」

 

レックスが壁にもたれかかりながら生返事をする。

 

「怖そうな国だな」

 

「シグルド殿ならいくらかは内実をしっていると思いますがね……」

 

「あの人の妹が嫁いでいるんだっけ」

 

レックスの言葉にティルテュが身を乗り出す。

 

「まさか、政略結婚とか?」

 

「さあ……」

 

「純愛?」

 

「うーん……」

 

はっきりと答えないクロードにティルテュは少し苛立ったようだ。

 

「司祭様ァ……!!」

 

「シグルド殿がその妹君の結婚について、はっきりと言わないんですよ」

 

「フーン」

 

ティルテュはあくびをしながら、ベッドから立ち上がる。

 

「あたし、もう寝るね」

 

「お休みなさい……」

 

部屋を出ていったティルテュを見おくりながら、クロードはレックスに顔を向けた。

 

「レンスターへは注意して行った方が良いかもしれません」

 

「シグルドの旦那から紹介状をもらったのに?」

 

「レンスターの国王のキュアン王」

 

「シグルド殿の義理の弟だな」

 

「彼の性格が全く解らないのです」

 

「ふうん……」

 

レックスはベッドへ入りながら、ぼんやりとその話を聞いていた。

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