ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~ 作:早起き三文
荒涼とした大地をアゼル達は進む。
「メルゲンって所はなんにもない所だなあ……」
レックスが回りの風景を見渡しながら呟く。
「レンスターへの陸路はここしかないからね」
「イードの砂の道とこの場所の空気で……」
「空気で?」
「肌が荒れちゃう……」
ティルテュは自分の頬に触りながら、愚痴り始める。
「あたしの化粧品を貸そうか?」
「いらないよ、そんなの」
ティルテュに化粧品を見せたマムクートの女がむっとする。
「良いものだよ?」
「凄い匂いがするよ、それ……」
「肌が若く見えるよ?」
「あたしはまだまだ若いよ……」
「あっそう」
マムクートの女は化粧品をリュックサックにしまいこみ、空中へと浮かぶ。
「マムクートの肌と一緒にするなっての……」
「マムクートと人間の違いがわかるのか?」
「食うもんから化粧品まで、違いが多いでしょ……」
アゼルにティルテュが睨む。
「彼女、悪い人じゃないと思うけど……」
「女同士の反りがあわないか?」
「知った口を聞くなよ、アゼル……」
ティルテュは呆れたように溜め息をつく。
「やっぱり、マムクートや竜、そいつらと私達は違うんだよ」
「そうかもね……」
ティルテュとアゼルは空中を悠々と浮かんでいるロプトゥスの姿を見ながら呟く。
「竜人マムクートかあ……」
アゼルはその外見の年齢も実際の年齢もよくわからない不思議なマムクートの女を見ながら、旅立つ時の事を思い出していた。
「彼女をつれていってやってくれ」
アルヴィスはアゼル達がレンスターへ旅立つ前に彼の横にいたロプトゥスを指差した。
「マムクートねぇ……」
レックスがロプトゥスをじろじろと見る。
「何だよ?」
「いや、外見は人間と大して変わらないなあと思って……」
「マムクートってのはそういうもんよ」
レックスにロプトゥスはその薄い胸を張って答える。
「顔はディアドラさんと同じようなタイプだな」
「色っぽいってこと?」
「身体がなあ……」
ぶつぶつと言うレックスにティルテュが冷たい目を向ける。
「レックスってあのディアドラみたいな女が好みなわけ?」
「大人の女性がねぇ」
「やれやれ……」
ティルテュが呆れたように首を振った。
「なぜ、彼女をレンスターへ?」
旅支度の点検をしていたクロードがアルヴィスに訊ねた。
「キュアン王なら彼女を導いてくれる」
アルヴィスがレンスターの国王の名前を言う。
「と、ある人物が言っていた」
「誰がそんな事を?」
「ロプト教団の最高司祭であるマンフロイ殿だよ……」
「イードのロプト教徒たちの長ですか」
クロードが何か納得しきれていない表情で答える。
「キュアン王がなぜ彼女を?」
アゼルはシグルドから貰った紹介状をヒラヒラとさせながら兄に訊ねる。
「せっかく書いてもらったんだからよ……」
アルヴィスが笑いながら弟をたしなめる。
「シグルド様の妹君が嫁いでいるんですよね…」
「ああ」
「親戚か……」
アゼルは紹介状を丁寧にたたみながら、腰のベルトに付けているポーチにしまいこんだ。
「マンフロイ殿が言うには」
アルヴィスが東にあるレンスター王国の方を向いて説明する。
「レンスターもマムクートの王国であるらしいからな」
「レンスターが?」
「うむ……」
クロードが首を傾げながら、アルヴィスと同じくレンスターの方向に顔を向ける。
「あの国は別にマムクートが多くいるわけではないと思いますが?」
「俺もそう思う」
アルヴィスはその目をレンスターの方へやりながら、独り言のように呟く。
「鎖国しているとはいえ、人間の国ではあると思う」
「ならば、なぜ……」
「マンフロイ殿を信じるしかあるまい」
アルヴィスは顔をしかめながら自分を納得させるように頷いた。
「クロード大司祭にはロプト教団の者には抵抗があるとはおもうが……」
「いえ……」
クロードは微笑みながら首を振る。
「私はもともと反ロプトの思想はありませんから……」
「そう言ってくれますか?」
アルヴィスは苦笑いをしながら、クロードに頭を下げる。
「よろしく頼みます、クロード殿」
「任せてくださいよ……」
クロードとアルヴィスは固く握手をした。
「もうすぐレンスター領だな……」
レックスが腰のスワンチカに手を伸ばしながら呟く。
「緊張してるのぅ?」
ロプトゥスがレックスの回りをくるくる回りながら茶化す。
「別に……」
レックスは憮然と答えながら、レンスターへと続く道、メルゲンの荒涼とした風景を眺めながら呟く。
「ねえ、アゼル?」
「ん~?」
アゼルは歩きながらパンを食べている。
「そんなに腹減ってたの?」
「そうじゃないけど……」
アゼルは遠くに見えるレンスターの大地を見ながらティルテュの顔を見る。
「今のうちに腹ごしらえをやっておこうと思ってね」
「ふぅん……」
「何か…… 変だ」
アゼルはぼそりと呟いた。ティルテュはその言葉に感心したように頷く。
「アゼルは感が良いねぇ」
「ティルテュ?」
「確かに何か、空気と大地の感じが違ってきている」
ティルテュが微弱な電気を空中に放ちながら緊張した顔で答えた。
「人の世界じゃないような……」
ティルテュが呟いたその時。
バリァァ!!
地面が音を立てて吹き飛んだ。
「何だ!?」
アゼルが地面に膝をつく。
「あいつだ!!」
レックスが少し離れた丘の上に佇む二人の騎士の姿を指す。男女の騎士である。
「何者だ?」
馬上の騎士の内、男の方がアゼル達に尋ねる。
「レンスターにわざわざ来る旅人はいない」
男は片腕に槍を携えている。
「名乗れ」
「いきなりはないだろう!!」
ロプトゥスが空中に飛び上がり、騎士を挑発する。
バンッ!!
男が槍を振るった。
「わっ!? うわ!!」
ロプトゥスがバランスを崩して地面に落下した。
「ロプトゥス!!」
クロードがロプトゥスに癒しの魔法をかける。
「身体が痺れて……!!」
「マムクートにはゲイボルグは致命的だよ」
騎士が槍をつき出す。
「もう一度言う、名乗れ」
男は冷静な声で告げる。
「グランベル、ヴェルトマー公アルヴィスの弟であります」
「用件は?」
「これを……」
アゼルは懐からシグルドの紹介状を取り出した。
「グランベルのシグルド殿からの紹介状です」
「……」
「キュアン王へお目通り願いたい」
男の騎士の傍らの女が片手を動かす。
アゼルの右手にある紹介状が見えない手で掴まれているかのように女の元へ運ばれていく。
「薄気味悪い……!!」
ティルテュが愚痴る。
「フィン……」
女が男の騎士へ手紙を見せる。
「シグルド殿の筆です」
「確かでありますか? ラケシス殿?」
「はい」
女は手紙を再びアゼルの元へと不可思議な力で運ばせる。
「失礼しました」
男が丁寧な口調になって丘から降りてくる。
「全く……」
ようやく身体の痺れが取れたロプトゥスが男を睨む。
「申し訳ありません」
馬から降りて、男はロプトゥスに一礼して謝る。
「乱暴すぎ……!!」
「マムクートでしたので……」
男のその言葉にクロードは少し納得したようにレンスターの騎士に話しかける。
「イザークかトラキアの者だと思ったのですね?」
「はい」
男はそう言い、微かに微笑む。
よく見れば男の歳はレックスの歳とそう変わらないように見えた。
「では、案内を……」
「はい」
男の横へやって来た女が微笑みながら、アゼルに微笑んだ。
「あなたは……」
クロードが女の顔をまじまじと見る。
「はい?」
「ラケシス様?」
「私を知っておられるので?」
クロードは女に頷く。
「アグストリア諸王国の諸王の一人、エルトシャン様の妹君ですね」
「確かシグルド様の……」
「ええ」
クロードは横にやって来たティルテュ達に頷く。
「シグルド様、この国のキュアン様、そしてエルトシャン様の三人は昔からの御友人らしいですね」
クロードが説明をする。
「物知りだねぇ」
「うんうん……」
レックスとロプトゥスが感心したような呆れたような声を出す。
「ゴシップにも詳しそうよね……」
「怖いな……」
「ディアドラさんの男癖についても知ってしたようだし……」
「そう言う話が好きなんじゃないのかな……」
こそこそ言うレックスとロプトゥスをジロリとクロードが睨む。
「聴こえてますよ……」
二人は合わせて肩をすくめる。
「ではええと……」
「フィンと申します」
男は一礼をする。
「では、ようこそ、古の国レンスターへ」
フィンと名乗った青年はラケシスと共にアゼル達を先導する。
「古の国……」
アゼルはどこか空気と土地の雰囲気が異なるレンスターの大地へと歩き始めた。