ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~   作:早起き三文

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第13話 ゲイボルグの国

「物々しいな……」

 

干し肉を食べているレックスはレンスター領内のあちこちに設置されている砦をみながら呟く。

 

「対空用のシューター兵器ですね」

 

クロードが砦の中にある大型の弩の姿を見ながらフィンに訊ねる。

 

「やはり、イザークやトラキアに対する備えで?」

 

「ああ、ゲイボルグです」

 

フィンは乾燥させた鮭の干物を口に運びながら、答える。

 

「ゲイボルグとはレンスターの聖遺物の事では……」

 

「それはキュアン王が持つ真のゲイボルグの事」

 

アゼルの問いにフィンは自分の背中に背負っている槍を指差す。

 

「これもゲイボルグ」

 

「うーん……」

 

ロプトゥスが首を傾げる。

 

「鮭、初めて来る人にその言い方は止めなさいよ」

 

「鮭?」

 

フィンに注意したラケシスにパンを食べながらティルテュが聞く。

 

「この人、鮭の干物ばかり食べるの」

 

「だから鮭」

 

「そうそう」

 

ティルテュとラケシスは二人で顔を見合わせながら笑う。

 

「おそらくは……」

 

笑い合う二人を尻目にクロードがフィンに言う。

 

「武器の名前を全てゲイボルグと呼んでいるのですか?」

 

「イザークやトラキアに対抗する為の武器はですが」

 

「なるほど」

 

クロードはそう言いながら、広大なレンスターの大地を見渡した。

 

「豊かな土地ですね」

 

「そのおかげでロプトの柱を立てる必要がない」

 

「それは良い……」

 

クロードの顔が綻んだ。

 

「もうすぐ、レンスターの王城です」

 

フィンが鮭の干物を飲み込みながら、遠くにそびえ立つ城を指差した。

 

 

 

「静かな所ですねぇ……」

 

アゼルが城下町を見渡して呟いた。

 

「なんか、神殿のような雰囲気がある」

 

ティルテュも少し居心地が悪そうに、よく整えられた街並みを見ながら呟いた。

 

「あまり、騒がしいのは好きではないのですよ、レンスターの人は」

 

城門で馬から下りたラケシスが皆に言う。

 

「私も始めて来たときは驚きました」

 

「ふぅん……」

 

「アグストリアとはだいぶ違うと」

 

ラケシスの言葉を聞きながら、レックスは料理店を見つけた。

 

「とは言っても、別に騒いではいけないと言う訳ではないみたいだな」

 

料理店の盛況ぶりを見ながら、レックスはアゼルに顔を向けた。

 

「鎖国とかいうから、どうゆう国だと思ったら……」

 

「うん……」

 

「別におかしい所はないな、アゼル」

 

「うん……」

 

アゼルは頷きながらも、あるものを見つめている。

 

「どうしたの、アゼル」

 

ティルテュがアゼルの様子がおかしい事に気づいて、顔をジロジロと見る。

 

「あれ……」

 

アゼルは肉屋に吊るされている肉塊を指差す。

 

「美味しそうだな」

 

レックスも肉屋を見る。

 

「欲しいのか?」

 

「いや……」

 

アゼルは頭を振る。

 

「あの肉、何か変だ……」

 

「腐っているって意味?」

 

「そうじゃなくて……」

 

「細かいわねぇ、ほら行こ!?」

 

ティルテュに手を引っ張られながらもアゼルは妙な気分を振り払えなかった。

 

「……」

 

そのアゼルをフィンとラケシスがじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

「うわっ!!」

 

レンスターの王城に入った時、突然レックスが声を上げた。

 

「どしたの?」

 

「スワンチカがねえ!!」

 

「落としたの?」

 

ティルテュにレックスは首を振る。

 

「いや違う」

 

「さっきまで背中にあったよ」

 

「そうだ」

 

ロプトゥスの言葉にレックスは頷いた。

 

「親父の仕業だと思う」

 

「ランゴバルト様の?」

 

「ああ」

 

「たしか……」

 

唇に指を当てて考え込むティルテュにレックスは言葉を続けた。

 

「親父はイザークとの戦いに行っているはずだ」

 

「ランゴバルト様がスワンチカを必要とした……」

 

「だと思う」

 

レックスは不満げな顔をする。

 

「俺が戦いの最中だったらどうしてくれんだよ……」

 

「本当に緊急だったのでは……」

 

「だろうな」

 

レックスが溜め息をついた。

 

「この街で斧を調達しないとな」

 

「私の予備の斧を譲りましょうか?」

 

ラケシスがレックスに小声で話しかける。

 

「あるのですか?」

 

「ええ、武器や魔導書の類いは一通り」

 

ラケシスがレンスターの王城の方を向く。

 

「ラケシス殿は真騎士であるからな」

 

「真騎士?」

 

アゼルが聞き返す。

 

「あらゆる武器や魔法を扱える、一種の天才みたいなものだ」

 

「器用な方ですねぇ」

 

「いや、天才と言う言い方では語弊がある」

 

フィンが少し考えながら言う。

 

「神族の血族によらない超人みたいなものでしょう」

 

クロードが口を挟んだ。

 

「知っておられるのですか?」

 

「バーハラのクルト王子が同じ真騎士であらせられました」

 

「なるほど」

 

フィンは首をまげて、はるか遠くのグランベルの方へ向ける。

 

「ナーガを扱える真騎士ですか」

 

「まともに対抗できる者はいないでしょう」

 

「そうですな……」

 

フィンは今度は北のイザークの方へ視線をやる。

 

「イザークの竜王とも渡り合えるかもしれませんな」

 

「イザーク王マナナーン?」

 

「はい」

 

クロードの言葉にフィンは少し真剣な顔で頷いた。

 

「飛竜族の王です」

 

「神竜ナーガと同じ……」

 

「かもしれません」

 

フィンが近くにあったゲイボルグのバリスタを指差す。

 

「少し前にこのレンスターへ襲ってきました」

 

「何故?」

 

「マナナーン王はその時、少し遊んでやるとキュアン王に叫んでましたよ」

 

フィンが肩を竦めた。

 

「本気ではなかった?」

 

「こっちは本気で戦いましたがね」

 

「ふぅん……」

 

アゼルも北のイザークの方へ目をやる。

 

「最後はキュアン王が真のゲイボルグで撃退しましたが」

 

「竜……」

 

アゼルは口ごもる。

 

「マムクート達の王国か……」

 

「人とは違う者ねぇ?」

 

アゼルの呟きにレックスが軽くこぼした。

 

 

 

「ようこそ、レンスターへ」

 

玉座に座るレンスター国王であるキュアン王がその目前に控えるアゼル達に声をかける。

 

「お初にお目にかかります。キュアン王」

 

代表としてクロードが挨拶をする。

 

「えーと、まずは……」

 

キュアンが傍らのやや小振りである王妃用の椅子に座るエスリン妃に訪ねる。

 

「まずは、ユグドラルの大樹の事からの方が良いのでは……」

 

「うむ」

 

キュアンがアゼル達へ向き直る。

 

「だいたいの話はフィンから聞いたが」

 

「ユグドラルの樹へ立ち入る許可をもらいたいのですが……」

 

「そのことであるがね……」

 

「何か問題が?」

 

「うむ」

 

キュアンはクロードに頷く。

 

「あれの場所は今はトラキアの領となっておる」

 

「トラキアの……」

 

「うん」

 

キュアンが首を傾げながらアゼルの方を向いた。

 

「そなたはトラキアの事をどのくらい知っておるか?」

 

「ええと……」

 

アゼルは質問に詰まり、レックスやティルテュに視線を向ける。

 

「飛竜を駆り、ハイエナのごとき所業をする傭兵達を有する国家だと伺っています」

 

レックスが変わりに答えた。

 

「また、何もかも奪うばかりではなく、敵対した者を残忍に切り刻む、恐るべき者達であると」

 

「うん、その通りである」

 

キュアンがレックスに微笑みかける。

 

「だが、それは彼らを正確に表している事ではない」

 

「誤解があると……?」

 

「そう」

 

キュアンが頭を上に上げながら考え込む。

 

「あ、いや、それは正確かもしれない」

 

「はあ……」

 

「なんというか、誤解とも錯覚とも……」

 

「ん……?」

 

唸るキュアンをエスリン妃が肘で突く。

 

「あなた、その言い方は止めなさいとシグルドに言われたでしょう」

 

「ああ、うん。そうだった」

 

キュアンが一つ咳払いをして言葉を続ける。

 

「つまり、よくわからないので、慎重に対応せよとの事である」

 

「はあ……」

 

アゼルは少し頭を捻りながら頷く。

 

「申し訳ありません、皆様」

 

エスリン妃がアゼル達の一行へバツの悪そうな顔で微笑みかける。

 

「この人はいつもこんな感じで……」

 

「いえいえ……」

 

クロードが慌てて頭を下げる。

 

「まあ、交渉が必要なのである」

 

「トラキアと?」

 

「うむ」

 

キュアンがエスリンに小声で何かを伝える。

エスリンは頷きながら席を立ち、謁見の間を離れる。

 

「食料で解決はできる」

 

「はっ……」

 

「しかし、である」

 

キュアンは少し険しい顔をした。

 

「無償でそなたらの為に食料を渡してやる訳にはいかない」

 

「代償が必要と……」

 

「うん」

 

クロード達は顔を見合わせる。

 

「貴重な物と言えば……」

 

アゼルは懐のファラの炎やクロードの戦女神の杖を見渡した。

 

「スワンチカはありませんし、マイラの剣とやらは持ってないと意味がありません」

 

そう言ったクロードが何かを決意したかのように、キュアン王へ口を開く。

 

「この戦女神の杖はいかがでしょうか?」

 

「聖遺物であろう?」

 

キュアン王が少し驚いた顔をする。

 

「私は元々、嫌々ながらこの杖を使っていましたので……」

 

「もしかして」

 

キュアンが何か合点のいった顔をした。

 

「そなたは、その杖がロプトの儀と似たような性質があることを知っていたのか?」

 

「はい」

 

「そうか……」

 

キュアンは少し目を閉じて、頷く。

 

「いいだろう」

 

キュアンが玉座から立ち上がり、杖を受けとる。

 

「我がレンスターでこの杖は預かろう」

 

「はい」

 

杖をキュアンに渡しているクロードにティルテュが小声で呟く。

 

「いいのですかぁ?」

 

「良いんですよ、ティルテュ」

 

「大事なステータスシンボルでしょう?」

 

「この杖も私がいやいや使うよりは、他の人間に預かってもらった方が喜ぶでしょう」

 

「ふぅん……」

 

クロードの自嘲な笑みにティルテュはそれ以上は何も言わなかった。

 

「さて」

 

キュアンがロプトゥスに目をやる。

 

「マンフロイ殿からの手紙でも何かないか?」

 

「あります」

 

ロプトゥスは懐から封書を取り出した。

玉座からロプトゥスの元へやって来て受け取ったキュアンは手紙の内容を確かめる。

 

「ひどい内容だ……」

 

キュアンは笑いを堪えているようだ。

 

「ヴェルダンのロプトの里ではこやつの勝手気ままさは直らないとな……」

 

キュアンは苦笑しながら手紙を眺め見る。

 

「そんな事が書いてあるんですか!?」

 

「マンフロイらしい……」

 

キュアンは笑いながら、ロプトゥスに手紙を渡す。

彼女は手紙の内容を声を上げて読む。

 

「一度、このバカをもう一つのロプトの里とも言えるレンスターで性根を叩き直してくれ」

 

「昔から変わらぬ……」

 

憤慨するロプトゥスにキュアンは微笑みかけた。

 

「ロプトの里……?」

 

アゼルが首を傾げる。

 

「魔王ロプトゥスの血を引く者やロプト教を信じる人達が隠れすんでいる場所ですよ」

 

クロードがアゼルの耳元へ話しかける。

 

「あのディアドラ様がヴェルダンの出身だと言われています」

 

「あの女狐はロプトの者だったのか」

 

「恐らくは……」

 

クロードが頷く。

 

「聞こえておるぞ」

 

キュアンがヒソヒソと話す二人に声をかけた。

 

「申し訳ありません、キュアン王」

 

「それはよい」

 

キュアンはそのまま話しかける。

 

「このレンスターも魔王ロプトゥスとは関係がある」

 

「レンスターの者もロプトの血を引く者なのですか」

 

「いや、そういう訳ではない」

 

キュアンが首を少し傾けながら話続ける。

 

「だが、大きい意味で言えばロプトの血を引いていると言える」

 

「ロプト教徒という訳ですか?」

 

「いや、我々はロプト教を信じていない」

 

キュアンの言葉にクロードは眉をひそめる。

 

「どのような意味で……」

 

「つまりだなあ……」

 

首を傾げながら考え込むキュアンに謁見の間の脇から声がかかる。

 

「ですから、あなた……」

 

エスリン妃がフィンや複数の兵士と一緒に大量の食料を謁見の間へ運び込む。

 

「そのような言い方は止めなさいと……」

 

「ああ、すまんすまん」

 

キュアンが咳払いを一つしてクロードに微笑みかけた。

 

「つまり、このマムクート、ロプトゥスとやらにとっては良い教育の場になると言うことだ」

 

「はぁ……」

 

クロードは困惑しながらも頷く。

 

「このマムクートは私達が預かるよ」

 

キュアンはロプトゥスの顔を微笑みながら見つめた。

 

「ありがとうございます。キュアン王」

 

ロプトゥスが丁寧に礼をする。

 

「では、キュアン王……」

 

「うむ」

 

キュアンは姿勢を正して、クロードに告げた。

 

「フィンに道案内をさせると良い」

 

「わかりました」

 

トラキアとの交渉で使う食料を点検しながら、フィンが了解する。

 

「あと」

 

キュアンはロプトゥスの顔を見る。

 

「君は行くな」

 

「なんでですか?」

 

「ユグドラルの大樹は地竜族である君には危険すぎる」

 

「地竜族に危険とは?」

 

「ええと、それは……」

 

キュアンが首をかしげる。

 

「なんというか、雰囲気が合わないというか……」

 

キュアンの癖が始まろうとした事を察したエスリンがキュアンの耳を捻り上げる。

 

「このマムクートさんの教育とか言う前にあなたの……!!」

 

「わかった!! わかった!! 痛い!!」

 

アゼル達はそれぞれ笑いを堪えるのに大変だと言うような顔でキュアン王とエスリン妃を見つめていた。

 

 

 

 

「アゼル殿」

 

レンスターの通路を歩いていたアゼルは曲がり角で偶然キュアン王と会った。

 

「キュアン王、先程はありがとうございました」

 

「いやいや……」

 

キュアンは手を振りながら、アゼルに話しかける。

 

「アゼル殿」

 

「はい」

 

「ディアドラ殿に会ったら伝えてくれ」

 

「はあ……」

 

アゼルは嫌いな兄の妻の顔を思い出して、少し嫌な気分になった。

 

「お互い歳なんだから、少しは年長者の自覚を持てとね」

 

「はあ!?」

 

「ではね……」

 

言いたい事だけ言うと、キュアン王はさっさと立ち去っていった。

 

「歳ねえ……」

 

アゼルはディアドラの顔を思い浮かべながら、一人首を傾げた。


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