ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~焔の子~ 作:早起き三文
天まで届かんと錯覚する大聖堂で一人の男が祈りを捧げてる。
「万物の創造主たるブラギの父よ……」
女性かと見間違うほど美しい顔立ちをしたその男は、薄暗い聖堂の中、杖を両手に捧げて必死の祈りを捧げ続ける。
「……」
男の顔が苦しげに歪む。
長い時間祈りを捧げ続けた男は溜め息をついて立ち上がる。
「ここでは祈りは届かぬか……!!」
男は忌々しげに呟く。
「やはり、ブラギの塔へ行かなくては……」
呟きながら、怒りを込めた視線で手に持つ杖を睨む。
「くそっ!!」
男は怒りに身を任せ、杖を叩きおる。
「役にも立たぬ聖遺物よ……」
再生を始める杖を尻目に、男は大聖堂から出ていった。
「クロード様ぁん……!!」
紫色の髪をした娘が男に走ってくる。
「ティルテュ」
娘はそのまま、男の胸に飛び込む。
「いつやってきたのですか?」
「ついさっき」
娘は屈託なく笑う。
「御父上は?」
「言うわけないじゃない」
「なぜ?」
「最近仕事ばっかりで、全然構ってくれない」
ティルテュは口を尖らせる。
「お忙しいのですよ、レプトール様は……」
「でもつまんない」
娘は大司祭クロードに口づけをしようとする。
「こらこら……」
娘の顔を両手で離す。娘はクスクスと笑う。
「クロード様」
「ん?」
「旅に出るのですか?」
「よくわかりましたねぇ……」
「司祭様の怒鳴り声が聞こえましたから」
娘は再びクスクスと笑う。
「聞こえてましたか……」
男は苦笑する。
「怒っている司祭様、あたしは嫌い」
「すみません……」
男は頭を掻きながら苦笑いをする。
「大事な杖なんでしょう?」
「そうなんですがね……」
男は少し顔をしかめながら呟く。
「あれもロプトの柱の一端を担っていると思うとね……」
「ふぅん……」
娘はよくわからないといった顔をする。
「あ、あと司祭様」
「はい?」
「アゼルとレックスが来てるそうよ」
「ヴェルトマーとドズルの者ですか……」
男は少し考える。
「何をしにきたのでしょうかね?」
「ロプトの必要について、司祭様の意見を聞きたかったんだってさ」
「私が聞きたいくらいですよ……」
男は苦笑する。
「あいつらも連れていく?」
「いいですねえ……!!」
クロードは笑みを浮かべる。
「旅は道連れって事で……」
「アゼルの奴をいじめられるしねぇ?」
ティルテュが意地悪そうな顔をする。
「こらこら……」
クロードは苦笑しながら、エッダ城の客室へと足を向けた。
「まってよう!! 司祭様ぁ!!」
ティルテュが慌てて、後を追った。
「よっ!! アゼル!!」
ティルテュがアゼルの姿を見て駆け寄る。
「げっ!?」
アゼルは信じられない物を見るような目でティルジュから身を隠す。
「なんで、お前がここにいるんだ!?」
「どこにいようが、あたしの勝手だろ?」
ティルテュはアゼルの頭をポンポンと叩く。
「やめろ!! バカ女!!」
ティルテュはにやけながらアゼルの目の前に一枚の紙を見せる。
「な、なにを……!!」
春画を見せられたアゼルは顔が髪と同じ色に染まる。
「アハッ!!」
ティルテュは笑いながら、旅の支度をしているクロードの部屋へと戻っていく。
「うう……」
「相変わらずだな……」
レックスがアゼルのげっそりした姿を見ながら、微笑む。
「嫌なんだよ!! あの女!!」
「女嫌いか!?」
「そうじゃない!!」
「じゃあ、俺の愛の方が良いか?」
「そうでもない!!」
頭痛がしてきたアゼルは炎魔法の逆作用を利用する術を唱えて、額にあてる。
「便利なもんだな……」
レックスが頭の熱を取っているアゼルを見ながら感心する。
「初歩の初歩だよ……」
未だに頭痛が治まらないアゼルはぶつぶつと呟く。
「兄上なら一呼吸でこんな術は使える」
「あの人はグランベルで一番の術師だからな」
「クルト王子もいる」
「そうではあるがね……」
レックスはその言葉に少し嫌な顔をしながらも、アゼルを心配げに見る。
「まさかあのバカ女と会うとはな……」
「幼なじみだろう?」
「とっとと縁を切りたい」
「顔は良いぞ?」
「性格が全てを帳消しにしている!!」
アゼルは頭痛が治まった頭をさすりながら答える。
「アゼル殿」
旅支度をしたクロードがアゼルとレックスに頭を下げる。
「突然失礼しました、大司祭クロード様」
アゼル達も礼をする。
「ロプトについて聞きたいようですね?」
「ええ……」
「しかしです」
クロードは横にやって来たティルテュを見ながら、言葉を続ける。
「今から私はその答えを得るためにブラギの塔へ行かねばなりません」
「ブラギの塔……?」
アゼルが首を傾げる。
「確か、グランベルの遥か北、アグストリアを越えた先にある塔だ」
レックスが頭を掻きながら説明する。
「ついてきますか? アゼル殿?」
アゼルはレックスの顔を見る。
「面白そうじゃねえか」
レックスが嬉しそうに笑う。
「よろしくねぇ、レックス」
ティルテュがレックスと握手をする。
「アゼルにもう少し気を使ってやれよ……」
握手する幼なじみにレックスは笑みを浮かべながら忠告する。
「だって、こいつ……!!」
ティルテュはニヤニヤしながら、アゼルを指差す。
「からかいたくなる顔をしているのよ……」
「うるさいな……」
アゼルはそっぽを向く。
「では……」
クロードは杖を手にしながら、地面に魔法陣を書き始める。
「これは……」
「大ワープです」
クロードは陣を書きながら答える。
「それって……」
ティルテュが口を出す。
「とってもギャンブルな術じゃなかったんじゃないでしたっけ?」
「ええ」
事も無げにクロードは頷く。
「遠距離で行うと、到達場所がずれます」
「大司祭さま……」
レックスが呆れたように言う。
「大丈夫ですよ」
クロードは杖を掲げながら答える。
「この戦女神の杖の力を借りますから」
クロードはやや苦々しげに杖を見やる。
「聖遺物か……」
レックスは自身が身に着けているスワンチカに触れながら呟いた。
「なんなんだろうな、こいつは……?」
「考えてても仕方がありませんよ、レックス殿」
魔法陣を書き終えたクロードが薄く笑いながら言う。
「ただ、古の魔王ロプトゥスを倒した時に使用された物であると言うことだけが……」
「俺達が知っていることの全てか」
「ええ……」
話ながらも、クロードは少し顔を翳らせた。
「クロード様?」
アゼルがクロードの顔色が変わったのを見て、声をかける。
「いえ、何でもありませんよ、アゼル殿」
クロードは魔方陣の中心に来るように皆に言う。
「食料などは?」
「ここに」
クロードは小さい袋を見せる。
「魔法の袋か?」
「はい」
「便利なもんだ」
レックスが口笛を鳴らす。
「僕が水なら作り出せます」
「あんたがぁ?」
ティルテュが皮肉げにアゼルを見る。
「お前に出来るのかよ!?」
「簡単な術じゃないかしら、それってぇ?」
アゼルにティルテュは余裕綽々と言った風に答える。
「ワープを動かしますよ……!!」
クロードの声に慌てて二人は魔法陣へと入った。
「ありゃ!?」
翼を持つマムクートの女、ロプトゥスは大ワープで光の塊となって飛んでいくアゼル達を見て、すっとんきょうな声を上げた。
「すれ違ったか?」
女はぶつぶつと呟くと、一つ舌打ちをしながら溜め息をつく。
「まあ、良い」
女は翼を広げながら宙に舞う。
「バーハラのロプトの柱でも助けに行ってやるとするかな……」
女は力強く翼を羽ばたかせた。